あなたを守る事で救われていた

7歳の時に弟が生まれて、私は姉になった。
彼が生まれた日の事はよく覚えてる。

明け方近くに母が産気づいたので、私も目が覚めた。
雨の降る早朝、薄明るい窓の外。
湿度の高さを感じた。

母と家に帰って来た小さな生き物は、ふっくらした頬に自分よりもずっと小さな手。近付くとなんだかいい匂いがした。

彼が生まれた事によって、母の私への関心はより薄れて、子供心は痛んだけれど、
数年もしたら結局は弟への愛しさの方が勝った。

何処へ行く時も、弟の手を放さないようにしてた。
「おねえちゃんの手、はなさないでね」
そう言って。

弟はどちらかというと大人しい子だった。

_母は仕事が忙しいと言って、弟がある程度育つと彼の面倒を私たち兄妹に見させるようになった。

その頃兄は遊びたい盛りの10代前半の男の子で、子守りよりも同世代の友達との遊びに夢中だった。

家には私とまだ小さな弟二人だけが残された。
(今だったら色々と問題になるのかもしれないけど)

私は宿題をしながら弟と子供向けのテレビ番組を観て相槌を打ったり、一緒に遊んだりして親が家に帰って来るまで過ごしてた。

共働きの両親は普段子供と過ごす時間が取れない負い目からか、本やレンタルビデオ(そのうちDVDが出てきた)等は欲しいものを買い与えてくれた。

「おねえちゃん、これ一緒に観ようよ〜」
よく弟にそうせがまれて一緒にアニメ等を観たりしてたら、同世代が観ないアニメの内容に詳しくなったりした。

_そんな生活だったので、自然と弟は私に懐いた。

学校から帰って来たら、すぐに私のところへ駆け寄り、抱きついて今日の出来事を嬉しそうに話す。
私はそんな弟を見ているのが好きだった。

外でどんな嫌な事があっても、弟が私に屈託なく笑いかけてくれる…そんな小さな事で、救われたような気がした。

弟に必要とされていると思うと、生きるのも悪くないなあと思えた_。

家の外でも中でも、私たちの周りは理不尽で溢れていたから。

年々傾いていく家業、イライラする事が多くなる母親、放蕩三昧でトラブルを持ち込む兄、家族に向き合わず逃げる父親。

私たちを取り巻く“嫌なもの”から、出来る限り彼を守りたかった。結果的に守れたのかはわからないけど。

私が大学生になる頃、思春期にさしかかった弟は流石に抱きついては来なくなったけど、相変わらず姉弟の仲は良かった。

_本当は大学進学と共に家を出て一人暮らしがしたかったけど、両親の反対に遭い家から遠い大学に長い時間をかけて通学しなければならなくなり、弟と過ごす時間は減った。

そのうち無邪気だった弟も年頃になり、家に帰って来ても無愛想な顔で迎えられるようになったけれど、
まあ10代の男の子が姉にいつまでもベタベタニコニコしないよな…これも成長かと思った。

社会人一年目ごろのある時、高校生になった弟と一緒に学生時代のアルバムを見ていた。
写真には同期の男友達なども何人か写っていた。それを見て弟がおもむろに、
「この中にお姉ちゃんの彼氏っている?」
と聞いてきて、まあいなかったんだけど(笑)、何となくはぐらかそうとしたら…
「僕は…こんな連中がもしお姉ちゃんの彼氏だなんて紹介されても絶対認めないぞ!こんな奴ら全員、僕のお姉ちゃんの彼氏に相応しくない!いい?たとえ父さんが許したとしても僕が認めないからね!」
…と、何故かマジ切れ気味に突然の宣言を受けた。いや弟よ、それ私の友人たちなんだが…。(彼らに失礼よ、関係ないのに( ̄∀ ̄;)…)
正直彼氏云々で親父にもそこまで切れられた事はない…。(無関心なので)
…ていうか、あれ?もう弟って高校生だったよね…。ついこないだクラスの女子が気になってるとかいう話もしてたし、姉の私の事なんてもうそんな興味ないと思ってたのに…。
弟、私のこと好きすぎじゃない…?
(ついでに結婚相手を連れて来る時も自分が認めた男性じゃないと駄目だと言われたw)

_弟は私が思っていたよりもシスコンだった。

ちなみにこの話を後日、男友達にどう思うか尋ねてみたら…
もれなくほぼ全員にドン引きされ、弟は重度のシスコン認定された(笑)。
あと、一部の友達からは何故か納得された。
「君みたいな姉が居たら、まあ気持ちは解る」
…と。
(色んな意味に取れるセリフだな)

普通のきょうだいではポテトチップスを分ける時に弟が
「あーん(して)」
…と言って口を開けさせることを要求したりしないらしい。(いや多分他人が想像してるような危ない雰囲気は微塵もなくて、なんなら弟すごい無表情ですけど…)
ついでに一般的な姉は弟にそう言われても、大人しく口を開けてポテチを放り込まれたりはしないらしい。
(どっちかというとお互い子供の時のノリのままやってたんですけど…)

どうも、子供の頃二人だけで居る時間が長かったせいか、無意識にお互いの距離や接し方が世の中の姉弟のそれよりも近いようで。
お互いそれなりの年齢になってから、人前で奇妙に思われないように振る舞う事を学習した気はする…。

ぶっちゃけ他人が心配するような感情は私たちには無いけど(少なくとも私には)、
他人には理解が難しいだろう絆のようなものはお互い感じている、と思う。

弟がどんなに大人の男性に成長しても、頭の中であの頃の小さくて可愛い弟の姿が浮かぶ。

彼がたまに気が抜けると私の事を、
「おねえちゃん」
と低い声で呼んで、自分で自分の発言に気付いて少し動揺してる様に気が付かなかったフリをしながら、
密かにそれを可愛いと思っていたりする(笑)。

お互い離れた場所で別々の暮らしを送っていても、元気で幸せに暮らしてくれているなら私はそれでいい。

もしもこの先何かの奇跡で結婚したいと思うような人が私にできたら、ちゃんと真っ先に知らせるから。

いいなと思ったら応援しよう!