土壌への適応:植物、虫、進化の複雑な関係
植物が異なる環境に適応していく進化は生命の多様性を生み出す原動力です。しかし、土壌、気候、そして他の生物との相互作用といった複雑な要素がどのように植物の適応を形作っているのか、その全貌は明らかになっていません。
スイス・チューリッヒ大学の研究チームはアブラナ科の植物Brassica rapaを用いた実験で、この謎に迫りました。研究チームは石灰岩土壌と凝灰岩土壌という異なる土壌、マルハナバチによる受粉と手動による受粉、そしてアブラムシによる食害の有無という3つの要素を組み合わせた8つの環境を人工的に作り出し、植物を8世代にわたって育てました。
その結果、マルハナバチによる受粉とアブラムシによる食害という生物的相互作用が存在する場合にのみ、植物は育った土壌に適応することが明らかになりました。マルハナバチとアブラムシという、一見無関係に思える存在が植物の進化の方向性を大きく左右していました。
研究チームはこの現象の遺伝的メカニズムを探るため、進化させた植物のゲノムを解析しました。その結果、生物的相互作用があった環境で育った植物はそうでない環境で育った植物に比べて、遺伝子頻度の変化が著しく大きいことが分かりました。
さらに、異なる土壌タイプに適応するために、特定の遺伝子の働きが変化する「拮抗的多面発現」と呼ばれる現象が観察されました。この現象は、ある環境では有利な遺伝子が別の環境では不利になるというトレードオフの関係を生み出し、生物の進化を促進すると考えられています。
今回の研究では、マルハナバチによる受粉とアブラムシによる食害という生物的相互作用がこの拮抗的多面発現を促進し、植物の土壌への適応を加速させていることが示唆されました。
この研究成果は、植物の進化が土壌や気候といった非生物的要因だけでなく、他の生物との相互作用という生物的要因によっても大きく影響を受けることを示すものです。
引用元
タイトル:Biotic interactions promote local adaptation to soil in plants
URL:https://www.nature.com/articles/s41467-024-49383-x
著者:Thomas Dorey, Léa Frachon, Loren H. Rieseberg, Julia M. Kreiner & Florian P. Schiestl
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