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毛づくろいはストレス解消にならない?: 野生ヒヒの研究で意外な結果

毛づくろいは霊長類をはじめとする多くの動物において、社会的な絆を維持しストレスを軽減する行動として知られています。しかし、英スウォンジー大学などの研究チームによる最新の研究で、毛づくろいが短期的に見るとむしろストレスホルモンの増加につながる可能性があることが明らかになりました。この研究結果は動物の社会性と健康の関係に関する従来の見方に一石を投じるものとして注目されています。

今回の研究は南アフリカの野生ヒヒの群れを対象に行われました。研究チームは、ヒヒに装着した加速度計を使って毛づくろいの時間と頻度を記録し同時に糞を採取してストレスホルモン(グルココルチコイド)の代謝産物の濃度を分析しました。

その結果、長期的に見ると毛づくろいをよく行う個体ほど、ストレスホルモンの平均濃度が低い傾向が見られました。これは、これまでの研究結果とも一致するもので、社会的な絆がストレス軽減に役立つという考え方を支持するものです。

しかし、意外なことに、毛づくろいの直後には逆にストレスホルモンの濃度が上昇することが明らかになりました。これは、毛づくろいが短期的に見ると何らかのコストを与えている可能性を示しています。

研究チームはこのコストについて、毛づくろいが必ずしもリラックスできる行為ではないためではないかと推測しています。毛づくろいは相手に受け入れられるとは限らず、時には攻撃に発展するリスクも伴います。また、毛づくろいに集中することで周囲の警戒が疎かになり、捕食者に襲われる危険性が高まる可能性も考えられます。

さらに、毛づくろいには他の活動に割く時間を奪われるというコストも考えられます。毛づくろいは餌探しや休息など、他の重要な活動のための時間を犠牲にして行われるため、動物にとっては無視できないコストとなるのかもしれません。

今回の研究結果は、毛づくろいが長期的に見ると社会的な絆を強化し、ストレス軽減に役立つ一方で、短期的に見ると動物に無視できないコストを与えている可能性を示唆しています。これは、動物の社会行動が常に利益をもたらすとは限らず、状況によってはコストを伴う可能性があることを示す重要な発見です。

引用元

タイトル:More allogrooming is followed by higher physiological stress in wild female baboons
URL:https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rsbl.2024.0163
出版元:Biology Letters
著者:Charlotte ChristensenAnna M. BrackenM. Justin O'RiainMichael HeistermannAndrew J. King and Ines Fürtbauer

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