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熱帯・亜熱帯にある低圧部あれこれ

2024年台風第7号は日本の東を東海上へ北東進し、日本上陸は免れました。事前に計画運休をされた事業者にとっては拍子抜けであったかもしれません。しかしこの台風の前後で被災された方もいらっしゃることから、科学を社会に発信する側、社会にて自然災害の対応をされる方、もちろん台風監視・予測に従事されている方、それぞれ振り返りを行うのは大切です。

SNSで”カタカナ用語が多い”と私は書き込んだのですが、たぶん漢字にしてもわからない人が多いかもしれないし、アルファベットで書いて発音しても、聞きなれない音で困惑するかもしれません。私の巷では台風研究者は非常に多いのですが、一般の方はその人が台風研究の中でもどの分野に強く、どういった論文を書いているのかわからないと思います。

その上、最近は気象予報士が台風の科学について解説することが多くなりました。私はこういった動きが進むことで、研究者は取材を受けることなくデータ取得・解析やシステム構築、文献調査といった研究活動に時間を割くことができるので大歓迎です。しかしSNSやテレビ等で解説を聞いていると、私の理解・認識と違う点も出てきます。

すごく怖いのは大多数の使用している用語が科学用語となることです。論文の査読(もちろん執筆時)に文献を引用して専門用語を使うことはありますが、専門用語は英語なので、カタカナ表記に直す必要がでてきます。このような時、既に使用している人がいて、それを参考にしてその用語を使う人が多ければ、疑問の余地なくその用語を使うべき、となるかと思います。

さて前回、

2024年台風第5号にまつわる話|和田章義 (note.com)

にてモンスーンジャイアの話をちょこっと書きました。moisture roadやmoisture conveyer belt、大気の川と併せたのは水蒸気の輸送経路と太平洋高気圧に着目したかったからです。もちろん自分の論文の宣伝もあります。

今回は熱帯や亜熱帯で形成される低圧部について、モンスーントラフと呼ばれるもの、モンスーンジャイアと呼ばれるものの話です。私はこの分野の専門家ではない(論文を書いていない)のですが、科研費ではこの低圧部も研究対象となっています。


図 2019年8月1日00UTCのJRA-3Q海面校正気圧(hPa:等値線)、JRA-3Q850hPa風ベクトル(m/s △内のカラーは風速)、海面水温(℃、RSS社のマイクロ波観測データのみの日別値)。青線は着目した低圧部として加筆したもの。

2019年台風第4号(HAGUPIT)の発生の時の総観場を示したものです。青い太線は私がモンスーントラフと思った低圧部域です。矢印は低圧部が東へ張り出していることを示しています。矢印の先は台風第4号でその先の小さい低圧部は台風になれなかった模様です。西側の熱帯低気圧は台風第3号です。モンスーンが西太平洋海域に張り出して低圧部を形成しているのですが、これは半日周期で出来たり消えたりします。


図 2022年7月21日00UTCのJRA-3Q海面校正気圧(hPa:等値線)、JRA-3Q850hPa風ベクトル(m/s △内のカラーは風速)、海面水温(℃、RSS社のマイクロ波観測データのみの日別値)。赤線は着目した高圧部として加筆したもの。

先ほどのモンスーントラフの例でも、東側で海面水温が高かったのですが、2022年7月21日00UTCでは海面水温が高いところに高圧場があります。モンスーンジャイアの場合はその前に高圧場があって海面水温が高くなり、そこに低圧場が居座るという経過となりました。


図 2022年7月27日00UTCのJRA-3Q海面校正気圧(hPa:等値線)、JRA-3Q850hPa風ベクトル(m/s △内のカラーは風速)、海面水温(℃、RSS社のマイクロ波観測データのみの日別値)。青線は着目した低圧部として加筆したもの。

さて、今回の台風第5~8号を産み出した低圧部はどうだったのでしょう?


図 2022年8月3日00UTCのJRA-3Q海面校正気圧(hPa:等値線)、JRA-3Q850hPa風ベクトル(m/s △内のカラーは風速)、海面水温(℃、RSS社のマイクロ波観測データのみの日別値)。青線は着目した低圧部として加筆したもの。

青線を2本引きました。内側の低圧部は実は太平洋高気圧と大陸の高気圧に挟まった形で存在していたので、モンスーン起源とは言えないと思います。しかし外側の等圧線を見ると、南側は大陸まで伸びていて、モンスーントラフの中にモンスーンジャイアがあるような形をしています。しかし北側の等圧線は太平洋高気圧の一部となっています。

モンスーントラフは半日周期で存在すると私は認識しているので、天気図を12時間毎に見ると常に現れて見えます。半日周期は”うそ”というのであれば私が誤解しているということです。しかし私は1990年代の気象庁観測船の観測データからこの半日周期が実際に観測されていることを確認したことがあります。そもそも私が研究職を志した動機は観測船のデータ解析だけでは現象を理解できない、もっと面的な分布をみて、時間変化を理解したいと思ったことでした。当時は面的分布といえば数値モデルだったので、数値モデルを扱う部署に異動できたのは幸いでした。

今回の記事はもっと深堀りすれば査読論文に成り得る情報(学術的問い)を含んでいますので、これ以上の紹介はしません。大気海洋再解析データが使えれば、どなたでも研究ができる題材かもしれないので、自らの手でデータを加工して、自分なりの図を作ってみてはいかがでしょうか?



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