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こんなにある!周期表にはない "元素" まとめ

みなさんこんにちは!サイエンスライターの彩恵りりだよ!

先日、私が仲良くしてるクリエイターで元素スキーのくしまくん (Twitter) から「周期表に載っていない元素ってある?」って質問を貰ったんだよ!これは以前から異種原子 (Exotic atom) と呼ばれているもので、せっかくなので調べたのをまとめてみたよ。前回と同じく、参考文献の量がヤバいから、ぜひそちらも観てね😂

ちなみに今回は、曲がりなりにも元素と言えそうなものに限定して調べてみたよ。なのでパイオニウムやグルーボールなどは除外したよ。

ポジトロニウム

ポジトロニウム (Positronium・$${_0\rm{Ps}}$$) は、異種原子のとてもシンプルな形態の1つで、ある意味水素の仲間と言えるよ。普通の水素である軽水素は陽子と電子がそれぞれ1つずつからできてるところ、ポジトロニウムは陽電子と電子がそれぞれ1つずつからできてるよ。陽電子は陽子と電荷は同じだけど、質量は約1800分の1しかなく、電子と全く一緒だよ。だからポジトロニウムは、どちらか片方がもう片方の周りを回るのではなく、共通重心を中心としてお互いに軌道を共有しているよ。陽子数が0個なので、ポジトロニウムは原子番号0番の "元素" と言えなくもないよ。

ポジトロニウムの内訳は物質と反物質なので、長い間は存在することができず、いつかは消滅してしまうよ。ポジトロニウムの存在それ自体が、電子と陽電子が対消滅する過程で生じる準安定状態と言えるからね。どのくらいの寿命で消滅するのかは、電子と陽電子の状態によるよ。電子と陽電子の持つスピンがお互いに逆向きとなっているパラポジトロニウム ($${p-\rm{Ps}}$$) の平均寿命は約0.1244ナノ秒 ($${1.244\times10^{-10}}$$秒) 、スピンがお互いに揃っているオルトポジトロニウム ($${o-\rm{Ps}}$$) の寿命は約138.6ナノ秒 ($${1.386\times10^{-7}}$$秒) と1000倍も違うよ。また、基底状態のポジトロニウムが1S軌道なのに対し、2Sの励起状態になると、オルトポジトロニウムの寿命は約1100ナノ秒 ($${1.1\times10^{-6}}$$秒) まで伸びるけど、基底状態に落ち込んだ時にはより速やかに崩壊するよ。対消滅した後、パラポジトロニウムは偶数個の光子、オルトポジトロニウムは奇数個の光子を放出するけど、通常はパラポジトロニウムでは2個、オルトポジトロニウムで3個だよ。それ以上の光子を放出する確率は、例えばパラポジトロニウムの4個やオルトポジトロニウムでの5個は100万分の1以下で、それ以上の数は指数関数的に少なくなるよ。また、ニュートリノと反ニュートリノのペアに崩壊し、光子を全く放出しない反応も考えられるけど、この事実上 "見えない" 崩壊は未だに観測された事はなく、実験的には500万分の1以下、理論的には6.2×10⁻¹⁸と見積もられているよ。

ポジトロニウムは電磁相互作用でのみ結合しているため、通常の水素と同じく化学反応させる事が可能なはずで、その振る舞いは非常に軽い水素の同位体のようなものであるはずだよ。ただこの寿命の短さのために、ポジトロニウムの化学はほとんど不可能なように思えるけれども、わずかながら分子を作る事に成功しているよ。1992年に水素化ポジトロニウム ($${\rm{PsH}}$$) の合成に成功し、より重い重水素化ポジトロニウム ($${\rm{PsD}}$$) の合成も報告されているよ。寿命はどちらも約0.65ナノ秒 ($${6.5\times10^{-10}}$$秒) だったよ。また2007年にはポジトロニウム分子 ($${\rm{Ps_2}}$$) の合成にも成功し、2012年には励起状態と光学特性の測定にも成功したよ。ポジトロニウムが化学結合をしている事は、崩壊時に生じる光子のエネルギーが、化学結合のエネルギー分だけ減っている事を測定すれば分かるはずだけど、これの測定にはまだ成功していないよ。もしこれが測定できるようになれば、他のポジトロニウム化合物を作成できる可能性もあるよ。

