ホームセンター戦闘員、浅間!
「うるせえ! 自分の車に積み込めってほざいたのはてめぇだろ!」
俺が振るった金槌は、眼前のクレーマージジイが握る草刈り鎌より早く、ジジイの側頭部を打ち砕いた。ジジイは倒れ、そのまま動かなくなった。
「しまった……」
俺は青ざめた。今月の殺害許容数は5人まで。このジジイは6人目だ。本当に非正規は不利だ。殺していい数が正社員に比べて少なすぎる。
「やってしまったねえ、浅間くん。超過だよ」
粘ついた声音に振り向くと、東村店長が立っていた。最悪だ。ずっと見てやがったな。
ジジイを殺さずに済ませるのは不可能だった。デカいワイヤーメッシュを自分の車に積ませたのはこのジジイだ。だが、積んだ途端にジジイは「前の時は貸し出し軽トラで持ち帰った。何故、軽トラを貸してくれなかったんだ」と騒ぎ始めた。
明らかなクレーマーだ。本部にめちゃくちゃ言うぞ、慰謝料をよこせと草刈り鎌を取り出した時点で選択の余地はなかった。
小売り店員の仕事の半分は、クレーマー対策のための殺人だ。特にホームセンターは、扱う商品の幅広さから来る豊富な武装により、小売り業界きっての武闘派として、邪悪な消費者どもと戦い続けてきた。
クレーマー側も、店員に文句をつける以上は殺し合う覚悟を決めている。小売りの現場は戦争だ。殺害数上限制度は、その現場への無理解の極みだ。
「ペナルティはこれだ。君なら、やり遂げられると信じているよ」
そういって東村店長に渡された紙を見て、俺の顔から最後の血の気が引いた。「配達ブラックリスト」。
通常、クレーマーどもは配達など頼まない。敵である小売り店員に住所を知られれば、まず間違いなく放火されるからだ。それでも頼むような奴らは余程のバカか、余程の強者か。
ブラックリストに載っているのは、もれなく後者。これまで数々の小売り店員を血の海に沈めてきた、モンスタークレーマーたちへの配達。東村店長からの指令は、死の宣告同然だった。