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【開催レポート】アメリカのコーチングに学ぶ〜世界視点の選手育成〜

分科会「アメリカのコーチングに学ぶ~世界視点の選手育成~」で、
アメリカでの経験が豊富な河田 剛氏と佐藤 晃一氏のお二人に日本とアメリカのスポーツの違いについてお話いただきました。

アメリカのスポーツの捉え方からはじまり、日本のこれからのスポーツのあり方について熱い議論が繰り広げられました。

スポーツ大国、アメリカに学ぶ

村松:お二人に共通している点としてアメリカでの経験を積まれているということですので、はじめにどのような経緯でアメリカへ渡ったのでしょうか。また、その時の印象を教えてください。

河田:私は、自分がこれだけ好きなスポーツに関わっていきたいという気持ちがありました。そう思ったので、私はアメリカのNFLの下のリーグのキャンプにフロリダへ行きました。そこには一線を退いたコーチ陣がいて、70歳くらいの人がコーチをしているのを見て、私はそんな年にまでなって指導者を続けられるなんて最高だなと感じました。コーチとしてお金を得られるのはこの国しかないと思いました。それでアメリカへ行こうと決めました。また、遠征でアメフト部がパトカーと白バイに先導されて、空港へ行くといった特別対応を受けたのです。私はヘッドコーチがそういう扱いを受けるのはわかるのですが、大学生の選手たちもそういう扱いを受けるアメリカに驚きました。

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佐藤:私は、日本の大学でソ連東欧事情を専攻しました。勉強も楽しかったのですが、就職活動となったときにどうするかと悩んでいるときに「アスレチックトレーナー」という仕事があるということを知り、それをやるのであればアメリカにいってやろうと決めました。アメリカにいったときに衝撃を受けたことは、世の中には色んな人がいるということですね。特にアメリカでのバスケ選手は不遇な環境で育ったケースが多いです。また、日本と比べアメリカの選手は、人が優しくしてくれるのは、裏になにかあると考えてしまう選手が多くいました。人が素直に信用できない環境で育ってきた人たちで、話していることを、すんなり受け入れてくれることは少なく、疑い深い印象ですね。

村松:人は多様であるというという事は、よく聞く言葉ですけど、実際日本人だけでくくっても、日本人の中にも違いがありますし、世界に行ったらよりそれが見えてくるということですよね。

アメリカの学ぶ指導者を生み出すカルチャー

村松:アメリカのスポーツと日本のスポーツ違いや共通点はどのようなものがありますか。

佐藤:アメリカは特殊で、日本に帰ってくると未来から帰ってきた感覚に近いですね。日本はアメリカを目指しているが、それによる弊害もある。現在、早期特化という、小さい頃からずっと同じスポーツで専門性を高めるといったことがアメリカでは弊害が出ています。逆に捉えると日本にとってはチャンス。日本はそもそも早期特化が普通である。だから今、早期特化をやめたら、選手がすごく成長するかもしれない。なので、バスケ協会だけど小学生のときバスケ以外のスポーツをやることを推進しています。バスケ選手を更に良くするために、「バスケを通していろんな動きを学び、いろんなスポーツをやりましょう」ということは、私はいいことだと思います。

河田:私は指導者なので指導者の違いでいうと、コーチや指導者自身が将来を考えているのか、考えていないかの違いが大きいです。その子どもの将来を考えているか、考えていないか。私たちはただの指導者で指導者が関われる時間は限られているのに、悪影響を与えることは本来できないはずで、そんな権利もないです。例えば、若い女の子にスポーツをするために髪の毛を短くするのを強要することや、将来有望な野球のピッチャーに100球を何日も連続で投げさせるなんてことは、本来できるわけないはずなんですよ。言い方は悪いですけど、選手をちゃんと人間として扱っているか、扱っていないか。指導者の目に先が見えているか、見えていないかが違う。これでいうと日本はほぼ悪い方にあたります。これは部活動を教えている指導者がプロの指導者ではなく、学校の先生が指導者であるといった、社会的構造のせいだと感じています。

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佐藤:アメリカはプロの指導者が多い。小学校や中学校もそうで、横のつながりが多く、コーチ間のネットワークが深いと感じます。日本のコーチ、指導者環境というのは「練習を見に行かせてください」気軽に行けるか、行けないかが、アメリカと比べると比較的やりにくい感じがします。勝つことを追求しすぎてコーチたちが、「本当は何が大切なのか?」がわからなくなってしまう。最終的に優勝できるのは1チームなのに。指導者としてのきちんと価値観を持つ、選手たちも勝つこと以外の目的を見つけることが重要になってくると思います。勝ち負けを追求していったらそういう社会になる。

