2025/02/15 スペース資料

 今回は、スペース「外来種問題の話題提供」に使った資料を、話の概要と合わせて置いておきます。最初に手間取ってしまってすいませんでした。

 なお、今回のスペースにおいても、いつも全力で査読して「これもありますよ」と情報を追加してくれるゆう太さん(https://x.com/saichuta)に、お目通しを頂き、情報提供やコメントを頂いています。記して感謝申し上げます(画像はご本人のアカウントから)。

https://x.com/saichuta

0.全体の流れ

①はじめに~今回のスペースのきっかけ
②環境省の説明「生態系への影響」の解像度upを試みると
③思考実験「外来種問題におけるAIの可能性」
④まとめ的な話

1.はじめに~今回のスペースのきっかけ

 とりあえず、まとめてやってみようと思ったきっかけは、こちらの記事でした。北海道では外来種のアズマヒキガエルのオタマを食べると、エゾサンショウウオに成長阻害などの悪影響が出る可能性を実験室内で示した研究です。北大や、ふじのくにミュージアムの方々によるものです。

 それに関連して①では、もう1年半前ですが、外来植物が強い火勢の一因となったハワイの山火事の話についても触れたいと思います。月日の経つのは早いですね。本当に…

 ②ではまず、少し前にはなってしまいますが、自分の投稿でよさげなものがすぐに見つからなかったので、こちらを。

 また、いくつかの側面を取り上げたいと思っています。で、こちら。なんでわざわざそれを…と突っ込まれるかもしれませんが、直近だと一番関係ありそうなのがこの投稿だったので持ってきました。


2.環境省の説明「生態系への影響」の解像度upを試みると

 環境省のホームページ「侵略的な外来種」に行くと、やや下の方に「外来種の問題点」という項目が出てきます。https://www.env.go.jp/nature/intro/2outline/invasive.html

 下の図を見たことがある人も多いと思います。別の絵の場合もありますが、すごくわかりやすくて使い勝手のよい図です。私もよく使っていました。その上、割と直感的に「ああ、なるほどそうだな」と理解できるので、極端に言うと、「これが外来種の生態系への影響」だ、つまり「生態系への影響」=【捕食】【競合】【遺伝的攪乱】と思ってしまう人もいるかもしれません。

図は上記の環境省のページから

 ただ、今回の研究成果は、アズマヒキガエルのオタマを食べたエゾサンショウウオが死んだり、死ななくても成長や形態変化への悪影響を受けたりするという事例です。 

 ヒキガエル幼生を捕食しなかった個体と比べ、捕食した個体は、捕食後 16 日経過した時点で、その成長が約 25%低下することが分かりました。また、ヒキガエル幼生を捕食し たエゾサンショウウオ幼生は、大アゴ化ができなくなることも分かりました

https://www.hokudai.ac.jp/news/pdf/250203_pr4.pdf

 頭でっかちについては、面白い研究が色々あります。

 あとゆう太さんからは、「コモチカワツボの事例もありますよね」と示唆を頂戴しました。コモチカワツボは外来の巻き貝で、ホタルが食べると成長などに悪影響が出る可能性が指摘されているそうです。いくつか和文で報告書を当たると、影響を示唆するものもあれば、確認できなかったとするものもありましたが、いずれにしても考慮するべきリスクだと思いました。
https://www.pref.nagano.lg.jp/shizenhogo/kurashi/shizen/hogo/documents/komochikawatsubo.pdf

 例えば、オーストラリアのオオヒキガエルを食べてオオトカゲとかワニが死んじゃうというのは知っていましたが、改めて、「捕食」「競合」「遺伝的攪乱」だけじゃないよな、というのを感じて、せっかくなので【他の】悪影響をいろいろ調べてみようというのが今回の趣旨です。

 ちなみにオーストラリアでは、死なない程度のオオヒキガエルをオオトカゲとかワニに与えて学習させることによって、大きくなったヒキガエルを避けさせて致死的影響を回避させるような取り組みまでやっているみたいです。
 

