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2024/05/25 だいたい生物多様性の日

 約1年ぶりに矢動丸さんからのむちゃぶりお誘いで、 #生物多様性の日 がらみでスペースをすることになりました。当日のお題としては、KMGBF(昆明モントリオール生物多様性枠組み)の採択から今までを振り返るという感じ。ただし、時間は1時間だったので、そのエッセンスとなる形でした。


 そもそも生物多様性は5/22ですが、もとは生物多様性条約(CBD)が発効した1993年12月29日にちなんで、12/29だったそうです。ただ、2000年に「その辺の日だと、ほら、クリスマスとか新年とかあるし、お休みの人が多いし、お祝いしにくいから別の日にしようよ」ってな感じで、この条約が採択された日にちなんだ5/22に変更されたという経緯があります。

 ちなみに、今年の #生物多様性の日 のテーマは”Be Part of the Plan”。CBDの事務局によるとPlanとはKMGBFをさしており、世界をネイチャーポジティブに向かわせる動きにあなたも参加しよう!という感じみたいです。

 スペースでは、その「参加」について、国、経済、社会という感じで、国はもちろん、企業やマネー、自治体や市民といったいろいろなレベルで考えたときの主な動きとして、生物多様性国家戦略(NBSAP)、自然関連財務情報開示(TNFD)、自然共生サイトと自然再生(OECM、Nature Positive)という三つを紹介しました。本当にごくさわりで、しかも相当に単純化しすぎていることは改めてお許しください。

 いずれもこの後でもう一度出てきますが、話しきれなかったことも含めて、KMGBFが採択された2022年のCOP15~現在へと至る「時系列表」を、スペースで使った資料と、今回のスペースを聞く上での論点とともに以下にまとめています。なるべく日本語のものがある場合は日本語にしました。ご関心のある人は参考にされて下さい。

2022/12/20 KMGBF採択

 一番大事なことを書けば、KMGBFの採択とは、世界が「自然を守る」から「自然を回復させる」に合意したということだと思います。「損失を止める」ではなく、損失から回復の軌道に乗せるということはそういうことです。

 そのためにはこれまでの保全だけでは足りず、気候変動対策や、循環型経済への転換といった、大幅な社会の変革が必要になります。それを書いたのが2030年までの23のターゲットと、2050年の「自然と共生した社会」、 Transformative changeなどを書いた、KMGBFです。

 例えば「よく話題になる湿地帯ビオトープは30by30(Target3)なのか?」を考えてみても、Target2(生態系の回復)にもなりうるし、規模によってはTarget7(汚染対策)やTarget8(気候変動対策)にも、Target11にも12にも、まあいろいろなりそうです(めんどくさいから全部は書かない!)。上記のページにあるパンフレットはとてもわかりやすいので、まずこれから目を通されるといいかと思います。

2023/1/11 Global Risk Report 2023

 KMGBF採択の直後は悪い話です。毎年1月、年明け初っぱなから暗い気持ちにさせてくれるWEFのグローバルリスクレポート。2023年版では、今後10年の世界の重要リスク4位に「生物多様性の喪失や生態系の崩壊」がランクインしました。同6位に「天然資源危機」も入っています。トップ10に環境系リスクが6個もありました。

 また、今後2年間の重要リスク4位に「気候変動緩和策の失敗」が入っていました。変な話、この2年(2023-2024~2025)が気候変動緩和、1.5℃目標の行方を占うような重要な年ということですね。もう半分過ぎていますが。

 このレポート、だいたい環境系のリスクの重大さを示すグラフを見て悲しくて閉じるのですが、読んでみるといろいろ大事なことが書いてありました。中でも「今対応しなければ、リスク対応のトレードオフが大きくなる」というのは当たり前ですが、はっとさせられました。

 それと、短期リスクの6位、中期リスクの9位に債務リスクが入っていました。今回は特に、ソブリン債の不履行リスクについても触れられていました。要は買った側にとっては国債に払ったお金が戻ってこなくなったり、売る側にとっては国債の利子が高くなったりするリスクですね。これ実は生物多様性にも結構関係しているといわれています。

 そのあたりについては、このレポートもおもしろかった(怖かった)です。生物多様性の損失→生態系サービスの減少(漁業、林業、ポリネーターなど)→経済パフォーマンスの低下、というように、生物多様性のリスクを考えないでいると、国の元気がなくなっていきますよという話。

