”ROCK BAND is fun”セットリストの必然性


2024年7月24日、UNISON SQUARE GARDENの結成20周年ライブ、"ROCK BAND is fun"が行われました。
このライブのセットリストについて考察を行うのですが、まず初めに、UNISON SQUARE GARDENの20周年ライブとしてこのセットリストには必然性がある、ということを主張します。
必然性があるとは、全ての曲と曲順に意味があり、この並び以外は考えられない、ということです。
ここではライブ内でUNISON SQUARE GARDENの3人が発した言葉(歌詞とMC)に絞って考察を進めます。
ぜひ多くの方に読んでいただきたいです。

世界と僕、僕と君

曲を一つずつ振り返る前に、このライブのテーマ、つまりこのライブでユニゾンが伝えたかったことを考えていきます。
私は、セットリストを作っている田淵さんが最後にしたMCが全てだと思いいます。
配信で見た色々な方が内容をまとめてくださっているので、詳細は違う方のものを見ていただきたいのですが、私は下のようにまとめました。

①自分たちには才能がある
②自分たちの音楽で世界は変わらなかった
③世界が変わらないのはつまらない
④ロックバンドを続けるのは大変で、諦めてもいいと思った
⑤後ろを向くとずっと君がいた
⑥君がいてくれたことが嬉しかった

私は、全ての曲がこれを言うために並べられているのだと考えました。
大きな根拠は、16曲目に披露された「101回目のプロローグ」の歌詞変更です。

「本当の気持ちを話すのは今日くらいしかありえないだろう」

ライブ内で3人が発した言葉は、全て本当の気持ちだったのだと思います。
田淵さんがMCをするタイミングは2回ありましたが、敢えて2回に分けて最後の最後に口にした、弱くも力強い言葉には確実に大きな意味があるはずです。

私の考えは、セットリスト全体が田淵さんのMCの①〜⑥のメッセージを順番に届けてくれていたのではないか、と言うことです。
あえてまとめると、①〜④が「世界と僕」のこと、⑤〜⑥が「僕と君」のことです。
「世界と僕」についてはセットリストを追うごとにその意味がわかってきますが、「僕と君」について、このセットリストでは一貫して「君にいてほしい」というメッセージが散りばめられています。

このようなところに注目し、曲順と歌詞を見ることで、田淵さんの言葉の裏にある、より深い思いを読み取ることができると考えています。
曲単位、ブロック単位でセットリストの意味を考察し、このセットリストのメッセージを掴んでいきたいと思います。

第一ブロック

1. Catch up, latency

「敬具、結んでくれ 僕たちが正しくなくても」

2. サンポサキマイライフ

「いやじゃない?ならばついて来てよ」
「愚かなこの世の不条理に言わせたい ぎゃふんと言わせたい」

3. Dizzy Trickster

「依然体制以上なしだなんて わがままが芽生えたんだ」
「曖昧なんて論外の優しいMusic どうしようも馴染めないから
差し出された手は掴まなかった」

4. fake town baby

「幸せになるパーセンテージ 忘れちまったよ」
「生命session全部巻き込んで楽しむのがこの街のルール」

Catch up, latencyについては後述。
これから、このライブは全体として大きなメッセージ性を持っているという話をするのだが、その上で、この第一ブロックでは、メッセージを伝える前にいつものユニゾンはこうだ、ということを伝える役割があったように感じる。
田淵さんのMCで言うと、①自分たちには才能がある、②自分たちの音楽で世界は変わらない、という部分。
②に関して、いつものユニゾンはこれに関して楽観的というか、世界とは別に自分たちの音楽をやっていることに対して誇りを持っていたように思える。
後に逆のことを言うため、ここではあえていつも通りのユニゾンのスタンスが見える曲を選んだものと考えた。
そんな中でも、「この世の不条理」や「君」の存在を仄めかす言葉など、キーワードはいくつか潜んでいる。

