『海中渋谷2122』after story
はじめに
※本記事は「Locatone Creator Contest 2022」に参加中の作品、
『海中サウンドツアー2122 in 渋谷』の後日談(アフターストーリー)となります。
本編にはツアー完走前提での描写やネタバレ等が含まれますので、
ツアー体験後の閲覧を強く推奨致します。
※上述の通り、本ツアーは現在、SONY主催の「Locatone Creator Contest 2022」においてファイナリスト作品として参加中です。
「Locatone」というアプリのシステムを使用し、AR×音声で渋谷の街を舞台に新しい音声体験を得る事ができるツアーを公開しています。
また同時に、コンテストとして一般票を含めた審査もしています。現地で実際に遊ぶことで一般票が本ツアーに加算されます。
投票期間は2022年11月1日〜11月11日までです。
是非応援のほど、よろしくお願い致します!
(⇩コンテスト詳細)
以下、アフターストーリー本編
本編「2022年の地球へ 三船凪紗side」
――シュイン、という電子音と共に、目の前に広がったARパネルが閉じる。
視界の右上に表示されているアナログ時計の短針は、6の数字を指していた。終業の時間だ。
「……今日もお客さん、0人かぁ」
私は小さくため息をつきながら、『三船凪紗』と書かれた名札を外す。
100年前のお客さんと通信してから1ヶ月。あの時の水やりのおかげで一時的に海は綺麗になったものの、結局、海はすぐ元のように濁ってしまった。
あの時、お客さんと私には確かに意識の変化が起こっていた。けれど、それだけで変わるほど世界は甘くなかった。既に積み上げられた100年の歴史は、高い壁として私達の前に立ちはだかったのである。
私は目を閉じ、ゆっくりと椅子の背もたれに体重を任せる。
「でも、楽しかったんだよなぁ……」
こぼれる独り言。そう、一ヶ月前の「あの体験」は間違いなく楽しかった。
耳から聞こえてくる100年前の渋谷の音。目の前に現れたイルカやクジラの画像をお客さんに送って、撮ってもらって。100年後の渋谷の状況を知ってもらって……
そんな風に、私がずっと憧れていた100年前の渋谷という街を、音だけではあるけれど体験できたのだから、楽しくなかったわけがない。
じゃあ、お客さんにとってはどうだっただろう、と考えてみる。通信機とか集音器とか、ありったけの機材を使って海の中の音を届けたけれど、渋谷で海の中にいるような体験はできただろうか。
ふと、机の上を見る。そこには、お客さんが撮った写真データが額縁に入れ飾られていた。展望台の上から眺めたイルカの群れや、商業施設の影から飛び出てくるクジラ……。100年前の渋谷を舞台に悠々自適に泳ぐ魚たちの写真は、私にとって宝物になっている。
もっと沢山の人に見て欲しい。
もっと沢山の人にツアーを体験して欲しい。
その写真を見ていると、私の胸にそんな想いが湧き出てくる。しかし、もう100年前の人に連絡を取ることは叶わない。何故なら……
ブォン、という音と共にARパネルが開く。
メールボックスの中を見ると、真っ先にピン留めしている一件のメールが目に入った。題名は『過去との通信に関する条例違反についての注意』。
どうやら、通信機器を使用した過去との不必要な干渉は条例で禁止されているらしかった。100年前と通信をする、という私の発想自体は良かったと思うが、条例で禁止されているなら仕方が無い。私はそれに従い、あれ以降過去と通信はしていなかった。
「おっきい企業だと普通に使ってるのに……やっぱりウチが小さい事務所だから駄目なのかな……」
私の所属している『三船海中ツアー事務所』は、元々父が立ち上げた事務所だ。父は私が海中ツアーに憧れているのを知って、一念発起して起業してくれた。
渋谷を専門に数人で経営してきたこの事務所は、東京の海中ツアー大手事務所、『ソヌス海中ツアー事務所』にも負けないほどの力を付けてきた。
まぁ渋谷専門ではあるんだけど。
でも、ソヌスさんとかだったら過去との通信も許可貰えるんじゃないかなぁ……いいなぁ……
ピロン。
ARパネルが青色に光る。メールの通知だ。
一番上に表示されたメールを開く。件名は『共同事業のご提案』。
差出人は……ソヌス海中ツアー事務所……!?
「なんでそんな大手がウチに……?」
私は鼓動でうるさい胸を宥めながらメールを開いた。
【本文】
お世話になっております。ソヌス海中ツアー事務所です。
突然のメール失礼致します。先日、貴事務所において行なわれた過去との通信ツアー『海中サウンドツアー2122 in 渋谷』の話をお聞きし、連絡させて頂きました。
海中汚染が続く現在、過去との通信によって集客と問題解決を行なおうとするそのアイデアと姿勢、感服致しました。
つきましては、共同事業として、弊事務所もその計画に参加させて頂けませんでしょうか。
勿論、過去との通信に関してはガイドラインを遵守の上、行政に許可申請済みです。
三船事務所様にとっても、渋谷以外の他区、他地域への業務拡大として弊事務所がお役に立てるかと思います。
良いお返事をお待ちしております。
ソヌス海中ツアー事務所
本文はそう締めくくられていた。
「共同事業……あの大企業と……」
渋谷は私にとって大切な街だ。だからこそ今まで渋谷専門でツアーをしてきた。しかし、このままでは海は汚染の一途を辿り、海中ツアーは立ち行かなくなる。
それに、私が好きなのは渋谷だけじゃない。
この事務所に、沢山の魚たちや綺麗な海、そして100年前の渋谷……
それを守るために、やるべき事は――
私は意を決してARパネルを操作する。
「返信」のアイコンをタップして、キーボードに文字を打ち込んでいく。
そんな中、私の脳裏には一ヶ月前の「あの体験」が蘇っていた。
私のツアーについてきてくれて、海や魚、渋谷について知ってくれたあのお客さん。そんなお客さん達とまた渋谷で、そして、渋谷以外の街でも、音で出会えますように。
私は、そう願いながらメールを送信した。
――――to be continued
ご覧頂きありがとうございました。
ツアーは何度でも体験可能ですので、どしどし遊び倒してくださると嬉しいです! どうぞよろしくお願いします!
write:一色柊哉
(Twitter --@isshiki_1205 )
△2022年11月1日16:20 一部加筆修正
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