映画『魂のゆくえ』
2019年ももう師走。生きていたアリバイとして、今年見てきた映画の記録を残しておこう。FBやtwitterに書き散らかして、どこで何を書いたのかさっぱりわからなくなってきたから、お気に入りの映画だけでも残しておこう。noteの開設記念として残しておこう。
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原題: First Reformed
2017/アメリカ
監督・脚本:ポール・シュレイダー(『タクシードライバー』)
映画見て居眠りしてスカッとしよう、と思っていった映画館。
思いっきり重い内容の「魂のゆくえ」を選んでしまう。週末でも席が空いてそうだったから。
脚本が「タクシー・ドライバー」の人らしい。「レイジング・ブル」も同じ人だそうだ。どっちも名作だし。
観た。映画は、不安感がじわじわ気持ち悪さになっていき、最後どうなるの?と思っていたら終わる、という感じ。
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映画の原題は First Refomed オランダ改革派教会。
主人公トラー牧師が担当する教会は250周年の式典を控えた伝統の教会である。
奴隷時代に奴隷たちが脱走につかった「地下鉄道」としても知られている。
しかし250年前のコミュニティのもつ信仰心の篤さはいまや失われた。
観光や歴史の学習に立ち寄る人々ばかり、信仰を求める人はわずかだ。
祈りの時間の後に、相談をもちかけてきたメアリーも、信者というより教会好きの若い世代の一人だった。
信者=信仰を失い観光名所となった教会は、さらに大きな福音派教団の庇護と協力によって運営されている。
福音派教団青年会とミーティングで若者は言う。
父はアメリカ社会で身を粉にして働いているのに、どうして生活は報われないのか。
問われてトラーは答える。
星条旗のために命をかけること、裕福になることが、聖書の教理ではない。
別の若者が異を称える。
右の頬を叩かれれば左の頬を差し出すなんてナンセンスだ。
社会にはイスラムなどが台頭してきている。
僕は敗者になりたくない。
ミーティング後、教団幹部は言う。
最近の若者は、SNSの世界と自己の世界が直結していて極端な異見に走りやすい。
思考も短絡的だ。
トラーは、父・息子と3代にわたる改革派の牧師である。
3代とも従軍牧師として宗教の社会的貢献を誇りにしていた。
しかし、トラーの息子は”無駄な戦争”ーイラク戦争で命を落としていた。妻とも別れ、信仰のゆらぎと罪の感覚をトラーは抱えむようになった。
信仰と社会の矛盾・孤独を、日記と酒に押しとどめ、積み重なったアルコールは体を蝕んでいた。
環境問題に関心のあるメアリーは、より問題の深みにハマる夫・マイケルのことを気に病んでいた。
妊娠したメアリーにマイケルは出産を諦めろという。
環境破壊が続く世の中に生まれる子どもに明るい未来はない。
メアリーとマイケルの相談を受けるトラーは自身の信仰の中で問う。
神が与えたもうた環境を世界を破壊し続ける私たちを、神は果たして赦すのか。
折しも、設立250周年の式典を支え、教会を支える教団の巨大スポンサーは、環境破壊の責任を問われる大企業でもあることがわかってくる。信仰と社会の矛盾を募らせるトラー。
信仰が消失する世相のなかで、粛々と儀式運営しながら、独りごちるトラー。
本音は日記と酒にだけ綴るトラー。
信仰者として伝道者としてあろうと、人々に寄り添っていこうと、思えば思うほど、社会にできる限り向き合おうと、真摯になろうと、すればするほど、歪むトラー。
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