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分析化学の話(3) - 標準不確かさ

標準不確かさとは?


1.不確かさ[1]

ごく大ざっぱにいえば、

$$
不確かさ \simeq 誤差
$$

厳密な意味で、"不確かさ"と"誤差"は別物です。ただ、イメージとしては似ていると個人的には思っています。

2. 2種類の不確かさがある?

不確かさには、評価方法によって、タイプAとタイプBの2つの種類に分かれます[2]:

表1 タイプAの不確かさとタイプBの不確かさの違い。標準不確かさを評価するには、どちらの不確かさか区別する必要があります。

2.標準不確かさ(タイプA)

$${N}$$個のデータから、平均値$${\bar{x}}$$を分析値としたい:

$$
\bar{x} = \dfrac{x_1 + x_2 + \cdots + x_N}{N} \quad \quad \quad \quad (1)
$$

このとき、平均値$${\bar{x}}$$の標準不確かさ$${u(\bar{x})}$$は[3]、

$$
u(\bar{x}) = \dfrac{s}{\sqrt{N}} \quad \quad \quad \quad (2)
$$

ただし、$${s}$$は標準偏差で、次式で与えられる:

$$
s = \sqrt {\dfrac{(x_1 - \bar{x})^2 + (x_2 - \bar{x})^2 + \cdots + (x_N - \bar{x})^2}{N-1}} \quad \quad \quad \quad (3)
$$

3.例題(タイプA)


ある量$${x}$$について、ある測定を3回繰り返した。次の3個のデータが得られた:

$$
x_1 = 48.9, \quad x_2 = 53.7, \quad x_3 = 46.6
$$

平均値と平均値の標準不確かさを求めよ。

図1 3回測定したデータ

【解答】
手順1:式(1)に従って、平均値を求めます:

$$
\bar{x} = \dfrac{48.9 + 53.7 + 46.6}{3} = \dfrac{149.2}{3} = 49.733 \cdots \quad (答)
$$

平均値の有効桁数は、次の標準不確かさの桁数によって決まります。中途半端ですが、余分に桁数をとっておき、いちおう答としときます。

手順2:式(3)に従って、標準偏差$${s}$$を求めます:

$$
s = \sqrt{\dfrac{(48.9 - 49.733)^2 + (53.7 - 49.733)^2 + (46.6 - 49.733)^2}{3-1}} \\ = \sqrt{\dfrac{(-0.8330)^2 + 3.9670^2 + (- 3.1330)^2}{2}} \\ = \sqrt{\dfrac{0.6939 + 15.7371+ 9.8157}{2}} = 3.6226 \cdots
$$

手順3:平均値$${\bar{x}}$$の標準不確かさ$${u(\bar{x})}$$を求めます:

$$
u(\bar{x}) = \dfrac{s}{\sqrt{3}} = \dfrac{3.6226}{\sqrt{3}} = 2.09 \cdots
$$

通常、標準不確かさの有効桁数は2桁にとります。よって、

$$
u(\bar{x}) = \boldsymbol{2.1} \quad \quad \quad \quad \quad (答)
$$

手順4:平均値の桁数を標準不確かさの桁数に合わせます。平均値の小数点以下第2位を四捨五入して、

$$
分析結果= \boldsymbol {49.7 \pm 2.1} \quad \quad \quad \quad \quad (答)
$$

【補足】
表計算ソフトMicrosoft Excel® [4]を用いれば、平均値はaverage関数で、標準偏差はstdev関数ですぐに計算できます。たとえば上記の例だと、下図のようになります:

図2 Excelで標準偏差を求めた例

4.標準不確かさ(タイプB)

許容誤差が$${\pm \; a}$$である場合の標準不確かさ$${u}$$は、「一様分布(矩形分布)」を仮定すると[5]、

$$
u = \dfrac{a}{\sqrt{3}} \quad \quad \quad \quad (4)
$$

5.例題(タイプB)


250 mLの全量フラスコ(メスフラスコ)がある。JISで決められているクラスAの体積の許容誤差が、±0.15 mLである。体積の標準不確かさ$${u(V)}$$を求めよ。

図3 全量フラスコ(メスフラスコ)。JISで体積の許容誤差が定められています。

【解答】
式(4)で$${a = 0.15}$$であるから、標準不確かさ$${u(V)}$$は、

$$
u(V) = \dfrac{0.15}{\sqrt{3}} = 0.0866\cdots = 0.087\quad \quad \quad \quad (答)
$$

【補足】
計算途中で$${u(V)}$$の値を扱う場合は、2桁じゃなく、有効桁数をもっととっておきます。

文献とNote

[1] "不確かさ"の定義:

不確かさ:測定の結果に付随した、合理的に測定対象量に結び付けられ得る値のばらつきを特徴づけるパラメータ(parameter, associated with the result of a measurement, that characterizes the dispersion of the values that could reasonably be attributed to the measurand)

ISO, Guide to the Expression of Uncertainty in Measurement (初版1993、修正版1995)

[2] タイプAとタイプBは、従来の偶然誤差と系統誤差と似ています。
[3] 慣習的に小文字の$${u}$$で標準不確かさを表します。$${s}$$を$${\sqrt{N}}$$で割るのは、たとえば、平均値の正規分布の標準偏差がもとの正規分布の標準偏差$${\sigma}$$より、$${1/\sqrt{N}}$$倍小さくなるからです(図4)。

図4 (---):もとの正規分布、():平均値の正規分布。平均値も正規分布に従います。例題(タイプA)の平均値と標準偏差に基づいて曲線を描いています(N=3)。

[4] MicrosoftおよびExcelは、米国Microsoft Corporationの、米国およびその他の国における登録商標または商標です。
[5] 式(4)の理由:
$${\sqrt{3}}$$で割るのは、一様分布(矩形分布とも)を仮定しているからです(図5)。一様分布の標準偏差$${\sigma}$$を標準不確かさとします。

図5 一様分布(矩形分布)。灰色の部分の面積は1。μは平均値。

$$
平均値(\mu) = \displaystyle \int_{-\infty}^\infty xp(x) \mathrm{d}x = \dfrac{1}{2a}\int_{\mu-a}^{\mu+a} x \mathrm{d}x = \dfrac{1}{2a} \bigg [\dfrac{x^2}{2} \bigg ]_{\mu -a}^{\mu+a} \\=  \dfrac{1}{4a} \Big [(\mu+a)^2 - (\mu-a)^2 \Big] = \dfrac{1}{4a}\times(4\mu a) = \mu
$$

$$
標準偏差^2(\sigma^2) = \displaystyle \int_{-\infty}^\infty (x-\mu)^2 p(x)\mathrm{d}x = \dfrac{1}{2a} \int_{\mu-a}^{\mu+a} (x-\mu)^2 \mathrm{d}x \\ = \dfrac{1}{2a} \int_{-a}^a X^2 \mathrm{d}X = \dfrac{1}{2a} \bigg [ \dfrac{X^3}{3} \bigg ]_{-a}^a = \dfrac{1}{2a} \bigg [ \dfrac{1}{3}(a^3-(-a)^3)\bigg ] = \dfrac{a^2}{3}
$$

よって、

$$
\sigma = \dfrac{a}{\sqrt{3}}
$$




【免責事項】本記事は単なるメモとして書かれたもので、その正確性を必ずしも保証するものではありません。本記事によって生じたトラブル、損失、又は損害に対して一切責任を負いません。また、著者が所属する組織とは関係ありません。誤りがあればご指摘ください。クレームはご遠慮ください。



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