2020’sの若者キャリア論 中村伊知哉教授 × 古屋星斗 後編
※ 本稿は、一般社団法人スクール・トゥ・ワークの2019年4月25日付ブログ記事「2020’sの若者キャリア論 中村伊知哉教授 × 古屋星斗 後編」の転載です。
人生100年時代。Society5.0。日本人のキャリアづくりが大きく変わりつつあります。これまで“新卒一括採用システム”によって支えられてきた若者のキャリアづくりも同様です。「2020年代の若者キャリア論 特別対談」として、今回はi専門職大学学長に就任予定の中村伊知哉先生と、スクール・トゥ・ワーク代表理事 古屋星斗の対談が実現しました。
前回 2020’sの若者キャリア論 中村伊知哉教授 × 古屋星斗 中編
『早期で多様な選択を』
中村:
少し話が変わるのですけれども、最近、幼児から社会人まで教育全体を変える必要があると考えています。そこで超教育協会という団体を作りました。その協会のミッションは、教育に先端テクノロジーを入れること。
たとえば、小学校はデジタル教科書がようやく導入されて、プログラミング教育もようやく始まりますが、世界的に見たら相当な遅れです。世界ではすでにAIやIoT、ブロックチェーンの時代に入ろうとしているため、周回遅れになっています。
テクノロジーをどのように入れればいいか、というところから始まって、学校の壁を取り払ったような教育の仕組みとか、ブロックチェーンを個人で管理するにはどのようにすればいいのか、それを議論するだけではなくどうすれば実装できるのかを今考えているところです。
キャリア教育や、ファイナンス教育など、話には少し出てきますが、しっかりやっている人はいなくて、そういう方向の取組も進めていこうと思っております。
古屋:
金融教育ですとか、キャリア教育もそうですし、いろいろな「○○教育」が出るのですが、大人にできることは「最低限のきっかけを与えること」だと思っております。今の時代Googleで調べればすぐ出てきますので、関心があれば、寝る前の五分間でほとんどのことが調べられます。
そうなるときの最初の取り掛かり、これを提供するのが大人のやるべきことだと思っております。また、教育×テクノロジーでエドテックと呼ばれていますが、一つ言えるのは、非常に効率的な学びになることですよね。
私は「早期で多様な選択」というのが、一つの理想像だと思っています。その理想像には現在どの国でも行きついてないわけですが、具体的には中学3年生の段階で、何かの修士号を持っている、もしくは何かしらの分野で一流の人間になっているとか。
最近いくつかの事例が出てきておりますが、例えば農業高校の女子高生が、夏休みの自由研究でウミガメの研究をしていてですね、それで学術誌に論文が乗った、という。
実は一つの分野で、15歳までにテックの力を借りて勉強時間を圧縮してやってしまえば、マスター学位取得までに必要な時間を15歳までに確保できるのではないのかと思っております。
かつ好きであれば、好きを軸としたモチベーション調達ができる。好きだからやろうということで、例えばウミガメの研究で実は英語の勉強が必要でしたりとか、数学が必要だったりする。するともともとの基礎学力強化のモチベーションにもつながるわけですから、いいことしかないと思うのですよね。
ですから私の一つの理想像として、15歳でプロフェッショナルとしてチャレンジをして、5年チャレンジして失敗してもまだ20歳。まったく問題なくリカバリー可能ですよ。
この「失敗の経験」は「キャリア上の成功」です。他方、もしこれが現在の24歳のマスター取得者だとしたら、5年たって失敗したら30歳になるわけです。
そうするとかなりリスクが高まります。挑戦できるタイミングというのを早めにすることが私の一つの未来社会の理想像です。
中村:
すごく面白いと思います。超教育協会でも、尖った高校だったり中学校、すごい幼稚園だったりに入ってもらいたいわけなんですよ。それぞれ行くところは別々でいいのですけれども、何かいろいろなことができる、大人たちも協力しますという「場」を作りたいのですよね。
いろいろな大人が協力するから、とできれば面白いのですよ。そういう、「15歳でマスターコース」じゃないですが、マスターに認定したり、大人たちや企業はそれで応援したりですとか、そういうのを作っていくのは大いにありですね。
古屋:
現代では、年齢というのは社会に対して一つの大きな信頼指標になってしまっているのですね。だから大人がやっていることそのものを高校生にやらせてみたらいい。究極的には、いくつかの分野においては年齢というのは関係ないんだな、というのが見せられると思います。
成人式で暴れる若者から考える、若者のエネルギーと、この社会の未来
古屋:
最後にちょっと違う話をしたいなと思っているのですが、成人式で暴れる若者という話が毎年ありますね。私は暴れたニュースを聞くと、日本にはまだまだ希望があるなと思っているのです。
