Black Lives Matterにみる米国CEOの人権対応
[最新ニュース] #経営者 #黒人差別 #構造的暴力 #企業の人権方針
近年、米国では企業のトップが政治的な問題に意見を述べ、自らの立場を明らかにすることが従来よりも増えています。今回は、Harvard Business Reviewの記事をもとに、従業員・消費者が求める「人権尊重に対するコミットメントの高いCEO像」について解説します。
Black Lives Matterへの米国企業CEOの反応
2020年5月のミネソタ州ミネアポリスで発生した黒人男性を白人警官が死に至らしめた事件をきっかけに、Black Lives Matterの議論が激しくなりました。その後、すぐに、米国に拠点を置くグローバル企業のCEOは、それぞれの「立場」を表明しました。
彼らは、黒人差別という構造的暴力を批判し、自らが企業として加担しないこと、差別を生み出す社会構造が生まれない仕組みを強化する方針を発信しました。以下に、原文もあわせて紹介します。
1)コカ・コーラ:「従業員、ビジネスパートナー、地域社会と一体となって人種差別や差別を拒否します。人種差別や不正行為から、黒人や有色人種の人びとを守るために、彼らの怒り、恐怖、悲しみ、失望を分かち合います」
"We stand as one with our employees, business partners and communities in rejecting racism and discrimination. We share their anger, fear, sadness and disappointment over the lack of progress in protecting Black Americans and people of color from acts of racism and injustice."(一部抜粋、2020年6月1日付プレスリリース)
2)ボーイング:「差別行為が社内で起こった場合、それに関わった人に対して厳しく対処します。当社のリーダーも、社内でも地域社会でも、不当に扱われる人のために戦うことを奨励します」
"And you can be certain that when unacceptable acts of discrimination happen inside Boeing, the tolerance of this company for the people who engage in them will be precisely zero.(一部省略) Let me make that absolutely clear: Harassment in any form, whether verbal, written, visual or physical, is not tolerated at Boeing. As a leader, I will stand up for those targeted unfairly by others. I expect all Boeing leaders to do the same in our company, and I encourage them to do so in their communities as well."
(一部抜粋、2020年6月1日付プレスリリース)
3)IBM:「いかなる種類の人種差別も容認しません。あらゆる形態の差別と闘うことを約束します。何かサポートが必要な場合は、各部署のリーダーに伝えてください。より良い会社やより良い社会を築く様々な活動に感謝します」
"I want you to know: IBM will not condone racism of any kind, and we are committed to fighting discrimination in all its forms and wherever it exists.(一部省略)I ask all IBMers to join me in creating an even more inclusive culture at IBM. I encourage you to reach out to your IBM leaders if you need any support. Thank you for all you are doing -- for each other, and for your help in building a better company and better society. "(一部抜粋、2020年5月31日LinkedIn)
4)シティ:「当社は、ダイバーシティとインクルージョンを大切にし、その価値を守るために戦います。これらの構造的な問題は、正面から立ち向かわない限り解決しません。憎しみ、人種差別、不正をに対し、声を上げ続けなければなりません」(最高財務責任者・CFOのMark Mason)
"I'm proud to work at Citi, an organization that cherishes diversity and inclusion and is willing to stand up for those values when they are threatened, whether it's working to close the gender pay gap in our industry or calling out the violence of white supremacists in Charlottesville. These systemic problems will not go away until we confront them head on. So we must continue to speak up and speak out whenever we witness hatred, racism or injustice. I know I will – and I hope you will too. "(一部抜粋、2020年5月29日オフィシャルブログ)
「共感を呼ぶCEO」より「自ら闘うCEO」
上記の通り、世界的に有名な企業のリーダーたちは、人種差別や不正義に対する明確な立場を表明し、自社の課題として捉え、具体的なアクションを社内外に呼びかけたことは、一見、経営者として十分なコミットメントかと思われます。
しかし、Aaron K. Chatterji i氏(デューク大学准教授、ハーバード・ビジネス・スクール客員准教授)とMichael W. Toffel氏(ハーバード・ビジネス・スクールのジョン・ハインツ上院議員環境経営学教授)は、「こうした従業員や消費者の共感を得ることを目的にしたメッセージを発信するだけでは十分ではない」と指摘します。「抗議活動を行う何万もの市民は、企業のリーダーに意見を発信してほしいのではなく、社会構造そのものを変えるリーダーシップを発揮してほしいと思っています。政治力を発揮し、法案成立に向けて闘うことが期待されているのです。」
CEOアクティビズムの実績
CEOがアクティビストとして積極的に人権問題に関わり、社会を動かしていく流れは、2018年には「CEOアクティビズム」と呼ばれる言葉も出現するほど、普遍化しつつあります。(別の記事で紹介します)
最後に、CEO自らが人権課題に対し、政治的に取り組んできた米国の歴史の一端を紹介します。
【性的マイノリティに関する法案】
・アップルCEO:2015年3月、性的マイノリティに対する差別を法的に認め得るインディアナ州の宗教的自由回復法(RFRA)に対し、公正なビジネスの障害になるとして、反対する声明を発表。(2015年3月29日ワシントンポスト)
・ノースカロライナ州CEO団体:ハウス法案2(トランスジェンダーに「出生証明書と同一の性別」のトイレを使うよう求める州法)の廃止の立法プロセスに意見書を提出。(2017年3月30日シャーロット・オブザーバー紙)
まとめ
日本において、CEOが政治的なメッセージを発信することは、まだまだ稀です。しかし、日本社会の中にも、在日コリアン、外国人、障がい者、性的マイノリティ、元受刑者に対する社会の様々な場面での差別など、気づかないだけの身近なところでの人権侵害は、数多く存在します。
それらの政策立案に企業のリーダーが参画するのは、やや難しいと思われがちですが、従業員・消費者・株主・NGO・ステークホルダーの要望が、CEOアクティビズムを後押しできます。つまり、わたしたちにができることとして、従業員・消費者として声を上げることが重要なのです。
さらに言えば、海外で起こっている人権課題に対しても、グローバル企業のCEOが積極的に発言・発信することは、リーダーとして当然の「人権対応」とも言えます。そして、CEOとは、企業の社会的責任の具現化のために、社会の一員として人権問題に取り組むことが求められているのです。
米国の事例からは、「人権尊重に対するコミットメントの高いCEO」の発信力と行動力を学ぶことができたでしょう。経営ビジョンで掲げるような「社会変革」の実現方法の1つとして「CEOアクティビズム」も取り入れてみてはいかがでしょうか。
Social Connection for Human Rights/ 鈴木 真代