 その上で、国の元気がなくなると国債の返済が滞る可能性→国債の格付けが下がる→格付けが下がると高い金利を付けないと買ってもらえませんよ→国債の利子が上がると、住宅ローンの利率も上がっちゃうかもしれませんよーーとか、国債って機関投資家も購入するので、危うい国債を買っていたら、我々の年金も危ないかもとか、投資的ではなく投機的な国債は機関投資家が買ってくれないし、とかも考えます。

 国債が売られるとだいたい通貨は下がるので、輸入に頼る国としては生活に影響が大きい恐れがありますよということも、考えられるでしょうか。この辺専門でないのでごくざっくりというか素人オブ素人考えですが、生物多様性を大事にしないと「食」だけじゃなくて、いろいろ生活に影響ありそうですね。

2023/3/31 日本が生物多様性国家戦略策定

 KMGBFというPlanに参加する主体は色々あると思いますが、まずは国から見ていくと、一番大事と言ってもいいのがこの生物多様性国家戦略(NBSAP)。日本は3月31日に閣議決定しました。KMGBF採択から3カ月。早い!G7では最初!めずらしい!!(ただし、CBD事務局によると、スペインの方が早かったみたいなので、世界最速ではなかったみたいです)

 前回の国家戦略に比べて、「損失を止める」という表現が「回復の軌道に乗せる」となったり、「生物多様性の4つの危機」という生物多様性の危機だけでなく、「生物多様性損失と気候危機の2つの危機」という他の重要な課題と合わせて解決していこうという感じの姿勢が見られたり、いろいろ変化があります。

 重要なのは、これまで5年に1回だった進捗の点検が2年に1回になることです。2012-2020の国家戦略では、13の大きな目標を立てましたが、そのうち達成できたのは5つ(ちなみに、外来種対策、保全エリア、名古屋議定書、施策の推進、リソースの動員)だそうです。

 一方で、「ダム事業等の大規模な公共事業の実施に当たって、事前の環境調査を実施し、ダム事業等が環境に及ぼす影響について検討し、回避・低減、代償措置等の適切な環境保全措置を講じる」という表現には、石木ダムってそんな風にやれているのかなと思ったり。「水産生物の生活史に対応した藻場・干潟から沖合域までの良好な生息環境空間を創出する水産環境整備を推進する」とあって、諫早湾はどう説明するのかと憤ったり。「IQ(漁獲割当て)による管理については、ロードマップに従い、2023 年度までに、TAC 魚種を主な漁獲対象とする沖合漁業(大臣許可漁業)に原則導入する」という水産庁の取組にはちょっと開いた口が…という感じもあります。

 書いてるだけじゃなくて、ちゃんとやって欲しいなあとか、言っていることとやっていることをしっかり合っているのかなあとか、「実行性・一貫性の担保」はちゃんと見ていきたいと思います。

2023/4/16  G7気候エネ環境大臣会合@札幌閉幕

 4月には札幌でG7の気候・エネルギー・環境相会合がありました。コミュニケを見ると、冒頭で「気候変動、生物多様性の損失、汚染という相互に補強し合い、本質的に結びついた危機」という表現があります。汚染で特に注目が上がっているのがプラスチックのあり方ですが、政府間交渉(INC)が前年の11月に始まり、2回目がこの後5月にフランスであるタイミングでしたし、いろいろ盛り上げようという雰囲気が(しかし横道にそれられないので略)。

 上記の表現は、例えば水(特に淡水)なんかを考えてみるとすごくわかりやすいと思います。気候変動が進めばあちこちで干ばつや洪水などの水リスクが上がります。陸水域は人の圧力が強く、劣化が進んだ生態系の一つとされています。KMGBFの30by30でも、「陸域及び内陸水域」と言及されています。そして、多くのプラスチックごみが川を通じて排出されます。水は大事。

 他に気になったのは、例えば国家管轄権外区域における海洋生物多様性(BBNJ)に関する記述でしょうか。後でまたもうちょっと詳しく出てきますが、国際協定を作る動きを歓迎しつつも、特に言及しているのはABMTs(海洋保護区とか)のみでした。

