16 超音波検査
サイエンスエッセイ 16 超音波検査
今年も超音波検査を受けた。痛みも音もなくリアルタイムで自分の腹の中を見られるのは不思議だ。
超音波検査の原理は意外に単純である。超音波を体内に向けて発射し、臓器に当たって跳ね返ってくる音をとらえて映像にする。それで、超音波検査のことを「エコー」と呼ぶことも多い。
検査に使われる超音波の振動数は毎秒数百万ヘルツ。人間の耳に聞こえるのは2万ヘルツまでと言われるから、検査の音は全く聞こえない。それでも音は音だからその性質は我々が聞く音とさほど変わらない。検査で使われる音の性質は、柔らかいものは通過しやすく固いものでは反射することだ。だから水や、水っぽいものは音が通過するため反射しない。エコーが返ってこないので画面には黒く映る。骨や筋肉、脂肪などはそれぞれ音を反射するので、その割合によってグレーから白く映る。
一方、この超音波は空気など分子の間が隙間だらけの気体の中は通過できない。そこでプローブと呼ばれる体に押し当てる器具は、皮膚と密着するようゼリーを塗る。
映像はもわもわしていて素人には何だかわからない。とはいえ、回数を重ねるとある程度はわかってくる。
以前、ポータブルの超音波検査機の販売会社が無料で1週間貸し出すことがあった。早速借り出して、1週間自分の腹の中を覗いた。画像の資料もなかったが、肝臓の中の門脈と呼ばれる太い血管、胆のう、腎臓などはその位置と形で見当がついた。肋骨の下から胸の方を見ると、なにやらドクンドクンと動いていたからきっと心臓だろう。
面白いのは血流が見えることである。これは発射した音と戻ってきた音の周波数の違いを測定している。プローブに向かって流れてくる血液に当たって戻ってくる音は、周波数が大きくなっている。遠ざかる血液に当たると周波数は小さくなる。これはドップラー効果と呼ばれ、救急車のピーポーが近づいてくるときは高く(といってもわからないが)遠ざかるときは低くなる(これははっきりわかる)のと同じ原理である。プローブに向かって流れてくる血管は赤、遠ざかる血管は青く表示される。
さて、わが身の検査だ。実は胆のうにポリープがある。もう40年ぐらい前からで直径が4mm、球形のものが胆のうの壁にくっついている。壁が盛り上がった形状ではないし、大きさも全く変わらないから、気にするようなものではない。それがくっきりと見えるのだからたいしたものだ。腎臓は脇腹にあるソラマメ形の臓器。図鑑のとおりでわかりやすい。最近、嚢胞(のうほう)ができた。水が溜まっている部分で、年のせいだそうだ。腎臓の他の部分に比べて黒い丸い形がはっきり見える。腎臓本体より水の方が音を通すので黒いのだ。肝臓の門脈も同様、本体より血液の方が音を通すので血管の形に黒い。一番気にしているのは肝臓の色。お酒の飲みすぎなどで肝臓に脂肪がたまると音を通しにくくなり白っぽくなる。アルコール性脂肪肝だ。とはいえ、見えている肝臓が白っぽいかどうかは判断がつきにくい。そんな時は隣の腎臓と比べるそうだ。腎臓より白いかどうかでわかるとか。筆者は「ちょっと白い」のだそうだ。膵臓は「これがそう」と言われてもわからない。膵臓がんは、そのほとんどが膵液の通り道の膵管にできる。それで、膵管の壁の厚みを測る。がんがあれば管の壁がその分厚くなるからだ。筆者は正常。ほっ。そして前立腺。これも位置と形ですぐにわかる。
今年も何事もなく健康診断を終えた。安心して帰途についた。