ポルシェ・ボクスターと出逢って
~イントロダクション~
「NAで、ライトウエイトな日本車に乗りたい──」
昔からそう思っていた。特に、外車にはあまり興味が無かったし、ポルシェの車なんて空冷で古臭いスタイルの911というクルマがあることと、ポルシェにしては中古相場が安いオープンカーが存在するということしか知らなかった。大学時代はクルマを維持するお金も無く、クルマを買う妄想ばかりしていた。網走刑務所と書かれた暖簾が入口に掲げてあった刑務所(研究室)に入所していた頃は、あらゆる不安とプレッシャーに押しつぶされながらも、カーシェアのクルマでドライブしたり、中古車情報サイトを見漁ることで出所までの3年間をなんとか耐え凌いでいた。
「買うならRX-8あたりかな・・・」
NAロータリーのロマンとシャーシ性能に惹かれ、就職したらまずはRX-8を購入しようと考えていた。そう、987ボクスターに出逢うまでは。
「どう?運転してみる?」
987ボクスターに乗っている先輩に誘われ、昼食ドライブへ行くことになった。勧められるがままに、キャララホワイトのボディの左側へ向かい、ドアを開ける。見慣れないエンブレム、日本車とはまるで違うインテリア、そして左ハンドル。シフトノブが右側に存在するのに強い違和感を覚えた。計器やスイッチ類を確認し、クラッチを床まで踏み込み、ギヤを1速に入れる。わざとらしいぐらいアクセルをあおり、恐る恐るクラッチをつなぐ。ミッドシップに搭載される2.7Lの水平対向6気筒エンジンはトルクフルで、何の不安もなく発進をサポートしてくれた。そして、駐車場から出る際に右折するため右手の中指をしっかりとレバーにかけ、ウインカーではなくワイパーを作動させた。
走り始めてすぐに交差点を曲がったとき、足回りのしなやかさと、オープンカーとは思えないボディの剛性感に驚いた。交差点を抜け、スロットルを開けていくと6気筒エンジンの重厚なサウンドが背中から響いてくる。確実に、自分が今まで見ることの無かった世界に魅せられてしまっている。この魅力に気付かされてしまったのが運の尽きであった。何故なら、容易に抜け出せなくなってしまうから。
~マイ・ボクスターとの出逢い~
大学院修士課程を退院(修了)し、就職した僕は毎日狂ったようにカーセンサーを見漁っていた。
左ハンドル、MT(無ければ7速PDK)、ベージュ内装でベースグレードの987ボクスターを探していた。ある日、業者オークションで左ハンドルで走行43000キロ、ベージュ内装の987ボクスターの後期型が出品されているのを発見。MT車では無かったが、PDKの方が楽だし速そうだと思い迷わず購入を決意した。
納車日にボクスターの鍵を受け取ったとき、久々にワクワクしている自分がそこに居た。誰かに見せたくてたまらなくなり、納車した足で大学入学当初からの友人Mに「飯に行かないか」とだけ連絡し、迎えに行った。颯爽とボクスターで現れた僕を見て、「うそ!?」とデカい声を上げてびっくりしていたMの表情が今でも忘れられない。
~性能はどうなの?~
今までハイパフォーマンスなクルマに乗ったことが無かったので、ボクスターの性能にただただ驚きっぱなしだった。素人でも分かるハンドリング性能、宇宙一と形容されるポルシェのブレーキの良さもすぐに実感できた。正直、性能について語れるほどの感覚や語彙力を持ち合わせていないので、ぜひ試乗などを行ってステアリングを握ってみてほしい。
~実際、利便性ってどうなの?~
そもそも利便性など2シーターのオープンカーに求めるのが大間違いだ・・・と言いたいところだが、ボクスターは違う。室内空間も広いし、前後にトランクもある。4~5人用のテントやポータブルタンドール、寝具などを積載してキャンプへ行けるぐらいには荷物が積めるのだ。もはや実用車と言っても過言ではあるまい。
~経済性はどうなの?~
燃費に関しては、主に郊外やバイパスを走行していて平均10km/L程度である。排気量2.9Lのクルマにしては悪くないのでは?と思う。タイヤサイズはF:205/55/ZR17、R:235/50/ZR17なので、同じ世代の987ボクスターSや997などと比べればそこまで高くはないと思う。そもそも、趣味のクルマなので税金が安いかどうかとか燃費が良いかどうかを気にする人には向いていないクルマだ。
~故障はするの?~
今のところ、重大な故障は発生していない。幌のワイヤー部分が外にはみ出る不具合が発生しているぐらいであり、走行に支障をきたす故障は発生していない。長時間アイドリング時に2、3回ほど「エンジンブロワ コショウ」とメーター液晶部に表示されたことがあるが、エンジンをOFFにし鍵を抜いたら警告画面が消えたので良しとした(ラジエターファンが回らないという状態だったら困るが・・・)。
~987ボクスターのデメリットは?~
楽しすぎて走りすぎてしまうこと。これに尽きる。2020年8月頭に納車してからもうじき10か月が経過しようとしているが、もう20000km走ってしまった。もちろん、お金は飛んでいく。でも楽しいから良しとする。
あと、強いて挙げるとすれば人間が2人しか詰めないこと。頑張ればフロントトランクとリヤトランクに1人ずつ入って、計4名乗車が可能なのかもしれないが・・・
~987ボクスターのメリットは?~
カッコいいし美しい。道の駅やSA、PAなど寄った際にトイレから帰ってきた際に自分のボクスターが視界に入ると「なんだあのカッコいいクルマは・・・まあ自分の車ですが・・・」となることが多い。
次に、スポーツ性と快適性が両立されていること。ワインディングロードで気合を入れて走れば、ボクスターのしなやかなサスペンションが路面をしっかりと捉え、ミッドシップに搭載されたエンジンで背中を蹴飛ばしてくれる。コントローラブルなブレーキが、1400kgという軽くない車体を確実に減速させてくれる。一方、まったりドライブをしていても快適だし、エアコンの効きも良い。高速道路を走っていても路面に吸い付くように安定しているし、幌車のわりにロードノイズも比較的小さい。
また、走行時でも50km/h以下なら電動ソフトトップのの開閉が可能なこと。開閉時間も12秒と早いため、ストレスなく気軽にソフトトップを開閉できる。オープンカーの屋根は開けるために付いている、と言っても過言ではない。オープンにして好きな音楽を聴きながらドライブするのは最高に気持ちが良い。
そして何よりも、運転していて楽しいこと。コックピットに乗り込み、ステアリングを握るだけでこれほどまでにクルマが楽しいと思ったのは、ボクスターが初めてだった。疲れやすく、長距離運転が苦手だと思っていた僕に、より遠く、より長く走っていたいと思わせてくれる、そんなボクスターに乗れることが幸せだ。
~あとがき~
今後もボクスターとは長い付き合いをしていきたいと思っている。コロナウイルスが落ち着いたら、ボクスターで九州や北海道にも行ってみたい。また、ボクスターにスタッドレスタイヤを装着してスキーにも行ってみたい。まだ見ぬ酷道、険道を探検してみたい。このように、まだまだ楽しそうなイベントがいっぱい待ち構えている。購入してから20000kmを走行し、オドメーターが64000kmを超えたがエンジンはまだまだ元気いっぱいだ。事故だけはしないように充実したカーライフを送っていきたい。