もしもこの宇宙で陽子崩壊が起こる場合、全ての元素は$${10^{40}}$$年ほどで全て消滅する運命にあるけど、その後の時代の宇宙では "元素" としてポジトロニウムが存在できる可能性があるよ。宇宙の膨張で物質密度が極めて希薄になれば、数千億光年離れた場所にある電子と陽電子が電磁相互作用で引き合い、極めて巨大なポジトロニウムを形成する可能性があるよ!そのような巨大ポジトロニウムが生成される時代は$${10^{85}}$$年後に訪れると考えられるよ。ただし巨大ポジトロニウムも、極めてゆっくりとだけど少しずつ軌道を小さくして行って、$${10^{141}}$$年後には対消滅を起こすと考えられるよ。現在見つかっている最も重いブラックホールでも$${10^{106}}$$年ほどで蒸発すると考えられている事から、巨大ポジトロニウムは宇宙に存在する最後の、単独の素粒子以上の複雑な構造になるかもしれないよ。

プロトニウム

プロトニウム (Protonium・$${^2_0\rm{Pn}}$$) は、異種原子のとてもシンプルな形態の1つで、ある意味水素の仲間と言えるよ。軽水素は陽子と電子がそれぞれ1つずつからできてるところ、プロトニウムは陽子と反陽子がそれぞれ1つずつからできてるよ。反陽子は電子と電荷は同じだけど、質量は1800倍も大きく、陽子と全く一緒だよ。だからプロトニウムは、どちらか片方がもう片方の周りを回るのではなく、共通重心を中心としてお互いに軌道を共有しているよ。陽子が1個、反陽子が1個なので、陽子数としては+1と-1で合計0だから、プロトニウムは原子番号0番の "元素" と言えなくもないよ。あれ、なんか同じ文章読んだかな?と思ったあなたはその通り!プロトニウムは水素を挟んでポジトロニウムの正反対版、鏡写しバージョンだよ。

ただし、プロトニウムはポジトロニウムと違い、およそ "元素" としての振る舞いは期待できないよ。ポジトロニウムの場合、電子と陽電子を結び付けているのは電磁相互作用なのに対し、プロトニウムの陽子と反陽子を結び付けるのは、電磁相互作用に加えて強い相互作用があるからだよ。強い相互作用は電磁相互作用より何十倍も強いため、通常の化学反応で引きはがす事はムリで、今のところ化学反応は観察されていないよ。一方でこの性質から、プロトニウムが崩壊するまでの時間は強い相互作用の強さに大きく左右されるよ。強い相互作用は原子核内部でしか働かず、研究が極めて難しい対象の1つだけど、プロトニウムはこの研究に重要な測定値を与えてくれるよ。理論的にはプロトニウムの平均寿命は0.1~10マイクロ秒で、実験的には約1.0マイクロ秒 ($${10^{-6}}$$秒) と測定されているけど、更に正確な値を求める努力が続いているよ。

陽電子は軽いために比較的作りやすいのに対し、反陽子は生成するのが難しいために、プロトニウムの生成は中々難しいよ。1つは、粒子加速器で原子核をぶつけるなどの激しい核反応で生成する方法だけど、これは生成されるかどうかは運頼みなところがあり、更に多くの無関係な粒子が生じるために、観測する事が困難だよ。もう1つの方法として、磁気トラップの中に陽子と反陽子をまとめて混ぜて作る方法だよ。技術的な難易度や生成確率の低さが課題となるものの、核反応で作る時と比べ、無関係な粒子が作られず、生成されたプロトニウムのエネルギーが小さい事から、基礎的な測定に便利という利点があるよ。

ニュートロニウム

ニュートロニウム (Neutronium・$${^1_0\rm{n}}$$) は、原子番号0番と言える "元素" のシリーズの3つ目だよ。軽水素の原子核は陽子が1個で中性子が0個だから、その反対として陽子が0個で中性子が1個の物をニュートロニウムと言う事ができなくもないよ。

ニュートロニウムを "元素" と考える場合、いくつかの面白い事が考えられるよ。ニュートロニウムは通常の原子核の中とは違い、自由中性子の状態と変わらないから、平均寿命約15分で崩壊するよ。崩壊時には電子と反電子ニュートリノを放出して陽子となるため、つまり軽水素になると言えるよ。中性子は電荷をもたないので電子をまとう事ができず、従ってニュートロニウムは化学反応を考える事ができないけど、ある意味で貴ガスであると言えなくもないよ。もしニュートロニウムをある程度の量だけ集められた場合、それは0.045g/cm³の平均密度 (水素ガスの半分) を持つ気体となるはずだよ。非常に放射性である事に加え、電荷も原子半径も持たないニュートロニウムは、どんな物質であっても簡単に貫通してしまうから、そんな量のニュートロニウムを合成し、何かの容器に閉じ込める事は現代科学では不可能だけどね。ただし非常に速度を遅くした超冷中性子であれば、ベリリウムや炭素などの中性子反射材で閉じ込める事は不可能ではないかもしれないよ。ニュートロニウムは零点エネルギーが高すぎるため、理論的には絶対零度に冷やしても気体を維持するはずだよ。ただし実際には、中性子同士が二量体を作り、超流動状態の気体に凝集する可能性があるよ。もしその場合、極低温ではボース=アインシュタイン凝縮を起こす可能性があるよ。そして超高圧をかければ、ニュートロニウムは安定化し、固化する可能性があるよ。これはまさに中性子星で起こる事と同じはずだよ。

