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【SCC2021開催レポート】『これからのアスリートに求められるビジネス能力とキャリア形成』

[登壇者]
・大前 祐介 氏
元陸上日本代表
㈱ニューバランスジャパン
スポーツマーケティングスペシャリスト

・嵜本晋輔 氏
バリュエンスホールディングス株式会社
代表取締役社長

[モデレーター]
・古賀 正信
SCJメンバー
アスリートキャリアコーチ


アスリートは何よりも競技を優先したくなる、それを周囲の環境が推し進めているのではないでしょうか。キャリア形成に対してアスリート自身ができること。そして、指導者、チームは何ができるのか。
スポーツ界からビジネス界へ活躍の場を広げてきた、元陸上日本代表で株式会社ニューバランスジャパンの大前祐介さんと、元Jリーガーでバリュエンスホールディングス株式会社 代表取締役社長の嵜本晋輔さんに語って頂きました。そこには、アスリートとビジネスパーソンの壁を超えるための気づきが多くありました。


■アスリートから引退したときの状況

大前
怪我をしてパフォーマンスの限界を感じたことで引退を決めました。
現役中は、競技のことばかり考えており、怪我したときもリハビリが中心の生活でした。
でも、これは甘えでしたね。もっと自分に向き合う時間を取っていれば、競技以外にも多くのことを身につけられたかもしれない。時間は余っていたので、ちゃんとした時間の使い方ができなかった。だから、仕事へのトランジションには苦労しました。

嵜本
ガンバ大阪で3年プレーして戦力外通告を受けました。その後、当時JFLに加盟していた佐川急便大阪SCに移り、ここから、J2、J1へと這い上がっていくぞ!という気持ちでしたが、そこでも自分のプレーが通用してないことに気づきました。。。数年後にJ1で活躍している自分の姿がイメージできなかったので、ズルズルとしがみつかずにサッカーと決別することで、他の領域へ自分の可能性を広げていくという意思決定をしました。
その後は、自分の中でその時の決断を正しくするために、リユース事業に専念しました。


■アスリートが人生の先を見る必要性

嵜本
アスリートが目先のパフォーマンスを発揮することを考えるのは当たり前だと思っていますが、3年、5年先のことを考えなくていいわけではありません。引退後に何をしていいのかわからず、将来に不安を感じている選手は少なくないと思います。当時の私もそうでしたが、それは競技以外の選択肢を持っておらず、消去法でそれを続けるべきだと考えてしまっているのではないでしょうか。
現役のときから、自分が興味関心のある分野を2つ3つと育てていくことが、数年後に自分が思うようなプレーができなくなったときの準備となり、多くの選択肢を持つことが、人生にもプラスに働くと思っています。
数年後に現役を手放さなくてはいけなくなったときに、競技以外の何を持っているかをアスリートに問いかけてみたいですね。


■スポーツ界からビジネスへの転身で意識したこと

大前
自分の能力を一番発揮できる領域を見つけたいと思って、スポーツマーケティングを選びました。自分のバックグランドから選手の立場を理解できたし、陸上という分野に関わることで上手く自分の能力を発揮しながら次のステップへ進むことができた。
急に1速から5速へギヤチェンジしたら壊れることもある。
スポーツの空気を感じながら働けたことは幸せだったと思います。

嵜本
私が意識したのは、自分が身を置いている業界に長年いる人と、違う能力を持つこと。上司から選ばれるためには、どういった差別化戦略を取るのか、ということです。
これはアスリートも同じです。どうしたら、監督から選んでもらえるのか。
ビジネスのなかでも自分の個性を活かして、取って代わられないポジションの獲得を常に意識してきました。だから、後発でも自分の価値を高めて先輩社員から認められる状況をつくることができたと思っています。


■アスリート自身のブランディング力のつくり方

大前
スポンサー契約する形で、お互いがパートナーとして何ができるのかを考えています。私たちも自社製品を世の中へ広めたい。同時に、選手の価値を高めるためのブランディングもしていきたい。その中で選手が現役のときに得た経験を次のステップへつなげてくれたと思っています。
最近の選手は、SNS発信が自身のブランディングになっていると思います。
自己発信力=ブランディング力ですね。まさに、マーケティングです。

嵜本
アスリートの選手寿命は短命です。Jリーガーで平均3年程度、このときの時間の使い方で、その後の人生が決まると言っても過言ではありません。この3年が自分の人生の中で最も注目される期間かもしれないので、自分の価値観や考え方に共感してくれたファンと3年間でどれだけの繋がりをつくれるかが大切だと思います。
私が2009年に洋菓子店をオープンしたとき、一番はじめに来てくれたのは、ガンバ大阪時代のサポーターの方でした。ファンの方が選手を応援したい気持ちは変わらない。これは一選手ではなく、嵜本晋輔という人間についてきてくれたからだと思います。だから、アスリートという看板が外れた後に、いかに応援してもらえるか。これからのアスリートには自己発信力が求められると思います。


■考える視点を切り替えるとパフォーマンスも向上する

大前
現役中にファンをつくるという意識はありませんでしたね。自分自身がレースで結果をだすことしか考えていなかった。でも、反対側の視点を持てば行動も変わると思います。どうしたら多くの人がレースを見に来てくれるのか。監督の立場ならどう考えるのか。立場を変えると視野が広がっていく。結果的にパフォーマンスも向上すると思いますよ。どうやったらパフォーマンスがより良くなるのかを考えるから。これはビジネスにもつながります。
自分で考えて行動することは、現役の時からできること。特殊なことではなく誰でもできることです。