というのは、ドイツなんかを見ると、ああいう場で暴れているのって外国人、移民なのですよね。
数年前のニューイヤーフェスティバルか何かで、外国人の若者が女性の方に乱暴したというようなことでドイツではかなり騒ぎになったということがありました。
ああいった場で「外国人が暴れた」という風になるとどうなるか。簡単に、「外国人けしからん」と排斥運動に繋がってしまうのですね。
まだ日本は、若者が外国人と一緒に暴れてしまうという状況にある。その一点で未来があるなと思っていて。ドイツなどで起こっているのは、外国人が暴れていてその国の若者がそれを遠巻きに見ている状況が最悪なわけですよね。
そうなると、その瞬間にドイツとかイギリスとかアメリカみたいな話になって、社会的な分断が極めて進んでしまう。私はそういう意味で若い世代のエネルギー量というのが社会の安定性、民主主義の健全性に直接つながるのかなと。
私はこういう意味で、成人式では若者に暴れてほしいし、暴れたことのニュース自体に希望があるなと感じます。この前のハロウィンの渋谷の騒動でも逮捕された15人ほどのうちの何人かは外国籍の方でしたが、栃木県から来て暴れていたヤンキーだったり東大生がいたり、暴れている若者の属性が多様なんですね。
もちろん人に迷惑をかけることは論外なのですが、人に迷惑をかけない程度で、例えば成人式でやんちゃをするという程度のことは、大きく見れば社会の分断を防ぐと思います。
中村:
古屋さんは今32歳でしたっけ。昔の若い世代はもっと暴れていたわけですよ。学園紛争で暴れた連中がいて、僕らは、そのずっと後で、それでも結構大学中心に暴れていたし、その後もヤンキーが街で乱暴するように不良になっていきました。
その後、みんな、ネットの上で暴れるようになってきて。炎上したりしているのだけど、日本はうまく暴れる場があってうまく抑えてきたということですよね。
なんとなく僕も感覚としても暴れる場所が減っているなと感じがするのです。つまり、ネットでも規制が入ってきていき、駄目が広がっていっている。
どこかで綺麗にバーンと噴出するだったらいいのだけど、「おさえろ」と。国の活力を削ぎますよ。やはり「暴れ噴出孔」みたいなものを作らなきゃいけないんだと思う。
i専門職大学は噴出孔じゃないけど、ちょっとここで暴れてみるか、挑戦してみるかとできる特区にしたい。
責任の取り方としては、「3回叱られたら」出て行ってもらうみたいなルールを決めて暴れるというような場でもいいかなと。法律違反はやめとけよ、みたいな。そういう空間がこの社会にはなくなっていますからね。
古屋:
今のルール社会、厳しいルールが、若者の熱意というかエネルギーを削いでしまっている面もあるのかもしれませんね。21世紀の日本は、若者が世界でもっとも少ない国であることを運命づけられている国なわけです。
しかし、「少ないことイコールつまらないことではない」ので、少ないけれどもめちゃくちゃ面白いという社会を目指して活動しております。
本日はありがとうございました!
中村 伊知哉
i専門職大学 学長(就任予定)
慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科 教授
1984年ロックバンド「少年ナイフ」のディレクターを経て郵政省入省。通信・放送 融合政策、インターネット政策を政府で最初に担当するが、橋本行革で省庁再編に携わったのを最後に退官し渡米。
1998年 MITメディアラボ客員教授。2002年スタンフォード日本センター研究所長。2006年より慶應義塾大学教授。著書に『コンテンツと国家戦略~ソフトパワーと日本再興~』(角川EpuB選書)、『中村伊知哉の「新世紀ITビジネス進化論」』(ディスカヴァー携書)、『デジタルサイネージ戦略』(アスキー・メディアワークス、 共著)など。
古屋 星斗
一般社団法人スクール・トゥ・ワーク 代表理事
1986年岐阜県多治見市生まれ。大学・大学院では教育社会学を専攻、専門学校の学びを研究する。卒業後、経済産業省に入省し、社会人基礎力などの産業人材政策、アニメ・ゲームの海外展開、福島の復興、成長戦略の立案に従事。アニメ製作の現場から、仮設住宅まで駆け回る。現在は退官し、民間研究機関で次世代の若者のキャリアづくりを研究する。
一般社団法人スクール・トゥ・ワーク
一般社団法人スクール・トゥ・ワークでは、学生及び早活人材(非大卒人材)に対するキャリア教育事業等を行っています。
私たちは、キャリアを選択する力の育成を通じて、未来を生きる若者全てが安心・納得して働き、その意欲や能力を十分に発揮できる社会の実現を目指します。
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