ニュートロニウムには、中性子が1個の状態だけでなく、更に多くの数が結合した "同位体" を考える事ができるけど、これらの存在はどれも研究が不十分な状態で、まだきちんと認められたものはないよ。この区別が必要な場合、普通のニュートロニウムはモノニュートロン ($${^1_0\rm{n}}$$) と呼ばれるよ。また反中性子が合成されている事から、必然的に反モノニュートロン ($${^1_0\overline{\rm{n}}}$$) も存在する事になるよ。これは発見されている唯一の反ニュートロニウムだよ。

モノニュートロン以外で最も存在する可能性が高いのは、中性子が4個くっ付いたテトラニュートロン ($${^4_0\rm{n}}$$) だよ。とはいえ、いくつかの研究で独立して発見の報告があるものの、それでも追試に成功していないものや、データの解釈に議論があるものとなっているよ。最初は2001年に報告されたよ。この報告では、ベリリウムやリチウムの中性子過剰核を炭素のターゲットに照射し、$${^{14}\rm{Be}\rightarrow^{10}\rm{Be}+^4n}$$という反応式でテトラニュートロンを得たと報告しているよ。$${^{14}\rm{Be}}$$は中性子4個の中性子ハローを作る事から、不可能ではなさそうなものの、単一の信号に留まっている事もあり、この実験結果はまだ認められているとは言えないよ。2016年には、液体$${^{4}\rm{He}}$$ターゲットに中性子過剰核の$${^{8}\rm{He}}$$を照射する実験を行い、$${^{4}_{2}\rm{He}+^{8}_{2}\rm{He}\rightarrow^{8}_{4}\rm{Be}+^{4}_{0}n}$$という反応が稀に起こる事、これにより生成したテトラニュートロンは約$${10^{-21}}$$秒で個々の中性子へとばらけた、と観測したよ。更に2021年には$${^{7}_{3}\rm{Li}+^{7}_{3}\rm{Li}\rightarrow^{10}_{\hspace{3.5pt}6}\rm{C}+^{4}_{0}n}$$という反応が行われ、この時生じたテトラニュートロンの半減期は約7分30秒と自由中性子並の長寿命を持っていた、と報告されたよ。これについてはこれからの研究待ちだね。ちなみに、テトラニュートロンが仮に存在したとしても、それはダイニュートロンの更なる結合状態ではなさそうだ、と見られているよ。

次に可能性がありそうなのはダイニュートロン ($${^2_0\rm{n}}$$) だよ。ただしこれは、真に中性子同士が強い相互作用で結合したものではなく、共鳴による半束縛状態である可能性があるよ。ただし、強い相互作用の強さからすると、真の束縛状態となる可能性もあり、これについては議論が続いているよ。ダイニュートロンの可能性があるものは、非常に半減期の短い中性子過剰核である$${^{16}\rm{Be}}$$の崩壊で観測されており、$${^{16}\rm{Be}\rightarrow^{14}\rm{Be}+^2\rm{n}}$$となっている可能性があるよ。ダイニュートロンが非常に不安定であっても存在する可能性がある場合、恒星内部での核融合反応など、中性子が関わる元素合成に影響を及ぼす可能性があるよ。通常の核融合では、水素やヘリウムなどの軽い元素が核融合反応を起こしている段階では、原子核に衝突する陽子や中性子は単独状態であるとみなせるけど、もし中性子がダイニュートロンの状態となり、一度に2個衝突するような反応が起こる場合、より速やかに核融合反応と重い元素の合成が進む事になるからだよ。

その他の個数については、一時的な共鳴状態すら存在しない可能性が高く、合成報告も存在しないよ。特に中性子数が5個以上のニュートロニウムは存在しない可能性が極めて高いよ。

反水素・反ヘリウム

宇宙にあるすべての物質は何かしらの素粒子の組み合わせでできている、のはわかるよね?これら粒子は、ちょうど鏡写しのように対応するペアである反粒子が存在するよ (正確には、粒子に対する反粒子が存在するか、粒子自身が反粒子の性質を併せ持っているかのどちらかだよ) 。粒子と反粒子は、質量のように符号が同じものと、電荷のように符号が正反対のものがあるという違いがあるけれど、数字はどれも全く等しいことが予測されているよ。

元素の反物質が存在するのかと言えば、もちろん存在するよ。ただし、反粒子をダイレクトに生産する方法は存在せず、重い反粒子ほどエネルギーを必要とし、なおかつ生成確率が下がることから、現在のところ反水素 (Antihydrogen・$${_{-1}\overline{\rm{H}}}$$) と反ヘリウム (Antihelium・$${_{-2}\overline{\rm{He}}}$$) しか合成されたことがないよ。

