
2 子どもにしか聞こえない音1
2021年10月29日 最終更新日時 :2022年1月25日
TX816
サイエンスエッセイ2
実験の動画は
しばらく前、公園にたむろする若者を「撃退」するためとして、高周波(高い音)を流したという記事があった。若い人ほど高い音が聞こえ、高齢になると聞こえなくなることを利用したのだ。高い音は若者には不快に響き、高齢者には聞こえない。
モスキート音というらしい。実際の蚊の羽の振動数は350~600回/秒ぐらいだそうだから、あまりふさわしい名前とも思えないが。
その記事を読んだ時に、これは面白いなぁ、実験装置を作ってみようとなった。発振器、アンプ、スピーカーをつないだ。一番面倒だったのは、全体をコンパクトにまとめてケースに収めること。私たちは依頼で現場に行ってみなさんに楽しんでもらう。だから装置は安全で確実に動くことのほかに、可搬型で組み立て分解が簡単という条件が加わる。実はこれが一番手を焼く。
スピーカーはいわゆる2ウェイ、低音用と高音用の2種類を装着。低音といっても「ぽー」「ぴー」ぐらい、高音は「きー」から「ひー」ぐらい。これで、人間の可聴域の限界といわれる20000Hzを超え22000Hzを出す。(Hzはヘルツと読んで、毎秒の波数のこと)
実験は6000Hzから(この辺なら誰でも聞こえる)スタートして1000Hzずつ音を上げていく。参加者には手を挙げていてもらい、音が聞こえなくなったら降ろす。10000Hzを超えたあたりから、ぽつぽつ手が降りはじめる。見事に年齢順である。
筆者は14000Hzあたりが限界である。いつまでも手を降ろさない子どもたちを見ていると「ほんとに聞こえてるんか?」と心配になる。ほとんど耳鳴りの状態だから、聞こえている気になっているだけじゃないかと。
そこで18000Hzあたりにいたずらを仕込んである。「次は18000!」などとアナウンスしながら、音を止めてしまうのだ。するとどうだろう。見事に手が下がるのである。やはり聞こえている。もっとも挙げっぱなしの子どもも少々いるが。
「あ~ごめんごめん、音が出てなかったぁ」と言うと安心したような笑いが起きる。「今度は音が出てるからね、はい18000!」と言うとさっと手が挙がる。もはや大人たちの手はない。そして22000Hzまで挙がり続ける。22000Hzで終わるのは、早い人は10000Hzを超えたあたりで手を降ろしているので、以降はずっと暇だからだ。
「子どもたちはすごいねぇ。大人のできないことができるんだ」と称賛しておく。
この実験のタイトル、当初は「大人には聞こえない音」だった。「~できない」という否定形の言い回しは避けたいねと、「子どもにだけ聞こえる音」にした。これなら肯定文だ。ところがステージでこのフレーズを言うと、どうも座りが悪い。インパクトに欠ける。タイトルを聞いた参加者が「何だろ、それ」と瞳キラキラアップの度合いが少ない。
それで現在の「子どもにしか聞こえない音」になった。否定形ではあるけれど、~しか~ない というつながりの中の言葉だから、否定している感は柔らかい。それでいて「子どもにだけ聞こえる音があるよ」と「子どもにしか聞こえない音があるよ」では後者の方が「何それ?」と子どもたちは反応する。