『地球の限界』を考えてみよう。それは・・・(11)

エネルギー危機と自然エネルギーの役割
自然エネルギー財団 トーマス・コーベリエル理事長講演(2022/6/14、東京)
https://www.renewable-ei.org/activities/column/REupdate/20220622.php
 
▪要約
▪私たちは非常に特別な局面を迎えている。化石燃料価格が誰も見たことがない水準に高騰している。厳しい状況ではあるが、環境負荷が少なく収益性の高いエネルギーを加速度的に広める好機とも言える。その背景には、数十年前から進んできた技術の普及により、自然エネルギーコストが下がり、その結果として電気料金が下がるという状況がある。
 
▪この数年、太陽光発電の開発は中国が主導している。日本はまだ世界のトップクラスにはいるものの、重要なのは、中国が太陽光発電の主要な設置国になっただけでなく、太陽電池やソーラーパネルの製造面でも産業界をリードするようになった点だ。従来は日本が主導し、多くの欧米企業も活躍した分野だが、数年前から中国にトップの座を奪われている。この先数年間で、米国や欧州は多大な努力により、この技術の主要な供給国に復活することが予想される。日本にすでにある産業技術や経験・知識を考えれば、日本も同様にカムバックを検討する余地があるのではないだろうか。
 
▪風力発電も中国がリードしている。
世界の風力発電の設備容量も太陽光発電とほぼ同じ水準まで増えている。風力発電でも、中国は世界をリードする存在となった。2005年から2010年にかけて、中国は風力発電がほぼゼロの状態から、世界のどの国よりも多く設置されるという目覚ましい発展を遂げた。直近の20年、少なくとも15年間で、中国では年間を通して1時間に風力発電2基を新設し続けたという計算になる。
この分野では、ほかに米国、ドイツ、インド、スペインが上位を占めている。私の母国スウェーデンも、現在では電力の20%程度を風力発電でまかなっている。
一方、日本は上位に入っていない。陸上、特に北海道、そして洋上における豊富な資源にも関わらず、日本が開発に遅れをとっているのが惜しまれる。日本の風力発電は将来性に富み、電力を十分に供給する余力があるはずだ。
 
▪電力だけでなく他のエネルギー利用も代替可能に
今や、自然エネルギーによる電気は、原油の市場価格などよりも安価だ。自然エネルギーによる電力が石油よりも安くなったという事実は、石油の市場価格が1バレルあたりのドルで示されているのに対し、電力のコストや価格はメガワットアワーあたりのドルで示されているということによって隠されている。
 
▪自動車、船舶、航空機も電化が可能に
自然エネルギー電力の開発がこれだけ進んできた今、他のセクターで自然エネルギーの電力を石油の代わりに使うことが可能になった。急速に開発が進んでいる分野のひとつに、運輸部門がある。
道路交通について、自然エネルギー電力の利用率が高い国は、電気自動車の割合が高い国にもなりつつある。ノルウェーでは、新車販売台数の80~90%がプラグイン車だ。プラグイン電気自動車の普及が遅れている自動車メーカーは苦しい状況に直面している。
自家用車だけでなく、バスの電化も進んでいる。世界の多くの国で電動バスが導入されており、その背景には気候変動、経済、地域の大気汚染といった理由がある。バスの電化が非常に進んでいる都市の一つ、中国の深セン市では、市営バスがすべて電気自動車に切り替えられた。2018年の記事によると、当時で16,000台、現在は20,000台以上の電動バスが深セン市を走っている。
フェリーも同様に電化が進む。スウェーデンとデンマーク間を結ぶさらに大型のカーフェリーも電化された。さらには、航空さえも電化が可能だ。
 
▪蓄電池による電力系統の安定化
電力系統においても、短期的な安定性確保のために電池を活用することが視野に入ってくる。低価格の大型電池とパワーエレクトロニクスを使えば、さらなる低コスト化が実現できる。数年前にテスラが導入した南オーストラリアの電池は、コスト削減を証明し、今ではオーストラリア、米国、英国等で大型電池の導入が急速に進んでいる。
電池による送電網の安定化は、必ずしも送電網専用の大型電池で行うとは限らない。ドイツでは、フォルクスワーゲンが電力会社を設立した。自動車メーカーである同社の電力会社によって、自社製の車のオーナーに電力を提供するという構想だ。車のオーナーと契約し、電力会社が電池容量の一部の使用を許可してもらう仕組みである。そしてその容量は、地域の送電網に系統安定化サービスを提供するために使われる。そこで行われる取引では、電気料金が安い時間帯に電池を充電し、電気が高いときに送電網に電気を売り戻すという方法だ。そして、この会社の構想では、電池の運用で十分な収益を得られるため、電気を車の持ち主に無料で提供できるというものである。
 
 
 
 
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