Over the next 3 years, after the onslaught of adult toads hit, the monitor populations that had been initially exposed to the young toads survived and even expanded. In the other four areas, lizards virtually disappeared. “Clearly, exposure to juvenile toads gave the lizards enough of a head start,” teaching them to avoid that first wave of adults, says Alison Greggor, a conservation biologist with the San Diego Zoo Wildlife Alliance.

doi: 10.1126/science.zu48fh2

High mortality rates in our own study system prior to baiting (and in our single unbaited control area) suggest that the Fitzroy River crocodiles were in similarly great peril. By deploying baits, however, we induced conditioned taste aversion in free-ranging crocodiles (as evidenced by reduced rates of toad-bait uptake through time) and buffered the populations against the threat posed by invading toads (as evidenced by low mortality rates of crocodiles post-baiting).

https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rspb.2023.2507

 
 アズマヒキガエルやオオヒキガエルの例は、突然現れた「エサ資源」を利用することによって、致死的/非致死的な影響を受けてしまう、外来種が【エサとなる】という悪影響ですが、環境の急変などのせいでより質が悪いのに、「魅力的に見える」生息地を選んでしまう「生態学的罠」(ecological trap)とも似ていますね。

 こちらはよいエサ場を示すシグナルは残っている(水温などだそう)ため、漁業における乱獲でエサ資源がない悪い海域に行ってしまって数を減らすペンギンの話。

 実際、外来種によるecological trapの例はいろいろあるみたいでした。拾い読みして興味深かったのは、こちらの外来雑草の草刈り場の話。管理のために草刈りをすると日当たりがよくなるので、在来のヌママムシにとっては過ごしやすいのだけど、草刈り機でマムシがけがしたり死んじゃったりする、でも、草刈りもやめられないし…という話や…

We found that habitats undergoing invasive plant control are preferred by snakes over other available habitats, but these individuals are at greater risk of injury and mortality owing to policy-driven methods of control. At the same time, we show that management can reverse invader impacts, notably reclaiming thermoregulatory opportunities for ectotherms, thus offering benefits as well as challenges for such animals.

https://link.springer.com/article/10.1007/s10530-016-1289-9

 こっちは、むしろ環境の変化で好適な条件が出現したので、そっちにシフトしたら、はしごを外されて絶滅しちゃった例です。牧場で外来牧草を好むようになって、それでうまくいっていたエディタヒョウモンモドキが、牧場が放棄されて環境が激変して絶滅したのだとか(”eco-evolutionary trap”と論文では表現されてました)。

The trap was set. In 2005, humans withdrew their cattle, springing the trap. Grasses grew around the Plantago, cooling the thermophilic insects, which then went extinct. This local extinction could have been prevented if the population had retained partial use of Collinsia, which occupied drier microhabitats unaffected by cattle removal. The flush of grasses abated quickly, rendering the meadow once again suitable for Euphydryas feeding on either host, but no butterflies were observed from 2008 to 2012

https://www.nature.com/articles/s41586-018-0074-6

 別の視点で興味深かったのは、ハクビシンとアライグマの話。ご存じの方も多いと思いますが、この場合マダニにとって、ハクビシンはecological trap、アライグマはecological boosterとして働く可能性を指摘するものです。

The results of this study extend our understanding of the ecological roles of two introduced wildlife species. The raccoon may act as an ecological booster, thereby increasing the success rate of bloodmeals and reproduction in ticks. In contrast, the masked palm civet may act as an ecological trap by effectively grooming to remove ticks and prevent bloodmeals.

