見出し画像

【vol.21】全体を通した「行政側」の論理とは

 今回は、改めて行政の動きだけに注目し、その論理の変遷を確認します。さっそく、「第Ⅰ・Ⅱ段階」、「第Ⅲ・Ⅳ段階」、「第Ⅴ・Ⅵ段階」の大きく3つに分けて整理していきます。

◆第Ⅰ・Ⅱ段階

 ここでは、第Ⅰ・Ⅱ段階の行政の論理を整理し、学校再編は当初どのような目的で行われたものであったかを見ていきます。また、2015年8月に策定された「適正化計画(第1要件)」によって市行政の論理がどのように変化し、それが学校再編の動きにどう影響したかを検討していきます。

⑴「適正化計画(第1要件)」以前の行政の論理

 そもそも福山市が学校再編に取り組み始めたきっかけは、2012年に策定された「学校ビジョンⅣ」でした。このビジョンでは「小中一貫教育の創造」と銘打って、2012年以降福山市内の全ての小中学校において小中一貫教育に取り組んでいくということが決められました。また、この学校ビジョンでは「福山に愛着を持ち、変化の激しい社会をたくましく生きる子ども」というものが目指す子ども像として掲げられました。

 第Ⅰ段階の分析から、この目指す子ども像に対する取り組みが大きく2つに分けられることが明らかになりました。1つ目は、目指す子ども像の前半部分である「福山に愛着を持」つ子どもの育成に対する取り組みです。このような子どもの育成のため、市教委は、学校教育の質を向上させるとともに地域での教育を重視するという教育理念のもと、小中一貫教育によって地域と学校の関係を深めていくということが示されました。そしてこのような取り組みによって、地域の人口減少について考え対応していくという市の考えまでも読み取ることができました。

 2つ目は、目指す子ども像の後半部分である「変化の激しい社会をたくましく生きる子ども」の育成に対する取り組みです。このような子どもを育成するため、市教委は、小規模校のデメリットを解消することでより良い小中一貫教育を展開していくということが示されました。しかし、注意したいのは、この時点では小中一貫教育の推進と学校再編は別物だったということです。

 小中一貫教育の推進と学校再編がひとまとめに示されるようになったのは、2016年の「基本方針」の策定以降です。この「基本方針」では、「小中一貫教育の推進には学校再編が必要だ」という市教委の考えが示されました。この考えは、「基本方針」以前に設置された「小中一貫教育推進懇話会」や「学校教育環境検討委員会」では示されておらず、市教委が一緒くたにして打ち出したものだと考えられます。このように「基本方針」によって、学校規模の適正化(=学校再編の実施)が示されましたが、この段階では住民との合意形成を図るということが明記されていました。

 このように「適正化計画(第1要件)」の策定以前は、小中一貫教育を進めることによって地域と学校との関係を作り、ひいては人口減少に対応しようとしていました。併せて、小中一貫教育を含めた教育環境の整備について論じることによって小規模校のデメリットが強調されました。そしてそのデメリットの解消とより良い小中一貫教育のために学校規模を適正化するという方針が打ち出されました。

⑵「適正化計画(第1要件)」の論理

 ところが、2015年8月に「第1要件」が策定されると、市教委の論理が大きく変わります。まず人口減少については、これまでの「小中一貫教育の推進によって人口減少に対応していく」という姿勢から、「人口減少が進んでいくため、少ない地域の学校を再編する」という姿勢に変化しました。この「適正化計画(第1要件)」での考え方には、「人口減少は著しく、今後も減少していく」という前提があると考えられます。そして地域については、再編後の学校の利活用を考えるとされました。

