◆第Ⅲ段階の概要
ここでは、枝廣市長の就任(2016年9月)から平川県教育長の就任(2018年4月)までの1年7ヵ月間を扱います。
第Ⅲ段階で見られた重要な変化は、羽田皓氏に代わって枝廣直幹氏が福山市長に就任したことを機に、学校再編の議論に新たな文脈が加わったことです。新たな文脈とは、「税収減」、「学校施設の老朽化」、「公共施設の適正配置」など、教育上の理由とは異なるものを学校再編の必要性に結びつける論理でした。
この論理は、どこから入ってきたのでしょうか。1つのきっかけとしては、2017年3月に福山市建設局都市部都市計画課によって「立地適正化計画基本方針」が策定されていることが注目されます。
「立地適正化計画基本方針」の概要版は、「2050年の75歳は1975年(昭和50年)生まれのあなたです!!」という見出しから始まり、2050年までの人口移動シミュレーションが示され、このままでは商店もなくなり生活が成り立たなくなるという福山市の将来が示されています。そもそも「公共施設の立地適正化」とは、今後日常生活に不可欠な施設が人口の多い地域に移動することが予想されるため、「居住誘導地域」を設定し、そのエリア内での人口密度を確保して施設の維持を図るというものです。このような方針が市として明示されてから、学校施設の配置についても、個々の地域ではなく市全体の問題として議論されるようになりました。
同時に、この時期には、市内の全79学区を市長が回って住民と車座で話す「市長と車座トーク」が行われました(2016年11月〜2019年1月)。市のホームページに公開されている議事録をもとに、市長の学校再編に対する発言を分析していくと、驚くべきことに、「学校と地域は分けて考える」という論理が市長によって導入されていることが明らかになります。
また、この段階で学校再編計画の内容にも変更が見られました。沼隈内海学区では、「(仮称)千年小中一貫教育校の整備計画」が公表されたことで、「福山市学校規模・学校配置の適正化計画(第1要件)」(2015年8月)では内海小中学校・内浦小学校・千年小中学校の3小学校、2中学校を統合するとされた計画が、能登原小学校と常石小学校の2校を加えた5小学校2中学校の統合による、義務教育学校の設置計画となりました。地図等はvol.7(子どもたちが育つ場を模索する内海町に対して、福山市教委は何を行おうとしているのか)に示してありますので、ご覧ください。
◆第Ⅲ段階の分析資料一覧
次の表は、本段階の分析に用いた資料の一覧です。
◆行政の論理 ①人口減少
まずは、行政側の資料から、人口減少に関わる記述を時系列に並べて論理を抽出していきます。
1)地域の人口減少に対する市長の考え方
能登原学区で行われた車座トークでは、枝廣市長が人口減少の問題の根本を自然減ではなく社会減ととらえる発言が見られました(A)。この前提は、今後の市長の説明の中にも継続的に登場し、「人口減少が止まらないのは地域が頑張っていないからだ」という論理に繋がっていきます。
2)都市のコンパクト化と学校施設の適正配置
人口減少への備えとして、都市計画課により「立地適正化計画基本方針」が公表され、中心市街地やその他の拠点を中心とした集約型のまちづくりを進める方向性が固まりました(B)。同方針の中では、いわゆる「増田レポート」(2014年5月、日本創成会議が策定。「2040年までに全国の市町村の半数が消滅する可能性がある」とした)が援用され(C)、手遅れになる前に都市のコンパクト化を進める必要があるとされています。また同基本方針では、特に市全体で5~15歳の小中学生の数が減っていくことについても書かれ、少子化に対応した公共施設の再配置と居住誘導を進めるという方針が確認されました(D)。
内海町の意見交換会や千年学区の説明会における、市教委の「福山市全体の学校配置を見直すため、学校再編に取り組んでいる」という説明は、明言はしないものの、このような方針の決定の影響を少なからず受けたものと考えられます(E,F)。
3)「内海町で保小中一貫校を作っても、複式学級を解消することができない」
内海町の住民は、田島と横島にある2保育所、2小学校と1中学校を統合し、保小中一貫校を設立すべきだという要望書を提出していました。2017年11月の意見交換会において住民がそのことに言及すると、市教委は「保小中一貫校の要望は受け止めて検討しているが、再編しても複式学級となる課題を解決できない」と述べています(G)。しかし、市教委が考慮している数字は現在の児童生徒数のみで、内海町では他地域からの移住による児童生徒数の下げ止まりが実現しており、今後増加する可能性が十分にあるという実態は加味されていません。市教委の論理は、「内海町では、人口が増えることはない」「何をしても無駄」と言っているようにも聞こえます。