 生物多様性がらみでは、わざわざ「CBD締約国であるG7メンバーは…」の表現がありました。毎回「ああ、アメリカはいないんだな」と思ってしまいます。あとは生物多様性に関する「情報開示の拡充」についても触れられていました。後述するTNFD(自然関連財務情報開示に関するタスクフォース)の最終提言が迫っていることもあったのかと思います。

2023/6/2 自民党がNX提言

 6月には与党から「ネイチャーポジティブ経済移行戦略」を策定するよう、政策提言が出ました。岸田文雄首相に提言を渡しているのは、環境・温暖化対策調査会の幹部で歴代の環境大臣、副大臣(左から石原宏高・元副大臣、井上信治・元副大臣、岸田さん、小泉進次郎・元大臣)ですね。

 これ、見てみると政策提言(1)の①にOECMの認定に加えて、「すでに生物多様性の価値がある土地での取組に限らず、生物多様性を回復・創出する取組を幅広く認定の対象とすること」などと書かれていて、後で出てくる「地域生物多様性増進法」の原型が入っています。政治は大事。

 また、ネイチャーポジティブ経済については、「この潮流に乗り遅れ、我が国の国益を損なうことのないよう…」と求めていました。生物多様性=国益?と思うかもしれませんが、上に出てきたソブリン債の格付けの話とかを見れば、むしろ当然なのかなあと。あるいは「国力」と言ってもいいのかもしれません。

2023/7/28 G20環境・気候大臣会合@インド・チェンナイ

 存在感で言ったらG7より重要かもと言う感じのG20。ただ、参加国一致での共同コミュニケは出すことができず、議長声明という形になりました。意見が割れたのは、気候変動における温室効果ガス削減に関する項目と、ロシアによるウクライナ侵攻についてだったそうです。

 特筆するべき内容があるというわけではないのですが、やっぱりG7の文書と比べると気候変動でも緩和そのものに加えて、あるいは緩和よりも(?)資金や支援に関する文言が多めな印象がありました。また、国連砂漠化対処条約(UNCCD)に関する言及が結構出てくるのと、生物多様性関係のパートが結構長かったのが新鮮でした。

 取材を始めた頃には、気候変動対策では緩和(温室効果ガスの排出削減)が最重要かと思っていたら(間違ってもいないと思いますが)、適応や「損失と損害」こそ中心マターだという話もあり、途上国世界の重要問題を先進国だけの視点から見ようとすると、とんでもないミスにつながりそうだと改めて認識した次第です。

2023/9/4  IPBES侵略的外来種評価報告書SPM

 SNSでも話題になっていた、IPBESのIAS(侵略的外来種、Invasive Alien Spcies)に関する評価報告書(の政策決定者向け要約、Summary for Policymakers)。どうでもいいんですが、ここでの”make”って決定なのか、企画立案なのか…

 内容の解説はIGESのこちらがわかりやすいかと思います。詳しくは上記の記事を見ていただくとして、読み解いていく上での個人的なポイントとしては、
・IASが人類の存立基盤を脅かす問題であると明記
・IASは従来型の経済的な発展と相性がいい→だから社会変革が必要
・対策はある=科学ではなく、政治の問題
というあたりかなあと思います。

 あとおもしろかったのが、報告書発表を記念したシンポジウムで、研究者が「50言語以上120カ国以上で報じられ、CNNやNYTも記事にしてくれた。嬉しい誤算だった」と話していたことでした。みんな外来種問題好きなんですかね。

2023/9/18 TNFDver.1.0が公開

 ↑上記ページの「令和5年度事業者向け気候関連財務情報開示及び自然関連財務情報開示に関する勉強会の開催について」の中に「自然関連財務情報開示のためのワークショップ」という項目があり、その第2回に環境省がTNFDをざっくり解説した資料があります。

 ずいぶん上で書いたのでもう忘れた人もいるかもしれませんが、2024年の #生物多様性の日 のテーマは”Be Part of the Plan”で、国としては生物多様性国家戦略を出すことが一つの「参加」の形になるかと思います。TNFDは企業やマネー、経済界が「参加」する一つの形と言えるかと思います。2020年の作業部会、2021年の正式発足。そこからvre.0.★★みたいなのをいくつも出して調整を続けながら、最終提言を出したのがこのタイミングでした。

