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大学教員への道(2):博士号は必要か?


「足の裏の米粒」と呼ばれるけれども

近年の公募では,博士号を持っているか,同等の経歴があることを求める求人がほとんどです。JREC-INにかかれている博士号と同等の経歴とは何を指すのかは明確な定義がありませんが,何本かの査読論文があること,ということと考えても良いでしょう。しかし,そこには明確にそのように書かれているわけではありませんので,査読論文がなくとも自分が博士号と同等の経歴や学識を持っていると自負するならば応募自体はできるでしょう。

日本の博士号は「足の裏の米粒」と呼ばれることがしばしばあります。ようするに,「とらないと気持ち悪いけれども,とっても食えない」という意味ですね。転じて,博士号を取らないのはもったいない(あるいは気持ち悪い)けれども,持っていても就職して経済的安定を得ることが非常に難しい,ということでしょう。
日本の博士号取得者に対する待遇は特に民間企業では冷遇される傾向にあるようで,「学識や専門知識はあるかもしれないけれど,プライドが高く偏屈な人が多い」というステレオタイプが浸透しているようです(Works, 2014)。
とはいえ,近年では特に理系であったりベンチャーなどでは博士人材の雇用が少しずつ進んでいっているようではあります。

民間への企業ではなくて,大学への就職となると博士号は必要なのでしょうか?
結論としては,「博士がなくてもなれるけれどもあったほうが確実に有利」です。

つまり,足の裏の米粒ではあるけれども,大学への就職を考えたときには,スタートラインで有利に立つためには博士号は絶対にあったほうが良いと個人的には思います。

実務家教員という形

とはいえ,修士号,なんなら学士しかない人でも大学教員をやっていることがあります。現在の50歳以降ぐらいの人たちは博士を取得することが難しい時代だったので,博士課程単位取得満期退学,という人たちもざらにいます。そういう人たちでも,教授になるために博士が必要ということで論文博士になるために業績作りをしている人もいます。

特に実務家養成の大学(コメディカル系や教育系やビジネス系など)では,博士がなくても大学教員になっている人が多くいます。これらの学問領域では,学問を追求すると言うよりも実務家としての専門的な技能や経験を習得することを重視している場合が多いからだと思われます。

実務家教員が大学教員の位置づけとして劣っているのかとかそういう話ではなく,役割分担や大学として目指す人材育成の方向性に左右されるものだと思いますので,大学教員間に優劣はありません(そう思いたい)。ただし,博士号の有無によって昇進しやすかったり,給与体系が異なっているということはあり得ます。このあたりは,大学によって様々でしょう。

もちろん,実務家教員かつ博士号を持っていると就職では非常に有利に働くでしょう。

いろいろな博士号

博士号と言ってもいろいろな種類があります。一つの分け方は取得過程の違いによる分け方です。
この分け方では,課程博士論文博士の2種類があります。この記事を読んでいる人の多くはご存知でしょうが,一応説明しておきましょう。知っている人は読み飛ばして下さい。

課程博士

課程博士は名前の通り,博士課程(あるいは博士後期課程)在籍中に提出した博士論文が審査に合格した場合に授与される学位です。いわゆる「かていはく」と呼ばれるものです。課程博士は後で述べる論文博士に比べると比較的博士号が取りやすいとされています。

論文博士

論文博士も名前の通りで,大学院に在籍していなくても研究機関に博士論文として提出した論文が審査に合格することで得られる学位です。いわゆる「ろんぱく」と呼ばれるものです。ここで言う研究機関とは博士課程を有している一部の大学院です。なぜ「一部」と書いているのかというと,博士課程を有しているからといって,すべての大学(院)が論文博士の審査をしているとは限らないからです。
論文博士は大学院に行っていなくても取得できますので,極端な話ですが,中卒でも取ろうと思えば取れます。ただし,一般的に論文博士は課程博士よりもハードルが高く,推薦状が必要であったり論文審査をしてもらうための試験を課している大学があるようです。

博士であれば課程博士でも論文博士でも差はない

称号として,課程博士でも論文博士でも結局は同じ博士ですのでどちらかに優劣があるわけではありません。ただし,課程博士と論文博士では「学歴」が異なる場合があります。課程博士は確実に大学院博士課程まで行っていますが,論文博士はそうとは限りません。
とはいえ,論文博士であっても就業経験が長かったりすることも多いので,その分が給与等に反映される可能性はあり得ます。

博士(○○)って?

もう一つの分け方としては,専門分野による分け方です。課程博士か論文博士かよりもむしろ,博士(○○)の○○の部分が大学教員を目指す人には重要かもしれません。
○○の部分にはどの学問領域の博士を取っているのかが示されています。
私の場合は「学術」(いわゆるPh.Dというもの)ですが,他にも医学,文学,理学,教育学,保健学,看護学,心理学など,さまざまです。

公募先の求人で求められている専門分野が例えば教育学なのに,医学博士を持っている場合は,不利にはなりませんが,「なんで医学??」と目に付くことはあり得るでしょう。そこをきちんと説明できたり,公募条件に沿った教育・研究業績があれば問題ないでしょう。

なぜ博士号があったほうがいいのか?

では,なぜ大学教員になるために博士号があったほうが良いのかを考えてみましょう。それは,学歴があるから有利という単純な理由ではありません。
課程博士であれば,大学院在籍中に博士論文を提出する過程で査読付き論文を数本投稿・掲載されていることが必要という条件が課されています。博士論文は一つの大きなテーマについて書かれているものが普通ですので,大きなテーマを地道に積み上げていくことが求められます。つまり,博士論文には複数の査読を通った論文が組み合わされて編集されているという形式になっています(ただし,これも研究領域によって異なるようで,国際ジャーナルに掲載された論文を博士論文とみなす,というところもあると聞いたことがありますが,本当かどうかはわかりません)。
課程博士の博士論文は,大きなテーマに対して綿密に計画された一連の論文がまとまったものであることが多いため,それがその人の特定の研究テーマになっているとみなされるわけです。そうすると,採用する側としては,この人はこういうことを研究してきたのだな,ということが非常にわかりやすいですし,この人を採用するために教授会や理事会,評議委員などにも説明しやすくなるというメリットがあります。

そういう意味で,博士号はその人の専門性をより明確にしてくれるという点で持っていたほうが良いと言えるでしょう。

ただし,専門領域によって博士号の取得しやすさには差があるという噂を聞くのも確かです。

まとめ

結局のところ,博士号は持っていても食えないかもしれないけれども,大学教員になるためには持っていれば有利にはなる,と言えます。むしろ名刺代わりのようなものかもしれません。

以前SNSで見たインターネットのニュースかなにかで,日本の博士号の取得は博士課程に入ってしまえばほぼ確実に取れる,というような内容を見たことがありますが,それは嘘です。私は能力がなかったからかもしれませんが,博士論文の提出を指導教員から認められず少しだけ留年しました。博士論文を仕上げるのは非常にハードルが高く本当に苦しいものでしたが,その過程で得たものが今の自分を支えているという感覚はあります。ですので,博士号を取得する機会がある人はぜひ取得を目指すことをおすすめします。大学教員になりたい人はもちろん持っていた方が良いですが,そうでない場合も持っていても無駄にはならないと思います。時間とお金と多大なる労力はかかってしまいますが,そこで得られる経験は人生の中で必ず役立つときがあると思います。博論作成のようにある程度大きなテーマを書くプロセスは,専門知識だけではなく,論理構成力や情報収集力,文章力なども当然必要になってきます。このようなスキルは人生をうまく切り抜けていく上でも役立つ時がきっとあるでしょう。

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