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【ジャパンSDGsアワード受賞企業】みんな電力のサステナビリティ解体新書

みんな電力株式会社のサステナビリティに関する多角的分析

〜第四回ジャパンSDGsアワード受賞企業に見る社会的インパクトとGRIスタンダードへの取り組み〜


目次



1. はじめに

1.1 記事の目的・概要

本稿は、みんな電力株式会社(株式会社UPDATER)(以下、便宜上「みんな電力」と称します)が第四回ジャパンSDGsアワードを受賞するに至った理由や、そのサステナビリティ戦略・具体的なESG(環境・社会・ガバナンス)活動を多角的に分析したレポートです。記事の主眼は以下の2点にあります。

  1. 多角的かつ専門的なサステナビリティ分析

    1. みんな電力の取り組みを、SDGs・ESG・GRIスタンダードなど国際的枠組みの文脈から整理・評価し、その先進性・独自性・課題を明確にする。

  2. GRIスタンダードとの関連を示す

    1. みんな電力のサステナビリティ報告が、GRIスタンダードの基本的考え方(とくに「GRI 3:マテリアルな項目」等)をどのように満たし、企業活動・情報開示の実例としてどのように役立ちうるかを考察する。

本稿は、ジャパンSDGsアワード受賞理由をはじめ、電力トレーサビリティ技術や空気環境改善サービス、地域連携モデルなど、多岐にわたるみんな電力の取り組みについて解説するとともに、その成功要因や今後の発展に向けたリスクと課題も提示します。さらに、GRIスタンダードを参照したサステナビリティ報告の視点から考察することで、他企業の責任者・担当者がみんな電力の事例から学べる示唆を示します。

1.2 みんな電力株式会社(株式会社UPDATER)の位置づけと意義

みんな電力は、再生可能エネルギー小売を中心とした新電力事業者の一つですが、単なる「安価な電気の提供」ではなく、**「顔の見える電力™️」**というユニークなトレーサビリティサービスを軸に、発電事業者と消費者を直接つなぐモデルを提唱しています。ブロックチェーン技術の活用、地域創生プロジェクト(横横プロジェクトなど)による社会課題解決への貢献度の高さから、2020年に第四回ジャパンSDGsアワード最高賞(SDGs推進本部長(内閣総理大臣)賞)を受賞しました。
創業者の大石英司氏は、東日本大震災後のエネルギー問題を契機に独立し、「電気を通じて社会を変える」ことをミッションに掲げています。2021年には社名をみんな電力株式会社から「株式会社UPDATER」へ変更し、空気環境可視化サービス「みんなエアー」やエシカルEC「TADORi」など、再エネ以外の領域にも事業を拡張しています。こうした多角的な取り組みは、SDGsおよび持続可能な社会を実現するうえで重要なモデルケースとして注目されています。

1.3 本記事における調査範囲と参照する情報源

本稿は、以下の情報源・指針を中心に分析・考察を行います。

  • 深掘り調査(deepresearch):みんな電力のプレスリリース、外務省資料(ジャパンSDGsアワード公式情報)、同社ウェブサイト掲載情報、自治体やメディア報道などを網羅的に参照。

  • GRIスタンダード:特に「GRI 1: 基礎2021」「GRI 2: 一般開示事項2021」「GRI 3: マテリアルな項目2021」、および関連の「項目別スタンダード」(エネルギー、排出、労働慣行、社会面等)。

  • 参考となる国際枠組み:国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」、OECD多国籍企業ガイドラインなどの責任ある企業行動関連文書。

なお、本記事は複数の関係者・文献からの情報を整理し専門的視点を加えてまとめていますが、最新情報はみんな電力の公式発表やプレスリリース、自治体の情報公開資料等をご参照ください。


