
【ジャパンSDGsアワード受賞企業】サラヤのサステナビリティ解体新書
ジャパンSDGsアワード受賞企業「サラヤ」のサステナビリティ戦略を多角的に深掘り〜GRIスタンダードを踏まえたインパクトとマテリアリティの専門分析〜
目次
1. はじめに
1.1 記事の目的と構成
本記事は、ジャパンSDGsアワードを受賞したサラヤ株式会社のサステナビリティ活動を、多角的な観点から深掘りする専門記事です。サステナビリティ責任者や実務担当者の皆さまが、自社の戦略策定やステークホルダー・エンゲージメントに活かすうえで参照できるよう、以下の要素を網羅しています。
サラヤの具体的取り組み事例 開発途上国での衛生改善支援や持続可能なパーム油の調達、生物多様性保全活動などを詳細に解説。
GRIスタンダードとの関連 GRI 1, 2, 3という共通スタンダードの観点からサラヤの情報開示・マテリアリティ特定・マネジメント手法をひも解く。
SDGsとの結び付き サラヤがSDG3、SDG6、SDG12、SDG14、SDG15、SDG17など複数の目標達成に寄与してきた経緯を整理。
今後の課題・リスクや展望 サステナブル調達のリスク管理、気候変動対応、プラスチック削減、デュー・ディリジェンス強化などを示唆。
本記事は、最新のGRIスタンダード(2021年10月公開)に着目しつつ、企業が自社のサステナビリティレポーティングにどのように活かせるかを考察していきます。
1.2 サラヤ株式会社の概要とSDGsアワード受賞背景
サラヤ株式会社(SARAYA Co., Ltd.)は、1952年に創業し、「衛生・環境・健康」を軸とする化学・日用品メーカーです。早くから衛生・環境に配慮した製品を打ち出し、特に手洗い用石けん、消毒剤、洗浄剤、エコ洗剤などの製造販売において国内外で高いシェアを確立してきました。2017年には第1回「ジャパンSDGsアワード」においてSDGs推進副本部長(外務大臣)表彰を受賞。これは、政府のSDGs推進本部がSDGs達成に顕著に貢献した企業や団体を表彰する制度で、サラヤは民間企業としてその先進的な取り組みが評価されました。
具体的には、ウガンダやカンボジアなどにおける衛生環境改善への支援、持続可能なパーム油調達を軸とした環境保全、消費者へのエシカル消費啓蒙などが高く評価されています。
1.3 GRIスタンダードと本記事の関連性
GRIスタンダードは、サステナビリティ報告における国際基準として広く認知されています。企業が自社の経済・環境・社会(人的側面を含む)インパクトを包括的に開示することで、ステークホルダーとの対話や透明性向上を図ることを目的としています。2021年版は、GRI 1, GRI 2, GRI 3の3つの共通スタンダードを中心に、企業の情報開示方法やマテリアリティ特定、開示事項などが体系的にまとめられています。
サラヤの活動をGRIスタンダードの観点で分析することは、同社が果たしている社会的・環境的役割を客観視するうえで非常に有益です。また、GRIスタンダードに沿った形でのレポーティング手法を参照することで、サステナビリティ報告書を作成・充実させたい企業にとっての具体的手本となるでしょう。
2. サラヤ株式会社の基本情報とSDGsアワード受賞理由
2.1 企業沿革:衛生・環境・健康をコアとした歴史的歩み
サラヤ株式会社は1952年の創業以来、「衛生・環境・健康」を事業の三本柱としてきました。創業者である更家章太氏は、戦後日本の公衆衛生課題に着目し、学校や病院での手洗い習慣普及を目指した事業を展開。医療現場向けの手指消毒液の開発や自動うがい器を早期に導入するなど、日本における衛生啓発の歴史を牽引してきました。
1971年には「ヤシノミ洗剤」を発売。植物性原料による生分解性の高さが特徴で、水質汚染防止製品の先駆け的存在として注目されました。のちに天然由来甘味料「ラカント」などを展開するなど、健康志向の食品分野にも事業を広げ、国内外で拠点を拡大。現在では北米、アジア、ヨーロッパ、アフリカなどに現地法人を設立し、グローバルに事業を展開しています。
2.2 ジャパンSDGsアワードの概要とサラヤの受賞ポイント
日本政府のSDGs推進本部(内閣総理大臣を本部長、全閣僚を構成員)が2017年に創設した「ジャパンSDGsアワード」は、国内外を通じSDGs達成に資する優れた取り組みを行う企業や団体を表彰する制度です。サラヤは第1回ジャパンSDGsアワードでSDGs推進副本部長(外務大臣)表彰を受賞しました。
受賞理由の大きな柱は以下の2点に集約されます。
途上国における衛生改善活動:
「100万人の手洗いプロジェクト」をはじめとするウガンダやカンボジアでの衛生支援活動。自社製品(消毒液等)の出荷額1%を途上国支援に充て、ユニセフなど国際機関や現地法人との連携で大きな社会的インパクトを生み出しました。
持続可能なパーム油と生物多様性保全:
パーム油のRSPO認証取得をいち早く進め、生物多様性保全への取り組み「ボルネオ環境保全プロジェクト」を展開。売上の1%相当を森林回復や動物保護の資金に充当し、環境破壊が深刻化するボルネオ島でオランウータンなどの生息地保全に貢献しています。
