沢北栄治の描き方。スラムダンク映画「THE FIRST SLAM DUNK」のここが良かった!その4。
※思いっっきり映画のネタバレしてますので、気になる方は読まないでくださいね。
今回の映画「THE FIRST SLAM DUNK」の中で、山王工業高校2年・沢北栄治は、泣く子も黙る圧倒的スーパーエースとして描かれている。
原作では気分にムラがあること、序盤に集中力に欠けることなどから、一度ベンチに引っ込められているし、試合前夜の「対湘北高校戦」対策の場面では、3年生の河田にあれこれ言われてプロレス技をかけられ、ピーピー泣いている、どちらかというと「末っ子キャラ」としての側面もあったのだが、今回はそういった要素が省かれていることから、余計に沢北の「獲物を狩る猛々しさ」「勝利だけを追い求める姿」が浮き彫りになっている。
「THE FIRST SLAM DUNK re:SOURCE」の中でのアニメの制作工程の中でも、沢北のビジュアルの良さは圧倒的だ。
今回、流川や三井には全般通して少し「あれ…」という作画があった(個人的に)のだが、沢北に関しては徹頭徹尾、まさに「山王工業バスケット部始まって以来の二枚目」という肩書きがぴったりの男前ぶりであった。原作のかわいい沢北も好きなんですが。
宮城に対して「流川にパス出せよ」と煽るシーン、先輩に対して「パスくださいよ」と言ってのける鼻っ柱の強さなど、沢北の描写はとにかく「図に乗ってやがる」というやつだ。
特に、映画を何度観ても「かっこいい!」と「小気味いい!」が交錯する場面が、例の「よーいドン!!」のシーン。
ここの、ボールをしゅるる、ぽーんと投げる、手の動きが相手を舐めくさっていて、実にかっこいい。
そして、バウンドしたボールを捕まえてからの前のめりのダンクシュート。決まる瞬間に思わず「ハイかっこいい!最高!」と体が動いてしまう。
このシーン、湘北にとっては実に屈辱的だっただろう。「よーいドン!!」って。
そして原作にはなかった映画オリジナルの場面。
この場面が挿入されたことで、「この映画で、沢北栄治の願いが叶えられた」という事実が残ってしまったことになるのだが。
神社での「高校バスケでやれることはやりました。もう俺に証明すべきことはありません。俺に必要な経験をください。もしあるのなら、それを俺にください」と祈る場面。
そして、試合後に子どものように泣き崩れる場面。
この2つはセットになっていて、つまりは「必要な経験=敗北」だったというわけだ。
この「必要な経験=敗北」は、堂本監督のセリフ
「はいあがろう。負けたことがある、というのが、いつか大きな財産になる」
にも通じていて、それまで無敗を誇っていた山王工業の、主将の深津の肩を抱いている描写にはいつも胸が痛くなる。
沢北は、アメリカに行く前にもっとみんなでバスケができると思っていただろう。まさか自分が神社で願ったことが、たった1試合で仲間との公式戦が終わってしまうことを意味していたなんて、考えもしなかっただろう。
原作ではひたすらになんとも言えない悔しそうな顔を滲ませていた沢北だが、映画ではその顔が決壊し、膝から崩れ落ちて泣くシーンまでが追加されている。
この描写と声優さんの演技が、すごく良かった。
鼻がまずひくひくするんですよね、泣くときには。
うぉおお、というわざとらしい感じではなく、こみ上げてくる涙。
原作のピーピー泣いている姿とはまるで違う、心の底から振り絞るような、寂しくて美しい涙だった。
これは映画とは直接関係がないけれど、沢北栄治のモデルとなったバスケット選手は、NBAのアンファニー・ハーダウェイ選手だといわれている。
ポジションは違うがビジュアルは確かに凄く似ていて(特に髪型)納得だ。
だが、この選手はケガに泣かされ、実際に活躍した期間は長くないと聞いた。
私はプロバスケット界に詳しくないので分からないが、やはりプロスポーツにケガはつきものなのだろう。
沢北は映画の世界の中で当然のようにアメリカへ渡っていった。
きっと向こうで思う存分、強い相手とマッチアップして成長していくのだろうが、彼のモデルとなった選手がプレイヤーとしては短命だったことを思うと、「沢北よ、どうかケガのないように頑張ってくれ」と願わずにはいられない。
宮城リョータに「17年間、バスケットのことだけ考えてたんだろうな」と言わしめた沢北。その才能、伸びしろを、まだまだ見てみたい、そう思わせる逸材だからこそ、彼の健やかな未来を願うばかりだ。
そして、「俺に必要な経験」が、本当に必要な経験だったのだ、ということを、ぜひ証明してほしい。