 また、教育理念や学校再編の理由にも大きな変化があります。「適正化計画(第1要件)」以前は、「福山に愛着を持ち、変化の激しい社会をたくましく生きる子ども」という教育理念が掲げられていましたが、「適正化計画(第1要件)」では「変化の激しい社会をたくましく生きる力の育成」ということだけが教育理念で挙げられ、「福山に愛着を持ち」という部分は削除されていました。さらに、新しく「課題解決能力」や「コミュニケーション能力」の育成が教育理念として挙げられました。そして、このような教育理念を実現するには「多様な学び方に触れ、ともに学び合う」学校教育環境を整備する必要があるとして、生徒数が少なく適正基準に満たない市内9小中学校を再編する計画が出されたのです。この際、学校再編をする必要があるかどうかは、2015年当時の将来人口推計の値だけで判断されていたことが後の市教委の発言からわかりました。

 このように「適正化計画(第1要件)」では、これまで述べられてきた「小中一貫教育の推進」という方針が消え、代わりに「生徒数の少ない学校は再編する」という方針が打ち出されました。このことから「適正化計画(第1要件)」はこれまでの学校教育に対する取り組みの延長上に出されたものではなく、新しく市教委から出された計画であるということが考えられます。さらに、「適正化計画(第1要件)」では「地域への愛着」という教育理念が消えていることや再編後の利活用についての記述があることから、既存の学校と地域の関係については考慮されていないということもわかりました。

⑶「適正化計画(第1要件)」を経て行政の論理はどのように変わったか?

 この出し抜けに公表された「適正化計画(第1要件)」を市教委が説明し、さらに学校再編を正当化するために、第Ⅱ段階では様々な理由、教育理念が展開されます。そして第Ⅱ段階では、市教委だけでなく市長部局も学校再編について説明し、それを正当化しています。まず人口減少については、市長部局から「人口減少は所与である」という新たな論理が導入されました。そしてこの論理が前提となり、市行政は「小中学校を一体校として整備することで人口減少に対応する」という方針を明言しました。さらに、行政内で学区とコミュニティについての議論も行われるようになりました。

 また「適正化計画(第1要件)」の策定直後、市教委は「『知徳体のバランス』や『折り合いをつける力』を育てるためには、一定規模の集団を確保して教育の質を充実させる」ことが必要だと強調し、この学校再編を正当化しようとしたことがわかりました。一方、市長部局は「小中一貫教育の推進」のために学校再編が必要だと説明しています。どちらにせよ、第Ⅱ段階で市行政は「望ましい学校教育環境の整備のため」に学校再編を実施するという方針を強調していました。さらに、市長部局は「財政の健全化」に努めることが行政の役割だということをこの段階で主張しています。このことから、市の進める学校再編が財政の健全化のためだということも考えられました。ただし、あくまで第Ⅱ段階では「より良い教育のための学校再編」ということ表立って説明されています。

 このように「適正化計画(第1要件)」の策定以降、「より良い学校教育環境を整備する」という目的で学校再編が正当化されてきました。ただしこの段階においては、市行政は(当たり前だが)「地域コミュニティは機能している」という考えを持っていることが、学区とコミュニティの議論から読み取れます。そのため学校再編を進めていく過程では、住民との合意形成に努めようとする姿勢が表れていました。

◆第Ⅲ・Ⅳ段階

 2016年9月1日、枝廣直幹氏が福山市長に就任しました。ここでは、市長が代わったことによって学校再編の動きがどのように変化したかを確認します。

 また、2019年2月13日の教育委員会会議により、イエナプラン教育校と特認校の設置が決定されました。このイエナプラン教育校と特認校の設置の動きについては、後の記事で詳細に扱います。

⑴市長就任による学校再編の目的の変化-第Ⅲ段階

 枝廣氏の市長就任によって、福山市行政に導入された考え方が2つあります。1点目は「公共施設の適正配置」を強く進めていくというものです。そして、この「公共施設の適正配置」という市長の考えは、市行政に対して大きな影響を与えました。それは、2017年3月に「福山市立地適正化計画基本方針」を策定したということや、同年7月の「第5次福山市総合計画」において公共施設の配置を強く主張したことからもわかります。

 これらの計画の中では、「公共施設の適正配置」とは、人口推計を基に公共施設を集約化することだとしています。しかし、本来「適正配置」とは人口分布によって適正に公共施設を配置していくことであり、決して福山市の言うような人口の多い地域に箱モノを集約するということではないということを注意しなければなりません。