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1877959X21000406
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1877959X21000406

 捕食の代わりに被食でも悪影響を及ぼすという話から生態学的罠などに話が広がりましたが、次は食べるまで行かなくても、影響あるよね、という話です。

【恐怖】
 1匹のネコがアジサシのコロニーを壊滅させた話ですが、別に全部を食い尽くしたわけでもないですが、営巣を放棄してしまったという事例です。

Changes in nesting behavior followed quickly, but ultimately the colony was abandoned and 111 nests failed. The death of six breeding terns from the population is a considerable loss for this threatened species and has the potential to limit population growth.

https://www.mdpi.com/2076-2615/9/7/445

 あとは、アマミハナサキガエルが「びびり」になってしまったという研究もありましたね。食べられない個体が生き残ることで、進化が起きてしまうという事例でした。

 恐怖がもたらす種間関係やfitnessの低下などは、ちょこちょこ成果が出ているみたいでした(めっちゃ出てたらごめんなさい)。こちらは鳥に関する論文。

Fear itself significantly reduced the population growth rate (predator playback mean λ = 0.91, 95% CI = 0.80 to 1.04; nonpredator mean λ = 1.06, 95% CI = 0.96 to 1.16) by causing cumulative, compounding adverse effects on fecundity and every component of offspring survival, resulting in predator playback parents producing 53% fewer recruits to the adult breeding population. Fear itself was consequently projected to halve the population size in just 5 years, or just 4 years when the evidence of a transgenerational impact was additionally considered (λ = 0.85).

https://www.pnas.org/doi/full/10.1073/pnas.2112404119


 この場合再生産に対して非常に大きな悪影響が出ますが、これは「捕食」そのものとは少し違います。【恐怖】には食べなくても十分大きな影響があります。NHKでゴロンゴーザでのリカオン再導入のドキュメントを紹介していましたが、あれで知った人もいるかもしれません。

 食べるまでは行かなくても…の次は、子孫まではできなくても…という話です。

【繁殖干渉】
 環境省の示した事例は「遺伝的攪乱」で、あくまで交雑という形で子孫ができるものを想定していました。ですが、それ以前に、繁殖干渉によって在来個体の適応度が下がるという悪影響もあります。最近だとセイヨウオオマルハナバチによる繁殖干渉の論文が出ていました。

 交雑が問題だと思われていた外来と在来のタンポポ間の関係でも、繁殖干渉の可能性を示す研究が出てきていますし

 外来種が外来種に対して悪影響を及ぼす例も。これはカダヤシがグッピーによる繁殖干渉で駆逐されていった話ですね。

 イシガメとクサガメでも繁殖干渉に関して触れられていたりします。

 繁殖干渉については、その名も「繁殖干渉」のこの本はオススメです。私から押しつけられた人もいます。

 結論としては、いろんな影響がありますねということかと。

 なので、ある種とある種の関係を取り出して、個別に悪影響を分類しながら見ていくのも限界があるし、結局大きなスケールで見ると、生態系そのものを「変質」させてしまうということが大きな懸念点だと思いました(スタートに戻ってきました)。「はじめに」で紹介したハワイの山火事では、外来雑草が火災に脆弱な生態系に変えていたということかと思いますし

 外来植物が入ってきた土地では、微生物たちの顔つきまで似てきてしまうとか

 あと、経験的にはそうかもなと思うのですが、ある侵略的外来種の侵入/定着が、別の侵略的外来種の侵入/定着を促進することで、あっという間に生態系が外来種だらけになっていってしまうという現象「侵入メルトダウン」とかも、なんかもー「捕食とか競争とかこまけーこたーいいんだよ」的な、オセロを一気にひっくり返していくチート感があります。下記は、外来アリと外来の陸生巻き貝による侵入メルトダウンの事例。

 それからゆう太さんからは、例のヘビの口の中にぶわーっと増える寄生虫(ヘビクチグロ吸虫)の例についても共有してもらいました。確かにこれプレスリリースを読むだけでもこんなことが書いてあります。

”本寄生虫の幼虫は、日本に定着している北米原産外来種サカマキガイから検出されました。日本では、サカマキガイからカエルに感染し、そのカエルを食べた日本在来のヘビが感染すると考えられました”

