木の上の攻防:イタチの脅威にさらされるアメリカキノボリハタネズミ
アメリカ農務省森林局の研究チームはアメリカ西部オレゴン州の海岸山脈に生息する、木の上で生活する珍しいネズミ「アメリカキノボリハタネズミ」を対象に捕食者との関係を調査しました。
研究チームは若い森(樹齢80年未満)23カ所に、木の上に人工巣168個を設置し、3年間にわたって遠隔カメラで観察を行いました。アメリカキノボリハタネズミは針葉樹の葉を主食とするため、若い森では餌不足に陥る可能性は低いと考えられています。しかし、巣穴不足が指摘されていて、人工巣の設置は個体数増加の効果だけでなく、捕食者を含む他の動物たちの反応を調べるための貴重な機会となりました。
イタチは脅威、フクロウは…?
観察の結果、アメリカキノボリハタネズミの巣には、イタチ、フクロウ、ムササビ、鳥類などの様々な動物が訪れることが明らかになりました。
最も多く観察されたのはムササビで、観察期間全体の45%の期間で姿が確認されました。一方、アメリカキノボリハタネズミは37%の期間で確認され、頻繁に巣を作り利用している様子が観察されました。
注目すべきは、イタチが非常に高い確率でアメリカキノボリハタネズミを捕食していたことです。イタチは観察期間全体のわずか1%未満しか姿を見せていませんでしたが、観察されたうちの10%でアメリカキノボリハタネズミを捕食している様子が確認されました。一方、フクロウ、ムササビ、鳥類による捕食はごくわずかでした。
イタチ出現の影響
イタチの出現はアメリカキノボリハタネズミの活動に深刻な影響を与えていることが明らかになりました。
イタチが確認された後、アメリカキノボリハタネズミの活動量は確認前の週平均84.1回から、確認後の週平均4.7回へと激減しました。さらに、活動量の減少は少なくとも12週間後まで続くことが確認されました。
このことから、イタチはアメリカキノボリハタネズミを捕食するだけでなく、その存在自体がアメリカキノボリハタネズミに巣を放棄させるなど、長期的な行動制限を与えている可能性が示されました。
データ分析の難しさ
今回の研究では、遠隔カメラで収集した膨大な画像データを時間単位、日単位、週単位など、異なる時間間隔で分析を行いました。その結果、分析結果が時間間隔によって大きく異なることが明らかになりました。
例えば、1時間単位の分析ではイタチとアメリカキノボリハタネズミの間に有意な負の相関は見られませんでした。しかし、日単位、週単位の分析ではイタチの出現とアメリカキノボリハタネズミの活動量の減少に明確な関連性が見られました。
この結果は、野生動物の行動や相互作用を分析する際には適切な時間スケールを設定することの重要性を示しています。
森の構造がもたらす影響
アメリカキノボリハタネズミは若い森に比べて古い森(樹齢80年以上)で多く生息していることが知られています。
古い森は木々の高さや形状が複雑で、多様な種類の巣穴が存在するため、アメリカキノボリハタネズミは自分に合った巣穴を見つけやすく、捕食者に見つかりにくいと考えられています。一方、若い森は木々の構造が単調で、巣穴となる場所が限られているため、捕食リスクが高くなると考えられています。
引用元
タイトル:Predator–prey interactions in the canopy
URL:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/ece3.6518
著者:Mark A. Linnell, Damon B. Lesmeister