第二ブロック

5. 恋する惑星

「君と同じ世界に居たい まだまだ光っていたいのだ!」

「君」と「僕」について歌ったこの曲。
この曲は第二ブロックに入るが、役割としては第一ブロックの曲たちと同じであるため、少し次からの曲とは少し切り離して考える。

6. Hatch, I need

「まだあらすじは終わってない」
「行儀よく侮ってんじゃねえよ」

7. マーメイドスキャンダラス

「絶対とかないよ そんなきれいごと聞けるならここまで生きれてないんだよな」
「雑音を塗りつぶせ 惑わされる暇なんてないだろう」

8. Invisible Sensation

「だから、生きてほしい!」

9. オリオンをなぞる

「ココデオワルハズガナイノニ」
「僕がいてあなたがいて それだけで十分かな」

このブロックは個人的にかなり重要な意味合いを持っていると考える。
ここは歌詞というより、6〜8がPatrick Vegeeツアーの曲順をそのまま持ってきたことに注目したい。
ここで、このライブ、ひいてはUNISON SQUARE GARDENにとってPatrick Vegeeとは、という話をしたい。

結論、田淵さんのMCの③と④に当たる、世界に対しての絶望感のようなものが最も顕著だった時期、それがPatrick Vegeeの時期で、その絶望を乗り越えることができたことの象徴がPatrick Vegeeの曲たちである、と考えた。

Patrick Vegeeは2020年9月30日にリリースされた。
ユニゾンにとって、2020年は15周年の年が終わって、また新しく動き出そうという大事な一年だった。
しかし、世界はコロナ禍で、当初の予定が度々中止となった。
そんな中、ユニゾンはオンラインライブなど時代に沿った音楽の鳴らし方を常に私たちに提供し続けてくれて、延期されたアルバムツアーは翌年2021年の10月から始まった。
この時期に、彼らは自分たちの音楽を淡々と鳴らし続けていたように私たちには見えたものの、実は相当な苦労があったのではないだろうか。
UNISON SQUARE GARDENは弱音を吐かずにここまでやってきたように思える。
だからこそ、このタイミングで本音を漏らした意味、それがPatrick Vegeeが多い理由と繋がっている気がしてならない。

そして、絶望期が本当に終わったんだ、という意味でここに「オリオンをなぞる」が置かれている。
コロナ禍のNormalツアーでJET CO.の曲が多く演奏されたことなども考え、ユニゾンの暗黒期=JET CO.、世界の暗黒期=Patrick VegeeとしてJET CO.とPatrick Vegeeの間に共通点があるように思える。
そうすると、暗黒期(JET CO.)の終わりであるオリオンがこの位置に来ているのは必然なのではないか。
だが、完全に絶望が終わったわけではない。
世界の中でロックバンドはどう生きていくのか、答はもう少し先にある。

第三ブロック

10. もう君に会えない

11. スカースデイル

「握り締めた君の手を僕は離さない」

12. オトノバ中間試験

「物好きしか見えないし噛まれない」

13. 世界はファンシー

「ロックンロールの方がゴツゴツしておいしそうだな」
「The world is fancy!  Fancy is lonely.」

14. フルカラープログラム

「どうせなら、この際なら 虹を作ってみよう そしたら誰も文句なんかつけらんないから」
「約10年前から閉ざしていた心が今、絶妙のタイミング」
「ちょっとだけ世界と仲良くなったあなたは 今、誰よりも高く、高く飛んだ」
「完全無欠のロックンロールを」

「もう君に会えない」は歌詞全体と背景を踏まえて、④(バンドを続けること)と⑤(ずっと君がいること)に共通して、ずっとそこに居続ける、そこに生き続けることの難しさを言っているのではないかと解釈した。

その後、「君」と共に歩むことを歌った。
そして、「君」とは「物好き」である。

次にキーワードである「世界」が登場。
「世界」はfancyでありlonelyである。

この位置で演奏されたのが「フルカラープログラム」
約10年前の武道館ライブで田淵さんが何を言っていたかは後で確認していただきたいが、ずっと閉ざしていた心の内を10年後に明かした。
101回目のプロローグからそのことが理解でき、そのためフルカラープログラムが101回目より前に置かれて、先んじてこのメッセージを伝えていたのではないかと予想。
また、13, 14共に「ロックンロール」という言葉が出てくるが、これは私にとって終盤のキーワードである。

第四ブロック

15. いつかの少年

「こんなにも世界は汚くて こんなにも世界は暗いのに 描きたいな」
「これが物語の一つならば 僕は今何処の道の上 少なくともエピローグましてやクライマックスでは ないことならわかってるけど」
「忘れないでよ 忘れないでよってわかるかな わかるだろ」
「無駄になってる 無駄になってる 間違ってないはず」