反水素は原子番号-1で、今のところ合成されている反水素の同位体は反軽水素 ($${^{\hspace{5.5pt}1}_{-1}\overline{\rm{H}}}$$) 、反重水素 ($${^{\hspace{5.5pt}2}_{-1}\overline{\rm{H}}, \rm{\overline{D}}}$$) 、反三重水素 ($${^{\hspace{5.5pt}3}_{-1}\overline{\rm{H}}, \rm{\overline{T}}}$$) の3つだよ。さらに、反陽子 (と重水素および三重水素は反中性子) の周りを陽電子が回っている反原子の状態のものは、今のところ反軽水素のみが合成されているよ。他の反粒子と同じく、反水素も物質でできている容器に接触すれば消えてしまうため、保持はとても困難だけど、反軽水素だけは1000秒以上容器内で維持することができているよ。また一度に数万個の反軽水素原子を合成することもできるため、反原子の性質を調べるのには、この反軽水素原子が唯一使われているよ。

反軽水素原子は、電荷などの一部の性質は符号が反対だけど、数値の大きさなどは、対応する軽水素原子と全く同じ値を持つと考えられているよ。例えば、寿命は (陽子崩壊を考慮しなければ) 安定であり、他の反原子と化学反応を起こすはずだけど、残念ながらこれは検証できないよ。しかしながら一方で、反水素の質量や、反水素に働く重力はどうなっているのかを調べる実験は部分的ながらも進んでいるよ。これを調べるのには、反水素を自由落下させるなど、中々ダイナミックな実験を行っているよ!まだ実験の精度が荒すぎる物もあるけど、反水素が普通の水素と違う性質を示しているという兆候は見つかっておらず、今までの予測を裏付けているよ。

反ヘリウムは原子番号-2で、今のところ合成されている反ヘリウムの同位体は反ヘリウム3 ($${^{\hspace{5.5pt}3}_{-2}\overline{\rm{He}}}$$) と反ヘリウム4 ($${^{\hspace{5.5pt}4}_{-2}\overline{\rm{He}}}$$) の2つだよ。さらに、反陽子と反中性子の周りを陽電子が回っている反原子の状態のものは合成されていないよ。反ヘリウム4は2011年に合成されたよ。これはほとんど光速まで加速した金原子同士を正面衝突させて生成されたけど、衝突回数はほぼ10億回で、検出可能な荷電粒子は5兆個を超えたけど、その中で反ヘリウム4の存在を示すシグナルはわずか18個だったよ!しかしながらこの生成率は、理論的な予測とよく一致しているよ。また、国際宇宙ステーションに設置されたアルファ磁気分光器では、2021年時点で8回の興味深い信号を検出しており、これはもしかすると反ヘリウム3ではないか、と見られているよ。もしその場合、宇宙空間にはある程度大きな反物質の塊が現在でも存在する事になるよ。

今のところ、反原子や反原子核に相当する粒子は、これ以上重いものを生成するのは、少なくとも安定同位体の中では無理だと考えられているよ。例えば次に最も軽い安定同位体と予測される反リチウム6 ($${^{\hspace{5.5pt}6}_{-3}\overline{\rm{Li}}}$$) は、今の技術では反ヘリウム4の生成確率よりさらに100万分の1以下の確率になると予測されるから、事実上不可能になってしまうよ!新しい反原子や反原子核、あるいは反物質の化学を調べるのは、より技術的なブレイクスルーがないと難しいと思うんだよ。

ミューオニウム

ミューオニウム (Muonium・$${\rm{Mu}}$$) は、いくつかの面で例外的な存在の異種原子だよ。まず、この異種原子はオニウムじゃないよ。オニウムと名の付く異種原子 (前項のポジトロニウムやプロトニウムのような) は、同じ種類の粒子と反粒子のペアで構成されているものを指すよ。これに対してミューオニウムは、電子と反μ粒子 ($${\mu^+}$$) の組み合わせでできているから、ペアとなっている粒子の種類が異なっているよ。これはミューオニウムの合成と命名が1960年と比較的古いことに由来するものだよ。本当の意味でオニウムの基準を満たす、μ粒子と反μ粒子の組み合わせは、これがすでに命名済みで広く知られていることから、IUPACではミュオニックミューオニウム (Muonic muonium) 、一般的には真のミューオニウム (True muonium) という名称で呼ばれているよ。ちなみにこのオニウムはいまだに未合成だよ。また、電子やμ粒子と同じグループの素粒子であるτ粒子に関しては、あまりに寿命が短すぎる事から、τ粒子と電子・μ粒子・τ粒子との組み合わせは発見されていないよ。

