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【ジャパンSDGsアワード受賞企業】伊藤園のサステナビリティ解体新書

SDGsアワードを受賞した企業・伊藤園のサステナビリティ戦略とGRIスタンダード~CO2削減・サプライチェーン・茶殻リサイクルなど多角的視点から考察する持続可能なティーカンパニーの実像~

目次



はじめに:SDGsアワードと受賞企業の役割

近年、世界的な潮流としてSDGs(持続可能な開発目標:Sustainable Development Goals)の重要性が増し、国連加盟国をはじめ多くの企業・団体が自らの経営・活動指針にSDGsの観点を統合する動きが加速しています。日本国内でも政府主導の「SDGs推進本部」が設置され、官民連携によるSDGsの普及啓発や実践促進が進められているのは広く知られるところです。こうした中、SDGs達成に優れた取り組みを行う企業や団体を表彰する「ジャパンSDGsアワード」は、2017年(平成29年)の創設以来、社会的な注目を集めています。
ジャパンSDGsアワードとは
ジャパンSDGsアワードは、内閣総理大臣を本部長とするSDGs推進本部が主催する表彰制度です。SDGsに沿った先進的な活動に取り組む企業や自治体、NPOなどを表彰し、その事例を広く社会へ発信することで、SDGsの一層の浸透と行動活性化を促す狙いがあります。とりわけ日本国内では、産官学の連携を強化し、地方創生や環境保全、健康福祉の向上など、多種多様な社会課題に対して有効な手立てを打ち出すことが期待されています。SDGsアワード受賞企業の取り組みは、国内外のステークホルダーから高く評価される一方、受賞後も取り組みの深化・拡大が求められるため、企業としてはゴールではなく「さらなる持続的成長への中間点」と捉えることが多いでしょう。

SDGsアワードと評価観点

ジャパンSDGsアワードでは、「基本的理念」「統合性」「参画型」「透明性と説明責任」「包摂性」など、SDGsの実施指針に基づく複数の観点で評価が行われます。具体的には以下のポイントが挙げられます。

  1. 普遍性:取り組みがグローバルな視点にも適応可能か

  2. 包摂性:多様なステークホルダーを巻き込んでいるか

  3. 参画型:協働やパートナーシップを重視しているか

  4. 統合性:経済・環境・社会の要素を総合的に捉えているか

  5. 透明性と説明責任:報告や開示、コミュニケーションの適正性

受賞企業は、これらの観点を踏まえてSDGsに貢献していると認められた企業として社会的信用を獲得すると同時に、国内外の社会課題に挑むモデルケースとして期待されます。さらに、アワードを受ける企業は、本業を通じた社会課題解決やステークホルダーとの連携など、SDGs推進に不可欠な要素をどのように具体化しているかが注目されるのです。
伊藤園の事例:SDGsパートナーシップ賞
日本の飲料業界を代表する伊藤園は、第1回ジャパンSDGsアワード(2017年度)において特別賞「SDGsパートナーシップ賞」を受賞しています。アワード審査においては、同社が展開する茶産地育成事業や茶殻リサイクルシステムなど、本業と直結したサステナビリティ戦略が高く評価されました。特に「茶畑から茶殻まで」を見据えた一貫した生産・循環モデル、産地の農業活性化や地域との協働、および官民のパートナーシップ重視が顕著であった点が特徴です。
GRIスタンダードとアワード受賞企業の意義
SDGsアワードを受賞した企業は、その活動を社内外に説明するにあたって、国際的に整合性のある情報開示が求められます。ここで有用なのが「GRIスタンダード」です。GRIスタンダードは、企業・団体が経済・環境・社会的インパクトを公表するための国際的なガイドラインとして広く認知されており、SDGsとの整合性も高いフレームワークとされています。企業がGRIスタンダードを活用することで、ステークホルダーからの理解を得やすくなり、透明性や信頼性も向上するというメリットがあります。
本記事では、ジャパンSDGsアワード特別賞を受賞した株式会社伊藤園を中心に、同社のサステナビリティ推進事例を多角的に分析するとともに、GRIスタンダード(GRI1, GRI2, GRI3)の内容とどのように対応しうるかを深掘りしていきます。伊藤園の主要な取り組みである「茶産地育成事業」「茶殻リサイクルシステム」などがSDGsのゴール達成にどのように寄与しているか、また、そのCO2削減効果やステークホルダーとの協働はどのように評価されているか、データ・事例を交えながら詳説していきます。
加えて、同社が掲げるESG戦略やサステナビリティ目標のうち、特にCO2削減や環境負荷低減に向けた取り組みは注目すべきポイントとなっています。記事後半では、これらの取り組みをGRIスタンダードとの関連性の中で整理し、企業のサステナビリティ報告としてどのような情報を開示すべきか、どのように開示すればステークホルダーへの説明責任を果たせるかを考察します。
以上を踏まえ、伊藤園がSDGsアワード受賞企業としてどのようにサステナビリティを統合的に推進し、その活動がGRIスタンダードの文脈でどのように報告されうるかを探ることで、他企業にとっても参考となる「持続可能性と本業の両立」の重要な示唆が得られるはずです。

