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猫(ショートショート)

ある所に猫が居た。
彼は、人が嫌いで、人が近寄ると、サッ、と、シュッ、と、逃げる。
近所の人間達は、彼を、可愛げの無い猫だと思っていた。
しかし、ある日、老人が道で杖を落としてしまい、道でアタフタしていると、その猫がシュッ、と現れて、『オェッ』とゲロを吐いた。
そのゲロで滑った老人は、あら見事。
路肩の植木にフワリ、と着地し、難を得た。

ある日の事だった。
いつも彼をからかう近所の幼児が、その猫を見付け近寄ると、彼はこう言った。
『明日、俺は死ぬだろう。おまえに、力を授けてしんぜよう。』
幼児は何事か、と驚いたが、これは何かのマチガイだろうと思いながら、帰路についた。

翌日、幼児がひとり、家で留守番をしていると、加湿器のコンセントから火が吹いた。
しかし、幼児には、水道まで手が届かない。
生憎と、いつも漏らしがちな小便も出ないと来る。

その時、猫の声が耳元で聴こえた。
『今だ』
幼児は突如胃のむかつきを感じると、昼ごはんの玉子スープとオレンジジュースの混合物を吐き出した。

『ジュッ。』

火は鎮火した。
そのとき幼児にはたしかに、あの猫の笑い声が聴こえた気がしたのだった。

梶本

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