 このような「公共施設の適正配置」の考え方は、学校再編の動きにも大きな影響を与えています。これまで、学校再編は「望ましい学校教育環境の整備のため」に実施するということが主張されていました。しかし、第Ⅲ段階では、学校再編の理由として「税収減」「施設老朽化」「教員不足」が挙げられ、「望ましい学校教育環境の整備」ということは主張されなくなりました。さらに同段階で、市長が学校再編の理由について「児童が減ったから、小さな学校は望ましくないから、非効率だからという理由で、学校再編しようとしているのではない。」と住民に説明しています。つまり、市長自ら学校再編は教育のために行っているのではないということを住民に説明しているのです。

 学校再編の理由だけでなく、教育理念も変化しました。第Ⅲ段階では、これまでの「変化の激しい社会をたくましく生きる力」の育成のほか、「挑戦する」「思いやり・優しさ・助け合いの心」「粘り強さ・忍耐力」「21世紀型スキル&倫理観」などといった新たな理念が挙げられました。そしてこれらの新たな理念は、学校再編には関係ないものであることに注意したいと思います。つまり、教育理念を実現するために学校再編をするということが否定され、財政の問題から学校再編を実施するという説明に変化したことがわかりました。ただし、2017年8月28日の「9月定例市議会市長記者会見」では、市長は学校再編について「子どもたちにとってより良い教育環境をどのように整えていくべきか、という教育的観点に立って進めていくもの」と説明していることに注意したいと思います。これは、次の第Ⅳ段階での市行政の説明につながってきます。

 枝廣氏の市長就任により導入された新たな考えの2点目は、「学校と地域は別だ」という考え方です。これは2017年に行われた常石学区での「市長と車座トーク」の中で、市長が明らかにした考えです。そしてこの市長の考えが明らかにされてから、教育委員会も「学校と地域は分けて考える」という論理を頻繁に利用し、学校再編を実施したあとに地域活性化について考えるということを住民に説明してきました。もちろん、住民にとって「学校と地域は別だ」という考えは到底受け入れられるものではなく、説明会や意見交換会で何度も地域と学校の関係を主張してきました。それでも市行政は、「学校と地域は別という考えは市長が示している」として頑なに学校と地域の関係を否定していました。この考えは、学校再編が決行されるまでの間、一貫して市行政が主張しています。

 このように、第Ⅲ段階は、市教委が「適正化計画(第1要件)」を説明し正当化するという前段階から打って変わり、市長の考えが強調された段階であるといえます。さらに、第Ⅲ段階では住民との合意形成に対する行政の姿勢も変化しています。これまでは、学区とコミュニティは関係があるとして、学校再編を進めていくうえでは住民との合意形成を図るという姿勢が表れていました。しかし、第Ⅲ段階では「住民の100%の合意は待たない」という姿勢に変化しています。このように、合意形成において市行政が住民の合意形成を待たずに行政だけで決めるという態度になったのは、第Ⅲ段階で学校再編の目的が学校教育環境の整備のためではなく、財政問題に対応することへとすり替わったからだと考えられます。つまり、財政問題への対応は行政がやることであり、住民との合意形成は必要ないと判断したからなのではないかと推察できます。また、「学校と地域は別」という考えが市行政に浸透したことも、行政が合意形成を軽視するようになった一因だと考えられます。

⑵「教育」のための学校再編の再興と新学習指導要領との関係-第Ⅳ段階

 第Ⅲ段階では、学校再編の目的が教育ではなく財政へ変化していたことを示しました。ところが、第Ⅳ段階(2018年度以降)において、市行政は学校再編の目的を再び「学校教育環境の整備のため」だとし、第Ⅱ段階と同様の主張をしています。つまり、「より良い学校教育環境を整備するためには一定の集団規模の生徒数が必要であるため、学校再編を実施する」という説明です。