”この寄生虫の仲間に濃厚感染したヘビで、口内炎や食道炎、ヤコブソン器官の機械的閉塞などが報告されています。また、薬で虫体を取り除いた感染ヘビに食欲改善がみられた事例が知られています”

”北米ではこの寄生虫の仲間はウシガエルなどのカエルを利用します。日本にはウシガエルが定着しているため、このカエルが第二中間宿主となっている可能性があります。一方で、他の日本のカエル類にも寄生している可能性もあり、今後詳細に調べていく必要がありそうです”

”この寄生虫が日本に侵入した可能性が高い時期には、サカマキガイは既に日本に侵入して野外で広く分布していたので、寄生虫も野外で速やかに定着できたものと考えられました。これは、外来種の定着が次の外来種の定着を助長する「侵入メルトダウン」の実例となります”

https://www.toho-u.ac.jp/press/2024_index/20240926-1406.html

 これを教えていただいたときに、寄生虫の話しか知らず、サカマキガイとかウシガエルの話を知って、「しっかり検証できたら侵入メルトダウンみたいな話ですね」とゆう太さんに返したのですが、ちゃんとプレスリリースに

これは、外来種の定着が次の外来種の定着を助長する「侵入メルトダウン」の実例となります

 と書かれていました。すいません。なお、新しい外来種被害防止行動計画でも、主に人間を想定しているとは思いますが、「行動6:外来種対策を通じた寄生生物・感染症対策」という一節が盛り込まれています。

 どうでもいいのですがIPBESのIASのSPMでも、侵入メルトダウンについてはちょこっとだけ触れられていて、それで今回取り上げようと思ったのですが、

 IPBESのページに行くと、”Invasive Meltdown”の用語のところに、Shimberloff 2006とあって、「え?あのシンバロフ?シンバロフだよね??」と裏取り作業がとても楽しかったというご褒美がありました。調べたら、島の生物地理学の人というイメージが強すぎたのですが、実は外来種問題に取り組んでおられたそうです。この辺の論文ではないかと。

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1461-0248.2006.00939.x


3.思考実験「外来種問題におけるAIの可能性」

 話は全然変わりますが(最後に回収します、たぶん)、AIはなくてはならないツールになっています。ChatGPTとかGeminiは毎日使います。もちろん、そこには大きな可能性とリスク両方があると思います。外来種対策での活用でもそうかなと考え、それについていろいろ想像してみたいと思います。

 まず思いつくのは、防除の効率化・支援につながる可能性かと思います。すでに実践に近い事例がいくつもありました。

 これはなじみやすいのではないでしょうか。Biomeを使って、侵略的外来種を同定→報告することで侵入の監視やモニタリングにつなげるという事例です。

対象の生物:15種
1神戸の外来種
①ツヤハダゴマダラカミキリ、②クビアカツヤカミキリ、③アカミミガメ、④アメリカザリガニ、⑤キマダラカメムシ


2里山の生きもの
⑥コクワガタ、⑦ヤマトタマムシ、⑧ハグロトンボ、⑨キイトトンボ⑩オニヤンマ、⑪ミンミンゼミ、⑫ニイニイゼミ、⑬ニホントカゲ、⑭トノサマガエル、⑮アカハライモリ

https://www.city.kobe.lg.jp/a66324/kurashi/recycle/biodiversity/press/biomequest.html

