なぜマイクの音が割れるのか

 そんなもん「音がでかすぎるからに決まっとろうが」という声も数多く聞こえてくるのだけど、一般的な宅録セットの場合、音が割れると考えられるポイントのは3箇所ある。そのどこで音が割れるのか、どうすれば割れなくなるのかについて書いていく。
 なお、本来「音が割れる」という表現はあまり使用されず、音割れが発生した状況によって「オーバーレベル(オーバーロード)」「クリッピング」「飽和」など様々に言われるが、ここではそれらをひっくるめて「音割れ」と呼ぶことにする。

音が割れるポイント

 大きく分けて音が割れるのは「マイク」「インターフェース」「録音ソフト」の3箇所で現れる。いずれも殆どの場合「オーバーレベル」でいわゆる「音割れ」が発生するので、それぞれの箇所で適切な音量になるように心がけることが重要で、案外これができていないひとがおおい。

・マイクでの音割れ
 マイクにも当然「許容入力レベル」というものが合って、あまりに大きな音は信号にすることができない。結果として許容レベルを超えた信号はすべて「ノイズ」として処理されてしまう。ただし、マイクにはクリップインジケーターなどが装備されていないので、単体ではマイクで音が割れているかどうかまでは判断できない。そこで、インターフェースと併用してどこに原因があるのか見極めていく必要がある。

・インターフェースでの音割れ
 インターフェース出音が割れる原因のほとんどは、増幅のしすぎである。とくにコンデンサーマイクを利用している場合は、かなり高いレベルで音声が入力されるので、インターフェース側でゲインを上げすぎるとあっという間に音が割れる。
 これを防ぐために、インターフェースの殆どには「ピークインジケーター」が装備されている。一定以上のレベルに到達した場合、ランプが点灯して音割れが発生する(または発声下)ことを知らせてくれる。これを利用すれば、多くの場合はマイクのレベルを正常に保つことができる。つまり、今持っている台本でもっとも大きな声を出すであろう場面でこのランプがかすかに点灯する状態に合わせれば、殆どの場合は音割れは発生しなくなる。
 ただし、ピークインジケーターが点灯指定内にも係らず音割れが発生している場合は、マイク側ですでに音割れが発生してしまったことが想定される。この場合はマイクの故障を疑うべきである。マイクが故障している場合は、いくら小さな声で喋っても音割れのような音が発生する。ただし、声が大きすぎて音割れが発生することがある。この場合は少し声量を抑えて録音すれば回避できる。声はデカければいいってもんじゃない。

・録音ソフトでの音割れ
 録音ソフト(DAW)にはレベルメーターが表示されているはずで、このメーターが0dBFSを超えると「クリッピング」という状態となり、音が割れる。DAWによっては録音レベルを下げることができるものもあるので、適宜下げるなどして、「絶対に」0dBFSを超えないようにする事が重要。あと、どうしてもDAWの側でレベル調整が必要であっても「増幅」は行わず、減衰のみにすること。


レベルの合わせ方

・インターフェースにレベルメーターがついている場合
 ちょっと高いインターフェースを購入すると、簡易的ではあるがレベルメーターが付属していることがある。これを利用することで適切なレベルに調整することができる。たとえばPresonus 24cの場合、本体正面にレベルメーターが装備されており、0dB、-6dB、-12dB、-24dBの4ポイントでレベルが確認できる。

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 そして-12dBまでがグリーンであり適正レベルであることが表現されている。ちなみにこの数値は「以上」を指しているので-12dBのランプが点灯したら-12dB「以上」レベルになっていることに注意したい(-12dBの位置のランプは「-12~-6dBの間」という意味である)。

 マイクのゲインをあわせるときは、一般的な音量で喋ったときにこの-12dBのランプが点滅する程度に調整すると、叫んだときなどでもクリップすることなく録音することができるようになる。また、このメーターはDAW側の側のレベルメーターと一致するので、念の為一致した数値で表示されるのを確認したら、あとはDAW側のメーターだけを監視すれば録音レベルが把握できるようになる。


・インターフェースにレベルメーターがついていない場合
 一般的にはこっちのほうが多い。これから購入を見当している人は、レベルメーター付きのものを購入することをおすすめする。

 さて、レベルメーターがない場合は基準レベルがわからないので、テスト信号発生器のお世話になることになる。たとえばBEHRINGER CT100等がそれに当たる(ここでもCT100を使った方法を述べる)。

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 この状態で概ねレベルが合っているので、DAWのレベルメーターを見つつ録音作業を行うことができる。

 もちろん、テスト信号発生器を利用せずに、直接肉声でレベルを合わせてもいいのではあるが、一定の音量で喋り続けつつレベル合わせができる人はそうそういないので、ここは文明の利器にお世話になったほうがいい。

聞き直す

 あとこれがいちばん大事なんだけど、一度録音した音は「聞き直す」事が重要で、案外これをやっていない人は多い。自分の声を聞くのが恥ずかしいとかそういう意見もあるかもしれないが、自分で聞けないものを他人に渡しちゃダメ絶対。それとできれば音がきれいな録音と自分の録音を聴き比べてどこが違うのかを常に意識しておくことも必要。良いマイクを買えば音が良くなるのはただの幻想。


音割れは修正できない

 音が割れてしまった音は修正することができない。なぜなら「その音」が記録されているからで、これを波形出直すとかそういうことはほぼ不可能であると思っておいたほうがいい(もちろんそのとおりなのだが)。たまにオーバーレベルになってしまった波形をレベルを下げるだけでレベル内に収まっているように偽装する人もいるけど、けっきょくそれは「割れた音が小さくなっただけ」なので、なんの解決にもなっていない。そんなことでごまかせないから、オーバーレベルを見つけたら素直に録音し直そう。

宅録は演者というより技術者の領域

 昨今の新型コロナウイルス感染額大防止のムーブメントも相まって、宅録に対する需要はそこそこ高まっているようではある(スタジオなんていのは三密そのものだし)。しかし、録音をするということは「技術者」の作業範囲であって本来演者が入り込む場所ではなかった。しかしそれを押して宅録をしたいのであれば、「自分は演者だから技術のことはよくわからない」ではなく、技術面でも確かなものを身につける必要がある。そして、筆者を含めたスタジオエンジニアからは総じて「宅録クラスタ」は歓迎されていない。なぜかといえば「安価とはいえあんなに音質が悪いもの提供していることは、お客様に対する裏切りに等しい」と考えている。であるならば、宅録クラスタは本業のエンジニアも納得するような「きれいな音」を提供できるようになるべきであると考えている。


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