No2 こちら側から見たマコマレッツ _ STUDIO75 覚書
全3回『こちら側から見たマコマレッツ』の2回目。maco marets 2nd アルバム「KINŌ」編です。
そういえば、2019年6月15日。1stアルバム『Orang.Pendek』リリース。
同じ日に私たちSmall Circle of Friendsの11枚目のアルバム『silence』リリース...。
奇遇だ。
なにがって、これは示し合わせたわけでもなく結果的に同じ日になっただけなんだけど、それでも、少し驚いた。
リリース以降、アルバムが好評だという情報が少しずつ耳に入ってくるようになり、たとえばどこかの会議でキュレーターが「今オススメするべき音楽の傾向」としてプレゼンのアイテムになっていたり、どこそこのラジオで掛かっていたり、誰かの友達のそのまた友達がマコマレッツを良いと言っていたとか。
小さなそれらの評判は単純に嬉しかった。しかしワタシ自身は不思議な気分。
つまり。
「どこが良い?どこらへんが?何が?わからないから教えてオシエテ」
という気持ちだ。
対してマコマレッツ自身からは、リリースした喜びももちろんあっただろうが、それよりも、これからどうしたら良いかがわからない事に対する苛立ちみたいなものを強く感じた。リリースしたとしてもイコールでどこかからのサポートがあるわけでもなく、予定されていたMV制作もどうやら進んでいないようだ、と。
この事がその後の彼の『自分でできることは全部自分でやるし、MVに関しても誰かを待つことなく作っていきたい。その為にはまず曲を作ろう。』というスタイル。そのスタイルになる為の静かな覚悟を得た。と、勝手にそう解釈している。
そしてできた曲が『Hum!』。
レコーディングは2016年の11月頃。
おそらくこの『Hum!』は録音する前にMVを作ることが決まっていたと思う。そしてリリースはiTunes等のダウンロード販売なども全て彼自身が行う。
『Hum!』はそのMVの効果もあって、またひとつ反響が大きかったようだ。
2017年5月。渋谷。宮下公園の向かい2階のカフェにて。
また曲を作ってビデオも作ってリリースしたい。テーマは漠然と「夏」、もしくは「夏のおわり」。と、相談された。
そしてなぜか彼は少し落ち込んでいた。
その曲の為に、6月、ビートを31個送った。そのなかで「たぶん..これを選ぶだろうな..」と予想していたビートがあった。それをマコマレッツは選んだ。
その後、ボーカル録音の前にビートにだいぶ手を加えた。マコマレッツの方から生のギター演奏を加えたいという希望があって、ミヤタさんのギターのデータが送られてきた。トラックが徐々に完成品になっていく。
ボーカル録音をする。
今までと違う。
1st『Orang.Pendek』とだいぶ違う。
『Hum!』とも違う。
少し戸惑う。
声が、ものすごく、小さいのだ。そして今までよりもさらに柔らかい。
『Summerluck』完成。リリースされ、ウエダマサキさん制作のMVが公開された瞬間から、マコマレッツの代表曲のひとつになった。いくつかのミックステープに収録されたり、おそらく彼の曲の中では一番聴かれているだろう。現時点で。
そしてこの『Summerluck』の感触を引きずったまま、2ndアルバムの制作に入ることとなる。2017年の9月から再びビートのやり取りをして、ボーカル録音を始めたのが2017年12月から。ミックスダウンして一応完成したのが3月。
『Orang.Pendek』のおわりから2枚目の制作を経、『KINŌ』が完成するまでのお話。
2nd『KINŌ』
では、今回も1曲ずつ解説を。
morning calls
アルバム作業の一番最後に制作。今回はアウトロではなく、イントロが欲しいというマコマレッツのリクエスト。ボーカルの入っていないインストルメンタル曲。ものすごく迷う。どこまで『STUDIO75』 と違いをつけるのか?どのくらい”マコマレッツ”でなければいけないのか?その迷いで最初は「スターウォーズ」をモチーフにしたビート(マコマレッツはスターウォーズ愛好家)を作ったが却下。2つめに作ったのがこのトラック。何も考えずにJunoと向き合い、鍵盤に指をのせ、メロディーが降りてくるのを待った。フォースを信じて。
Hum!
