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大人も子どもも、自分で選ぶことができる幸せな学校に。

こんにちは。埼玉県の公立小学校で教員をしている齊藤勇海(さいとう いさみ)です。

今年で9年目になります。昨年まではプロを目指して、社会人リーグでサッカー選手としても活動していました。僕がサッカーを好きになったきっかけをくれたのが小学校の先生で、そういう子どもたちに夢を与える仕事をしたくて、先生になりました。

最近はICTを活用した学習に力を入れていて、校内で研修を開いたり、オンライン実践報告会で自分の実践を発表させていただいたりしています。

きっかけは、「違和感」と「学校外の視点」

学校への息苦しさは、教員をしながらも感じていました。社会人サッカーのチームメイトと会話をしているときに、その思いがより強くなったんです。

僕が何気なく「先生たちがつらそうで、楽しく過ごせていない感じがあるんだ…」と言ったら、「それって子どもたちは楽しいの?」と返ってきました。

自分自身でも肌感覚として、今の学校ってなんかおかしいなと思っていたことが、学校外の人たちの言葉によって確信に変わりました。子どもたちが楽しく学校へ通い、楽しく学ぶには、まずはその学校で働く大人が楽しく過ごしていることが不可欠だと思います。

そのためには、大人自身がオーナーシップを持って、自己決定していくことが重要なのではないでしょうか。そうすれば、子どもたちが自己決定できる場をつくることもでき、ゆくゆくは子どもたちの幸せへと繋がると思います。

選べることは自己決定に、自己決定は幸せにつながる

子どもたちは机の上で勉強するのがスタンダードだと思いがちなので、僕はあえて「自分が学びやすいように教室をデザインしてごらん」と言っています。自分が集中しやすいのであれば、椅子を机として使ったり、窓の方に机を向けたりしてもいい。

最近では、教室の掲示板をホワイトボードに変えました。ことの発端は、子どもたちの「先生!自由に書き込める広めのスペースがほしいです!」という発言でした。友だちと教え合って学ぶ子たちにとって、アウトプットできる場所がノートやタブレットだとどうしても狭いようでした。

話し合いの中では、壁に模造紙を貼るという案も出ていましたが、ある子が「ホワイトボードにしたら会社みたいじゃない?」と言ったことがみんなの支持を集め、決め手となりました。

環境を少し変えただけで、子どもたちの学びはどんどん活性化されていきました。算数の授業では、問題を早く解き終えた子ども同士がホワイトボードの半分を使って問題を出し合い、もう半分では算数が苦手な子に解き方を説明していたりするんです。たまに僕も、一緒になって説明を聞いています。

 理解されないこともある。でも、それも含めて対話していきたい

僕は自由にやりたいことをやってしまう方なので、同僚の先生から「周りとのバランスも考えてほしい」と言われてしまったことがあります。

だから、周りの先生方や保護者の方には、自分の考えを大事にしながらも押し付けにならないよう、丁寧に会話を重ねるように努めています。

例えば周りの先生方に対しては、毎週水曜日に勤務が終わる前の10分間を使って「GIGAカフェ」という研修を開いて、ICTが苦手な先生向けに使い方を話しています。びっくりしたのは、若手の先生方よりもベテランの先生方の参加率の方が高かったことです。

参加してくれた先生方は、スキルを身につけることが目的だとは思うのですが、まだ9年目の僕が主催する研修に来てくれたのは単純に嬉しかったです。

この研修を通してICTのスキルや知識を伝えることはもちろん、「子どもたちの選択肢を広げ、それぞれに合った学びにもつながること」を伝えたいと思っています。

また、校内研修のテーマを「これからの教育とは」にしてもらい、「人と社会のwell-beingの実現」という内容でプレゼンをしました。

そこでは「子どもたちが幸福になるためには、自分の好きや得意を探求していったり、自己肯定感が高まったりすることが大切で、そのためには自己決定が必要だと思います。今の学校教育は自己決定できる場になっていますか?自分が幸せでない状態で社会の幸せを考えていくことは難しいですよね!」とお話させてもらったのですが、そのときは賛否両論ある感じでした。

「まあ、そうだよね」と頷いてくれる人もいれば、「これは公立校ではできないでしょう」という感想をくれた人もいます。こういったことを通して、それぞれの教育観について対話していけたらいいなと思っています。

対話をするだけでも、必要なこととそうでないことは明確になっていくと思いますし、これからもそんな場をつくれないかなと考えています。

保護者の方には、個人面談のときに自分の教育観やその根っこになる部分のお話をさせてもらいます。「子どもたちが大人になったときの社会は、自分たちで新しい価値や文化を創造して発展していく時代です。なので、特定の知識を教えることを超えて、自分の足で立って、自分の頭で考えて自己決定し、他者と共有できる学びが大切だと考えています」と。

また、子どもの自己決定を促す問いかけを日常的にするよう心がけていることや、自由進度学習にしたことや長期休業中の宿題を選択制にしたことなど、実践したことをお伝えしました。

それ以外にも、持ち帰ったタブレットから各教科で作成している製作物や友だち同士で撮影した動画など、学びの様子を見られるようにしています。

 大人がオーナーシップを持って対話し、幸せな姿を子どもたちのモデルに

先生や職員の方が幸せそうにしていることは、子どもたちにものすごく影響があると思っていて、下手な取り組みより、シンプルに幸せな姿を見せることの方が良い影響を与えると思います。

だから僕は、大人が幸せな姿を子どもたちに見せ続けていきたいですし、そんな姿を学校単位で見せられたらいいなと思っています。

それにはやっぱり働き方の問題は避けては通れません。でも、職員室で働き方について自分の意見を言えている人はあまりいないと思います。職員室で自分の思いを話せない人たちが、教室に行って「みんなで話し合いましょう」とか「仲良くしましょう」とか言うのは、すごくしんどいことなんじゃないかって思うんです。

だから、まずは先生たちがしっかりオーナーシップを持って、自分でなにかを決定したり、対立を恐れず対話したり、そういったことができる学校にしなきゃいけないのかなと思います。

School Voice Projectに期待すること

School Voice Projectには、学校の声を外に届けてくれることを期待しています。僕だけじゃなく、今の学校のあり方に対して問題意識を持って教育の現場にいる人って結構多いと思います。

その声は学校の中でさえ共有されにくいのに、ましてや外にはもっと出にくいと感じています。だからその声を外に届けることによって、同じ思いの人と繋がれたらいいなと。

声を届けることで少しでも何かが変わった経験を先生自身が積むことができて、「自分でも変えていけるんだ」と感じられる取り組みになってほしいし、僕も参画してそんな取り組みにしていきたいです。このプロジェクトが先生たちの変わるきっかけになったらいいなと思っています。


プロフィール 齊藤 勇海(さいとう いさみ)
埼玉県の小学校教員。「自分の 好き を大切に!」選手生活と教員生活を両立。「教えない」をモットーに、子どもたちが自己決定や学び方をデザインできる環境を整えるため、日々試行錯誤。
探究クリエイタープログラム1期生・NPO法人タイプティー所属・SVPアンバサダー
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(文:藤孝史 編集:建石尚子)

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