次に、ミューオニウムはIUPACが化合物の命名法を正式に勧告するくらい、非常に "化学" が研究されている異種原子だよ。これはミューオニウムが比較的安定であることと関係しているよ。さっき説明した通り、ミューオニウムは電子と反μ粒子の組み合わせでできているよ。電子はそこら中にあり、反μ粒子は電子の約206倍の質量であることから、やはりかなり簡単に合成可能で、ミューオニウムを大量生成することはそれほど難しくはないよ。次に、反μ粒子の平均寿命は約2.197マイクロ秒 ($${2.197\times10^{-6}}$$秒) と長いことがあげられるよ。日常感覚だと50万分の1秒なんて一瞬じゃないかって思うかもだけど、化学の世界では化学的性質を調べるのには十分な時間だし、なにより合成が容易であることから何回でも実験できて、非常に調べやすいという理由があるんだよ。ミューオニウムの一般的な化学的挙動は、非常に軽い水素の同位体のような性質を持っているよ。寿命の短すぎるポジトロニウムや、そもそも引きはがせないプロトニウムと比べたら、よっぽど水素の仲間のような感じの振る舞いをしているよ!

ではどういう場面でミューオニウムを使うのかというと、水素のようなふるまいをしつつも、分析を容易にするための手段として使うんだよ。ミューオニウムが化合すると、電子を離して反μ粒子が残る形になるよ。反μ粒子の性質は電子 (正確には電荷の一致する陽電子) とほとんど同じだけど、大きく違う点として質量は約206倍も重いよ。そしてミューオニウムを作るために生成される反μ粒子は、その生成方法に由来して、スピンと呼ばれる性質が2つのうちの片方に偏っているという性質を持っているよ。スピンという性質の詳しいところは置いといて、これを磁場を使って高感度に調べるμSRという分析手法が使われるよ。これは普通に電子と原子核でできたもので調べるよりもよほど高感度であり、あるいはある特定の位置の水素原子をミューオニウムに置き換えることで、特定の化学結合のみを対象として調べるなんてこともできるんだよ!この分析手法では、ミューオニウムが崩壊し、放出された陽電子の運動方向と速度を計測することで調べられるけど、これを調べることで、他にも電子状態のような化学において重要な情報も伝えてくれるんだよ!例えば、有機化合物の炭素をケイ素に置き換えた化合物がある場合に、どちらが反応性が高いのか、というのを調べる実験にミューオニウムが使われた、というのがあるよ。

しかし最もユニークなのは、今のところミューオニウム化合物でのみ見られる新種の化学結合かもしれないね。1980年代に予言された振動結合と呼ばれるこの化学結合は、2015年になってようやく実証されたんだよ。ミューオニウムは水素と同じふるまいをするので、ハロゲンに対しては1:1の化合物を作るよ。ところが臭素とミューオニウムを化合させた臭化ミューオニウム ($${\rm{MuBr}}$$は、臭素原子に対してミューオニウムが非常に軽いことから、一部は臭化ミューオニウムを作らず、$${\rm{Br^--Mu^+-Br^-}}$$という中間状態を作るよ。2つの臭素原子が1つのミューオニウムを取り合うような構図で、2つの臭素原子の間をミューオニウムが行ったり来たりするよ。このことから、この化学結合を振動結合と言うんだよ。振動結合は温度が高いほど激しくなり、中間状態でいる時間が長くなるよ。このため、温度を上げると臭化ミューオニウムの生成効率が悪くなるという、通常の化学反応とは真逆の現象が起こるんだよ!振動結合は、化合物を構成する原子の相対質量が極端でないと起こらないと考えられることから、普通の水素で振動結合を観察するには非常に不安定な放射性元素でないとみられないと予測されることから、当面はミューオニウム特有の化学結合であると思うんだよ。

ミュオニック原子

ミュオニック原子 (Muonic atom) は、特定の1種類の異種原子を指す言葉じゃないから注意してね。直訳すれば "μ粒子化した原子" という意味になるように、ミュオニック原子は電子の一部 (ほとんどの場合1個) をμ粒子 ($${\mu^-}$$) で置き換えた原子のことを指すよ。例えばμ粒子を持つ水素原子はミュオニック水素、ヘリウム原子ならミュオニックヘリウムと呼ばれるようになるよ。ちなみに、μ粒子の質量が質量数で言えばほぼ0.1である事から、ミュオニック原子の代わりに0.1を使った表現があるよ。例えばヘリウム4のミュオニック原子なら、ミュオニックヘリウム4と呼ぶ代わりにヘリウム4.1と表現したりするよ。ミュオニック原子は、さっきのミューオニウムのようにμSRを行えることで特徴づけられるけど、他の用途も考えられていて、研究されているよ。

