9 さりげないVFX
2022年4月10日 最終更新日時 :2022年8月23日
TX816
サイエンスエッセイ 9
映画「ドライブ・マイ・カー」を見た。途中、「これはどうやって撮ったのだろう」と思わせるシーンがあった。
VFX担当というエンドクレジットが流れて合点がいった。あれはVFXだったのかと。以下は「おそらく」の域を出ないものであるが・・・
そのシーンは、自動車専用道を走る主人公の車を上空から撮ったものである。首都高速のような(舞台は広島だから、当然ちがうけど)所で撮影されているのだが、主人公の赤い車以外は(見た限り)全て無彩色なのだ。結構な数の自動車が写っているのだが、有彩色しかも赤い車は1台。どれが主人公のそれであるか一目瞭然になっている。
宇宙もの、恐竜ものなどに代表される、実写と見紛う「いかにもVFX」もあるが、こんなさりげないVFXのさりげない効果もいいものだ。
というところで、私たちのVFXを。クロマキーと呼ばれテレビなどで今では当たり前のように使用されている。今回私たちはブルーバックと呼ばれる、青い背景の前で演技して、背景の映像と重ねた。カメラは写した映像の色を赤・青・緑の3色に分解して処理するが、そのとき青を消してしまうのである。映像から青の情報が抜け、そこは透明になる。透明になった所に別の映像を重ねるわけだ。最近はグリーンバックと呼ばれ、バックを緑にしたものもよく見かける。
映画「男はつらいよお帰り寅さん」で桑田佳祐がテーマソングを歌う。土手と青空がバックにあるが、あれはグリーンバックだ。何かのテレビ番組で撮影シーンがちらりと映ったのだが、手前に草を置き桑田がいて、後ろは全面緑の壁だった。映画でさえそうやって撮影されている。「さりげないVFX」である。
17秒と35秒あたりをご覧あれ
ところで、バックはどうしてブルー、またはグリーンなのだろう。
色相環を見てみよう。青の向かい(補色)は黄色だ。黄色の隣のオレンジや黄緑は黄色が混じった色だ。そうすると環の反対側の青は一番黄色が入っていない色ということになる。日本人の多くが「黄色人種」と呼ばれるように、黄色は皮膚の色に影響を及ぼす。それで、抜いてしまっても皮膚の色に一番影響を与えないのが青であり、ブルーバックというわけだ。
ではグリーンバックはどうか。緑の向かいはピンクである。緑を抜いてしまってもピンクには影響がない。ピンクというのは実は白人の皮膚の色に影響を及ぼす色だ。だから欧米ではグリーンバックが普及し、今では日本でもグリーンバックが多くなっている。
10年少々前、筆者は高校生とクロマキーで映像を作った。低い位置にカメラを置いて、ズームインすると変身して巨大化する高校生が生まれる。彼は街を踏み壊していく。編集してレンダリングが必要で時間がかかった。今はリアルタイムで表示できる。やっとサイエンスイベントのネタにできた。10年間のコンピュータの進化を実感する。
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