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【ジャパンSDGsアワード受賞企業】滋賀銀行のサステナビリティ解体新書
SDGsアワードを受賞した企業のサステナビリティ最前線
― 滋賀銀行の事例とGRIスタンダードから考える多角的分析
本記事では、ジャパンSDGsアワードを受賞した企業のうち「金融機関初の受賞」を果たした滋賀銀行を取り上げ、多角的な視点からサステナビリティへの取り組みを深く掘り下げます。滋賀銀行は地方銀行として長く地域金融を担ってきた歴史をもち、近年では「環境先進行」として注目を集めています。SDGsアワードの受賞理由は何だったのか。企業価値向上やステークホルダーとの関係構築にどのように寄与したのか。そしてGRIスタンダード(GRI1, GRI2, GRI3)で求められる開示事項の観点から、同社の事例はどう評価できるのか。
こうした切り口から、全容を捉えてみたいと思います。
第1章:滋賀銀行の概要およびSDGsアワード受賞経緯
1.1 企業概要
滋賀銀行(株式会社滋賀銀行)は1933年(昭和8年)に創立された地方銀行であり、滋賀県大津市に本店を置きます。県内トップシェアの預貸業務を担うだけでなく、京都・大阪・東京などの大都市圏にも拠点を持ち、積極的な域外展開を進めてきました。総資産は約7.9兆円(2024年3月末時点)規模と地方銀行のなかでも比較的大きく、東証プライム市場(証券コード:8366)に上場しています。
同行は「三方よし」で知られる近江商人の精神をコアに据え、企業理念として**「地域社会・地球環境・役職員との共存共栄」**を掲げてきました。かつてはISO14001を金融機関で先駆けて取得したり、「エコ・ファースト企業」(環境省)認定を業界初で受けたりと、早くから環境経営を標榜していたのが特徴です。加えて2017年に「しがぎんSDGs宣言」を表明し、本業を通じて地域課題を解決していく強い意志を内外に示しました。
1.2 ジャパンSDGsアワードの受賞歴
ジャパンSDGsアワードは、政府のSDGs推進本部(内閣総理大臣を本部長とする)が主催し、日本国内の優れたSDGs貢献事例を表彰する制度です。滋賀銀行は2018年の第2回アワードで「特別賞(SDGsパートナーシップ賞)」を受賞しました。全国の金融機関としては初の受賞であり、地方銀行としても快挙だと言えます。
アワード受賞理由としては、早くから地域課題の解決にSDGsのフレームワークを取り入れ、次のような取り組みを通じて多大なインパクトを発揮している点が挙げられます。
SDGs対応融資商品の開発(ニュービジネスサポート資金「SDGsプラン」など)
*私募債「つながり」**の発行による地域企業・自治体・NPO等との連携
エコビジネスマッチングフェアのSDGs拡張
同性パートナー含む住宅ローン基準など、多様性を尊重する金融サービスの展開
地域新電力への支援を通じた再生エネルギー普及
また、滋賀銀行は企業家育成セミナー「サタデー起業塾」にSDGs賞を創設するなど、SDGsを切り口とした新規ビジネス支援も行っています。こうした取り組みが評価され、首相官邸から特別賞を授与されると同時に、金融機関のロールモデルと呼ばれるまでになりました。
第2章:滋賀銀行のサステナビリティ戦略 ― 多角的視点からの分析
2.1 経営理念とESGの位置付け
前述のとおり、滋賀銀行の経営理念は近江商人の「三方よし」精神を踏襲しています。具体的には「地域社会・地球環境・役職員との共存共栄」という文言に結実していますが、これは金融機関としての事業活動がいかに社会・環境に影響を与えるかという視点を、早くから取り入れていたことを意味します。
地域社会:地元企業への融資や創業支援、自治体との提携などを通じて、雇用創出や経済活性化に寄与。
地球環境:融資先企業の環境配慮を促進する(環境格付融資やエコ私募債)ほか、同行自らもCO2削減や省資源化を進める。
役職員:ダイバーシティや働きがいを重視した人材マネジメントを追求。
SDGsアワード受賞後に発表した「しがぎんサステナブル戦略室」の設置などは、同行がESGを経営の中核に据えたことの象徴的な動きです。また、国連責任銀行原則(PRB)への署名、TCFD提言への賛同といったグローバルなフレームワークにコミットする姿勢も示し、事実上、「ESG経営のトップランナー」と位置付けられています。
2.2 「地域×環境×多様性」のフレームワーク
滋賀銀行のSDGs/ESGアプローチを整理するとき、「地域(R)×環境(E)×多様性(D)」という枠組みが浮かび上がります。実際、地域金融機関としての強みを環境関連と組み合わせ、それを誰一人取り残さない視点で多様な顧客層にまで展開する戦略は、同業他社との差別化になっています。具体的には下記のような取り組みが挙げられます。
地域(R:Regional)