μ粒子の電荷の大きさは電子と一緒だけど、質量は約206倍もあるよ。するとμ粒子の軌道は電子の約206分の1まで落ち込むよ。原子と言う単位でこれを観ると、陽子とμ粒子の電荷が打ち消し合い、陽子1個分だけ中性の粒子ができたように見えるよ。陽子が1個しかない水素がミュオニック水素になると、実質的には中性で非常に半径の小さい粒子とみなす事ができるんだよ。これで役に立つようになるのが核融合発電だよ。核融合反応を起こすには原子核同士を合体させないといけないけど、そのためには陽子同士で働く電磁相互作用の反発力に勝たないといけないよ。ミュオニック水素は衝突する直前まで中性粒子のように振る舞うから、普通の水素と比べて核融合が容易にできるようになるはずだよ!まるでμ粒子が核融合反応の触媒の働きをしているように見える事から、これをμ粒子触媒核融合と呼ぶんだよ。もしこの形式の核融合を行えるなら、通常の核融合炉のように超高温のプラズマを磁気トラップによって閉じ込める必要はなく、理屈的には常温で、実用的に観ても低温で液化すれば核融合反応が行えるよ!ただし、現在のところμ粒子触媒核融合は実験段階に留まっているよ。実用化には、μ粒子の生成に必要なエネルギーよりも、核融合反応で得られるエネルギーがプラスにならなければ当然意味がないよ。このためには、μ粒子の効率的な生成と、無駄のない利用が必要になるよ。この点で課題となるのはμ粒子が無駄になってしまう反応の除去だよ。水素の核融合反応、特に最も実用化への障壁が低い重水素と三重水素の核融合反応では、核融合反応の結果としてヘリウム4が生じるよ。ヘリウム4は重水素や三重水素の2倍の電荷を持っており、それだけμ粒子を強く引き寄せるよ。一方でそれによって生じるミュオニックヘリウム4は核融合反応には何の役にも立たず、そしてミュオニックヘリウム4からμ粒子を引きはがすのは事実上不可能だよ。このためμ粒子触媒核融合では、ヘリウム4がミュオニックヘリウム4となる前にヘリウム4を除去する方法を開発するか、ミュオニックヘリウム4で無駄になってしまう含めて大量にμ粒子を生成する方法を開発するかのどちらかを取らないといけないよ。

ハドロン原子

普通の原子の原子核を構成する陽子や中性子は、素粒子のグループの1つであるクォークの組み合わせでできている複合粒子で、これを総称してハドロンと言うよ。普通の原子は周りを素粒子である電子が回っているけど、これを負の電荷を持つハドロンに置き換えたのがハドロン原子 (Hadronic atom) だよ。ハドロンはクォークが2個の中間子と3個のバリオンに分かれる事から、前者を中間子原子 (Mesonic atom) 、後者をバリオン原子 (Barionic atom) と呼ぶよ。こう呼ぶ事はないけれど、定義上プロトニウムもバリオン原子と言う事になるよ。ハドロンはクォークで構成されており、どれも強い相互作用が働くから、ハドロン原子は電磁相互作用だけでなく強い相互作用でも結合していて、これも強い相互作用の研究に使われるよ。

中間子原子は今のところ、π中間子が結合したπ中間子原子 (Pionic atom) と、K中間子が結合したK中間子原子 (Kaonic atom) のみが合成されているよ。K中間子原子は1979年に合成されたけど、π中間子原子は2020年と遅かったよ。これには主に2つの理由があるよ。まず、K中間子にはストレンジクォークというクォークが含まれているという点で研究が優先されたんだよ。陽子や中性子、そしてπ中間子はアップクォークとダウンクォークの組み合わせでできていて、ストレンジクォークを含んでいないよ。ストレンジクォークに働く強い相互作用を調べる事で、アップクォークやダウンクォークだけでは分からないクォークや強い相互作用の本質に迫ろうとする研究が行われたため、K中間子原子は優先して合成されたんだよ。そして中間子原子は、中間子の寿命そのものよりも、原子核と中間子の衝突によって崩壊してしまう事から、同じくらい寿命が長いπ中間子とK中間子は同じくらいの難易度で、これもπ中間子原子が後回しにされた理由だよ。K中間子原子の最初の研究では、K中間子と陽子や中性子に働く強い相互作用が引力なのか斥力なのか20年近く不明だったという歴史があるけど、1997年に引力的であるという結論に達したよ。

バリオン原子に関しては、唯一合成されているのが反陽子原子 (Antiprotonic atom) だよ。反陽子水素はプロトニウムとイコールだから、事実上の最も軽い反陽子原子は反陽子ヘリウム (Antiprotonic helium) で、実際に研究は反陽子ヘリウムで行われているのが大半だよ。標準模型では、陽子と電子は電荷の符号が正反対なだけで大きさは一緒、質量は約1800倍違うと予測されていて、実験的にもよく知られているよ。一方で陽子と反陽子は、電荷の符号が正反対なだけで、電荷の大きさと質量は全く一緒、電子と反陽子では電荷の符号も大きさも全く一緒であると予測されているよ。これらの予測が本当に正しいのかどうかを調べるために使われるのが反陽子ヘリウムで、今のところこの予想は当たっているよ。