 TNFDの提言は、経済活動(企業、金融など)における自然(生物多様性)から受ける財務的な影響や、反対に活動によって自然に与える影響についての情報開示を促す仕組みです。KMGBFではTaget15に「生物多様性に係るリスク、生物多様性への依存及び影響を定期的にモニタリングし、 評価し、透明性をもって開示すること、これをすべての大企業及び多国籍企業、金融 機関については要求などを通じ、事業活動、サプライチェーン、バリューチェーン及 びポートフォリオにわたって実施する」とあるので、TNFDの提言はまさにこの目標に取り組むとしたら無視できないものになります。

 反対にTNFDの側も、KMGBFの目標との整合性などを担保しており、「KMGBFのTarget15への対応→TNFDへの取り組み」だとしたら、「TNFDへの取り組み→KMGBFの各ターゲット達成に向けた行動の実践」という側面もあり、双方向性があります。

 TNFDはほかにも、ISSBとかTCFDとか、サステナビリティとか気候関連の情報開示では一度は聞いたことがある基準や提言との整合性もとっているということでした。少なくともこういったことを通じて、生物多様性が気候変動と同じような持続可能性に関わる超重要かつ普遍性を持った問題であることが分かります。国の問題であると同時に、経済の問題でもあるということです。一方で、例えば、TCFDへの理解はTNFDの理解にも役立ちますが、違うところもあります。(バックキャストvs積み上げ型、single materiality vs double materiality)

 内容として、まあこの辺知っておいたらいいかなと思ったのは、ガバナンス、戦略、リスクと影響の管理、測定指標とターゲットという4つの柱があって、それぞれに計17の推奨事項があるということでしょうか。4つの柱は勝手に、やる気、自己分析、傾向と対策、自己評価と言い換えて理解しています。

 実は日本は「TNFD大国」で、最終提言前~2025年分の開示におけるTNFD採用団体を調べたところ、383あって、そのうち日本は99で1位でした。以下、英国、フランス、台湾、米国…と続きます。また、TNFD Forumという趣旨と原則に賛同した1502の企業などの集まりでも、英国の327に次ぐ、227でした。その後は米国、オーストラリア、フランス、カナダ、スイスと続いていました。

 じゃあ、生物多様性への取り組みが進んでいるのか…というとそうでもなさそうという話は後で出てきます。ひとまず、国レベル、経済の枠組みでの”Be Part of the Plan”に向けて注目される動きは紹介しました。

2023/12/13 気候変動COP28@ドバイ

 主な結果は上記をご覧いただければと思うのですが、生物多様性に関わってきそうだな、という話を2つ。

 一つは、再生可能エネルギーを2030年までに3倍にするという目標が決まりました。温室効果ガス削減に向けては非常に重要な目標である一方で、KMGBFでも、Taget8で「気候変動対策による生物多様性への負の影響を最小化し正の影響を向上させつつ、自然を活用した解決策及び/又は生態系を活用したアプローチ等によるものを含む緩和、適応及び防災・減災の行動を通じて、気候変動及び海洋酸性化による生物多様性への影響を最小化するとともに、その強じん性(レジリエンス)を増強させる」とあります。この気候変動対策による負の影響、例えば野放図な再エネの拡大とか、単一の外来樹種での植林とか、そういうのをどうするのかは大きな課題です。

 もう一つは、「適応のグローバル目標(GGA)に関するフレームワーク」という枠組みですが、いろいろ見ているととにかく資金で大もめしている一方で、
"Reducing climate impacts on ecosystems and biodiversity, and accelerating the use of ecosystem-based adaptation and nature-based solutions, including through their management, enhancement, restoration and conservation and the protection of terrestrial, inland water, mountain, marine and coastal ecosystems" (https://unfccc.int/sites/default/files/resource/cma2023_L18_adv.pdf)
などとあって、気候変動による生態系・生物多様性への悪影響を低減して、一方でNbSみたいなものをどんどん使っていこう。そのための生態系保全・再生じゃ(意訳)みたいなことも書いてありました。

 なお、2025年のCOP30はブラジルであります。これについては、次のCBD COP16のところでまたちょっと触れます。

2023/12/25 経団連が生物多様性企業アンケート

 こちらは、単体でというよりは、少し上で書いた、「日本はTNFD大国。でもじゃあ、取り組みは進んでいるの?」という点の関連の話です。関連ですが長いです。

 経団連は時々、会員企業に対して生物多様性に関するアンケートをしています。その2022年度版ですが、前回に比べて
・多くの企業で「生物多様性の主流化」が進んだ
・GBFに貢献するような取り組みも多くの企業で始まっている
・企業の取り組み度合いはまちまちだけど進んでいるところもある
みたいなことが要点のようでした。

