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利己的遺伝子から社会的存在へ 第5章

ここではロシアのマトリョーシカ人形を比喩として用いながら、生物の進化における「入れ子状の階層構造」の概念を説明している。

共生という概念は19世紀に誕生したらしい。1868年、スイスの植物学者シュヴェンデナーは、地衣類が菌類と藻類の共生体であると発見し、1878年、ドイツのバリーが「共生(シンビオシス)」という言葉を提唱した。

1918年、フランスのポルティエが「ミトコンドリアは細胞内の共生細菌である」と提唱したが、当時の科学界では否定された。しかし、1967年、マーギュリスが共生が進化の主要な駆動力であるとする論文を発表した。彼女は、ミトコンドリアや葉緑体がかつて独立した細菌であり、共生を経て細胞内小器官になったと主張した。共生生物は別々の生活をしていたが、その後、彼らは結合し、チームとしてのみ繁殖できるようになった。そのチームこそが新しい個体であり、家族に加えられた新しいマトリョーシカなのである。

メイナード・スミスとサトマリは、1995年に異なる生命体の協力によって新たな「個体」が生まれることが、進化の大きな転換点(MTE, Major Transitions in Evolution)であると提唱した。例えば、原核生物の共生による真核生物の誕生、植物の葉緑体獲得、多細胞生物の進化、社会性昆虫や人類の社会の形成などである。共生の進化では、まずチームが形成され、次にそのチームが新たな個体へと変化し、競争が抑制される必要があるとしている。

MTEは、生物がどのようにして「より大きな個体」に統合されていったのかを説明する。特に、異なる生命体が共生し、新しい生命体を形成するプロセスを理論的に整理した点が評価されている。MTEは不可逆的であり、一度形成された新しい生命体は、共生するパートナーに依存するため、元の独立した状態に戻るのが困難になる。例えば、ミトコンドリアや葉緑体はもともと独立した細菌だったが、現在では宿主細胞なしでは生存・増殖できない。MTEは、進化を「競争」だけでなく「協力」の視点から説明する理論でもある。進化の大きな転換は、異なる個体が協力し、競争を抑制することで起こるとされている。

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