中間子束縛原子核

中間子束縛原子核 (Meson bound nuclear) は、存在こそかなり古くから予言されていたものの、実際に合成されたのは2019年とかなり最近だよ。現時点で知られている唯一の中間子束縛原子核はK中間子束縛原子核 (Kaon bound nuclear・$${\rm{K^-pp}}$$) のみだよ。これは原子核の性質が関係しているよ。原子核を構成する粒子は強い相互作用で結合しているけど、この時の結合エネルギーは構成する粒子の質量エネルギーの一部を変換しているよ。だから原子核の質量は、原子核を構成している粒子の個々の粒子の質量の合計値より小さいという性質があるよ。K中間子がくっついた原子核を合成しようとしても、K中間子と原子核の構成粒子の質量の合計値の方が小さいから、うまくくっつかないんだよ。更にこの合成されたK中間子束縛原子核の場合、組み合わせが負のK中間子1個と陽子2個で、3個同時にくっ付けることは事実上不可能、かといってどの2個の組み合わせを観ても不安定すぎてくっつかないと、問題だらけだったんだよ。そこでちょっと工夫して、$${\rm{^3He +K^-\rightarrow K^-p^+p^++n^0}}$$という反応でK中間子束縛原子核を合成したんだよ。これはより分解してみると$${\rm{p^+p^+n^0+K^-\rightarrow K^-p^+p^++n^0}}$$という反応で、K中間子をヘリウム3原子核にぶつける事で、K中間子の運動エネルギーを減らし、かつ束縛状態に置くために、中性子をはじき出すという核反応だよ。K中間子束縛原子核はK中間子原子と似ているけれど、K中間子原子は原子核からある程度離れたところにK中間子があるのに対し、K中間子束縛原子核はダイレクトに原子核にくっ付いている事から、より強い相互作用の研究に適していると見られるんだよ。

ハイパー核

ハイパー核 (Hypernucleus) は、原子核の構成粒子にハイペロンを含む事からついた名前だよ。ハイペロンとはストレンジクォークを含み、チャームクォーク、ボトムクォーク、トップクォークを含まないバリオンの事だよ。つまり1個以上のストレンジクォークを含み、バリオンはクォーク3個の複合粒子なので、残りはアップクォーク、ダウンクォーク、ストレンジクォークのいずれかでできている事になるよ。ある意味では、普通の原子核の構成粒子である陽子や中性子はストレンジクォーク0個のハイペロンとも言えるし、この意味でハイペロンは原子核の構成粒子となりうるよ。ただし、ハイペロンは陽子とも中性子とも異なるので、パウリの排他原理の制約を受けないよ。また、ハイペロンに働く強い相互作用は陽子や中性子に働くものと異なるよ。これらの性質から、原子核の内部で働く強い相互作用を直接探る事ができるよ。なお、ハイペロンの寿命の短さから、ハイパー核の寿命はどれも大体1億分の1秒前後だよ。

ハイペロンにはΛ粒子、Σ粒子、Ξ粒子、Ω粒子があるけど、ハイペロンには電荷を持つものがある事から、ハイパー核の表記はかなり特殊になるよ。普通の原子の場合、元素記号の左側には質量数と原子番号を書くけど、ハイパー核の場合は元素記号の左側は原子核の構成粒子数と含まれるハイペロンの種類を書き、元素記号は電荷の値を表す表記法となるよ。例えば$${\rm{^{\hspace{0.5pt}3}_{\Lambda}H}}$$と書いた場合、電荷は水素の元素記号なので+1となり、構成粒子は質量数が3なので陽子・中性子・Λ粒子が1個ずつとなるよ。では$${\rm{^{\hspace{0.5pt}4}_{\Sigma}He}}$$と書いた場合はどうなるかと言うと、若干複雑だよ。Σ粒子は電荷が+1・0・-1の3種類がある事から、ヘリウムの原子記号である+2、質量数で粒子の合計は4個に合わせようとすると$${\rm{p^+n^0n^0\Sigma^+,\space p^+p^+n^0\Sigma^0,\space p^+p^+p^+\Sigma^-}}$$の3通りがあり得るから、どれがどれだか分からないよ。だから例えば$${\rm{^{\hspace{3pt}4}_{\Sigma^-}He}}$$のように、符号を正確に付けておくと、より分かりやすくなるよ。なお、質量数はあくまでも原子核を構成する粒子の数であり、実際の質量数とは一致しないよ。例えばハイペロンの中で最も軽いΛ粒子でも陽子や中性子の1.2倍くらいの質量を持つよ。また、原子核の周期表とも言える核図表においても、ハイパー核は特殊な表記となるよ。核図表は縦横に陽子数と中性子数を書くけど、更に高さ軸を設けて三次元的にして、ストレンジクォークの数であるストレンジネスで位置を決めるよ。普通の原子核はストレンジネスが0で、1のところにはΛハイパー核やΣハイパー核、2のところにはΛΛハイパー核やΞハイパー核が入るよ。

