肉食獣の狩猟スタイルと進化の歴史:内耳の形態が解き明かす太古の生態
ライオンのように待ち伏せ?それともオオカミのように追跡?最近の研究では、肉食獣の内耳の形態を分析することで絶滅した肉食獣を含め、彼らがどのように狩りをしていたのか、そしてどのように進化してきたのか、といった太古の謎を解き明かす新たな手がかりが得られることが示されました。
地球上の生態系の頂点に君臨する肉食獣は多様性に富み、非常に繁栄している哺乳類のグループです。彼らは、約6000万年前の暁新世に地球上に姿を現し、その進化の歴史の中で実に様々なライフスタイル、移動方法、そして狩猟戦略を獲得してきました。獲物を執拗に追跡する、巧みに待ち伏せする、瞬時に飛びかかるなど、その狩猟方法は多岐にわたります。しかし、化石記録として残るのは主に骨や歯であるため、絶滅した肉食獣が具体的にどのような狩猟行動をとっていたのかを明らかにすることは、これまで古生物学者たちにとって大きな挑戦でした。
ウィーン大学などの研究チームはこの難題に挑むため、肉食獣の「内耳」に注目しました。内耳は耳の奥深くに位置し、平衡感覚と聴覚を司る重要な感覚器官です。その形態は動物がどのような環境でどのように生活し、どのような行動をとっていたのかを反映していると考えられています。特に、内耳の主要な構成要素である「三半規管」と呼ばれる構造は頭部の回転運動を感知し、体のバランスを保つ役割を担っています。そのため、俊敏な動きや素早い方向転換を必要とする動物ほど、三半規管が大きく発達していることが知られています。例えば、空中を飛び回る鳥類や水中を自在に泳ぐ魚類は非常に発達した三半規管を持っています。
研究チームは最新の技術であるマイクロCTスキャンを用いて、様々な肉食獣の頭骨をスキャンし、その内部にある内耳の形態を詳細に分析しました。マイクロCTスキャンはX線を使って物体の内部構造を三次元的に可視化する技術であり、骨などの硬組織を破壊することなくその内部構造を観察することができます。
その結果、三半規管の大きさ、形、角度といった様々な特徴が肉食獣の狩猟スタイルと密接に関連していることが明らかになりました。例えば、獲物を長距離追跡するタイプのイヌ科の動物は待ち伏せ型の狩猟を得意とするネコ科の動物に比べて、三半規管が大きく発達していました。これは、追跡型の狩猟では獲物の動きに合わせて常に頭部を動かし、体のバランスを保つ必要があるためだと考えられます。
さらに、内耳の形態は肉食獣の進化の歴史を紐解く手がかりも与えてくれました。イヌ科とネコ科の動物は内耳の形態にも明らかな違いが見られ、それぞれの系統が独自に進化を遂げてきたことを示唆しています。また、絶滅した肉食獣であるヒアエノドンは内耳の形態がイヌ科とネコ科の中間的な特徴を持っていることが分かりました。これは、ヒアエノドンが両者の共通祖先に近い存在であり、進化の過程でイヌ科とネコ科が分岐していったことを示しています。
引用元
タイトル: Carnivoran hunting style and phylogeny reflected in bony labyrinth morphometry
URL: https://www.nature.com/articles/s41598-018-37106-4
出版元: Scientific Reports, 2019年1月11日
著者: Julia A. Schwab, Jürgen Kriwet, Gerhard W. Weber, Cathrin Pfaff