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Cantonとは漢字にすると何のこと?

広東 / 広州

日本語で「広東語」「広東料理」「広東省」とあると、「かんとんご」「かんとんりょうり」「かんとんしょう」と一般的に読む。キーボードで”かんとん”と入力すれば予測変換で”広東”と出てくるはずだ。

「カントン」という音が広東を指しているならば、英語のCantonは「広東」のことを指すと思われる。実際に広東語はCantoneseだし、広東料理・店はCantonese Cuisine/Restaurantである。

しかし、世界で2番目に高いタワーの広州塔の英語名はCanton Towerである。世界最大の貿易展示会である、広州交易会(正式名称:中国輸出入商品交易会)はCanton Fair (China Import and Export Fair)である。

1851-61年に作成されたアメリカ人D. Vroomanによる広州の地図には、Map of the city and entire suburbs of CANTONとある。これは英文タイトルしかないようだ。対応する漢語は「広東」か「広州」か、どちらなのだろうか。

上下九広場付近にあるD. Vroomanによる19世紀中頃の広州の地図

中国政府公式の拼音によるGuangzhou(広州)やGuangdong(広東)の表記が1950年代以降の原則であるにもかかわらず、現在でも旧式のCantonはどちらの意味でも使用されている。

下の記事も興味深い。広州のサッカークラブの横断幕の表記について。

広東人・広州人が抱くCantonへのアイデンティティは存在するのか。
とてもおもしろい。ここはどんどん深掘りしていきたい。

Peking / Beijing

「北京」をどうローマ字表記するのか、という逆方向の問題もある。
従来"Peking"と表記していたが、拼音の導入により"Beijing"となった。単純にそういう話なのだが、その前後で中国語では同じ音のはずなのに、ローマ字読みした時に全然違う音になる。そんなんでいいの?

簡単に調べてみると、Peking表記は清朝から使用されているもので、南京官話の発音に基づいているらしい。現在の中国語は北方官話(北京方言)に基づいて標準化されているので、清朝の南京と中華人民共和国以後の北京の発音の差が現れていると言えるのかな?しっかり調べたい。

日本語でペキンというように、他の多くの(調べが浅くカジュアルな形容詞で容赦願う)言語でもPekingの音が残っている。
ちなみに広東語ではbak1ging1(パッキン)と発音する。粤拼におけるb/gは、どちらも無気音であることを表しており(有気音だとp/kになる)、バッギンという音にはならない[1]。

香港・尖沙咀での北京道=Peking Roadと廣東道=Canton Road
これらは広東語発音からのローマ字転写・音訳(transcription)である[2]

中国国内でもPekingが全て置き換えられたわけではない。中国有数のトップ大学である北京大学はPeking Universityだし、お馴染みの北京ダックはPeking duckである。Beijing duckとは実は表記しない!

Pekingに対してもアイデンティティIdentityや連帯Solidarityの意識はあるのかも?これは調査しがいがあるぞ〜🤤


[1]有気音と無気音
広東語の子音(韻母)の発音では有気音・無気音の区別がある。有気音とは息を強く出す発音で、無気音とは息を漏らさない発音のこと。

[2]転写(transcription)と翻字(transliteration)
音声を文字で表現する転写・音訳(transcription)として、北京→Peking・廣東→Cantonと表記している。転写といえども様々な表記方法はあるだろうが、Peking/Cantonが実質唯一の選択肢なのだろう。東京をToukyouと表記したり、大岡山をOookayamaと表記する場面を見たことがないように。
一方で、ある文字表記を別の文字表記に移す翻字(transliteration)の場合は、例えば粤拼であれば、北京→batging・廣東→gwongdungとなる。翻字の原則として、「北」「京」「廣」「東」それぞれの字に対して一意にローマ字化される(一対一対応)。


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