 ただ、これをTNFDへの取り組み状況と照らし合わせながら見てみると、いろいろ立体視できるなあという感じです。まず、回答したのは1529社中326社で、8割弱は回答していないということです。答えたところはまだやる気がある方で、無回答だと取り組向きがあるのかどうか分かりません。毎回このレベル(以下)の回答率なので、結果を詳細に見ていくよりは、あくまで参考程度にした方がよさそうです。

 他には取締役会とか、経営会議といったレベルでの推進体制は増加しているが、「ネイチャーポジティブ」はあまり浸透していないとか、気候変動と比べて取り組みが遅れていると感じる企業が(6割)、気候変動とは別々に対応している企業が(3割弱)、相乗効果(シナジー)のある取り組みを実践している企業は2割程度でした。

 なんとなくですが、日本にはすごく先進的で取り組みを進めている企業がいる。それは世界トップレベルだし、大企業を中心に盛り上がっているのは間違いないけど、まだ気候変動に比べると全体としては全然進んでいない、というような様子が浮かび上がってきます。他の国も同じような状況なのかどうかはちょっと分かりません。

2024/1/10 Global Risk Report 2024

 やっと1年分のメモを書きました。もうくじけそうです。とりあえずまたグローバルリスクレポートの2024年版です。2023年版では「ここ2年が気候変動緩和策にとって決定的に重要」とありましたが、さてどうだったのか。

 ひとまず、今後10年の世界の重要リスク3位に「生物多様性の喪失と生態系の崩壊」。昨年より順位が1個上がっています。そして、同4位に「天然資源不足」。トップ10に環境系リスクが5個。その中には今後10年間の重要リスク2位に「地球システムの危機的変化(気候の転換点)」があります。今私たちを包む地球が大きく「悪い方向に」変わってしまうかどうかの瀬戸際感があります。
 
 ここでなかなか厳しいなと思ったのは、そうした環境リスクについては、どのスパン(短期か中長期か)とか、どのくらい(とてもorまだまだ)重視するかが世代やセクターで違うことが指摘されていました。若い人が必死で訴えても全然届かないとか、反対に本当に大変になって政治家がいくら呼びかけても若者が絶望して無関心になっているとか、あんまりよくない未来が想像できて、やはり新年から暗くなります。

 なお、生物多様性については、短期→中期の間で、リスクの度合いが最も上がる脅威だとされていました。この傾向は2023年版でも同じだったそうです。今はまだ大丈夫でも、10年後には生物多様性は大変なことになっているかもしれない、と多くの人が考えているという話です。

2024/3/29 ネイチャーポジティブ経済移行戦略公表

 2023年度の最後にできたのがこの「ネイチャーポジティブ経済移行戦略」でした。これは先に出てきた自民党のNX提言で、「ネイチャーポジティブ経済移行戦略(仮)を2023年度中に策定すること」が求められていたことを受けての対応かと思います。内容は生物多様性をめぐる経済関連の動きのおさらいや、それを踏まえて具体的にどういうことがきるのかというものですが、いくつか「へー」というポイントがありました。

 個人的に気になったのは…
・真のオフセットはありえないことを明示(気候変動との違い)
・関係省庁の連携で協力に支援していく
・「水産業における持続性の確保」【農水省】だそうです
といったところでしょうか。1番上のところは、非常に重要で、この後出てくる2024年のG7気候・エネルギー・環境大臣会合でも触れます。んで、2番目と3番目はすでになんだかずいぶん矛盾している気がして、この戦略の本気度については、きちんと見ていく必要があると思っています。だって、すいs(文字数

2024/4/19 地域生物多様性増進法公布

 NBSAPで国、TNFDで経済界、それぞれの、”Be Part of the Plan”への取り組み方が少し見えたかと思いますが、もう一つ、地域や社会といったレベルからも取り組むための仕掛けといっていいのがこの地域生物多様性増進法になります(略称がこれでいいのかは不明)。