伊藤園の企業概要とジャパンSDGsアワード受賞理由

伊藤園の歴史と事業領域
株式会社伊藤園は、1966年創業の日本を代表する飲料メーカーです。緑茶や烏龍茶、紅茶などの茶葉製品や飲料を主力とし、特に緑茶飲料「お〜いお茶」で知られます。茶殻リサイクルや産地との連携など、多岐にわたる独自のビジネスモデルを築き上げ、日本国内はもちろん、海外にも事業を拡大しています。
事業内容
• 茶葉製品(緑茶、烏龍茶、紅茶など)の製造・販売
• RTD飲料(ペットボトルや缶に入った飲料)の企画・製造・販売
• タリーズコーヒーブランドのコーヒー飲料の製造・販売
• 野菜飲料(「充実野菜」シリーズなど)の製造・販売
• その他、茶葉リサイクル技術を活かした製品開発やCSR活動
拠点と展開地域
• 日本国内の主要地域に工場・営業所を持ち、北米や豪州を中心に海外展開も積極的に推進
• 世界的な茶飲料ブランドとして認知度を向上させつつ、各地域の嗜好に合わせた商品開発を実施
企業理念とビジョン
• 「お客様第一主義」を経営理念とし、茶文化を広めると同時に、“人と自然にやさしい”飲料企業としての地位を確立することを目指している
• “お茶で日本を美しく”を合言葉に、社会や地域との共生を重視

ジャパンSDGsアワード受賞の背景

伊藤園は第1回(2017年)ジャパンSDGsアワードにおいて、特別賞「SDGsパートナーシップ賞」を受賞しました。受賞理由は大きく以下の点が挙げられています。

  1. バリューチェーン全体を視野に入れたサステナブル生産体制

「茶畑から茶殻まで」という表現に代表されるように、茶葉の生産から製品化、そして副産物(茶殻)の再資源化までを一貫して捉える姿勢が高く評価されました。具体的には、主力の緑茶事業を中心に契約栽培による産地支援、茶殻リサイクル技術の開発など、本業を通じた環境負荷低減と地域活性化の両立を実現しています。

  1. 茶産地育成事業の推進

高齢化や耕作放棄地問題を抱える日本の農業に対して、伊藤園は大規模茶園の造成と契約栽培を進める「茶産地育成事業」を積極的に展開。荒廃農地の再生や地元就農者の支援を行い、良質な茶葉を安定的に確保する仕組みを構築しました。これによりSDGs目標2(飢餓をゼロに)や目標8(働きがいも経済成長も)、目標12(つくる責任・つかう責任)などへ寄与していると評価されています。

  1. 茶殻リサイクルシステムの開発

茶葉飲料製造過程で大量に排出される茶殻(茶かす)を乾燥させずに再資源化する技術を確立し、製紙原料・建材・樹脂などへ活用する「茶殻リサイクルシステム」を構築しました。これは循環型社会に資するモデルとして非常に注目されており、CO2排出削減や廃棄物削減に大きく貢献します。

  1. 健康配慮商品と文化支援の取り組み

消費者の健康志向に応える商品群(機能性表示食品の緑茶飲料など)や、「お〜いお茶新俳句大賞」「お茶で日本を美しく。」キャンペーンなど、文化振興や環境保全を含む社会貢献活動も幅広く展開している点が、SDGsの目標3(すべての人に健康と福祉を)や目標11(住み続けられるまちづくり)に寄与する事例として評価されました。

  1. パートナーシップ重視とガバナンス

農家・自治体・NPO・他業種企業など多様なステークホルダーと連携しながら事業を推進している姿勢はSDGs目標17(パートナーシップ)そのものであり、「SDGsパートナーシップ賞」という賞の名称を象徴するにふさわしい協働モデルを提供しています。