■デュアルキャリアを可能にするため実例をつくる

嵜本
弊社では昨年9月にアスリート100人採用という、アスリートのデュアルキャリアを実現する採用プロジェクトをスタートさせ、すでに数名のアスリートが入社してくれています。
このプロジェクトでは、アスリートが夢を手放すことなく競技を続けられるように、希望する勤務形態で働ける状況をつくっています。
アスリートは、競技と仕事のどちらも100%コミットする。それが、これからの在り方だと思います。これまでは、企業に正規雇用され同じルールに従って働くことがスタンダードでしたが、これからの時代はデュアルキャリアがスタンダードになっていくでしょう。
まだまだ理解され難い考え方ですが、デュアルキャリアは可能だという実例をどんどんつくっていきたいです。

■アスリートの働くことへの意識改革

大前
アスリートが競技と仕事を両立するときの課題は、競技の方へ寄りたがることです。
競技パフォーマンスを優先して、80対20の努力量になりがち。
そもそも、スポーツを続けるために企業に入るという考えが間違いだと思います。自分が競技を続ける為に、企業からサポートを受けるというスタンスの選手が多い。企業側も選手へ何を求めるのか。。。お互いお見合い状態になる。
アスリートは会社から選んでもらった、会社も選んだことの理解を深めて共通認識を持つ必要がある。
アスリートは会社に対して何ができるのかを考える。その辺りの意識改革をしないといけない。


■アスリートのキャリア形成に対して指導者ができること

嵜本
一つのことに固執しないこと。指導者として、より希少性の高い人材になるためには、 選手の人生に寄り添えることなのではないでしょうか。指導者がスポーツ界だけに居続けて、スポーツ人としての考え方しかないと、自身の限られた経験談からでしか支援できない。指導者がデュアルキャリアの考え方も持つことで、それが選手の可能性を広げていくのではないかと思います。

大前
指導者はその競技のスペシャリストだが、それ以外のキャリアやビジネスの領域でスペシャリストになっている人はごくわずかしかいない。
例えば、NCAA(全米大学体育協会)では、 ティーチングアシスタントがいて授業のサポートや進路相談などをしてくれる。 そういったキャリアコーチみたいな人がいるのが理想だが、まだまだ時間がかかる。
そういう環境をつくったり、私たちなどが体験談を発信できればといいと思います。


■これからのチーム運営には選手が学ぶ仕組みが必要

嵜本
各クラブが優秀な選手を獲得するためには、年俸の高さや指導者の評価以外に、学ぶ環境をつくることが差別化につながると思います。選手としてだけでなく、人として育てる。私がクラブ経営をしたならば、そこを強化したいです。(私が見ている限り)今は、選手はプレー、クラブは運営、という形で真っ二つに分かれていますが、選手とクラブが一体化すれば、もっと収益化できるはずです。
選手を活かしたコンテンツをつくったり、ファンに直接対応している選手の意見を経営に反映したり、そういうことができたらもっと見えてくる世界が違ってくると思います。

■最後に、視聴者の方へ一言

大前さん
私自身が選手、指導者、会社員というプロセスを踏んでいく中で感じることは、現役時代にキャリアの話しに触れる機会をチーム側がつくれたら、もう一歩踏み込んで深く考えることができる。選手のキャリアに対して、指導者からも意見やアイディアを出して、より良い環境をつくっていければと思います。
アスリートが現役の道半ばで競技を諦めるのを見るのは悲しい。頑張れるところまで頑張らせてあげたい。今回のトークセッションを通じて何かを感じ取って頂ければと思います。

嵜本さん
今、スポーツ界が夢のない世界になっているのではないかと危惧しています。プロを目指して、あれだけの努力を重ね、実際にJリーガーやプロ野球選手になっても、待遇的にも得られるものは物足りない状況になっている。プロになりたいという子供に対して、親御さんが夢を諦めさせるような会話を実際に耳にしたこともあります。こういう状況を作り出したのは、私を含めてスポーツに関わる全ての人です。だから、私もスポーツへの関わりを自分ごと化し、デュアルキャリアという会社を立ち上げ、スポーツの素晴らしさ、アスリートが与える感動の対価を引きあげるための行動を起こしています。意識の高い方々が声を上げて行動することで、スポーツ界はもっと価値のあるものになると思います。私も微力ながら自分ができることからコツコツとやっていこうと思います。


■プロフィール

大前 祐介|Yusuke Omaei
元陸上日本代表
㈱ニューバランスジャパン スポーツマーケティングスペシャリスト
高校時代から本格的に陸上を始め、早稲田大学1年時に200m走でU-20日本記録(現)を樹立。以降、日本代表を含む国際大会に出場を果たしている。
27歳で引退後、保健体育の教員を経て、スポーツメーカーでスポーツマーケティングを担当。2018年からニューバランスジャパンのマーケティング部でランニング・ゴルフカテゴリを中心に選手・チームをサポートしている。

嵜本 晋輔|Shinsuke Sakimotoi
バリュエンスホールディングス株式会社  代表取締役社長
1982年、大阪府出身。関西大学第一高校卒業後、Jリーグ「ガンバ大阪」への入団と同時に関西大学に進学。引退後、父が経営していたリサイクルショップで経営のノウハウを学び、2007年にはブランド買取専門店「なんぼや」を関西にてオープン。 2011年 株式会社SOU(現 バリュエンスホールディングス株式会社)を設立し、同社代表取締役に就任。買取専門店の全国展開をはじめ、自社オークションの運営、骨董・美術品への対応ジャンル拡充、アプリを通じた実物資産価値の見える化など事業を拡げ、2018年3月には東証マザーズへの株式上場を達成。 現在は世界各国での事業展開を進めるとともに、LTV(ライフタイムバリュー)向上を目指し業容拡大を図っている。


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