河田:日本では、負けても公立の先生はクビにはならないが、アメリカは勝たなきゃすぐクビになります。日本とは、家族の構造や時間のバランスがぜんぜん違いますね。アメリカ人は家族との時間を大切にする。もちろん、コーチやスタッフもです。仕事と家族とのバランスをよくマネジメントしています。日本の「働き方改革」はおかしなことです。アメリカ人は、自分のライフスタイルを軸にして、働き方を決めているのに対して、日本は働き方が自分の生活に落とし込まれる。

村松:なんのために、自分がコーチをやっていて“Goal”ではなく“Purpose”。目的はなんなのか。選手はもちろん、コーチ自身も関わるスタッフも持っているということがキーになるということですね。

佐藤:ボランティアで、子どもたちにバスケットを教えている人から「何が目的なのかわからない」と相談を受けました。20人~30人の子どもたちを対象に、バスケットを教えたいと考えている人が結構いる中で、あなたはその環境にいます。「どうやったらうまく教えられるだろうと考えたらワクワクしませんか?」と問いかけました。それは指導者としての成長じゃないですか。義務としてやっているのか、お金としてやっているのか。指導者のメンタリティですし、選手も同じメンタリティを持てればいい環境にできるのではないかと思います。

村松:スポーツコーチングJapanの私たちは指導者が「学ぶリーダー」であってほしいという願いのもと活動している。自分はなんのためにやっていて、実現できることはなんなのかということ。枠を超える。今回のカンファレンスのテーマでもある「壁を超える。」、コーチ同士のネットワークや、競技を超えて、スポーツを超えた領域での学ぶものはなにか。そこでの新たな情報は色んな所で役立つのではないかなと思います。

河田:私は、10年後ボランティアのコーチが一人でも減っていてほしいと願っています。スポーツ産業がお金を生み出す社会になっていてほしいです。自分のやっていることが価値になることを知ってほしい。アメリカに比べて、日本のスポーツ業界はクオリティが低い。そこにどういう価値があるかも重要ですが、スポーツに関するボランティアが減っていってほしいですね。

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佐藤価値を創出しているかが重要な点です。そういう意識が大事になってきます。お金が入ってくるということは、指導者も価値を生み出さないといけないという環境になる。「上手じゃない指導者のもとへは行かないよね」ということが起きてくるはず。そうすると、指導者も成長せざるを得なくなる。


世界で活躍する人材の共通点は素直さ

村松:世界に通用する選手・人材に共通していること、大事にしていることなどはありますか。

佐藤素直に人の話をきけるかですね。質問を、批判と捉える人がいます。指導者が質問をしたら、選手のマインドは「質問→叱られている→何を答えても言い訳がましい→答えにくい」というものになる。指導者は選手の意見を引き出したいのに、これは純粋なやりとりとして成り立たなくなってしまう。「面白い質問だ」「こういう質問が来るんだな」といったように捉えられるように、受け側のマインドセットを変える。選手として、指導者として、人からの意見を上手にプロセスできるような形を作るということが様々なところで共通すると思います。そうするとネガティブな要素が減る。「なんでそういう質問が出るのか」ということを考えるようになればさらに深まり、相手の行動、心の重きを察する能力がついたり成長になるのかなと感じています。

村松:自己認識できているかということも関係しているのかな。問いを投げられて、イラッとしてしまった自分がいる。これを客観視してみたときに、リ・アクティブになっているのかプロ・アクティブなのかというところにも関係しているのだと思います。

河田:はじめにアメリカへ行ったとき、「アジア人のコーチがアメフトを教えるなんて」と、みんな自分のことをバカにしているのだと感じていました。フレンドリーな生徒もいれば、距離をおいている生徒が多くいました。その理由は、このようなことでした。まず日常ではフレンドリーな話を選手たちと交わしますが、基本的に生徒と同じテーブルでは、ご飯は食べません。ポリシーとして選手とコーチの間を分けたいからです。なので、選手たちは気軽に私たちコーチに話しかけたら失礼だと思っていたということでした。日本のコミュニケーションの中で育ったまま、アメリカに行くと勝手に思い込んでいることがたくさんあると思います。アメリカは多種多様な環境で育っているので、千差万別なコミュニケーションが生まれます。自分の経験上での判断基準を高く持ちすぎると、世界で活躍は難しいと思います。

村松:思い込みってことですね。自分が作っている思い込みってたくさんありますよね。それを確認する、取り除くことができるといいと思います。

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【スピーカー】
・河田 剛氏(写真左)
スタンフォード大学 アメリカンフットボール部 オフェンシブアシスタント
・佐藤 晃一氏(写真右)
公益財団法人日本バスケットボール協会 スポーツパフォーマンス部会長

【モデレーター】
・村松 圭子(写真中央)
一般社団法人スポーツコーチングJapan
チームデベロップメントセクション プログラムディレクター


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