◆行政の論理 ②学校と地域の関係
1)枝廣市長が持ち込んだ、「学校と地域は分けて議論する」という論理
学校と地域の関係について、第Ⅱ段階までは、市教委も「学校と地域に密接な関係があることはそれなりに承知している」と述べていました。ところが、各学区の車座トークでは、市長が「学校がなくても地域を活性化する方法はある」と述べています(B,C,D,G,J)。つまり、市長によって学校と地域を分ける論理が導入されたといえます。それを受けて、市教委も同様の説明の仕方をするようになりました(F,H)。
2)「住民のやり方も認めるが、行政のやり方にも協力してほしい」
市教委は、2017年11月、能登原学区の地域説明会で、住民に統合後の学校での教育に協力することを求めています(I)。この姿勢は、第Ⅳ、Ⅴ段階と進むにつれて、住民による教育活動や人口減少対策の取り組みを妨害してまで、行政の方針に協力を求めるものに先鋭化していきます。
3)山野と広瀬の車座トークにおける市長の発言の相違
(A)と(E)を比較すると、いずれも枝廣市長の発言であるにもかかわらず、広瀬では学校と地域の関係を認め、山野ではその関係を否定しているように見えます。このような態度の違いが生じた理由については、後の第Ⅳ段階で明らかになります。
◆行政の論理 ③教育理念
続いて、教育理念に関する記述を見ていきます。
1)学校再編と結びつく教育理念
福山市総合教育会議や第二次教育振興基本計画、総合計画などの行政文書や、千年における説明会、常石に対する回答書で挙がっている「コミュニケーション能力」や「忍耐力」等は、学校統合により一定規模を確保することによって育まれるとして、学校統廃合と結び付けて説明されている教育理念です(A,B,G,H)。また、内海学区の意見交換会では、より直接的に「一定規模の集団における議論が大切だ」とされています(E,L)。
2)学校再編に関係のない教育理念
一方で、(A,B,F,J)には、「思いやり・優しさ・助け合いの心」などの教育理念も見られます。これらは本段階で多用されていますが、直接学校再編には結びつかないものです。次の「④学校再編の理由」の分析でも見ていきますが、この第Ⅲ段階では、再編の理由として、財政など教育上の理由ではないものが説明されました。したがって、市教委は学校再編と直接結びつかない「思いやり・優しさ・助け合いの心」などの教育理念を示す余裕があったのではないかと考えられます。
同様の理由で、「地域への愛着」を育むという理念も一部に見られます。例えば、第二次福山市教育振興基本計画には、地域の一員としての自覚や愛着を持つ必要性が書き込まれました(D)。また、第5次総合計画にも、学校と地域の連携について簡単に触れられています(I)。
3)新学習指導要領の引用
内海学区(2018年3月)の説明会では、新学習指導要領(小学校2020年施行)に書かれている「主体的・対話的で深い学び」という教育理念を、学校再編の理由として挙げるようになりました(J)。学習指導要領の文言が、後に統廃合の中心的な理由になっていくことを踏まえると、本段階の意見交換会で初めて出てきたという点は注目に値します。
◆行政の論理 ④学校再編の理由
1)背景に退く教育的理由
(B,C,K)では、学校再編の理由として「よりよい小中一貫教育を行うため」が挙げられています。これらは第Ⅰ段階で主に挙げられていた理由であり、千年の小中一貫教育校計画を公表するにあたって再び持ち出されたものだといえますが、本段階の後半になるとこの理由は挙げられなくなりました。また、「一定規模を確保することでよい教育を行う」という説明は、本段階でもなされていますが(I)、第Ⅱ段階ほど多くは見られません。
2)校舎の老朽化
それらの教育的観点とは別方向から、学校再編の理由として、「施設の老朽化」が度々言及されるようになりました(A,C,G,H)。工事を行う必要があっても、人口減少による税収減という壁があるといいます(A)。これらは、「選択と集中」型のコンパクトシティの発想と関連しており、本段階で強調された論理です。
3)教員不足問題
また、人口減少による「教員不足」という理由も見られるようになりました(J,L,M)。教員の適正配置を行うために統廃合するという説明ですが、これを単体で細かく説明している箇所が見られないことから、学校再編の一番の理由ではなく、再編を正当化するために加えられたものだと考えられます。