伊藤園の受賞インパクト

伊藤園がSDGsアワードを受賞したことは、同社にとって以下のようなポジティブなインパクトがあります。
企業ブランドの強化:サステナブルな飲料メーカーとしてのブランド価値が一層高まり、国内外の投資家・消費者からの信頼度が向上
ステークホルダーからの期待拡大:各地域や農家、行政機関、NPOなど連携先が増え、共同プロジェクトを進めやすくなる
社内の意識喚起と人材育成:サステナビリティ戦略の社内理解を深める機会となり、茶産業・リサイクル分野における専門性を高める社員が増える
事業の国際展開:海外市場でもSDGsへの積極取り組みが評価され、現地法人との連携やマーケティングにおいて好影響をもたらす
同時に、受賞は企業として「ゴール」ではなく、SDGsへの貢献をさらに加速させる“通過点”です。伊藤園は気候変動やプラスチック問題、地域社会の課題など、今後も多岐にわたるテーマで持続可能なビジネスモデルの進化を求められています。

伊藤園のSDGsへの取り組みとESG戦略

茶畑から茶殻まで:バリューチェーン全体の可視化と最適化
SDGs推進において重要なのは、企業が自社のバリューチェーン全体を俯瞰し、どこにマイナスのインパクト(環境負荷や人権リスクなど)があるか、またどこでプラスのインパクト(社会課題解決や環境改善など)を生み出せるかを的確に把握することです。伊藤園の場合、そのバリューチェーンは以下のように整理できます。

  1. 原料調達(茶産地・契約農家)

茶葉が主力製品の原材料となる。国内外の茶園との契約栽培や茶産地育成事業を展開することで、サプライチェーン上流の安定確保と農家の経営安定を目指す。

  1. 製造・加工(工場)

茶葉の製造・加工工程では、エネルギーや水資源の消費、排出物(CO2や廃棄物など)が発生。環境配慮型設備の導入や、省エネ技術の研究開発、茶殻リサイクルを通じて環境負荷を低減。

  1. 物流・販売(ルートセールス網)

日本国内では独自のルートセールス網を構築し、効率的な物流を実現。同時に、営業車のハイブリッド化やEV導入、配送網の最適化などによるCO2削減策を進める。

  1. 消費・アフター使用(消費者)

消費者が飲料製品を購入・摂取した後、容器やお茶殻などの廃棄物が生じる。伊藤園では茶殻リサイクルを自社工場で展開するだけでなく、PETボトルのリサイクル促進や紙パックの再資源化などにも注力している。

  1. 再循環(茶殻リサイクル、リサイクルPETなど)

茶殻や容器包装のリサイクルにより、循環型経済に貢献。また、茶殻由来素材の新製品化など、サーキュラーエコノミーを意識した研究開発を促進。
このように一連のプロセスをあらためて可視化し、各工程でのリスクと機会を洗い出すデュー・ディリジェンスを実施することは、GRIスタンダードの考え方にも合致します。伊藤園の“茶畑から茶殻まで”というコンセプトは、まさにサプライチェーン全体にわたるインパクトを管理しようとする姿勢の表れと言えます。

ESG戦略の全体像

伊藤園はESG(環境:Environment、社会:Social、ガバナンス:Governance)のそれぞれにおいて施策を展開しています。

  1. E(環境):

CO2削減目標の設定
2030年度までにスコープ1・2排出量を2018年度比で50%削減、2050年度までにバリューチェーン全体でカーボンニュートラルを目指す
茶殻リサイクル
茶殻を紙製品や建材・樹脂原料に再資源化し、乾燥工程を省くことでCO2排出を削減
再生可能エネルギー導入
工場や事業所での使用電力の100%再エネ化を推進、ハイブリッド車やEV導入による物流部門の脱炭素化

  1. S(社会):

茶産地育成事業と地域活性化
新産地事業により荒廃農地を再生し、契約栽培で農家を支援。雇用創出や地域の後継者育成も同時に実施
健康志向の商品開発
消費者の生活習慣病予防や健康増進に貢献するトクホ・機能性表示食品などを拡充
社員の多様性・働きがい
ティーテイスター制度による専門性向上、くるみん認定や育児支援制度の整備、女性管理職登用の推進

  1. G(ガバナンス):

取締役会のサステナビリティ監督
ESG課題を経営戦略に統合し、リスク・機会をチェック。TCFD提言に基づく気候リスクへの対応検討
コンプライアンス体制
グループ行動規範の策定、内部通報制度、贈収賄防止の取組、地域ごとの法令遵守教育
情報開示と透明性
統合報告書やサステナビリティデータブックの定期発行、第三者保証の活用検討
ESGそれぞれの領域に対して目標を設定し、中長期的視点での数値管理と共に、GRIスタンダードを踏まえた適切な情報公開を進める姿勢を強めています。ジャパンSDGsアワード受賞によってさらに注目度が高まり、ステークホルダーからの期待も拡大していると推察されます。

CO2削減および気候変動への具体的アクション

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