MCの後に演奏されたこの曲には、やはり重要なメッセージが隠れているはずである。
自分たちの歴史を振り返るにあたってこの曲が演奏されたことを踏まえると、この曲にユニゾンの20年間抱えていた思いが詰まっていたのではないかと考える。
ここにもやはり「世界」が登場するのである。
さらに「エピローグではない」が次の曲に繋がる。
そして、「間違ってないはず」とはユニゾンが20年間ずっと抱えてきた思いであったことが後にわかることとなる。

16. 101回目のプロローグ

「僕が間違っていた この世界は未来に溢れていると」
「君だけでいい 君だけでいいや こんな日を分かち合えるのは」
「本当の気持ちを話すのは 4年くらいは後にするよ」→「本当の気持ちを話すのは 今日くらいしかありえないだろ」
「ちゃんと幸せになる準備もしてるよ」
「世界は七色になる!」

UNISON SQUARE GARDEN 20th Anniversary project "20年目のプロローグ"
2024年のUNISON SQUARE GARDENは、このタイトルを背負って活動している。
「101回目のプロローグ」は2020年リリースのアルバムPatrick Vegeeの最後の曲である。
Patrick Vegeeの意味については前述の通りで、そしてこの時期に、4年後の2024年、本当の気持ちを話し、幸せになることを約束していたことが明らかになった。
苦しんだ2020年、彼らはこの曲に未来への希望を託し、来たる20周年に向けての決意表明をこの曲で行なっていたのであった。

2020年から感じていた「本当の気持ち」とは、この日に明かした田淵さんの言葉であり、またそれは曲中の歌詞にしっかり記されていた。
伝えたいのは、「世界」と「僕」のこと、そして「君」と「僕」のことである。

第五ブロック

17. kaleido proud fiesta

「かくしてまたストーリーは始まる」
「今あなたと僕だけで夢を見続けないか」
「祝祭の鐘よ鳴れ」

18. スロウカーヴは打てない(that made me crazy)

「I must doubt "Pop music"」
「You may doubt "Rock festival"」

19. Phantom Joke

「まだ世界は生きてる 君が泣いてたって生きてる だからこの空の先が見たい」
「まだ愛していたい」

(20. ドラムソロ)

21. 天国と地獄

「I'll be thereでやり過ごせないから 今夜も駄々騒ぎ だけど花盛りなのでご愛嬌」

22. 君の瞳に恋してない

「生きてみようと思ったのは君のせいかも」
「虹色に光る幸せ そんなものがなくても 小さじ一杯のカラクリが 生み出せるものもあるよ」
「僕の手握っていいから」

23. カオスが極まる

「何回目かの地獄 慣れちゃえば超気持ちいい」

24. シュガーソングとビターステップ

「世界中を驚かせてしまう夜になる」
「生きてく理由をそこに映し出せ」

MC後に始まる、怒涛のブロック。
落ち着いて3人の話を聞き終わり、最初に演奏されたのは、20周年の祝祭の鐘を鳴らしてくれる曲。

その後は自分たちの音楽を力強く肯定し、そして、汚く、暗くも見えたこの世界をも肯定した。
18、19はこのようなメッセージが読み取れるのに加えて、やはりどちらもPatrick Vegeeの収録曲である。

ドラムソロを挟んで次に演奏されたのは「天国と地獄」
歌詞を考えると、「この世界は天国でも地獄でもあって、だから騒ぐんだ、そして今日は花盛りだ」、というニュアンスを感じることができるのではないだろうか。
この曲はPatrick Vegeeツアーでも演奏されている。

そして、純粋に「君」と「僕」のことを歌った「君の瞳に恋してない」
「虹色に光る幸せ」とは、「フルカラープログラム」と「101回目のプロローグ」に現れる、文句なしの世界が認める幸せのことであろうか。
そんなものがなくても、「君」がいてくれたら十分だ。
フルカラープログラムと101回目のプロローグが比較的前の方に置かれたのは、何よりも「君」が大事である、という思いの現れではないだろうか。

「カオスが極まる」には、コロナ禍を経て新たにバンドの代表曲となったという点で重要な意味合いを持つように思える。
その後に演奏されたのが、最大の代表曲「シュガーソングとビターステップ」
このバンドにとっての人生讃歌であり、歌詞全体に意味があるが、中でも、「世界」のことを歌った部分。
この曲は文字通り「世界中を驚かせてしまう」曲になった。

