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2024天皇賞秋回顧

リバティアイランド、ドウデュース、レーベンスティールの三つ巴のオッズ構成になっている秋の天皇賞です。雨にはならなそうで芝のレースのタイムを見ても馬場は軽いようです。
前の馬が止まらないところからハイペースからのスタミナ勝負になるのか、序盤牽制をしあって極限の速さを競うような直線勝負になるのか、まずその選択が必要そうです。

私はハイペースのスタミナ勝負で予想しました。スローの瞬発力で人気のリバティアイランドとドウデュースに分がありそうです。つまり安い配当になる、という想定になるため面白くありません。少しでも荒れるならスタミナ勝負と見たのですが、結果は私の甘い目論見とは違う形になりました。

ちなみに予想は以下でした。
◎ジャスティンパレス
〇レーベンスティール
▲リバティアイランド
△ホウオウビスケッツ
△ノースブリッジ
△マテンロウスカイ

完全に展開を読み間違う

昨年と同じようなスタミナ色が強いレースになると予想することにしました。2歳未勝利戦の勝ちタイムが早く、前に行った馬が止まらない展開でした。その後芝のレースはスローからの上がり勝負になり差し馬が上位に来る結果になっています。

天皇賞には差し脚のある馬が多く前で粘り込む馬の場合、なるべくペースを上げて道中で脚を使わせるような展開に持ち込む方が良い、とする陣営が2つ3つでもあることを期待して予想はしたのですが、リバティアイランドが前目の位置にいて1000mの通過タイムが59.9秒と表示されたタイミングでこれはもうどうにもならないと諦めました。

スローペースの上がり勝負

もう一つの展開予想はこちらでした。スローからの極限の末脚勝負になる予想です。リバティアイランドの位置取りは絶好というか望外とも言えるポジションになっていたはずです。

このリバティアイランドの位置取りが他の馬たちを動くに動けない状態にしたと思います。後方にいるなら前方の馬はよりペース上げる方向に動けたかもしれません。リバティアイランドの末脚についてはデビュー戦で上がり3Fを31.4秒で駆け上がったように、抜群のものがあります。

昨年のジャパンカップの結果を見ても2400mの距離を先行して上がり3F33.9の脚を使えるように、ある程度スタミナの裏付けもあります。リバティアイランドの位置が前目だと安易にペースを上げてもただ捕らえられるだけになりそうです。スローの展開でなるべく前にポジションを置き、リバティアイランドの仕掛けに合わせて末脚勝負に掛ける方がまだ戦えそうです。これなら例えリバティアイランドとのキレ勝負に負けてもリバティアイランドよりも後ろの馬には、簡単には差し切られないポジションになります。

結果としてリバティアイランドは大方の予想を裏切り全く伸びませんでした。他の先行勢は俄然色気の出る展開になったとゴール目掛けて逃げ込みを図ります。
レースの上がり3Fは33.7秒でした。逃げたホウオウビスケッツで34.0秒とやや下回る程度、3番手にいたベラジオオペラは33.7秒と同タイム、4-5番手にいたタスティエーラとマテンロウスカイが33.4秒とレースの上がりタイムを上回りました。
前に位置した馬がそれだけの速度で上がっているので、普通のレースであればこの4頭で馬券圏内は決まりになるはずです。
ですがとんでもない馬がいました。

やってきたドウデュース

信じられないほどの末脚でドウデュースが外からやってきました。このレースでドウデュースの次に速い上がりを記録した馬は33.0秒の同タイムで2頭います。そのうちの1頭が道中最後方にいたニシノレヴナントです。15番手から10着まで着順を上げるに終わるのですが、今回の天皇賞のようなペースで後方から追い込んでも普通はこうなります。ドウデュースが上がり3Fで記録した32.5秒は破格というか恐ろしいタイムです。

2022年にパンサラッサが逃げた天皇賞は、パンサラッサを除いては今回のレースと似たような展開です。逃げたパンサラッサだけは、1000mを57.4秒で通過し1600mでも1:32.4のタイムで駆け抜けています。2番手以降の馬たちは今年の天皇賞の1000mの通過タイムの59.9秒とだいたい似たようなタイムで1000mを通過していっています。2番手以降の走破タイムを見た場合には、2022年と今年の天皇賞は良く似ています。