 このような「学校再編は学校教育環境の整備のためだ」という考えは、第Ⅲ段階では市長によって否定されていたものです。それにもかかわらず、第Ⅳ段階では再び教育環境整備のための学校再編という説明が市行政からなされました。さらに第Ⅱ段階と第Ⅳ段階を比べて、「学校教育環境の整備のため」という説明の仕方には違いがあることがわかります。第Ⅱ段階では、一定の集団規模が必要だということを「ともに学び合う環境の整備」というように市教委自身の言葉で説明していました。しかし、第Ⅳ段階では一定の集団規模が必要な理由として新学習指導要領の「主体的・対話的で深い学び」という言葉を使い、このような授業を実施するためだと説明しています。つまり、第Ⅳ段階では福山市の学校再編が国の定めた新学習指導要領のためのものだという論理にすり替わっていることがわかりました。さらに、第Ⅲ段階で主張していた財政問題と学校再編の関連を、第Ⅳ段階では市行政自身で否定しています。

 また学校と地域の関係については、第Ⅲ段階で導入された「学校と地域は分けて考える」という論理を引き継いでいることがわかります。さらに第Ⅳ段階では「地域については、市教委ではなく別部署が担当する」という市の考えが明らかになりました。つまり、教育環境の整備など教育の問題は市教委が学校再編として対処していく一方、人口減少対策や地域振興については別の部署が別の方法で対処するという考えです。この考えが具現化されたものが「『関係人口』創出事業」です。

 さらに合意形成については、「100%の合意は待たない」という姿勢に加えて「不安は解消するので、行政のやることを理解してください」という態度がみられました。つまり、行政は住民が理解するということが合意形成だという姿勢であることがわかります。そして、第Ⅳ段階で導入された「『関係人口』創出事業」が、この「不安は解消する」に対応する行政の取り組みであると考えることができます。この「『関係人口』創出事業」も住民との合意によって導入されたものではなく、市行政が一方的に導入したものです。このようなやり方からも、市行政は住民との合意形成を行うことを考えていないのではないかと推察できます。

⑶「『関係人口』創出事業」導入の問題点

 ここで、第Ⅳ段階で市行政によって導入された「『関係人口』創出事業」の問題点について検討します。繰り返しになりますが、この「『関係人口』創出事業」は住民との合意によって導入されたのではなく、行政が一方的に持ってきた事業です。市行政は、この事業の目的を、「持続可能な地域コミュニティの確立や活力ある地域の創生につなげるため、新たな切り口で地域づくりを提案・実施できる外部人材と福山市立大学が連携した地域活性化策に取り組む。これらにより、地域に継続的にかかわる若者や外部人材の増加など、関係人口の創出につなげていく」と説明しています。そしてこの事業を行うために、市は新たに「福山市企画政策部地域活性化担当課」を設置しました。この新しい課については、2018年3月26日の「人事異動に関する市長記者会見」において、市長が「学校再編後の地域の再整備や公共施設の再構築など、地域振興に向けた総合調整を行うために、新たに地域活性化担当部長を企画政策部へ配置をいたします。」 と説明しており、この発言からは明らかにこの事業が「学校再編ありきの事業」であることがわかります。もちろん、この段階ではどの学区においても学校再編は「決定」されていません。それでも、市行政は「学校再編は実施するものだ」と勝手に判断し、住民との話し合いなく独断で「『関係』人口創出事業」を導入したのです。

 さらに、2018年5月に、山野の地域住民に向けた「『関係人口』創出事業」についての説明会が実施されますが、この説明会の際には、市行政からこの事業が「学校再編後の地域振興のための事業」であることは伝えられませんでした。そのため、住民はこの事業を「学校再編とは関係なく地域活性化のための事業だ」と理解したといいます。しかし、行政はこの事業を「学校再編ありきの事業」だとして導入しているため、たとえ住民が学校再編を前提とした事業であるということを知らず理解できていない状態でも、「『関係人口』創出事業」を受け入れることによって、「住民が学校再編を受け入れた」というように行政は判断しようとしたのです。この点、行政は住民を“欺き”、学校再編を強行しようする姿勢が表れています。つまり、「『関係人口』創出事業」の説明段階においては、①行政が「『関係人口』創出事業」について正確な説明を意図的に住民に対して行わなかったこと、そして②この事業を住民が受け入れることで「学校再編」を受け入れたというように行政が恣意的に判断しようとしたこと、の2点が問題であるといえます。