2. 企業概要:みんな電力株式会社(株式会社UPDATER)とは

2.1 創業年・沿革

みんな電力株式会社は、2011年5月25日に設立されました。創業者の大石英司氏は、大手印刷会社で新規事業を担当していた経歴を持ち、東日本大震災後のエネルギー問題を契機に「再生可能エネルギー事業で社会課題を解決する」というミッションのもと独立。2016年には電力小売事業「顔の見える電力™️」を開始し、再生可能エネルギー発電所と一般家庭・企業を直接つなぐ仕組みを展開しました。
2021年10月1日には、社名を「みんな電力株式会社」から**「株式会社UPDATER」**へ変更。再エネ以外にも「みんなエアー」などの事業を拡大し、社会課題の解決・アップデートを標榜する総合的なソーシャル企業としての立ち位置を明確にしています。

2.2 事業内容・主力製品・サービス

みんな電力の事業は、主に以下の2本柱から成ります。

  1. 再生可能エネルギー小売サービス「顔の見える電力™️」

    1. 同社が契約する全国150箇所以上の再生可能エネルギー発電所から生み出される電気をブロックチェーンを使ってトレースし、どの発電所からどれだけの電気が届いたかを可視化するサービス。法人向けには特定の発電源を指定し、その電力を調達する形態も提供し、ユーザーには「超明細」機能で電気料金の内訳を1円単位で示すなど、高い透明性と共感を呼んでいます。

  2. 空気環境の見える化サービス「みんなエアー」

    1. CO₂濃度や温湿度、PM2.5を計測するセンサー「MADO(マド)」を室内に設置し、クラウド上でデータを可視化・分析して換気や空調の改善につなげるサービスです。新型コロナウイルス禍で換気の重要性が高まるなか、自治体(東京都世田谷区など)との協定締結や保育施設での導入実証を推進。過剰換気によるエネルギーロスにも着目し、衛生と省エネの両立を目指す先進的モデルとして注目されています。

また、このほかにもライフスタイル領域でのエシカルEC「TADORi」運営や、アーティストと協働した新しい電力プラン「アーティスト電力™️」など、電力・空気以外の分野でも「顔の見える」コンセプトを広げています。

2.3 国内外での展開状況

同社の拠点は東京都世田谷区にあり、事業展開の中心は日本国内です。全国各地(北海道から九州・沖縄まで)の再エネ発電所と提携し、大都市部や企業顧客への電力供給を行う事例が多数あります。たとえば、「横横プロジェクト」では青森県横浜町の風力発電所の電気を神奈川県横浜市の企業へ供給するなど、地域間を電力でつなぐ取り組みで知られています。
海外進出の事例はまだ多くありませんが、ブロックチェーンを活用した電力取引システムは場所を問わず適用できるため、国際的な技術連携・実証プロジェクト(EWFなど)を進めています。将来的には日本での成功モデルを海外にも展開する可能性があると考えられています。

2.4 組織変更と社名変更の背景:「UPDATER」の意味するところ

みんな電力は2021年10月に社名を「株式会社UPDATER」へ変更しました。これは、東日本大震災直後(2011年)の創業から10年を経て、再エネ電力小売以外の領域にも事業を広げる中で、「社会をアップデートする」総合ソーシャル企業としての役割を明示する狙いがあります。

  • *「UPDATER」**という社名が示すのは、単にエネルギー業界における革新だけでなく、衣・食・住など生活全般のサプライチェーンを「顔の見える形」で透明化し、社会課題解決へと導くビジョンです。創業期の原点である再生可能エネルギーにとどまらず、空気や農業、地域コミュニティ活性化など、事業範囲を拡大する意思を表明しています。

こうしたブランド転換により、同社はエネルギー産業界を越えた社会イノベーション企業として認知され始めており、ジャパンSDGsアワード受賞後も精力的に新規事業・提携を進めています。


3. 第四回ジャパンSDGsアワード受賞の意義と評価ポイント

3.1 受賞理由と背景

みんな電力が第四回ジャパンSDGsアワード(2020年実施)において、最高賞である「SDGs推進本部長(内閣総理大臣)賞」を受賞した背景には、大きく以下の評価ポイントがあります。

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