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小型シロハラミズナギドリ類、翼下面いろいろ

シロハラミズナギドリ $${\textit{Pterodroma hypoleuca }}$$
小笠原諸島やハワイ諸島の一部でのみ繁殖するミズナギドリです。

(小笠原諸島父島沖 2022/9/6)

初列下雨覆の三角形に黒くなっているところが非常に特徴的です。この特徴的な部分を、バードウォッチャーの間では通称ボニンマークと呼んだりします(異論は認めます)。ボニンというのはシロハラミズナギドリの英名、Bonin Petrelから来ています。

通称ボニンマークはココ!(2020/9/22)

小笠原は、およそ200年前まで無人島であったため、「ぶにんしま」と呼ばれ、英語圏では小笠原諸島のことを、ボニン・アイランド(Bonin Island)と呼びます。

父島の歴史-東京都環境局

以下のような講演会も行われたようです。誰が名付けたんだろう?気になる。

シロハラミズナギドリの翼開長は72-78cmです。世界には、同じくらいの大きさで、体下面が概ね白色のシロハラミズナギドリの仲間(Cookilariaと呼ばれたりします。)が9種類ほど知られています。
Cookilariaの仲間たちの翼下面はどんな感じ?ボニンマークって本当に特徴的なの…?一緒に見ていきましょう!

ハジロシロハラミズナギドリ

(スチュアート島沖 2019/2/8)

学名は $${\textit{Pterodroma cookii }}$$、英名はCook's Petrelといいます。Cookilariaの元ネタ(?)となった鳥です。
翼開長は76-82cmで、シロハラミズナギドリの翼開長とオーバーラップはあるものの、一回り大きいような印象です。
翼下面の黒いラインはシロハラミズナギドリよりも細く、薄いです。そのため、和名も”ハジロ”がついたのかな、と思います。

ウスヒメシロハラミズナギドリ

(チャタム島沖 2022/12/12)

学名は$${\textit{Pterodroma pycrofti }}$$、英名はPycroft’s Petrelといいます。翼下面の黒いラインはハジロシロハラと同じくらいか、やや濃く見える個体もいます。
…というか、一つ前のハジロシロハラミズナギドリと同じ見た目では?!と思った方、安心してください。私も最初はそう思っていました。よく似た2種ですが、よく観察すると色々と違う所があります。これはまた別の記事で解説しようかと思います。
翼開長は69-74cmで、シロハラミズナギドリよりもほんの少し小さめです。

De Filippi’s Petrel

(フランス領ポリネシア マルケサス諸島沖 2021/10/6)

和名不明です。フェルナンデスミズナギドリ?学名は$${\textit{Pterodroma defilippiana }}$$です。チリ沖の島々で繁殖します。本種が生息する海域には残念ながらまだ行ったことがなく、分かりにくい写真しかなくてすみません…。写真の個体は、当地ではかなり稀な記録となりました。
翼開長は74-80cmで、cookilariaの中では最も大きいです。嘴も太く、目の周りの黒い模様も大きいことから、とてもカッコいい顔つき。翼下面の黒いラインは、ハジロシロハラと同じくらいです。

ヒメシロハラミズナギドリ

(フランス領ポリネシア ラパ島沖 2021/10/22)

学名は$${\textit{Pterodroma longirostris }}$$、英名はStejneger’s Petrelです。
翼開長は70-76cmで、シロハラミズナギドリとほとんど同じです。翼下面の黒いラインは、ハジロシロハラと同程度です。目の周りの黒い模様は大きめですが、首が短く翼前縁からの突出が少ないせいか、可愛らしい印象です。尾羽の先に黒色部が広くあるのも特徴の一つです。
日本のはるか東方沖には、夏季から秋季に定期的に飛来するようですが、沿岸に比較的近い位置を航行するフェリーからでは、条件がそろわなければ中々、観察は難しいでしょう。

ミナミシロハラミズナギドリ

(ニューカレドニア沖 2019/3/22)

学名は$${\textit{Pterodroma leucoptera }}$$、英名はGould’s Petrelです。
翼開長は72-79cmでシロハラミズナギドリと同程度の大きさです。
翼下面の黒いラインはハジロシロハラよりも太く濃く、シロハラミズナギドリからボニンマークを取ったような感じです。

