『木乃伊』上演に向けて
9月9-11日東中野バニラスタジオにて、シリーズ古潭vol.2『木乃伊』(「みいら」と読む)をお届けする。
前回『狐憑』を上演してから約1年経った。
メンバーがそれぞれ忙しい生活をしているなかで、ぼくたちの『木乃伊』は今年の初めから着々と準備されてきた。
今回の『木乃伊』は、展示型演劇公演と銘打っている。今更という感じだけれど、新型コロナが依然として私たちの暮らしに影を落とし続けている状況もあり、必ずしも上演を前提としない演劇のかたちを採用した。
もちろん、従来の上演のかたちも用意してある。ただしそれは展示の一部であり、上演以外の展示だけでも充分楽しんでいただけるような作品を今回は複数用意している。上演を見るのが苦手な方、コロナ禍で観劇に抵抗がある方は、ぜひ展示だけでも足をお運びいただきたい。
さて、今回下敷きにしている中島敦『木乃伊』は、前回の『狐憑』と物語的な連続性はない。テーマのいくつかは確かに共有しているものの、前回の上演をご覧になっていない方でも問題なく楽しめるものになっている。
この記事では、ウミウシのタクシーがつくる『木乃伊』がどのようなものか紹介したい。
約一年前に上演した『狐憑』の戯曲は、中島敦の原作を下敷きにメンバーの長谷川が全編を書き下ろしたものだ。
弟の死をきっかけにあらゆるものを憑依させ、コミュニティに原初の「物語」をもたらしたシャク(演:横川)。彼と水上集落の料理人シェフ(演:長谷川)のやり取りを中心に、演劇史を横断しながら死と弔いにまつわる複数の分岐を描き出した。
『木乃伊』では、メンバーそれぞれがテクストを書くアンソロジーの形式を採った。なかなか大変な試みだったが、結果としてより多声的なテクストが出揃ったように思う。
また、前回は制作で協力してくれた尾関が、原作を読んでいくつかの油彩画を制作した。こちらもアンソロジーの一部である。
以下、ウミウシのタクシー『木乃伊』の目録である。
『ミイラアカウント』(横川敬史)
『イデオロギー以外の大切なものすべて』(塗塀一海)
『リボルビング漫才』『らあめん太陽神』(長谷川皓大)
『ワニ』『三人のエジプト神』『木乃伊』(尾関亜也)
各作品は「木乃伊とは何か?」という問いに対するそれぞれの解釈となっている。
中島敦の『木乃伊』ではペルシアの将軍パリスカスが、侵略したエジプトの墓室で一体の木乃伊を発見する。それがなぜか、自身の前世の姿であると直感される。そしてその前世の彼も、そのまた前世の(つまりパリスカスの前前世の)自分の木乃伊を発見する。
古代エジプトにおいて木乃伊は、来世で復活するための保証として作られた。パリスカスが発見した木乃伊が本当に彼の前世の身体であるとすれば、なぜ今その魂は別のパリスカスの身体にあるのだろうか。復活信仰と輪廻転生が複雑に絡み合い、相矛盾した事態が起こっている。
木乃伊を介して無数の人生を遡り続けるパリスカスは、とうとう狂ってしまう。
この木乃伊は、わたしたちのイメージするミイラと少し異なっているのだろうか?それとも、単にパリスカスの誤解に過ぎないのだろうか?
ぼくたちが作ったすべての作品は、この問いから出発している。
横川敬史『ミイラアカウント』は、横川自身の配信者としての体験と、承認をめぐる生きづらさをめぐる作品だ。そこに、管理者のいないアカウント通称「ミイラアカウント」が関わってくる。
塗塀一海『イデオロギー以外の大切なものすべて』はアラブの春によってムバラク政権が倒れた直後のエジプトを舞台としている。理想としてあるべき姿が迷走する国家の有様を、木乃伊に模した台詞が冒頭で発せられる。
長谷川皓大『リボルビング漫才』『らあめん太陽神』はそれぞれ漫才、コントの形式を取っている。狐憑に引き続き「弔い」をテーマにしたやり取りや、木乃伊、ワニ、遊戯王、果てはアカデミー賞まで、ユニークなキーワードを散りばめて独特の時間を生み出している。
硬軟織り交ざる作品の数々を、ぜひ皆さんに見ていただきたいと思う。
ウミウシのタクシー 塗塀一海
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シリーズ:古譚#02
展示型演劇作品「木乃伊」
展示開廊時間
2022年
9月9日(金)17:00〜21:00
9月10日(土)11:00〜21:00
9月11日(日)11:00〜20:00
※特別上演中を除く
特別上演
9月9日(金)19:00〜
9月10日(土)13:00〜、18:00〜
会場:東中野バニラスタジオ
料金
展示のみ(オリジナルステッカー付):1,000円
特別上演(展示入場料込み、オリジナルステッカー付):3,000円
※混雑防止のため、展示のみご覧の方も、可能な限り日時指定予約をお願いします。
※予約フォームにて日時をご選択いただいた後、チケット種別をご選択ください。