 この法律が具体的に関係するのが、国立公園や鳥獣保護区とかではない、民間の土地などを、保全エリアとして認定する「自然共生サイト」、それと、生物多様性の保全だけでなく、劣化した生態系の再生活動といったものになります。自然共生サイトは日本の呼び方で、よく「OECM」(その他の効果的な地域をベースとする手段、Other Effective area based Conservation Measures)といわれます。

https://www.mofa.go.jp/mofaj/ecm/ec/page4_005342.html

 これらは、KMGBFの中でも一番有名な「30by30」ことTarget3と、「2030年までに30%の生態系を回復させる」というTarget2になります(これも30by30だと思うのですが…)。ただ、30by30は、ある意味KMGBFに向けた最大の目玉だったので、それが結局こういう地域とか社会というミクロな活動によって支えられ、積み上げられているというのは、生物多様性は本当に場が重要なのだという事実を思い起こさせる話だと感じます。

 なお、この法律が施行されると、これまであった生物多様性地域連携促進法は廃止されて、この法律に包含され、自然再生推進法とは「小さな自然再生」という観点からのすみわけになるみたいです。確かに自然再生推進法は「協議会を設置」とか、割と大がかりで、小回りが利かない感じがします。それこそ国立公園とかみたいな広大な土地の管理とモニタリングとか用のスペックが求められている気がします。

 それとこの法律で活動が認められると、活動内容に応じて、例えば、敷地内での伐採、工作物、外来種防除、捕獲、希少種保護増殖といった、あれは自然公園法で、これは種の保存法で、これは森林法で、これは外来生物法で…といった活動に関わる手続きが「ワンストップ」(環境省)でできるそうです。後は経済的なインセンティブがあるといいですね。これから検討するんですかね。

 ちなみに、自然共生サイト(OECM)は2023年の前期と後期で合計184カ所が認定されました。7県ではまだ認定ゼロのようです。ざっと計算してみると、2023年度前期(7.7万ha)+後期(0.8万ha)=8.5万haとなりました。日本の国土が3780万haらしいので、保全エリアは0.22%くらい増加したということのようです。どんな人たちが認定に応募しているのかを見ると、企業や自治体(官民連携も)の他、大学・研究機関、保育園の敷地や個人での認定も。

2024/5/1 G7気候エネ環境大臣会合@トリノ閉幕

 今月あったばかりの、最新のG7気候・エネルギー・環境相会合にも少しだけ触れておきます。

 「気候変動、生物多様性の損失、汚染という三つの世界的危機」という認識は変わらないようですが、原文だと、コミュニケの35pのうち、気候(エネルギー)の項目が終わるまでに20p。あと15pに「環境セクション」として自然と汚染をまとめるのはちょっと不公平だよ、と思いますが、まあ、しょうがないです。

 COP16に向けては、2024年が決定的に重要とする要素の一つには挙げつつも「生物多様性と健康に関する効果的なグローバルアク ションプランの採択に向けて努力すること、及び、CBD 決定 15/9 に従い、同会議にお いて最終決定される、遺伝資源に関するデジタル配列情報(DSI)の利用に関する利益配分のための多数国間メカニズム(グローバルファンドを含む)を更に発展させ、運用することを求める」という感じで、特にDSIは恐る恐るな感じがしました。DSIは難しすぎて、いくつか文献を読んであきらめました。

 また、2023年の札幌でのコミュニケにはなかった「生態系サービスに対する支払い、グリーンボンド、生物多様性オフセットとクレジ ット、環境的・社会的セーフガードを伴う利益配分メカニズムなどの革新的な仕組みを促す」というコミットメントがあるのはちょっと気になります。気候でさえもこうした市場メカニズムにはかなり問題点が指摘されており、生物多様性においてはなおさらです。どんな議論が盛り上がるのかと、警戒感を持たざるを得ません。以下参考文献をいくつか↓

 で、ここまでが振り返りですが、この先、一応今年後はどんなことがあるの?というところで話題を3つだけ。

2024/10/21 CBD COP16@コロンビア

 最初はトルコでやることになっていたCBD COP16ですが、大地震の対応が大変でそれどころではない、ということになり、代わりに手を上げたのが南米のコロンビアでした。ただし、この動きは基本的に好意的に受け止められているように思います。

 2022年に政権交代したコロンビアも、同年に政権交代し、気候変動COP25をホストするブラジルも、現政権はいずれも環境を前政権より重視する姿勢を見せています(今のところは)。そもそも双子の条約ともいわれる気候変動枠組み条約と、生物多様性条約は1992年のブラジル・リオでの地球サミットで署名が始まり、南米はある意味ゆかりの地みたいなところがあります。