カワリヒメシロハラミズナギドリ

(フィジー沖 2022/5/27)

学名は$${\textit{Pterodroma brevipes }}$$、英名はCollared Petrelです。
翼開長は67-73cmでシロハラミズナギドリよりもやや小さいです。実際に飛んでいるのを見ると、小さくて素早くて水面スレスレを飛んでいることが多いです。そのため、観察条件が悪いと、分布が重なる小さめのセグロミズナギドリの仲間Tropical Shearwaterと見間違えてしまうこともあります。
翼下面の黒いラインはかなり濃く太いです。この種は、翼下面のラインや体下面に個体差や地域差があり、Gould’s Petrelに近いような個体から、もっと全体に黒い個体までいます。これもまた別の記事で紹介できたらいいなと思っています。

もっと黒い個体もいます。(フィジー沖 2022/5/29)

ハグロシロハラミズナギドリ

(小笠原諸島父島沖 2023/9/5)

学名は$${\textit{Pterodroma nigripennis }}$$、英名はBlack-winged Petrelといいます。
翼開長は73-79cmでシロハラミズナギドリと同程度の大きさです。その割に、実際観察した印象としては、シロハラナギよりも翼が短いような気がしますね。翼の幅や首の短さなんかが影響しているのでしょうか。
名前の通り、翼下面の黒いラインはズバッと太く黒いです。カッコいいですね(主観)。
頭の色は比較的明るい灰色で、目の周りの黒い模様とコントラストがあります。

チャタムミズナギドリ

(チャタム島沖 2023/3/11)

学名は$${\textit{Pterodroma axillaris }}$$です。axillaris、腋羽という意味です。記載したSalvinさんから見ても、衝撃的な腋羽だったのでしょう。英名はChatham Petrelです。本種の唯一の繁殖地があるニュージーランドのチャタム島に由来しています。
翼下面の黒いラインは腋羽まで続いてめちゃくちゃ太いです。衝撃の太さ。この翼下面を見た瞬間、カッコよすぎて震えました。
翼開長は68-74cmで、シロハラミズナギドリよりもやや小さいです。寸詰まりな体型も相まってか、実際に観察するとかなり小さく見えました。小さくても存在感はすごい種ですが…。


9種類のCookilariaの翼下面に注目して見てきました。
シロハラミズナギドリの通称ボニンマークがいかに特徴的か、お分かり頂けたでしょうか🐥!

最後に一つだけ注意喚起を…。
換羽時期のシロハラミズナギドリは、初列下雨覆が欠損していて、通称ボニンマークの部分がただの線状になっていることがあります。

シロハラミズナギドリかそれ以外かを識別する上で、翼下面のパターンは分かりやすい特徴ではありますが、全体の特徴から総合的に判断することが重要です。
ぜひ色々な角度から海鳥を眺め、識別にチャレンジしてみて下さい!


最後に、鳥類学者で海鳥の識別大好き、私達のよき友人でもあるBob Floodの言葉を引用します。

It is not possible to put a species name to every single bird. Avoid making a leap of hope (wishful thinking): allowing the desire or 'need' to see a species/taxon to meke a definite record out of a probable sighting.
-全てのミズナギトリを完全に識別することは不可能だ。この種だったらいいのに、という希望的考えや、この海域ならこの種かな、という確率を信仰してはいけない。

Bob Flood-North Atlantic Seabirds (Shearwaters, Jouanin’s&White-chinned Petrels)より

引用文献
Bob Flood & Ashley Fisher (2020), Multimedia identification guide to North Atlantic Seabirds -Shearwaters Jouanin's & White-chinned Petrels-, Hockley, UK. 
小林さやか・坂 本 明 弘・齋 藤 武 馬 (2015),ヒメシロハラミズナギドリPterodroma longirostrisの日本における記録, 山階鳥学誌, 47: 24-32.
箕輪義隆・小田谷嘉弥 (2020), 新 海鳥ハンドブック, 文一総合出版.
Steve N. G. Howell & Kirk Zufelt (2019), Oceanic birds of the world -A photo guide-, Princeton.

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のいまん
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