2月の本: ルシア・ベルリン『掃除婦のための手引書』
ルシア・ベルリンは本屋で平積みになっているのを時折見かけたので、図書館で借りて読んだ。
彼女の作品の世界の整理されていなさ、Tidyではないというか。歯医者の祖父が入れ歯を作る作業部屋は40年間掃除されず、蝋や食べカスや蜘蛛の巣が地層をなしている。何度も刑務所に出戻りする所内のライティング教室の「常連」たち。コインランドリーで出会う難癖をつけてくるおっさんやアル中のインディアン。チリのアメリカ人向け学校で教える共産党員はチリ人たちに後ろ指さされているのに気付けない。そんなとっちらかりや滑稽さに対して短編の主人公たちは、一定の共感を持ちながら、突き放す。主人公は、作者自身のそれぞれの年代の投影であることが多いが、それらとっちらかった現実に巻き込まれ割を食うのでもある。だから彼女の生活自体もとっちらかる。典型的に家族との関係によって人の人生はとっちらかるものだ。まわりから割りを食らいながらも共感してしまう、そうやってぼくら生きているよなぁと納得する。
彼女の妹が死の病を得て、主人公が妹の住むメキシコで世話をする日々がいくつかの短編に描かれる。これらのもとになった経験は作者自身にとって重いものだったのだろうなと思わせるものばかりだ。死にゆく人がどうやって死に向き合うか、折り合いの過程を周りはどう助けてあげられるのか、家族との関係をどう振り返るか、そして人生の時間は取り返しのつかないことをふみしめること。生きることをごまかさずに見つめてきた人が書く物語はすとんと心に落ちて、悲しい見通しの良さを感じられる。