 単にイメージだけではなくて、コロンビア、ブラジル両国で、政権交代後に違法伐採が大きく減少したという報告もあります。なので、成果に期待したいところですが、G20の議長声明からも分かるように、それは先進国として「相応の責任」を負うことでもあるという可能性は認識しておいた方がよさそうです。

 まったく本題に入っていませんが、現時点ではリサーチ不足で全く何が論点か分かりません。ただ、各国にCOP16までにNBSAPを出すことが呼びかけられているので、開催前には夏休みが終わる直前に宿題をやるかのごとく、どんどんNBSAPが出てきそうです。今CBDのページで見られるのは8カ国・地域分で、アジアが2カ国、あとは欧州です。

 もう一つは、闇というか沼というか、DSIで、これはまあもめもめのもめもめになることが最初から分かっていたので、COP15では実質ペンディングにした論点でもあります。ただ、ここで解説する力量も度胸も私にはないので、「はあ、そういう話なんだな」ということに触っていただけそうな参考文献をいくつか。

2024/11 気候変動COP29@アゼルバイジャン

 来年のCOP30の話ばかりしていましたが、今年のCOP29はアゼルバイジャンであるそうです。30への弾みが付けばいいなと思いますが、生物多様性がらみで何かこれというほどリサーチはしていません(だいたいリサーチしていないですね…)。ただ、会場設定の経緯がちょっとおもしろかったです。

 JETROによると、COP29のホスト国は、係争地ナゴルノ・カラバフをめぐって、アゼルバイジャンとアルメニアが互いに譲らない上、東欧という微妙な場所であることからロシアのウクライナ侵攻も影を落としていたようですが、最終的にはナゴルノ・カラバフの和平に向けた動きが進展したことで、「じゃあ、譲るよ」という感じでアルメニアが降りて、アゼルバイジャンでの開催を支持。それでアゼルバイジャンになったとのことでした。

2024/11 INC5@釜山

 最後は、プラスチック汚染に対処する法的拘束力のある国際条約の交渉が、11月にひかえています。本当にここで終わるのかどうか分かりませんが、10月以降、CBD COP16、気候変動COP29、このプラ条約の交渉(INC5)と盛りだくさんです。BBNJの協定も誕生し、こちらも海洋プラに対処するという側面もあるので、海洋も見ていく必要がありそうです。

おまけ

 時系列的に見てきた関心トピックは以上の通りなのですが、それに加えて、今気になっているテーマを三つと、国内の動きを二つばかり。

気になっているテーマ

①Biodivesity Credit

 これについては、今年のG7気候・エネルギー・環境相会合の項目で、参考資料も含めてある程度触れたので、省きますが、生物多様性の保全・回復をどう進めていくのかという話と、それをどう(適切に)お金にしていくのか、という点で無視して通れない論点だと思っています。

 一方で、今までの議論を横目で見る限りでは、すごく難しそうだなあとも思います。少なくともBiodivesity Credit≠Biodivesity Offsetではないということは強調しておきたいですし、でもじゃあどうするのという話はこれまた難題中の難題だと感じます。

②Re-wilding

 上記に関連して、最近Re-wilding/Rewildingに関する論文や報告を結構目にします。多くは大型野生動物が生態系の持つ機能を強化、回復させるような話が多く、中でも炭素の吸収・貯留に関する論文はよく見るようになって来たような気がします。キーストーンとかシンボルとかになりそうな大型野生動物を保護することが、気候変動対策、特に緩和の中でも温室効果ガスの排出削減ではなく、吸収・貯留という文脈で語られていることを興味深く見ています。例えば以下などです。

 反対に、野生生物管理や外来種防除が気候変動との絡みで報じられることも出てきました。

 かなりの妄想を含みますが、こういう作業がどんどん進んで、文献を集めたレビューや国際機関とかの報告書が出されていくと、それによってある大型野生動物の増加をもって、炭素に換算したり、適切な野生生物管理を炭素の会計に入れたりするようなことが成立するかもしれません。そうなれば今度は、Climate Financeを生物多様性の保全に活用できるかもしれません。

