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IPOに向けて人事労務でやるべきこと(潜在的な未払い賃金の確認)

はじめに

IPOの上場審査では未払い賃金の有無というのがあります。
「うちの会社は、ちゃんと残業代とかも払ってるから大丈夫」と思う方も意外と潜在的に未払い賃金が発生している可能性もありますので、今回はそちらを中心に書いていきます。

固定残業代制度の運用が適性か

近年、固定残業代制度の導入をしている企業はよく見かけます。
ただ適性に運用ができていないと、未払い賃金が発生する恐れがあります。

POINT
・固定残業代制度の周知をしているか
・基本給と固定残業代を区別して固定残業代の内訳を明示しているか
・実際に計算した残業手当が固定残業代を超えたら別途支給しているか

また固定残業代のみなし時間の上限は法的に定められているわけではないため、たとえ36協定の1ヵ月の上限を超えるみなし残業の契約を締結した場合、それだけを持って即違法というわけではありません。
ただ過去判例ではみなし時間の設定が80時間以上に対して、いわゆる過労死ラインを恒常的に予定したものとして公序良俗に違反して無効と判断されたケース等もあり、36協定の1ヶ月の上限である「45時間」までが望ましいです。

割増賃金の基礎となる賃金は適性か

労働基準法では割増賃金を計算する際に除外して良い賃金は以下に限定されています。

・家族手当
・通勤手当
・別居手当
・子女教育手当
・住宅手当
・臨時に支払われた賃金
・1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金

ここでの注意点はあくまでも手当の名称ではなく実態で判断されるところです。
具体的な判断基準の範囲については厚労省にて以下記載されてます。

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最近ではテレワークの普及も増えて、「在宅勤務手当」などを支給する企業も増えてきました。その場合除外できる賃金には該当しないため「在宅勤務手当」も割増賃金を計算する元の賃金に含めなくてはなりません。
また上記で述べた「固定残業代制度」を導入してる場合は固定残業代についても限定列挙から外れた賃金を含めて算出しないといけません。

続いて割増賃金を算出する際の計算式についてです。
一般的に月給者の割増賃金を算出する場合は月平均所定労働時間を用いて計算するケースが多いと思います。

基本給÷月平均所定労働時間×割増率

この月平均所定労働時間の算出方法は例えば年間休日が125日だとすると、以下になります。

(365日-125日)×8時間(その人の所定労働時間)÷12=160時間

ここを例えば160時間ではなく170時間などで計算してると、当然に時給は低くなり、その分支給される額に乖離が生じます。

またその年によって祝日の関係で年間休日が異なる場合があります。
毎年、この月平均所定労働時間自体を変更するのでも良いですが、工数がかかるため、お勧めの方法としては一番労働者に有利になる年(年間休日が多い年)を基準に設定するのが良いかと思います。
※そうすればどの年でも実際の労働日数で計算した時給より上回るため

労働時間の管理は適性か

まず労働時間の定義とは

労働基準法上の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいう。

ざっくり言い換えると
「業務との関連性があり、事実上その行為が強制されている時間」
といった感じでしょうか。

例えば勉強会や研修など、任意参加であれば労働時間に該当しませんが、強制参加であったり、参加しないと業務に支障をきたす、また参加しないものは不利益な取り扱いを受けるなどは事実上、強制されていると判断され労働時間にあたります。

次に労働時間のカウントについてです。
原則、労働時間は1分単位でカウントして賃金の支払いが必要です。
ただし以下については労働基準法によって認められてる端数処理となります。

・1ヵ月における時間外労働、休日労働および深夜業の各々の時間数の合計に1時間未満の端数が生じた場合に、30分未満の端数を切り捨て、それ以上を1時間に切り上げること

つまり1日単位で労働時間を丸める設定(6時間15分労働→6時間労働)は違法となり未払い賃金が発生します。
このような事態にならないために、まずは現在お使いの勤怠システムの設定や運用が正しくできているかの検証をしてみましょう。

裁量労働制や管理監督者は適性か

この2つについては内容を書き出すと膨大になるため今回はあくまでも簡単な要点だけを絞ってまとめました。

裁量労働制

IT業界では特に専門業務型裁量労働制を導入してる企業は増えてきてます。ただ会社側が拡大解釈をしてしまい違法となった判例もありますので、正しく理解して運用する必要があります。

POINT
・仕事内容が厚労省で定めた対象業務に該当するか
・仕事の進め方や時間配分などを本人に委ねているか
・労使協定で定める1日のみなし時間の設定は適性か

管理監督者

管理監督者については確立した判断基準は明確にされておらず判例や行政通達を参考に総合的判断となるため慎重に判断する必要があります。

POINT
・職名ではなく実態として職務内容や権限が経営者と一体的な立場か
・自己の勤務時間について裁量があるか
・賃金等の面で他の労働者と比べて相当の待遇がされているか

上記の裁量労働制や管理監督者のどちらの場合でも深夜労働の割増は必要になるので、仮に適性な運用だったとしても労働時間の管理及び深夜手当の支給は必要となります。

さいごに

今回はあくまでも未払い賃金の清算の実務ではなく、まずは潜在的に未払い賃金が発生していないかについてを書かせて頂きました。
実際の未払い賃金の清算方法についてはまた別で書く予定です。

未払い賃金の発生に気づくのが遅ければ遅いほど、後々の処理が煩雑になったり、金額も膨大な額になる恐れもありますので、なるべく早めにご確認される事をお勧めします。

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