ハイパー核は1952年に$${\rm{^{\hspace{0.5pt}3}_{\Lambda}H}}$$が初めて合成され、これまで数十例のΛハイパー核が合成されているよ。また、Λ粒子を2個含むΛΛハイパー核は1963年に合成された$${\rm{^{\hspace{1.5pt}10}_{\Lambda\Lambda}Be}}$$など数例があるよ。Σハイパー核とΞハイパー核は非常に珍しく、1982年に合成された$${\rm{^{\hspace{3pt}9}_{\Sigma^-}Be}}$$と2013年に合成された$${\rm{^{\hspace{1.5pt}15}_{\Sigma^-}C}}$$が、ほぼ確実に合成が認められているものたちだよ。Ω粒子を含むΩハイパー核だけは未だに未発見だよ。そして、ハイパー核の反物質である反ハイパー核が1つだけ合成されているよ。それは$${\rm{^{\hspace{0.5pt}3}_{\overline{\Lambda}}\overline{H}}}$$で、反陽子・反中性子・反Λ粒子が1個ずつで構成されている事からハイパー三重陽子 (Antihypertriton) とも呼ばれるよ。2010年に初めて合成された、それだけでもすごいけど、その後2020年になって普通のハイパー三重陽子 ($${\rm{^{\hspace{0.5pt}3}_{\Lambda}H}}$$) との質量差を測定するまでになって、今のところ誤差範囲内で質量差は観られないとなっているよ。反ハイパー核は金原子同士の衝突で合成されていて、反ヘリウム4が合成されるまでの短い間、最も重い反物質でもあったよ。

ところでハイパー核をどう合成するのかと言うと、2つの方法があるよ。1つはπ中間子をぶつける方法だよ。π中間子に含まれる反ダウンクォークと中性子に含まれるダウンクォークが衝突すると、まずは粒子と反粒子の反応で対消滅するよ。この時π中間子は加速されていて運動エネルギーを持つから、ダウンクォークと反ダウンクォークの質量に加えて運動エネルギーも一部追加されるよ。すると、より重いクォークであるストレンジクォークと反ストレンジクォークが生成されるよ。こうしてストレンジクォークは元々中性子だった粒子に残ってΛ粒子に、反ストレンジクォークは元々π中間子だった粒子に残ってK中間子となるよ。この反応ではΛハイパー核の生成が起きやすく、Σハイパー核の合成はできなくはないけど珍しくなってしまうよ。一方で、ストレンジクォークが2個のΛΛハイパー核やΞハイパー核はこの方法では作れないから、直接ストレンジクォークを2個含むΞ粒子をぶつけて合成するよ。この方法はより不安定な粒子を経由し、原子核への衝突エネルギーも強いから、どうしてもΛΛハイパー核やΞハイパー核はΛハイパー核と比べると合成報告が少なくなってしまうよ。

ちなみに、他のクォークによる似たようなものはないのかと言えば、今のところは進んでおらず、これからと言う感じだよ。次に合成されそうなのはチャームクォークを含んだ原子核だよ。チャームクォークを含むバリオンはスーペロンと言うから、本来ならスーパー核 (Supernucleus) と呼ぶべきだけど、ハイペロンの次に合成や研究がされるという立ち位置なせいか、チャームハイパー核 (Charmed hypernucleus) とかチャーム核 (Charmed nucleus) と呼ばれる事の方が多いっぽいよ。この原子核の合成報告は、チャームΛ粒子 ($${\rm{\Lambda^+_{\hspace{1pt}c}}}$$) を含む原子核の合成報告が1件だけあるけど、いまいち正体が分かっておらず、本当に合成されているかどうかも不明な状態だよ。もしもこの合成が本当だった場合、それは$${\rm{^{\hspace{3pt}4}_{\Lambda^+_{\hspace{1pt}c}}Be}}$$か$${\rm{^{\hspace{3pt}4}_{\Lambda^+_{\hspace{1pt}c}}He}}$$、あるいは$${\rm{^{6+k}_{\hspace{1.5pt}\Lambda^+_{\hspace{1pt}c}}C\space\tiny{(k\geq1)}}}$$のいずれかである可能性があるよ。

参考文献

全般

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