 別に使えるのは視覚的な側面からだけではありません。AI英会話とかもありますし、音声を認識することで、生息状況の把握などにつなげることも期待できそうです。

鳴き声が酷似している鳥とも高い精度で識別できていたという。同社は2024年度中に実用化を目指す方針で「今後も別の鳥獣害対策などへの適用も検討していきたい」としている

https://nordot.app/1174982420413858603?c=302675738515047521

 完全に自動化しちゃって、顔認識技術で水際の監視強化に役立てようという事例も見つけることができました。

この技術は理論上、人間を配置する旧式の監視方法に比べて安価なうえ、手間も少ない。また、野生化したネコのようなほかの外来種を検知できるよう、アルゴリズムを訓練することも可能だ。

https://wired.jp/article/rats-are-invasive-menaces-these-cameras-spy-on-them/

 そのほか、たぶんいろいろ思いつくことはあるのではないかと。すでに論文とかも出ているかもしれませんが。と、書いてから、論文をファイルしているフォルダを検索してみたら、外来種ではないけれど、いろいろ出てきました。記憶力の問題。

 夜行性昆虫(上)やカワイルカ(下)のモニタリングをしたり、

 カメ(上)やセンザンコウ(下)の取引を監視したり(この辺は外来種の水際監視とも通じるところがありますね)。

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0006320723000058

 私が一つ思い出したのは、こちらの国立環境研究所の記事でした。

 その中で、以下のような一節があります。

駆除が進むにつれてマングースがほとんど見つからなくなり、次にどこを探索すれば良いのかが分からなくなった時期があったそうです。そんな時、深澤さんが示して下さった「モデル上で検出されにくい地域」などを重点的に探索することで、目標を失わずに進めることができたと伺いました。

https://www.nies.go.jp/kokkanken_view/deep/column-20241202.html

 AIの得意技の一つに、パターン認識があります。なので、モデルを作らなくても、モニタリングのデータが蓄積されたら、地理情報とかも合わせて、AIにぶち込んで、「どうしてそうなのか」はブラックボックスでも、「いそうなところ」を答えてもらうとかはできそうだなと思いました(すでにやられていたらごめんなさい。ご存じの方は教えて下さい)。

 すでにアオコの発生パターンに関する予測などの実例はあるようです。

 ノーベル賞候補ともいわれる研究者の方に話を伺ったときに、「技術は人間の想像力を試す」といわれたことがありますが、いろんなことに使えそうです。

 なので、最後は想像力を試そうとばかりに、妄想みたいな話をいくつか。

 想像力というか、AIを使うにも基礎知識や、リテラシー、それに基づく「どんなことを聞くか」というのは決定的に重要です。以下は、私が常々批判的に論じている、外来種の有効活用に関して、三つの質問へのChatGPTの回答です。

見ていただけるとわかるとおり、
Q. 駆除した外来種の有効活用にはどんなリスクがありますか
 
駆除した外来種を有効活用する際には、いくつかのリスクが伴います。適切な対策を講じなければ、かえって生態系や社会に悪影響を及ぼす可能性もあります。主なリスクとその対策を以下にまとめました。

Q.駆除した外来種の有効活用はいいことですか
 
駆除した外来種の有効活用にはメリットとデメリットがあり、状況によって判断が分かれます。

Q. 駆除した外来種の命を無駄にしたくありません。どうしたらいいでしょうか
 
駆除した外来種の命を無駄にしないためには、**「資源としての有効活用」「持続可能な方法」**を考えることが大切です。
以下のような活用方法を検討すると、駆除の意義を持たせつつ、環境にも配慮できます。

 と、質問によって回答の中身は変わります。特に気になったのは、③の場合、生態系へのデメリットやリスクは一切触れられていないという点です。質問したことには結構幅広く答えてくれるのですが、聞いていないことをどこまでおもんぱかってくれるのか、「余計なお世話」までやいてくれるのかは、わかりません。生成AIに質問をするにしても、どう聞くのかによって人によってたどり着く答え、あるいは考え方すら全然変わってくる恐れはあると思いました。

 妄想というかここからはもう暴走の域に入っていますが、ついでにもう一つ。次のネタを思いついたきっかけは以下の二つの記事でした。

 要は、生き物とAIを通じて「コミュニケーション」が可能になっていったときに、防除対象の生き物の声を聞くべきか、防除対象が悪影響を及ぼしている生き物の声を聞くべきか、聞いている声は「本音」なのか、といった問題が生じたら…といったややディストピア的な想像です。