『Summerluck』以前の曲なので、まず声の出し方が違う。そして録音場所もこの曲だけレック・ルームを使っている。大概の場合、コントロール・ルームで簡易的に遮音してボーカルを録っている。理由は単にワタシがその方が好きだから。トークバック越しのやり取りが苦手。一緒にヘッドフォンを被ってやった方がコミュニケーションも含めて早いと思っている。
この曲の元のトラックはSCOF/STUDIO75Bandcampシリーズのコレ。
Deadbody
ビートは2011年からハードディスクの中に存在していたもの。STUDIO75のアルバムで使おうかと思っていたが結局候補から漏れた。これもマコマレッツに合うよなぁ、と思っていたら、選ばれた。このマコマレッツがどのビートを選ぶかの予想は2nd『KINŌ』では7割くらい当たっている。
一度別のラッパーにこのビートを渡していて、マコマレッツのレコーディング中、忘れていた頃にその人からラップを乗せたデモが送られてきて、ちょっと慌てました。
Amazing Season
元のビートはコレ。
タイトルも同じなんだけど...。
タイトルに関して。ビートを渡す時はマコマレッツに限らず、言葉を書く場合の妨げにならぬよう、タイトルを3文字の略称にする場合がほとんどです。イメージを限定させたくないから。でも、もし、それが結果的に有効なら、それはそれで良いのかなと、この曲で思った。
Click It, Freeze It
アルバム制作のわりと後半にできた曲。ボーカル録音を進めて、何か他にビートが無いかいろいろ探していて、マコマレッツに聴かせた途端やる事が決まった曲。それ以前にもこのタイトルのついたデモ曲があったので歌詞のモチーフとしては存在していたのだろう。
アルバムに於けるこの曲の「他と違う響き」は重要な要素で、もしこの曲が無かったらと思うとヒヤっとする。そのくらい特別な曲だと思うし、マコマレッツのキャリアにおいても外せないだろう。
大袈裟かもしれないけれど。
ウエダマサキさんの映像がすばらしいです。
Sparkle
元のビートはこれ。
マコマレッツのボーカル録音の進め方として、ヴァースはダブルにする。それプラス、フリーな被せををする。これは彼の好みであって、大半の曲はこのスタイルだ。コーラス、フックは必要に応じて同じラインを録る。そしてこの曲のように違うフレーズがふたつ、みっつと重なってくる場合は、どれをどの位置に配置するのか、ミックスで考えなければならない。録音中は考えないようにしている。マコマレッツの思うままにどんどん録っていく。レコーディングは速やかに。
blank form
ワタシのミックスの好みでもあるのだが、ボーカルは大きい方がいい。歌詞が解る為とかではない。それはマコマレッツには当てはまらない。声を大きくしても、何を言っているのか解らないものは解らない。
曲の音像の中でボーカルが(自分にとって)小さいとちょっとイライラする。そしてボーカルの為なら多少バックトラックを小さくしても良いと思っている。このトラックのように元々「声」が含まれている場合、とにかくあらゆる手段をつかってマコマレッツの声を目立たせる。必要であればマコマレッツの発声に合わせてループをダッキングさせる。
Eyepatch
2nd『KINŌ』でマコマレッツの声はどんどん小さくなっていって、ほとんど囁きに近くなった。それに伴いリップノイズ、歯間音、そしてシビランスは増大する。いろんな対策と、試行錯誤を繰り返す。やっていくうちにだんだんとコツを掴んでいき、いろんなテクニックも見つけていった。特にシビランスに関しては、リヴァーブの引っかかりは華やかさに繋がるので、取りすぎには注意している。
Summerluck
一番最初のビートの原型から、音を足すのと同時に、隙間を作っていく作業が重要だった。ループに1拍のスペースはもちろん、音の減衰(ディレイも含めて)に気を使っていた。
マコマレッツの声に掛けるリヴァーブも様々なタイプを試した。この時の試行錯誤がその後の2nd、3rdに於ける「マコマレッツのトーン」を作りあげたと思っている。
この曲は最初、ベースラインが無く、ボーカル録音の前にベースをいれたところ、マコマレッツが「フローをちょっと変えなきゃいけないですね」と言ったのを聞いて、かっこいい〜・・・と思いました。
Poodles
このトラックは2017年10月頭、ヒックスビル、高橋徹也、鹿島さん、菅沼さん、と行ったHolidayツアーの車中。ちょうど名古屋から東京への帰路、ワタシは運転を担当する事もなく、後部座席にてだらしなく過ごしていた時、iPhoneのアプリで作ったビートが元になっている。その後、protoolsにトレースして完成させた。ドラムは何回か変更していって、ミックスに入ってもまだいろいろと試していた。
Who You Are
このビートもかなり古い。2009年頃作ったもの。そしてマコマレッツに渡したのも1st『Orang.Pendek』の時だったと思う。
ビートに略称をつけ忘れていて、ビート名『WhoYouAre』のまま渡してしまった。
最初マコマレッツがボーカリストをフィーチャーしたいと言っていて、誰にするかいろいろ迷っていたようだ。そしてレコーディングに来た女性どこかで見た事あるなぁと思っていたら、『Hum!』のMVでサンドイッチを作って、自転車を盗まれていた人だった。
ヨネヤマミサさんの声、歌がこの曲にとても良くあっていると思います。
以上、2ndアルバム『KINŌ』の解説でした。
アルバムのミックスダウンが2018年の3月にほぼ終了して、さあリリースはどうする?という話になってくるけど、maco marets自身のレーベル : Woodlands Circleでのリリースに至る経緯は、また別の機会に。
さて最終章、3rd AL “CIRCLES”編へつづく...。
Small Circle of Friends
Studio75
アズマリキ