4)市長の発言の矛盾
枝廣市長は、内浦学区の「市長と車座トーク」で「児童が減ったから、小さな学校は望ましくないから、非効率だからという理由で再編するのではない」と述べています(D)。文脈からすると、「非効率だからではない」の意味は、「小規模校は教育的に非効率だからではない」ということです。教育以外にありうる理由は、財政的な理由です。ところが、このやり取りから2週間後に行われた記者会見では、学校再編の理由は「教育」だと述べています(E)。つじつまは合いませんが、以前に述べたことは修正しないという姿勢は、第Ⅵ段階(vol.19)の選挙公約問題につながっていきます。
以上のように、本段階では、学校再編の理由が転換したといえます。これまで市教委は、あくまで「少子化の中でも、よい教育環境を整備するために学校再編を行う」、「よい教育のために一定規模の集団を確保する」という教育的観点からの説明を中心に据えてきました。本段階では、施設老朽化や教育予算、市全体の公共施設としての学校の適正配置など、教育部局が本来言わなくてもよい、または言うべきではないことを言っています。
◆行政の論理 ⑤行政の役割
続いて、行政側から見た、「行政の役割」に関する記述を見ていきます。
第5次福山市総合計画には、「公共施設の適正配置」を進める方針が明記されました(A)。ただし、その中に学校施設が含まれるとは明記されていません。「①人口減少」の分析でも取り上げたように、「立地適正化計画基本方針」は市全体の公共施設配置の見直しにそれなりの影響を与えたはずですが、学校統廃合との具体的な繋がりを本段階の資料から読み取ることは困難です。そこで、第Ⅰ段階の市議会(2015年6月)における議論を改めて参照したいと思います。
福山市議会文教経済委員会(2015年6月)において、市教委はコンパクトシティの考え方と学校統廃合の関係を否定していました(O)。しかしその後のやり取りを見ると、他の委員の土屋委員(日本共産党)に対する当たりが強く、学校統廃合と財政問題の関連について質問しようとすると、度々野次で遮られていることが分かります(P)。また同委員会の中で、「この学校統廃合は、コンパクトシティ政策の一環として進めたほうがよい」とする、市教委ではない委員の発言も見られました (Q)。学校統廃合はコンパクトシティ政策の一環であるという明言を避けつつ、市議会レベルでは、公共施設削減の方針を踏まえた学校統廃合路線が定まっていたと見てよいと考えられます。
これは2017年8月30日の市議会の一場面です。ここでは藤田議員が、9校を存続するという選択肢はあるのかと質問したのに対し、教育長は、学校再編は「避けては通れない」と答弁しています(E)。また、第Ⅰ段階で分析した、教育環境検討委による「答申」の内容が地域性を考慮していないことや、その「答申」をもとに小規模校統合を進めようとしているから無理があることも指摘しましたが、「適正規模を確保するために計画を作っている」と答えるのみでした(F)。このように、福山市の市議会では、誰かが反対意見を述べても野次を飛ばすなどして取り合わないか、質問に答えないかのどちらかで、議論を経て政策を見直すという過程が落ちています。
◆行政の論理 ⑥決定のあり方
続いて、行政側の「決定のあり方」に関する論理を見ていきます。
(1)「住民との合意」ではなく「住民への説明」に重心が移っていく
(A)と(B)は、それぞれ広瀬と内海における「市長と車座トーク」の発言です。広瀬における発言は、住民と市教委が信頼関係を築くという、あくまで相互のやりとりを想定したものですが、内海における発言は、市教委が住民に決定事項を説明するという前提に力点が置かれています。さらに、内海・内浦学区の保護者役員説明会(2018年3月22日)では、市教委により「100%の合意は待たない」という発言がなされ(D)、保護者の考えが子どもたちの教育に影響するべきでないため、保護者の賛成・反対の数は聞かないとされました(E)。市教委の説明は、「保護者の意見が反映されると子どもの教育上好ましくない結果をもたらすことがあるので、保護者は教育委員会が決めた方針に従うべきだ」という論理だと解釈せざるを得ません。同じ説明会の、「皆さんの考えはわかるが、子どもにとってどうなのかを考えてほしい」という発言も、それを裏付けています(F)。
(2)新聞による先行報道
