青髪と厚底ブーツ #8
わたしにとって
ずっと大人は
” 気持ちが悪い ”もので
大人の男の人は
もっと” 気持ちが悪い ”ものだった
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オレンジの電車が
嫌いだった
でも電車に乗らないと学校には行けないから
いろんな工夫をした
一つが厚底靴
人がまるで人ではないかのように
ぎゅうぎゅうに押し込まれる通勤通学ラッシュ
学生だろうが女の子だろうと
非情なまでに力任せに扉を閉めようとする駅員
背の低いわたしにとっては
息も吸えない苦しい時間
目眩と吐き気と痛み
そして不快感と戦っていた
成人男性の肩下あたりに顔が当たるため
風が抜けるための空間が全くない
肩上くらいに鼻口がくるように
背の高さを調整する必要があった
安定した厚底靴を履きながら
さらにつま先立ちをして上を向き
木石のごとく辛い時間を耐える
もう一つの工夫が
スカートを履かないことだった
当時は罰則が今より厳しいものではなく
ラッシュ時のオレンジ線は痴漢の温床だった
” 気持ちが悪い ”
声を出さないことを良いことに
電車の揺れに合わせて下半身を弄ってくる
不快を感じる小さな行為をすべて含めると
数えきれるものではないから
せめて不快の確率を下げるため
分厚いジーンズを履き
メイクもしない、香りもつけない
髪も低い位置で無造作に一つに縛っただけ
リュックを背負い、手提げバッグを前に抱えて乗る
少しでも自分を大きく見せ
威嚇するための厚底だった
今日の授業はデッサンだから
いつもより持ち物が少なかった
前に小さなトートバックを抱えて
大人のおしくらまんじゅうに
耐え忍んでいた
ふと、手に生温かいものが押し当てられた
人の手とは全く違う触感
全身に震えが走る
退けようにも全方向から痛いほどに人体の圧力がかかり
動かせる空間がなかった
ただひたすらに
何もない車内の天井を睨みつける
必死で次の停車駅で降りると
ジーンズに白い粘着性の液が付着していることに気づいた
一気に吐き気がして駅のトイレに駆け込む
手の皮が剥けるほどに石鹸と水で洗い続けた
” 気持ちが悪い ”
いったい、わたしは何に負けているのか
わたしにとって
ずっと大人の人は” 気持ちが悪い ”もので
大人の男の人はもっと” 気持ちが悪い ”ものだった
滲みだす世界が流れ出ないように我慢して
予備校へ向けて歩き出すと
カッポカッポと缶ポックリのような
間抜けな音が聞こえてきた
よく足元を見ると
片方の厚底靴の底が抜けていた
#創作大賞2022
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