 また、その後の2019年1月24日の「地域活性化部長との話し合い」の場では、地域活性化部長が「『関係人口』創出事業は、学校再編を前提とはしていない」と住民に強く主張しています。しかし、市長の発言や市の「学校と地域は別である」という姿勢から考えると、この事業が「学校再編を前提としている」ものだということは明らかであり、この地域活性化部長の説明が市行政の言動と矛盾したものであるということもわかりました。

 最後に、結果として住民が「『関係人口』創出事業」を受け入れたことによって生じる問題について検討します。まず、住民が「『関係人口』創出事業」を受け入れ、それに携わることにより、同時に進められている学校再編についての活動に携わる時間が奪われるという問題があります。そして、行政は「学校と地域は別」だという考えのもと「『関係人口』創出事業」を進めているため、住民がこの事業に携わったとしても学校存続につなげることができず、それどころか学校再編を推進する動きに意図せず加担してしまうこととなります。

 また、そもそも山野学区において「関係人口」の役割を果たすものは、学区外から山野小中学校に通う児童生徒やその保護者です。そのため「『関係人口』創出事業」とは、本来住民からしてみると、山野小中学校に通う児童生徒を増やすことに他なりません。しかし繰り返しになりますが、行政はこの「『関係人口』創出事業」を「学校再編後の地域振興を担うもの」として導入しているため、この事業を実施したとしても住民の意図する「関係人口」を創出することはできません。それどころか、この「『関係人口』創出事業」を実施することは学校再編を推進することになり、学区外から山野小中学校に通おうとする児童生徒を集める取り組みと逆行するものだといえます。つまり、この事業は山野学区における「関係人口」を減少させかねないものであり、これまで地域住民が実施してきた移住政策を妨害するものであると考えられます。

◆第Ⅴ・Ⅵ段階

 2021年6月24日、内海小中と内浦小、能登原小(、千年小中、常石小)を廃止し、千年小中学校の位置に義務教育学校を設置する改正学校設置条例が市議会で可決しました。山野でも、山野小中学校が2023年度から加茂小中学校に統合されることが決まりました(2022年3月現在)。小規模校の価値も、保護者や住民の希望も、地域で子どもを育てるという理念さえも否定して進めてきた学校統廃合を、福山市はついに達成しました。

 一方で、6月24日と同年9月28日の改正条例でそれぞれ設置が決定した「イエナプラン教育校」(常石)と「特認校」(広瀬)は、個別最適化した教育を謳い、少人数教育を是とするもので、言ってみれば正反対の発想から出てくるはずのものです。非常識なまでの学校再編の強行と並行して、ある地域には学校を残すということをしたことで、行政の論理は複雑になっています。

 ここではイエナと特認校を一旦分析から除き、①内海・内浦学区の学校統廃合と、②山野学区の学校統廃合の経過を検討します。

(1)【内海】「数」の論理への収斂と、教育長による異様な「決定」(2020年2月27日)

 内海学では、2019年5月10日にようやく地域説明会が開かれました。「福山市学校規模と学校配置の適正化計画(第1要件)」(2015年8月)の中で福山市が示した「開校までの流れ」の初めの一歩です。その間、市内の他地域では、既に地域説明会が開催され、「第1要件」とされた東村小学校と服部小学校では開校準備委員会も設置されていました(→記事はこちら【vol.20】地域説明会・開校準備委員会の経過(時系列で整理))。福山市は、内海・沼隈学区に小中一貫教育校を設置するにあたって、内海町への説明会を実施する必要がありましたが、「適正化計画(第1要件)」が公表されてから地域説明会の開催まで、3年9ヶ月が経過していました。