これら2つの活動はSDGsの幅広い目標(特にSDG3、SDG6、SDG12、SDG14、SDG15など)に寄与している点で評価され、同時に日本企業の先進的モデルとみなされました。
2.3 SDGs推進副本部長(外務大臣)表彰の評価視点
SDGs推進本部は、サラヤの活動が以下の実施原則に合致するものとして高く評価しています。
普遍性(Universality): 国境を越えた衛生問題に取り組む姿勢
包摂性(Inclusiveness): 最も支援が必要な地域や人々への手洗い啓発
参画型(Participatory): 国際機関やNPO、現地住民との協働
統合性(Integration): 衛生対策が人口動態・教育・ジェンダー平等など多課題に波及
透明性・説明責任(Transparency & Accountability): 活動成果を明確に開示し、サステナビリティレポート等で公表
このようにサラヤは、経済的利益のみならず、社会・環境への責任を経営と一体化させる優れた事例として認められたのです。
3. サラヤのサステナビリティ戦略とGRIスタンダードの関連
3.1 GRIスタンダードの全体像
GRIスタンダードは、企業がサステナビリティに関する情報を報告する国際基準です。その中核となる共通スタンダードが以下の3つです。
GRI 1: 基礎2021
サステナビリティ報告における基本的な考え方と要求事項を示す。報告原則(正確性、バランス、明瞭性、比較可能性、網羅性など)もここで定義される。
GRI 2: 一般開示事項2021
組織のガバナンス構造、方針、ステークホルダー・エンゲージメントなど、企業プロフィールや運営に関する情報開示を求める。
GRI 3: マテリアルな項目2021
インパクト評価を行い、企業が特定すべき“最も重要なサステナビリティ項目”=マテリアルな項目を決定するためのプロセスや、各項目に対するマネジメント方針の開示を求める。
さらに、特定業種別(セクター別スタンダード)や特定項目別のスタンダード(例:GRI 305「排出」、GRI 403「労働安全衛生」など)も存在し、企業は自社の事業内容とマテリアリティに応じて選択・適用することになります。
3.2 サラヤの企業理念とサステナビリティ戦略の要諦
サラヤの社是「いのちをつなぐSARAYA」は、衛生・健康を通じて人々のいのちを守りつつ、環境保護にも寄与する姿勢を示しています。同社のサステナビリティ戦略は次のような構造を持ちます。
経営トップが率先して課題を認識し、現地視察なども行いながら方向性を決定。
事業活動そのものがSDGs達成に貢献するビジネスモデルを構築。
消費者や取引先も巻き込むコーズマーケティングで資金を確保しながら、企業価値を高める。
GRIスタンダードなどの国際基準に沿ったレポーティングでステークホルダーとの対話と説明責任を果たす。
サラヤは自社製品の生産プロセスや取引先(パーム油調達先など)を見直すだけでなく、途上国の人々や消費者の教育にも力を注ぎ、ステークホルダー全体におけるサステナブルな行動変容を促す取り組みを行っています。
3.3 サラヤにおけるGRI 2: 一般開示事項の視点
GRI 2は、組織の基本情報やガバナンス体制、ステークホルダーとの関係性、方針などを開示するための枠組みです。サラヤが公表しているCSR・サステナビリティ関連資料を見ると、以下の項目が整合的に示されています。
ガバナンス構造: 代表取締役社長・更家悠介氏を中心に、サステナビリティ推進部署や委員会を設置。
経営トップのコミットメント: 社長が環境ドキュメンタリー番組への出演をきっかけに、ボルネオ島の現状を視察。そこから生まれた保全活動プロジェクトがトップダウンで全社的に実行される。
方針: RSPO認証油の調達方針や、途上国衛生支援に関するポリシーを公式サイトなどで明確化。
ステークホルダー・エンゲージメント: NGO、国際機関、大学・研究機関、自治体などと協働し、プロジェクトごとに利害調整やモニタリングを実施。
4. サラヤのSDGs関連取り組み:開発途上国への衛生改善支援
4.1 「100万人の手洗いプロジェクト」の概要
サラヤが特に注力している国際支援活動の1つが「100万人の手洗いプロジェクト」です。同社の衛生用品・消毒剤の売上1%を、ユニセフのウガンダやカンボジアでの手洗い普及事業に拠出し、さらには現地法人「Saraya East Africa」を通じて医療機関や学校、コミュニティで手指消毒剤を製造・供給しました。
目的は、赤痢やコレラなど感染症の蔓延を抑止し、子どもの死亡率を大幅に低減することです。水道設備が脆弱な地域でも使える速乾式アルコール消毒液を導入することで、医療従事者や患者を守るのみならず、一般住民の日常生活の衛生意識向上を図りました。
ここから先は
¥ 2,980

この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?