 生き物たちが実体(エサとか配偶相手とか)だけでなく、どのような概念(例えば死とか)までを持っているのかとか、空腹のサインを「お腹すいた」ではなく「ご飯が欲しい」と訳したら間違いなのかとか、そういうところは全く知りません。

 ですが、考えて行くと、罠にかかったアライグマが「怖い」と訴えるとか、むしり取られるナガエツルノゲイトウが「痛い」と叫ぶとか、池干ししているところから、無数のブラックバス語、ブルーギル語が聞こえてきたとか、そんなときに、どうあるべきだろうか、とは思うわけです。また、どういった分類群までの声を聞くべきなのか、どのくらい重視するのかを個体数とかバイオマスとか、希少さとか、何によって重み付けするのかしないのか、といったところも悩ましいです。

 ちなみに、我々と同じような世界観で生きているのかは知りませんが、植物もコミュニケーションをしていて、しかも「他人」よりも「親戚の声」の方をよく聞くといったこともわかっています。この本とても面白いです。

 そういった生き物との対話AIの発展は、特に命を奪うことと隣り合わせでもある外来種対策においては、結構悩ましい問題が出てきたりしそうだな、特に恒温動物や四肢動物なんかは…と思うわけです。

 今回は「思考実験」という釣り見出しでいろいろ踏み込んで想像してみました。釣りと言えば、日釣振さんが、環境省への申し入れでブラックバスの密放流について、「当会では、法律施行後19年が経過をしておりますが、自然界で他の場所へ移殖放流した違反者は1人もいないと認識しております」などと申し入れを行っていますが、AIでブラックバスに「君はどこから来たんだい?」と聞いてみる未来が来ることもあるかもしれません。


4.まとめ的な話

 環境省のホームページの話と、AIから始まった外来種妄想ネタになんの共通点があるのかと思われるかもしれませんが、むりやり回収しておくと、以下のようなことを考えています。

 環境省のホームページの話は、「生態系への影響」=【捕食】【競合】【遺伝的攪乱】という三つと思われてしまうかも、などと書いたのですが、そもそもいろんな個別事例を見てみると、ぜんぶひっくるめて「生態系への悪影響」ってことだよね、と思います。何を言っているかなぞですね。

 そこでホームページを見ると、そもそもその節には〈生態系への影響〉とちゃんと書いてあります。そうですよね。1周回って戻ってきてみたら、結局そういうことだよね、という話でした。でも、単に振り出しに戻るのと、1周回って戻ってくるのでは、ちょっと見える世界が違う感じがします。だから、「生態系への影響=生態系への影響」だということです。

 AIの方は、特に後半で話した、AIへの質問の仕方とか、AIを通じた外来種とのコミュニケーションが、外来種対策に影響を与える可能性について考察暴走してみました。あくまで想像の産物ではありますが、こうした事態を前にできることはないのでしょうか。

 ここでも、結局大事なのは、個に執着しない、「話ができる生き物だけと話さない」という、全体を見る視点、「生態系の視点」は重要ではないかと思います。結局そこかよと思われるかもしれませんが、「命を無駄にしない(といいつつ、だらだら防除が長引くかもしれない有効活用)」とか「外来種も同じ命(といいつつ、外来種の被害を受ける生物のことには触れない)」といった、個体や特定の種の視点からだけでは、見えない風景や受けて立てない難題というは厳然として存在します。

 生態系を保全・再生する、という前提・目的があっての、そのための手段としての外来種防除だということは繰り返し強調しておく価値があることだと思います。年度内にも改訂される外来種被害防止行動計画は、2/19まで案のパブコメが実施されています。その前文には「我々の生活は、自然資源に大きく依存しており、生物多様性の保全は人間の安全保障の根幹といえる」と書いてあります。


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