 5月10日・11日に行われた説明会では、教育長が声を荒げる場面がありました。教育長は、住民の教育環境に対する現状認識や子どもの教育観を批判しました。教育長によると、住民の教育観は、小規模校のままで何も問題はなく、現状維持できればいいという無責任なものだといいます。しかし、社会の変化は激しいので、自分で主体的に考える力や他者と協働して物事を進める力を育むには、教室に一定規模の集団を作らなくてはならないといいます。

 2月27日に行われた、3度目の説明会は異様でした。まず冒頭で教育長は、「新たな学校を作るということ、まちづくりについて話を始めたいということが内海の総意であると判断した」と述べました。この「総意」は、市教委が自身のやりたいことに沿って根拠なく形作っただけのものですが、あたかも揺るぎない事実であるかのように決めつけました。さらに、反対意見を述べた住民に対しては、「今日はこのような会にするつもりはなかった。全体で集まると、反対の人は発言できるが賛成の声は上げられない」と言い、市教委の統廃合計画に反対する住民を非難する内容の答弁を繰り返しました。

 この日の「決定」にいたるまでの市教委の説明を見ていくと、全てが「数」の論理に帰着していったことが分かります。すなわち、

人口「数」が少ない地域は、価値がない。どれほど増やそうとしても、無意味であるので、むしろ増やす努力をすべきでない。
学校教育は、児童の「数」がなければ成り立たない。「数」をそろえることが重要である。一方で、
市議会における議論では、少数意見は無視してよい
過疎地域や小規模校に教員や予算を割くのは非効率である、といった論理です。

 このように教育予算やインフラなど、本来「数」だけで切り捨ててはいけないものまで、全て巻き込んで、市教委の論理は先鋭化しています。これらの論理の向かう先は一貫しており、それが結集して、内海町の学校切り捨てという暴力となって現れたのが2月27日の説明会だったといえます。

(2)【山野】校舎の耐震工事をめぐるやりとりと山野小中学校存続の「諦め」(2021年10月28日)

 2021年10月、市教委と企画財政局との話し合いの場で、山野小中(と広瀬小中)を加茂小中学校に統合し、当初の予定より一年遅らせて2023年度に開校するという方針が示され、住民はそれを受け入れました。なぜ山野の住民は、最終的に統廃合を飲まざるを得なくなったのでしょうか。それには、山野小学校の耐震工事をめぐり、福山市のでたらめさが露呈したことが一つのきっかけだともいえます(詳細はこちら→第Ⅵ段階)。

 振り返れば、初めから市教委は学校再編の既成事実化を繰り返してきました。第Ⅰ段階では、山野の学校再編の発端となった「適正化計画(第1要件)」が、住民への一切の打診なく突然公表されました。また、広瀬の「特認校」についても、山野の住民に話が来た2019年7月15日には、既に決定事項とされました。「特認校」は、実は同年2月13日の教育委員会会議で決定されていたのです。また、2019年11月には「特認校」の準備委員会が開かれ、広瀬に学校が残ることが決まっていきました。その構成員からは、山野の住民は完全に排除されています。

「再編対象校だから耐震工事をしない」という決めつけは問題です。しかしより大きな問題は、「小学校の耐震工事をしてくれない」という事実そのものというよりも、子どものことを考えず、嘘を繰り返す行政の態度です。そのような行政に飽き飽きしたことが、山野小中学校の存続の諦めにつながったといえるのではないでしょうか。

(3) 学校再編の決定後に豹変する行政の態度

 内海では、2月27日の説明会を経て学校統廃合が「決定」した途端、手の平を返したように「地域と学校は密接に関係している。新しい学校を作るために、協力してほしい」と言い出すようになりました。

 ここからは、福山市の学校再編計画を立案し実際に進める福山市教委の長である①福山市教育長、福山市教育長を任命する権限を有する②福山市長、学校設置条例を改正することで学校統廃合の最終決定権を有する③福山市議会の3者が、どのように機能したのかを見ていきます。