住民は、市教委による説明ではなく、新聞の報道により7校統合の計画を知りました。このことについて市教委は、報道が勝手に行ったことだと説明しています(C)。特定の学区の統廃合計画を、事前に保護者や地域住民に相談することもなく、突然公表したことに対する謝罪はなされませんでした。
◆住民の論理 ①人口減少
行政側の論理に続いて、第Ⅲ段階における住民の論理を見ていきます。前段階に引き続き、内海や山野、能登原の住民の論理を見ていくほか、服部小学校と東村小学校の地域説明会における議事録も参照します。服部小学校と東村小学校は、「適正化計画(第1要件)」で再編対象校とされた小学校の一つであり、2021年4月にそれぞれ駅家東小学校、今津小学校と統合しました。内海や山野よりも早く再編が実行されたため、資料が少なく、詳細に扱うことはできませんが、市教委がまとめている概要資料から、住民の論理を確認しておきます。
学校がなくなると地域の人口減少が進むという論理が、常石学区でも能登原学区でも見られます(b,c)。常石学区に関しては、常石ホールディングスによる社宅の増築計画に言及し、今後児童数が増える見込みであることを訴えています。
◆行政の論理 ②学校と地域の関係
再編対象学区である常石・能登原・内海の住民は、いずれも、学校と地域の関係が密接であることを主張しています(d,e,f,g)。
◆行政の論理 ③教育理念
服部学区の住民は、小規模でもどこにも負けない教育ができるとしています(h)。また、いじめを見抜くことができないという大規模校のデメリットを指摘しています(i)。
同じように、内浦学区の住民も、他にはない地元の良好な環境があり、その中で子どもたちが育っているとしています(k)。また、内海学区では、「グローバル」に軸足を置く行政の教育理念に対して、抽象的で無責任だと批判しています(l)。住民は、地に足のつかない抽象的な「グローバル」よりも、具体的な地域社会の中で子どもを育む「ローカル」に重きを置く教育理念を持っていました。また常石の住民は要望書で、小規模の継続し安定した人間関係の重要性を述べています(j)。これは、教育には一定規模での集団が不可欠だという市教委の教育理念を批判するものです。
◆行政の論理 ④学校再編の理由
※該当する記述なし
◆行政の論理 ⑤行政の役割
服部学区では、再編の前に行政がするべきことがあると指摘しています(m)。ここでの発言は、少子化という課題を前にして、行政がするべきことは学校を減らすことではなく、地域で子どもを育てる環境を整備することだという意味を含んでいるといえます。能登原でも、地域を衰退させる政策を行政が行うべきではないと住民が明確に述べています(p)。
東村小学校区では、2016年11月と2017年3月に行われた、たった2回の説明会をもって合意とみなされたようです。初回の説明会では、特認校や休校という形でもいいので、学校を存続すべきだという意見が出ています(n)。2つの説明会を比較すると、初回は、この学校統合は今津小学校との対等統合であるということを確認する住民がいました(o)。しかし、第2回では、今津小学校にとっては吸収統合ではないか、という意見が出ています(q)。ここには、行政に裏切られたという住民の感覚が滲んでいます。
統廃合ネットは、福山市の学校統廃合問題に取り組む、元小中学校教員など住民により組織された団体です。統廃合ネットは、合意なく速やかに末端の学校をなくすことが行政の役割ではないとし、工事に向けた測量を中止するべきだとしています(r)。
◆行政の論理 ⑥決定のあり方
山野の住民は、市教委による進め方の問題は、説明不足ということではなく、議論がかみ合わないことだとしています(s)。また、内海の意見交換会でも、行政は住民と話をする気がないと批判しています(t)。
◆行政の論理と住民の論理のずれ
ここで、第Ⅲ段階において生じた行政側と住民側の論理の齟齬を、①から⑥までの主題ごとに整理します。
まず、「行政の役割」(⑤)や「決定のあり方」(⑥)について見ていきます。市教委は、2018年3月に内海で行われた意見交換会で、「100%の合意を待たずに学校再編を行う」と述べました。つまり、行政側としては計画を修正しないことが前提にあり、その計画を「住民が納得するまで説明する」という趣旨の発言になっています。それに対して、住民は「説明不足という問題ではない」として、住民の話を聞かない学校再編の進め方そのものが間違っているとしました。