県内企業との創業支援・事業承継支援、地方創生ファンドによる投資
自治体と包括連携し、子育て支援・働き方改革・移住定住など多角的アプローチ
伝統産業や観光振興への金融面サポート
地域新電力設立支援(自治体主導のエネルギー会社を資金面・ネットワーク面で後押し)
環境(E:Environment)
エコ・ファースト企業認定やISO14001取得など自社の環境配慮の先進
環境配慮型融資(グリーンローン、カーボンニュートラルローン「未来よし」など)
CO2排出量管理支援や環境コンサルなどのサービス拡充
琵琶湖のヨシ植栽活動や森林保全など地域固有の自然環境保護
多様性(D:Diversity)
LGBT含む同性パートナーを住宅ローン対象に加える
女性活躍推進や管理職への登用比率アップ
育児・介護支援制度(時差勤務、テレワーク、副業解禁など)
障がいや疾患を抱える従業員への就労サポート
こうした「R×E×D」の融合が、単なる金融サービスにとどまらず社会価値創造へつながると同時に、信頼度やブランド価値を高め、経営上の競争優位性も築いているといえます。
2.3 ステークホルダーとの連携
GRIスタンダード(特にGRI2)でステークホルダー・エンゲージメントの重要性が強調されていますが、滋賀銀行は長年、地域社会や顧客企業、従業員、行政、NPO等と「協働」する姿勢を徹底してきました。
地域社会との連携:エコフェアやビジネスマッチングイベント、起業塾などで、地元企業や大学、公的機関を巻き込んだ交流の場を創出
顧客企業との連携:環境・SDGsのコンサルティングや融資スキームを通じた伴走支援
従業員との連携:職員が参加するヨシ植栽、地域ボランティア、ダイバーシティ推進委員会など
行政との連携:地方創生に向けた包括協定や移住プロジェクト、働き方改革の協同
NPO・市民団体との連携:私募債「つながり」発行額の一部を活用した寄付や社会課題解決事業への資金助成
SDGsが掲げる「パートナーシップで目標を達成しよう(目標17)」に、同行のあり方が真正面から呼応していることが分かります。実際に、ジャパンSDGsアワードの審査講評でも「パートナーシップを重視したSDGs推進」の点が評価ポイントでした。
2.4 GRIスタンダードとの親和性
GRI(Global Reporting Initiative)の報告基準では、企業のサステナビリティ情報を**「多様なステークホルダーが比較可能かつ信頼性の高い形で把握できる」**ように規定しています。特に、以下の観点が重要です。
GRI1:基礎(報告原則や要求事項の概説)
GRI2:一般開示事項(組織の概要、ガバナンス、ステークホルダー・エンゲージメントなど)
GRI3:マテリアルな項目(最も重大なインパクト領域とそのマネジメントについて)
滋賀銀行の場合、以下の点からGRIスタンダードとの親和性を高く評価できます。
経営理念の共有:長年の「三方よし」精神とCSR憲章があり、報告原則の(バランス、網羅性、正確性など)に則った情報開示へ移行しやすい。
ステークホルダーとのエンゲージメント:地域企業や行政、従業員、NPOなどに対し、継続的な対話とコラボレーションが行われている。
マテリアルな項目の設定:地球環境(CO2削減、資源保護、廃棄物管理など)、地域経済活性化(中小企業支援、創業・起業の促進など)、人権(ダイバーシティ、多様な働き方推進など)を主要項目として捉え、本業の金融サービスを通じて対処。
こうした文脈において、滋賀銀行がサステナビリティ報告をGRIスタンダードに則って行う場合、「経営理念とSDGs・ESGの統合」「具体的なガバナンス体制」「各種施策のインパクトや目標・実績」の開示が求められますが、すでに同行はさまざまな表彰や第三者認証(エコ・ファーストなど)を受けており、開示の下地が整っていると言えます。
第3章:深掘り―滋賀銀行のSDGs経営の実際
本章ではさらに、滋賀銀行のSDGs経営を重点テーマごとに詳細に検討します。
3.1 SDGs対応融資の設計とインパクト
3.1.1 背景と狙い
金融業におけるSDGs対応融資(いわゆるグリーンローン、ソーシャルローン、サステナビリティ・リンク・ローンなど)が近年増加しています。滋賀銀行が2018年に開始した「ニュービジネスサポート資金(SDGsプラン)」は、地方銀行として初めてSDGsを前面に打ち出した融資商品でした。
狙いとしては、「社会課題解決型ビジネス」に挑む企業に対し、通常の金利より優遇した資金調達手段を提供することで、新規事業の立ち上げを促すというものです。例えば再生エネルギー発電事業や農業六次産業化など、環境・農業分野での新事業に低利融資を行うことで、地域経済の活性化とSDGs目標達成に資するビジネスを同時に推進する構図が生まれます。
3.1.2 スキームの特徴
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