(4)【福山市教育長】小学校長に対する「パワハラ」疑惑問題(2020年1月~)

 三好雅章氏は、2014年7月に福山市教育長に就任しました。2020年11月22日、教育長による市立小学校長へのパワハラ疑惑が中国新聞により報道されました。12月7日の続報では、2020年1月に校長男性が三好教育長から「降格願を出してください」などと言われたこと、校長研修のグループ分け名簿の下段に氏名を記載されたことなどを受け、6月に適応障害と診断され、休職・降格願を県教委に送付したと報じられました。県教委が対応を求めて枝廣市長に通知を出し、11月19日の広島県議会・文教経済委員会で村上栄二・広島県議会議員が質問したことにより世に明るみに出ました。折しも国で「労働施策総合推進法」、いわゆる「パワハラ防止法」が施行され(2020年6月1日)、広島県でもパワハラ防止条例が施行された時期でした。

 村上県議は2016年8月の福山市長選で枝廣市長と戦い、落選しています。しかしパラハラ疑惑自体は、(3)でも述べたように学校統廃合の住民説明会において声を荒げる場面があったこともあり、信憑性の高い報道だと市民は受け取りました。

(5)【福山市長】選挙公約パンフレット誤記問題(2020年8月)

 その教育長の任免権を有するのは福山市長です。2016年9月に福山市長に就任した枝廣氏は、2020年8月の福山市長選で他の立候補者不在につき無投票再選となりました。

 この市長選の公約には、当初「義務教育学校、イエナプラン教育校、小規模特認校の開校」と書かれていましたが、後日「義務教育学校、イエナプラン教育校、特認校の開校」に記載が変更されており、「小規模」の3文字が削除されたことに対する説明は何もありませんでした。

 たった3文字でも、「小規模特認校」を開校するという公約が出たことは、福山市の学校統廃合に関係する保護者や住民にとっては大変な事件でした。なぜなら、山野や内海の学校は、学区外からの通学を受け入れる実質的な「小規模特認校」として機能していたので、それを福山市として正式に認めてほしいという要望を繰り返してきたからです。

 しかし市教委は、その度に「小規模特認校として残すことはできない」と言ってきました。その方針を大転換するということかと思いきや、実際は、広瀬に設置する不登校児童生徒のための学校のことを市教委が「特認校」と呼んでいたため、それを勘違いして「小規模特認校」と記載したということでした。

 これは、市長の学校統廃合に対する理解や関心がいかに浅いかということを表しています。このことは、第Ⅲ段階で見られた「学校がなくても別の方法で地域活性化することはできる」「今どき学校があれば地域が活性化するというものではない」という発言の裏に、子どもの教育や地域における学校施設の意義を軽視する考え方があったということを裏付けています。

(6)【福山市議会】市長と市教委の監視機能について

 最後に、市議会がどのように機能したかを見ていきます。教育委員会の設置理念は、政治による教育現場への介入を限定するという観点に基づいています。そのため教育委員会は、首長から独立して中立的な教育行政を行う役目を期待されていました。ところが2014年6月の法改正により、以前は教育委員の中から選出されていた教育長を首長が直接任命する体制に変更され、市長と市教委の距離が近くなりました。だからこそ、両者がきちんと機能しているかどうか監視する役割を、市議会が果たさなければなりません。

 しかし前述したように、2021年6月と9月に、改正学校設置条例は淡々と可決しました。たとえ反対意見を述べる議員がいても、多数会派の議員は市教委の説明をそのまま繰り返し、最終的には「数」の力で押し切るというやり方がみられました。

 以上のように、福山市では、市教委・市長・市議会の決定が一体化し、互いに監視するという機能を果たすことができない体制になっています。

 このように、内海や山野では「数」の論理を振りかざして学校再編を強行する傍ら、同じ福山市の別の地域では、個別最適化した教育を謳う「イエナプラン教育校」と「特認校」の開校計画が進んでいました。次回は、それらに関わる行政の論理が、これまでの行政の論理に対してどのように矛盾しているのかを見ていきます。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?