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深海に潜むゾウアザラシ:海底ケーブル観測所が明かす休息と狩りの戦略

北太平洋に生息するキタゾウアザラシは繁殖期と換毛期に陸に上がり、それ以外の時期は広大な海で餌を求めて生活する海洋哺乳類です。特にオスはメスよりも多くの餌を必要とするため、より密度が高く、大きく、栄養価の高い獲物を探す必要があります。しかし、彼らの深海での行動、獲物、そして狩りの戦略についてはこれまでほとんど知られていませんでした。

カナダ西海岸沖の深海に設置されたOcean Networks Canada(ONC)の海底ケーブル観測所は海洋の物理的、生物地球化学的、地球物理学的条件に関するデータを長期間にわたってリアルタイムで収集するために設計された海洋インフラです。この観測所には高精細(HD)ビデオカメラと音響機器も備えられていて、深海という環境における動物の行動や漁業関連のダイナミクスを研究する貴重な機会を提供しています。

2022年5月から2023年7月にかけて、この観測所では魚類の音響と誘引に関する実験(FAAE)が行われました。HDビデオ、音響イメージングソナー、水中音響を組み合わせ、深海魚や無脊椎動物の行動に対する光と餌の影響を調べる実験です。その過程で、予想外にも少なくとも8頭(6頭は繰り返し、2頭は一時的)の若いオスのキタゾウアザラシが観測されました。

ソナーの音に誘われた?ゾウアザラシの深海での行動

HDビデオカメラとソナーの映像を分析した結果、ゾウアザラシは海底で休息したり、主にギンザケを捕食したりしていることが明らかになりました。注目すべきは、彼らは10日以上という長期間にわたって同じ場所を繰り返し訪れていることです。これは、ソナーが発する騒音を餌場の指標として利用することを学習した可能性を示唆しています。いわゆる「ディナーベル効果」です。

さらに、ゾウアザラシはHDビデオの録画が始まる前に、ソナーの映像に頻繁に映っていました。これは、彼らがソナーの音に誘われて観測所に集まり、海底で休息していたことを示しています。照明が点灯すると、多くのゾウアザラシはすぐにその場を離れましたが、一部は照明が魚に与える影響を利用して狩りを成功させている様子も観察されました。

闇夜のハンター:音波を駆使した狩りの可能性

ゾウアザラシは動いている獲物に狙いを定め、静止している獲物や漂っている獲物は無視する傾向がありました。興味深いことに、ゾウアザラシはギンザケを追いかける際に低周波の音波を発生させている可能性があります。これは、獲物を驚かせたり、群れさせたり、水流を発生させたりするために音波を利用している可能性を示唆しており、今後の研究で検証する必要がある興味深い発見です。

引用元

タイトル:Deep-sea cabled video-observatory provides insights into the behavior at depth of sub-adult male northern elephant seals, Mirounga angustirostris
URL:https://doi.org/10.1371/journal.pone.0308461
出版元:PLOS ONE, 2024年9月4日
著者:Héloïse Frouin-Mouy, Rodney Rountree, Francis Juanes, Jacopo Aguzzi, Fabio C. De Leo
ライセンス:Creative Commons Attribution License (CC BY)

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