二つの代表曲、前述の田淵さんのMC、「春が来てぼくら」
私はこの並びにこそ

第六ブロック

25. 春が来てぼくら

「右左どちらが正解なのか なかなか決められずに道は止まる けど浮かぶ大切な誰かに悲しい思いはさせない方へと」
「間違ってないはずの未来へ向かう その片道切符が追い風に揺れた今日は 花マルだね」
「今じゃなきゃわからない答がある 『わからない』って言うなら 『ざまみろ』って舌を出そう」
「間違ってないはずの未来へ向かう その片道切符が揺れたのは 追い風のせいなんだけどさ ちゃんとこの足が選んだ答だから、見守ってて」

ライブ全体のテーマとなる田淵さんのMCの後に演奏された「春が来てぼくら」

ここで田淵さんの「ロックバンドを続けるのは大変」という言葉を一度考えてみたい。
田淵さんはもとより「ロックバンド」にこだわりを持ち続けてきた。
それはこのライブのタイトルにも現れている。
歴史的に見て、ロックというジャンルには世界への抵抗という文脈が含まれる。
自分たちはロックバンドだと言った瞬間から、そこには「世界」という要素が否応なく付き纏い、「世界」の中で自分たちを相対化せざるを得なくなる。
私が見てきたUNISON SQUARE GARDENは、ずっと世界に無関心であるようだった。
違った。
UNISON SQUARE GARDENはロックバンドであり、常に世界の中で息をし続けた。

世界を観察し、世界の中で自分たちを位置付けてきたロックバンドだからこそ、迷いが生じる。
自らを相対化し続けた彼らの中には、絶対的な正しさは存在しない。
ヒットソングを作ることで世界に少し影響を及ぼすことはできたが、世界はそう簡単には変わらない。
「間違ってないはずの未来」とは、暫定的に自ら正しいと信じた、信念である。
「春が来てぼくら」は、ロックバンドが世界に対して自分たちの覚悟を訴える、史上最高のロックナンバーである。

そしてもう一つ、最後の「見守ってて」は明らかに「君」に言っている。
自分たちが正しいかどうかはわからないけれど、君に見守っていてほしい。
「君」がいるから、ロックバンドが続けられる。
世界とロックバンド、ロックバンドと君との関係性を歌ったこの曲は、間違いなくライブの核となる曲であった。

26. シャンデリア・ワルツ

「夢見てる僕らは気づかない 世界が始まってないことも」
「わからずやには見えない魔法をかけたよ」
「行き着いた先に何も無くても 息をする僕らは構わない 世界が始まる音がする」
「だからこそ今 大事な約束をしよう」

満を持して演奏されたこの曲。
「大事な約束」をした僕と君は世界に歩んでいく。

27. センチメンタルピリオド

「高性能のヘッドホンなんで世界の音も聞こえません」
「ロックだけで暮らしていけるなんて言い訳にしか聞こえません」

この曲が最後に置かれることについて特に言うことはないが、ここでもやはり「世界」と「ロック」という言葉が入ってくる。
世界を相手にして進み続けたロックバンドが、20年の中で「君」と出会った物語としてこのライブを捉えると、ロックバンドの「本当の気持ち」が鮮明に見えてくるのではないだろうか。

まとめ

このライブのテーマは「世界と僕、僕と君」であると考え、ここまでを記してきました。

今回は音楽的なことはあまり書いていないのですが、田淵さんはセットリストを作る際、全体で起承転結が見えるようにしています。
曲調を考え、シングル曲とアルバムリード曲を優先し、かつ「世界」や「君」と関係するメッセージ性の強い曲を選んでいくとすると、やはりこのセットリストは必然であるという風に考えます。
また、Patrick Vegeeと関係するということも間接的に「世界」と関係すると言えると思います。

「シュプレヒコール〜世界が終わる前に〜」も「世界」と「あなた」のことを歌ったメッセージ性の強い曲ですが、メッセージ性が強すぎて「君と一緒に」という趣旨と少し外れてしまうかな、と考えました。

なるべく歌詞そのものの解釈に努めましたが、合わせて2018年11月の田淵さんのブログを見ていただきたいです。
「Catch up, latency」が一曲目の理由、MC、「春が来てぼくら」、「シャンデリア・ワルツ」が並ぶ理由が見えてくると思います。

ここまでご覧いただきありがとうございます。


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