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地味じゃない!シダが秘める“生態系復興”のパワー


1. はじめに:災害からの復興を支える意外な主役——シダ植物とは?

私たちが森や林を散策するとき、足元の湿った土壌や木陰に生い茂るシダを見かけることがあります。一般的にシダ植物は、日陰の地味な植物というイメージを持たれがちかもしれません。しかし近年、火山の噴火から小惑星の衝突に至るまで、大規模な災害後の荒廃した地表をいち早く覆い、生態系の復興を支える“縁の下の力持ち”としての役割に注目が集まっています。

もともとシダ植物は「災害時に爆発的に増える“ディザスタータクサ”」として知られてきました。ところが最近の研究では、シダが他の生物に有利な環境を整える“ファシリテーター”として機能している可能性も指摘されています。この記事では、恐竜が絶滅した時代の化石証拠から、現代の火山噴火後の観察まで、シダ植物が生態系の回復をどのように促進してきたのかをわかりやすく紹介していきます。


2. シダ植物入門:その進化・多様性・ライフサイクル

シダ植物は、種子をつくらず胞子によって増えるという点で、被子植物(花を咲かせ種子を作る植物)とは大きく異なります。私たちがよく目にするのは、葉を大きく広げた胞子体という世代ですが、地面などに付着する前葉体(配偶体)という小さな形態もあり、そこで受精が行われて新たな胞子体が育ちます。こうしたライフサイクルの複雑さが、シダならではの生存戦略の一つです。

シダの起源は古く、デボン紀(約4億年前)には既に祖先が存在したとされます。現在は1万種以上が確認され、熱帯雨林から高山、岩場や樹上など地球上の多様な環境で適応してきました。比較的単純な構造や、丈夫でさまざまなストレスに耐えられるライフサイクルを持つため、限られた資源のもとでも生き延びる能力に長けているのが特徴です。


3. 地球史の大変動とシダ植物:化石から読み解く復興のシナリオ

地球史の中には、大量絶滅や大災害と呼ばれる規模の変動が何度も起こってきました。そのうちの一つが、約6600万年前の小惑星衝突による「K–Pg境界」です。このとき、恐竜を含む多くの生物が絶滅しましたが、地質調査からは災害後にシダの胞子が急激に増加した「シダスパイク」の痕跡が見つかっています。これは、暗く冷たい環境を乗り越えて、シダが最初に地表を覆った可能性を示す重要な証拠です。

なぜシダが“先陣を切れた”のか、いくつかの理由が考えられます。シダの胞子は非常に軽く風で遠くまで運ばれるほか、土壌バンク(胞子や配偶体が土壌中で待機する仕組み)を形成することがあり、災害後の厳しい環境でも芽生えやすいとされます。また、胞子体の体作りがシンプルで、二次成長(木の幹のような厚み)が少ないため、限られた資源の中でも生存しやすいといわれています。こうした特徴は、地球上のほかの大量絶滅の場面でも共通して観察され、シダが重要な“復興要員”として登場するケースは少なくありません。


4. 「ディザスタータクサ」から「生態系の縁の下の力持ち」へ:シダがもたらす“正の作用”

シダ植物はかつて「災害後に競争相手がいなくなった場所で、ただ勢力を広げるだけ」と見られていました。しかし、近年の生態学ではシダが土壌を安定させ、養分や水分を供給し、さらには重金属などを吸着して他の植物を助ける“ファシリテーション(促進作用)”を発揮していることがわかってきました。この考え方では、シダが“自分だけ得をする”のではなく、周囲の生物にも有利な環境をもたらす存在なのです。

具体的には、シダが生い茂ると落ち葉などが腐植土となり、土壌の有機物や栄養分が増えます。また、柔らかい根茎が地表を覆うことで、地面の温度や湿度を安定させ、雨による土壌流出も防ぎます。鉱山跡地などを再生する際には、重金属を取り込んでくれるシダを用いた土壌改良の試みも行われており、その柔軟な役割ぶりは「ディザスタータクサ」というイメージを超えたものであるといえるでしょう。


5. 現代の生態系におけるシダ植物の役割:マウントセントヘレンズから都市緑化まで

1980年に噴火したアメリカのマウントセントヘレンズでは、山の斜面が噴火と土石流によって一面灰や岩屑で覆われました。しかし、数年後にはシダがその斜面を覆い始め、土壌の形成とともに他の植物の種子や芽が定着しやすい環境が作られたのです。つまりシダは、火山噴火後のような荒廃地でも先駆者として機能し、生態系の二次遷移を早める存在とみなされます。

シダによる復興は数十年程度のタイムスパンで見られることもありますが、小惑星の衝突のように地球規模で生物多様性が大打撃を受けたケースでは、さらに長い時間軸が必要とされるのは当然かもしれません。いずれにしても、荒廃地にいち早く根を下ろし、ほかの生物が利用しやすい環境に作り変えていく点で、シダの存在はきわめて大きいといえます。近年では、鉱山や埋め立て地などでの緑化にシダを活用する動きもあり、都市環境でのファイトレメディエーションにも応用が期待されています。


6. 未来への示唆:シダが語る生態系のレジリエンスと持続可能性

地球温暖化や森林破壊などの環境変動は、今後いっそう深刻化すると考えられます。そのときにカギとなるのは、「生態系はどのようにして回復するのか?」という視点です。シダは、土壌への有機物供給や汚染物質の除去、他の植物の発芽を助ける“看護役”的な機能など、レジリエンス(復元力)を高める役割を数多く担っています。

こうしたファシリテーションの概念を、地球史の化石記録とあわせて理解することは、今後の自然保護や環境再生に大きく寄与すると期待されます。シダ植物がもっている回復力のメカニズムを探ることで、私たち人類が“持続可能な未来”を模索するうえでの指針が得られるかもしれません。


7. おわりに:シダをとおして見る地球の再生力

シダはその競争力によって災害後に繁栄する“ディザスタータクサ”とみなされてきましたが、実際には他の生物を支えるファシリテーターとして生態系の復興を下支えする要素も無視できません。恐竜の絶滅を引き起こしたような大災害から、現代の火山噴火や大規模な土砂災害に至るまで、シダが真っ先に現れることで環境を整え、その後の多様な生物の帰還を可能にしてきたことが、化石や現地調査からわかってきました。

こうしたシダの生態や進化の歴史から学べるのは、「ひとつの変化が他の生物の命運を左右し得る」という生態系の相互作用の奥深さです。過去の大量絶滅とその後の回復を振り返ると、シダのような“地味だが頼もしい存在”を理解することが、生物多様性を維持し、未来の環境変化に柔軟に対応する手がかりになるでしょう。地球規模の災害すらも乗り越えてきたシダ植物のレジリエンスに目を向けると、私たちがこれから迎えるかもしれない激変の時代においても、生態系そのものが秘めている回復の力を感じずにはいられません。

引用元

タイトル:Ferns as facilitators of community recovery following biotic upheaval
URL:https://academic.oup.com/bioscience/article/74/5/322/7635907

出版元、年月日:Oxford University Press、BioScience、2024年3月27日

著者:Lauren Azevedo-Schmidt, Ellen D. Currano, Regan E. Dunn, Elizabeth Gjieli, Jarmila Pittermann, Emily Sessa, and Jacquelyn L. Gill

ライセンス:Creative Commons Attribution License (CC BY 4.0)

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