2022年天皇賞はイクイノックスが上がり3F32.7秒でパンサラッサを捕まえました。あのレースも印象深いですが、全く脚色の衰えていない先行勢を撫で切る今年のドウデュースの強烈な差し脚はイクイノックスの追い込みと互角以上と言えるものです。

ドウデュースは15頭立ての14番手とほぼ最後方にいました。武騎手の談話によれば後方にいるのはプラン通りであり、スタートから2コーナーまでジャスティンパレスがドウデュースの外に併走していたため、それも嫌って意図的にポジションを下げたと話しています。ジャスティンパレスの後ろに付ける頃には先頭集団はスタートして2F目を通過していますが、1F-2F間のラップは11.5秒と早いペースではありません。レース全体のペースが遅くなることを武騎手なら十分分かっていたはず。それでも下げる判断をしています。最後の直線でドウデュースの前をクリアな状態にすれば勝てる、と鞍上は馬を信じ切っていました。

最後の直線に入ってからは武騎手の意図する通りにドウデュースの末脚が炸裂というか大爆発というか、大外から別次元の脚で飛んで来て全頭をまとめて交わして去ってしまうのですから、鞍上のイメージと馬の能力が噛み合った結果は鮮烈なものでした。

武騎手とドウデュース

今回の天皇賞のドウデュースの走りは多くの人の想像力を超えたところがあったと思います。それを引き出したのは武騎手の手腕によるところですが、騎手と馬の組み合わせの大きさを改めて感じさせるものでした。

昨年の天皇賞は武騎手の突然の負傷のため、ドウデュースの鞍上は戸崎騎手に預けられました。戸崎騎手は決して腕の無い騎手ではありません。リーディングのランキングや通算成績を見ても現在の日本の騎手の中ではトップクラスの騎手です。そんな騎手でも昨年の天皇賞は7着でジャパンカップは4着でした。

少ない騎乗機会で結果を出せ、というのはもちろん酷なところもありますが、戸崎騎手のGI勝利はリアルインパクトとソングラインの安田記念、レッドリヴェールの阪神JF、ストレイトガールのヴィクトリアマイルはテン乗りでの勝利です。チュウワウィザードのチャンピオンズカップやジェンティルドンナの有馬記念の勝利も2度目の騎乗機会での勝利と、12勝の中央GI勝利の内の5勝は騎乗馬とのタッグ期間が短いところであげたものです。

ドウデュースについてはそういうキャリアを持つ戸崎騎手でも、手の内には簡単に入らなかったということなのかもしれません。ドウデュースの全能力を引き出せる鞍上は武騎手だけだろうな、と思わさせられるレースでしたが、ジョッキーカメラの武騎手の口からは「やっと走らせられたわ」とコメントがこぼれたように、長くタッグを組む武騎手でも簡単な馬では無いようです。

ドウデュースとイクイノックス

イクイノックスがダービーでドウデュースに負けていることは、その後の2頭の戦績を見比べると若干ながら腑に落ちない気持ちがあったのですが、今年の天皇賞で完全に腹落ちしました。あれはドウデュースが強かっただけですね。

ドウデュースとイクイノックスは、今回の天皇賞の結果で確かなライバル関係にあったと言えると思います。惜しむらくは昨年の天皇賞とジャパンカップのドウデュースの背中に武騎手がいなかったことです。
イクイノックスに迫るドウデュースというレースが観られたかもしれません。
(そうなるとイクイノックスのレーティングが135よりも低くなる恐れがありますけどね)

リバティアイランドの誤算

先行集団のペースは早くはなく、昨年のイクイノックスのように馬なりでポジションを上げて楽に抜け出せる、と川田騎手は思い描いていたはずです。しかし現実はそうなりませんでした。
リバティアイランドの上がり3Fは34.1秒。レース自体の上がり3Fは33.7秒でしたから遅れています。昨年の2400mのジャパンカップでも33.9秒で上がっていた馬が、それより400m短い天皇賞で上がり34.1秒は流石に遅すぎます。
特に故障の情報は現状では無いため、体調面の不調では無いはずです。

