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閉鎖病棟24時|笑ってはいけない閉鎖病棟 No.2

このコラムは、今日も現場で働き続けている精神科医(病棟医)と精神科ナースへ敬意を込めて発信する。

まだ3回しか書いてないのに不謹慎なタイトルである。ネタはたくさんあるのだが、やっぱり愉快なのがいいと思うと3回目にしてこれを書きたくなった。絶妙な塩梅で書かないと、差別だとか、誤解だとかを生むので、言い訳のように書いておくと、私は患者にも医療従事者にも人間らしさがあることを愛おしく思っている。ただそれだけだ。

『タクシー呼んでくれるか?』

急性期の病棟で、認知症の方と一緒に療養していたことがある。ナースステーション(以後、詰所)をノックする頻度が一番高いのがこの方々。内容は『タクシー呼んでくれるか?帰らなあかんねん。』

認知症の症状とか教養で知っているレベルだった。けど、本当に、同じことを、何回も、初回のていで聴く。

これを相手する看護師さんたちをずっと観察していたのだが、私の入院先は本当にいい病院で、愛を持って、大喜利が行われていた。

『あ、呼んでおいたよ。でも、今タクシー遅延してるねんて。座ってちょっと待っててな。』

『あかんわ、夜になってしもうたから、今日はここで泊まってな。お部屋また案内するな。』

がオーソドックス。12時になると

『タクシー会社さんな、電話したらな、ご飯休憩中やねんて、またお昼終わったら電話しとくな。』

うまい!

もう何度も聴いてるじゃないか!と怒り出したあとには

『聴いて!タクシー会社さんがテロにあってんて!いまそれどころじゃないねんて!ニュース見やなあかん。ちょっと待っててな。』

これはさすがに…と思ったけど、なんか納得したのか気付いたら座ってたおじいちゃん。ゆった看護師さんたちも『今回勝ったw』とか仕事を楽しくしてて、とても微笑ましかった。

このおじいちゃん、最初は5分に10回以上詰所ノックを披露していたのだけど、2週間ほどしたら、すごく落ち着いていて、2ヶ月も経たずに気付いたら退院していた。お薬と治療とで認知症もやはりある程度はよくなるんだぁと知った。

研修医VS患者の面白い発言

詰所の近くは情報で溢れている。まず医師や看護師さんごとの患者さんへの対応方法とかを見て、医療従事者の人柄を知る。あとは詰所に来る人の相談を聞いて、患者さんたちの病状を知る。どちらも知っておくと、いち患者として、人と距離を取りやすい。だから私は詰所の近くでいつも人間観察してた。

『マスターベーションがな、したいのよ。もうしたくてしたくてたまらないのよ。』ウーパールーパーみたいな愛嬌のある顔をしたおじさんが研修医を捕まえて言っていた。床に寝転びながら、駄々をこねるように言っていた。

男性研修医、おそらく25歳くらいの若者で、今使命感を持って、その相談を聞いている。聞いているが、同じセリフをもう3分くらい話されている。確かに男性が大部屋になんて行ったら、そのような悩みも出てくるものなのかもしらん。それはさておき、同じセリフを言い方を変えてもう何度も呟いている。研修医、かける言葉が見つからないのか、とりあえず立ちましょと。

確かに真剣な顔で聞いていた研修医。

の言葉にならぬ鼻息と口元の笑みが見えてしまった。

笑うだろう。これは笑う。他の患者たちはもうだいぶ前から笑っていた。よく我慢した。笑ってはいけないと思えば思うほど笑う。一回解禁されてしまうと余計可笑しくなってくる。言い方も言葉も面白い。もう完敗。対応に正解など存在しないと思うし、そのあとどうなったか見届けてない。それくらい長いパフォーマンスであったことと、女性としてはそのウーパールーパーに似たおじさんとは距離を取ろうと思ったまで。

ブラックユーモア

入院生活も慣れてくると、コミュニケーションをとれる人がわかってくる。

患者の入院形態には大きく3つある。任意入院、医療保護入院、措置入院。

一応きちんとした区分はこれだけあると引用だけさせてもらう。(東京都立 松沢病院HPより)飛ばして読んでも構わない。

●任意入院
当院の医師が治療のために必要と判断した場合に、ご本人の同意のもとに行っていただく入院です。ただし、72時間に限り、精神保健指定医の判断により退院を制限することがあります。
●医療保護入院
患者さんご本人の同意がなくても、精神保健指定医が入院の必要性を認め、患者さんのご家族等のうちいずれかの方が入院に同意したときの入院です。
精神保健福祉法に基づく家族等とは、次のような方です。
 ① 配偶者
 ② 親権を行う者
 ③ 扶養義務者(直系血族、兄弟姉妹又は3 親等内の親族で家庭裁判所が選任した者)
 ④ 後見人または保佐人
●応急入院
患者さんご本人またはそのご家族等の同意がなくても、精神保健指定医が緊急の入院が必要と認めたときに、72時間を限度として行われる入院です。
●措置入院
精神疾患があり自傷他害のおそれがある場合で、知事の診察命令による2人以上の精神保健指定医の診察の結果が一致して入院が必要と認められたとき、知事の決定によって行われる入院です。
●緊急措置入院
精神疾患があり自傷他害のおそれがある場合で、正規の措置入院の手続きがとれず、しかも急速を要するとき、精神保健指定医1人の診察の結果に基づき知事の決定により72時間を限度として行われる入院です。

専門家でないので説明はご容赦いただきたいが、患者としての認識は以下の通り。

●任意入院:本人の意思で入院

●医療保護入院:家族か家族に近しい人が判断して入院

●措置入院:おそらく警察経由で入院

患者も入退院を繰り返していると、自分からこの3つのどの形態で入院しているか話してきたりする。任意入院の人はわりかし節度を持って他の人と関わっているし、自分の調子が悪くなったらこうなるからこうしてほしいとか話す人もいる。

そもそも他の患者さんと関わらずに療養するのが一番良いのだが、そういうわけにもいかない。寂しさがそうさせない時もある。だからこそよりわきまえなくちゃいけないのが、コミュニケーションをとる人の見極めと連絡先などの交換。

その連絡先などの交換をテーマに、話していた任意入院の方のお話。

都心で入院の経験があったらしい。

『これくらい話せると、結構連絡先交換して?ってお願いされること多くない?同じ症状の子とか、若い子に。私たくさんあって、結構失敗したことあるんよ。』

と私がいうと。

『今までで連絡先聞かれて一番困った子の話ししていい?』

『うんうん。なになに?』

『放火で措置。』

痺れた。


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