また、住民側が考える「行政の役割」と、行政側が考える「行政の役割」もずれていました。住民にとっての「行政の役割」は小規模校の統合ではなく人口減少対策でしたが、行政にとっての「行政の役割」は保護者や地域住民の意見に惑わされず、学校再編を速やかに行うことでした。
では、保護者や地域の意見を無視してまでも学校再編を行う理由を、市教委はどのように説明しているのでしょうか。「学校再編の理由」(④)を振り返ります。本段階の市教委は、コンパクトシティ政策の影響を受け、人口減少に伴う「財政難」や「教員不足」を再編の理由として挙げ始め、それらが「よりよい教育のため」「学校適正規模を確保するため」といった教育的理由よりも前面に出ていました。
このようにして、第Ⅲ段階では学校再編の根拠が教育上の理由から財政上の理由に転換したと考えられます。それでは、市の「教育理念」(③)はどうなったのでしょうか。
第Ⅰ段階では、福山市の教育理念から「福山に愛着と誇りを持ち、変化の激しい時代をたくましく生きる子ども(福山市学校教育ビジョンⅣ)」の前半、つまり地域に関わる部分が消え、後半、つまり競争に関わる部分だけが残りました。
第Ⅲ段階では、たしかに第二次福山市教育振興基本計画などの行政文書の中には、「地域と学校と家庭が連携する」という記述がちらほらと見られました。しかし、市教委や市長の教育理念の口から語られる教育理念には、地域における教育という視点はほとんど見られません。むしろ、市長は「学校と地域は別に考えるべきだ」と住民に向かって論じているほどです。
代わりに市教委の掲げる教育理念は、グローバル化や情報化の進む社会で、たくましく生きる力を育むというものです。しかし、服部学区や内海学区の住民は、「グローバル」に範囲を定めた教育は抽象的であると指摘し、自分たちの学区では地域に根ざした教育があるとしています。つまり、住民のめざす子ども像には「地域」(ローカル)という概念がありますが、行政のめざす子ども像にはありません。
行政サイドと住民サイドの「地域」に関する認識の根本的なずれは、「人口減少」(①)と「学校と地域の関係」(②)の分析からも見えてきます。住民は、少子化の結果が過疎だと正しく認識しています。過疎化を止めるためには、少子化を止める必要がありますが、学校をなくせばより過疎化が進みます。だから学校を残すべきだという論理です。
しかし、市長を始めとする行政は、少子化の原因は、過疎地が頑張っていないこと、地域の魅力がないことだと認識しています。そうでなければ、「学校がなくても地域活性化はできる」という説明は出てきようがありません。行政の考え方は、過疎の結果が少子化だという点に偏重していますが、実際には、都市よりも地方の方が出生率が高くなることが基本のパターンであることも、周知の事実です。
そもそも、小中学校を奪い、子育ての難しい地域にしてしまっても、「地域に魅力があるならば」、人口を集めて地域を活性化できるはずだという市側の論理には、歪みがあると考えざるを得ません。ここでは、どのように考えても、住民の論理の方が平常であり持続的だと考えられます。
◆おわりに
繰り返しになりますが、第Ⅲ段階では、教育的観点とは別の方向から学校統廃合を促進する力が目立ちました。それは、人口減少に伴う「税収減」や「学校施設の老朽化」です。また、人口減少による「教員のなり手の不足」も理由として挙げられるようになりました。
人口減少が進む中、福山市は「立地適正化計画基本方針」を公表し、公共施設の適正配置と人口の集約を含むコンパクトシティ政策の路線を明示しました。ただし、注意すべきことは、福山市のコンパクトシティ政策は、広がりすぎた郊外を適切に元に戻すというものではなく、末端を切り捨てる「選択と集中」を是とするものだということです。
このように、教育的観点以外の理由から学校再編が進められていく中、市長により新たな論理が持ち込まれました。それが、「学校と地域は関係がない」というものです。
「学校と地域を分けて考える」「学校がなくても地域を活性化する方法はある」といった論理は、小規模校の統廃合を行うためには学校と地域の関係を認めるわけにはいかなくなったために、出てきた論理だと考えられます。
また、本段階の後半では、市教委は、新学習指導要領(小学校2020年施行)に書かれている「主体的・対話的で深い学び」という教育理念を学校再編の理由として挙げるようになりました。文部科学省が示した教育理念を実現するために学校再編を行うということが、第Ⅳ段階以降の説明の中心となっていきます。
次回は、「第Ⅳ段階-イエナ・特認校の推進による「選択と集中」へ(2018年4月1日~2019年2月13日)」の分析を行っていきます。