競走馬のピークアウトは2種類あり、1つは能力の衰えであり、もう1つは精神面で走らなくなることです。後者で言うと近年ではエフフォーリア、代表的な例ではメイショウマンボです。調教や追い切りではタイムとして悪くないのにレースに行くとぱったり走らないというのがこのタイプです。

リバティアイランドがそうなっているかは、次走の結果が出るまで分かりません。レース前の状態はかなり気が尖ったところを見せていたので、レースに集中できていなかったことはありそうです。

前評判では見た目の筋肉量も増え調教の動きも申し分ないものでした。位置取りはベストですし、昨年の能力があれば突き抜けていたはずです。
着順自体は13着ですが1着とのタイム差は0.8秒なのでそこまでの負けではないとも言えます。普段の末脚が見られなかったことは事実であり、原因がどこにあるかが解明出来ないと次走も厳しそうです。

2着以降の各馬について

タスティエーラは調教がかなり良かったことは分かっていたのですが、近走の成績から精神面でピークアウトしていると看做していました。完全に見誤りです。
松山騎手も完璧と言えるエスコートだったのですが、相手が悪かったとしか言いようがないですね。

ホウオウビスケッツは穴馬として期待していました。スローでもハイペースでも何か1頭は前に居る馬が残ると考えていたので期待通りでした。結局他の買い目が無いので実は取れなかったです。
ホウオウビスケッツがGI勝利をつかむには相当な運も必要そうですがGII戦線で手堅く結果を出せる馬だと思います。

本命としたジャスティンパレスは、ニシノレヴナントと並ぶ上がり3F33.0秒と2番目に早いタイムで走りました。ドウデュースが異常なだけで11番手から4着まで追い上げた結果は立派なものです。最後の直線で前にいたソールオリエンスの内と外のどちらの進路を取るかの2択を迫られる場面がありました。タスティエーラがリバティアイランドの後ろから外のコースに進路を切り替えたためジャスティンパレスは内を選んだように見えます。

ジャスティンパレスの前にいたソールオリエンスも、タスティエーラが外に向かうのに合わせて内に進路を変えます。坂井騎手は前にいた2頭の動きをどこまで読んでいたのかは分かりませんが、だいぶ進路は狭くなりました。

ホウオウビスケッツがインで粘り、最内の進路を取った5着のマテンロウスカイも33.4秒で上がっています。じゃっかん外の方が伸びる馬場だとは思いますが、見た目ほどインも悪くないはずで、そこにジャスティンパレスが入っていったことは選択が完全に誤りとまでは言えないです。
たらればの話に過ぎませんが、追い出しがもうワンテンポ遅ければソールオリエンスが内に動いたところで空いたスペースに入れたかもしれず、その場合は2着争いまで来たかもしれません。

マテンロウスカイは夢枠で買い目に入れており、結構期待していました。毎日王冠は最内で進路を無くし鞍上が追うこと諦めるような展開でしたが、33.4秒としっかり伸びていたので、スペースさえ開けばということで狙ってみました。着順は展開に助けられたところが大きいですが5着は6着以降にGI勝利馬もいますし、よく頑張ったと思います。

対抗評価はレーベンスティールでした。鞍上の魅力に抗えなかったための対抗評価だったのですが、このペースで8枠はさすがのルメール騎手でも出来ることは少なかったようです。
ドウデュースやジャスティンパレスと比べるのは可哀想ではありますが、両馬が展開を超えたところの強さを見せたところと比較すると、まだ成長が必要そうです。

まとめ

主演ドウデュースにもほどがある、と言いたくなるようなドウデュースの強さだけが目立つレースでした。
年内残りはジャパンカップと有馬記念を走れば引退です。天皇賞とは異なり圧倒的な主役として登場することは間違いないでしょう。

ジャパンカップではキングジョージの勝ち馬ゴリアットと、ディープインパクトの最良の牡馬産駒と言えるオーギュストロダンを迎え撃つことになります。
それ以外にも天皇賞の出走馬や3歳牝馬二冠のチェルヴィニアとメンバーは豪華になりそうです。なんとか指定席抽選に通って、現地観戦したいものです。

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