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研究者と結婚
大学教員の中には別居婚(週末婚を含む)をしていたり新幹線などを使って通勤をしている夫婦が割といる。特に,研究者同士の夫婦であればその割合は高くなるように感じる。
かくいう私も子どもが生まれる直前までは別居婚だった。
私の妻は研究者ではないが,以下のような事情で結婚当初からお互い了承の上で別居婚を選択していた。その理由とは…
①妻も常勤の職を持っていて,その職場が気に入っていたということ
②私としてもようやく手に入れたテニュア(任期なし)の大学教員のポストだった
③勤務校はかなりいい環境だった
④妻が住む場所の近く(大都市圏)で都合よく大学ポストが見つかることはめったにない
そういうことなので,それではお互い好きな仕事を続けながら,我々なりの家庭をのんびりと築いていきましょう,という感じであった。
そのため,結婚式の準備とかも週1ぐらいで新幹線でどちらかの居住地まで行って打ち合わせをする,という感じだった。
結婚後はお互いのペースでのんびりしていたのだが,一人目の子どもができた。妻は産休育休を使って,子どもが生まれてから初めて夫婦と子どもが揃った生活が始まった。
それから穏やかな日々が続き,妻の育休期間が終わろうかと言う頃に,二人目ができた。そのため,再び妻は育休を延長することができたので,晴れて同居を続行することができたわけである。
しかし,二人目が1歳に近づいてくると妻はそろそろ仕事に戻りたいと言うようになった。というか,「戻る」と半ば宣言のようなものだったように記憶している。
妻が仕事に復帰するということは,我々に3つの選択肢を突きつけた。
①別居婚を再開して私か妻のどちらかが乳幼児2人を育てる
②どちらかが仕事を辞めて就職活動をしながら同居を継続する
③お互いの職場の中間地点に居住して,二人ともが遠距離通勤をする
ちなみに,我々の両親はともに遠方で私に関して言うと母は他界しており,頼れる親戚などは近くにいない状態であった(今もであるが)。
いずれの選択肢も我々にとっては非常に難しいものだった。
①については,我々がともに子どもの心の発達や心の問題を扱う専門家であり,その生活スタイル(例えば,どちらかに過重な負担とストレスが持続的にかかる)が子どもの心の発達に悪影響を及ぼしかねないと判断し,却下された。②についてもお互いが今の職場を気に入っているし,苦労してようやく手に入れたポストであるから手放せないという理由からこちらも却下された。残るは③しかない。つまり,痛み分けというやつだ。結果的に,いったん③を選択してどちらかの職場に近い新たな就職先を見つけよう,という話に落ち着いた。と言っても,私があれこれ妻に転職先を提案しても首を縦にふることもなく,自ら転職先を探している風でもなかったので私が転職せざるを得ないだろうと半ば諦めの境地ではあったが…。
そういうわけで,我々は互いの職場の中間地点に当たる場所で住む場所と保育園の申込みに追われた。私はというと,買いたくもない宝くじを買う気分で妻の職場と同じ地域の大学の公募に出したりしていた。
そして,住む場所も保育園も決まり,あとはお互いの長距離通勤に備えて生活プランを検討していく段階に入った時に,なんと妻の職場近くの大学ポストへの採用が決まったのである。
本当に幸運なことではあるが,私としては給料もかなり下がって,しかも任期付きという実質的には格下げ人事になるため,屈辱を味わっているというのが本音ではある。とはいえ,家族が揃って生活して子どもの世話をしながら成長を見ることができるのは,職業上の屈辱を上回る幸せだとも(頭では)考えている。
そういうことで,今は穏やかな暮らしを継続中である。
しかし,我々の新生活にはコロナ禍が待ち構えていたのであった…
(続く)