 ただ、Re-wilding/Rewilding自体にもいろいろ課題や問題点は指摘されていて、もちろん万能策ではないし、この流れが一気に進めばいいとは思いません。大型動物が増えてくれたらうれしいですが、Conservation Refugeeみたいな話が増えていかないかとか、きちんと見ていく必要はあると思います。

③同時解決

 で、①→②の流れとも関わるのですが、やっぱりこのテーマも引き続き気にしていきたいなあと思っています。

 さすがにこの期に及んで、気候変動対策か生物多様性保全かという言い方は少なくなってきましたが(再エネ開発とかでそういうことは今も起きていますが)、他のテーマとのトレードオフをどう解消し、相乗効果をどうやって実現するかというのは、結構大変だと思っています。

 最近ちょこちょこ目にするのは、気候ー自然ー健康みたいな話で、ちょっとワンヘルスにも似ています。総じて、互いに密接に関係する問題なのに、全然その関係に関する研究や取り組みが足りてないという話でした(たぶん)。

 これをきっちりやるとすると、ようやっとSDGsでいうところの下から1段目(Goal6,13,14,15)と2段目(Goal3)がつながってくる感じですね。

 こういうのを見ていると、同時解決は大事だと思う一方で、それぞれの課題の切迫度がどんどん高まっていて、個別にやることで他に影響が出た場合にお互いに取り返しが付かなくなっているのではないかとも思います。最後は「人の命か環境か」みたいな話になることを懸念します。ただ、そもそも「クリーンで健康、かつ持続可能な環境へのアクセスは普遍的人権」なので、環境問題=人権問題でもあるのです。環境or人権ではなく、それが密接不可分であることがもっと知られて欲しいところです。

国内の話

①種の保存法改正

 一つ目は種の保存法に関する検討です。トピックは色々あるのですが、個人的には、「特定第二種の評価と拡大、種の保存法以外の保全制度」というあたりや、「オンライン取引(押収個体の取り扱い)」などが気になっています。

 特に商業目的の捕獲・採取については、特定第二種の効果はいろいろ報告が出てきていますが、結局いろんな絶滅危惧種で個体数の回復につながっているのかとか、その辺は知りたいところです。あと、税関とかでもそうですが、「違法取引だ」として摘発、押収したはいいけど、それをどこでどうしようかという問題は結構切実だと思います。動物園、水族館もそんなにキャパシティがあるわけではないし、受け入れるとしても、なぜか(これ以上は…)

 あと、次の外来種被害防止行動計画の見直しとも絡むのが、「野外への絶滅危惧種を含む生物(国内移動、飼育個体などを含む)の放出」ですね。この話題は昨年の日本魚類学会での公開シンポでも話題になったところではあります(私もちょっとだけ参加)。絶滅危惧種が国内外来種化する問題については、「第4の外来種問題」と指摘している人もいることなどを紹介しました。


②外来種被害防止行動計画見直し

 最後は外来種被害防止行動計画の見直しです。大きなテーマは「主流化から実践へ」ということで、確かに計画ができた2015年に比べると、社会における外来種問題の認知度はかなり上がってきたと感じます。もちろんそれゆえの誤解の広がりとか、バックラッシュ、現場レベルでの利害の対立とかいろんな問題はありますが、少なくとも「実践へ」となっている以上、取り組みがより推進されること、それを後押しするような計画となることを期待したいです。

 ただ、ここまでの取り組み状況については、総務省レビューでも結構課題が指摘されていて、以下の報告書はヒアリ、アライグマ、オオキンケイギク、セイヨウオオマルハナバチという4種を取り上げてますが、多くの現場に通じる問題点が列挙されています(いい点も分かります)。

 もう一点、国内外来種の位置づけという項目もあって、「地方公共団体は、必要に応じて条例等にて国内外来種を含む外来種に係る取扱いを定め、国に準じ、各主体によるその遵守を適切に管理する」とありました。この辺は先に触れた、種の保存法の見直しとも関わりそうですね。

おわりに

 お声がけをもらわないと、こうやってまとめることもなかったし、資料をめくり直すこともなかったと思うので、しんどかったけどありがたかったです。自分なりにまとめてみると何となく「おお、これとこれはつながっているな」とか、「この動きは次にどういうところへ向かうだろうか」みたいなことが浮かんできました。

 たまにはこういう作業が必要ですね。また機会があればがんばります。


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