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【vol.16】第Ⅲ段階 公共施設の立地適正化と結びつく学校再編(2016年9月5日~2018年4月1日)

◆第Ⅲ段階の概要

 ここでは、枝廣市長の就任(2016年9月)から平川県教育長の就任(2018年4月)までの1年7ヵ月間を扱います。

 第Ⅲ段階で見られた重要な変化は、羽田皓氏に代わって枝廣直幹氏が福山市長に就任したことを機に、学校再編の議論に新たな文脈が加わったことです。新たな文脈とは、「税収減」、「学校施設の老朽化」、「公共施設の適正配置」など、教育上の理由とは異なるものを学校再編の必要性に結びつける論理でした。

 この論理は、どこから入ってきたのでしょうか。1つのきっかけとしては、2017年3月に福山市建設局都市部都市計画課によって「立地適正化計画基本方針」が策定されていることが注目されます。

 「立地適正化計画基本方針」の概要版は、「2050年の75歳は1975年(昭和50年)生まれのあなたです!!」という見出しから始まり、2050年までの人口移動シミュレーションが示され、このままでは商店もなくなり生活が成り立たなくなるという福山市の将来が示されています。そもそも「公共施設の立地適正化」とは、今後日常生活に不可欠な施設が人口の多い地域に移動することが予想されるため、「居住誘導地域」を設定し、そのエリア内での人口密度を確保して施設の維持を図るというものです。このような方針が市として明示されてから、学校施設の配置についても、個々の地域ではなく市全体の問題として議論されるようになりました。

 同時に、この時期には、市内の全79学区を市長が回って住民と車座で話す「市長と車座トーク」が行われました(2016年11月〜2019年1月)。市のホームページに公開されている議事録をもとに、市長の学校再編に対する発言を分析していくと、驚くべきことに、「学校と地域は分けて考える」という論理が市長によって導入されていることが明らかになります。

 また、この段階で学校再編計画の内容にも変更が見られました。沼隈内海学区では、「(仮称)千年小中一貫教育校の整備計画」が公表されたことで、「福山市学校規模・学校配置の適正化計画(第1要件)」(2015年8月)では内海小中学校・内浦小学校・千年小中学校の3小学校、2中学校を統合するとされた計画が、能登原小学校と常石小学校の2校を加えた5小学校2中学校の統合による、義務教育学校の設置計画となりました。地図等はvol.7(子どもたちが育つ場を模索する内海町に対して、福山市教委は何を行おうとしているのか)に示してありますので、ご覧ください。

◆第Ⅲ段階の分析資料一覧

 次の表は、本段階の分析に用いた資料の一覧です。

資料一覧
第Ⅲ段階凡例

◆行政の論理 ①人口減少

 まずは、行政側の資料から、人口減少に関わる記述を時系列に並べて論理を抽出していきます。

市長と車座トーク(能登原)】 (2017年1月28日)
外から人を呼べば限界集落は維持できる。今までと同じことを望むわけにもいかない。・・・(A)

立地適正化計画基本方針】 (2017年3月)
・本市では、2008年(平成20年)に、都市計画法(昭和43年法律第100号)に基づく「都市マスタープラン」を改定し、中心市街地やその他の拠点を中心とした集約型のまちづくりを進めると共に、それらを公共交通網などのネットワークで相互に接続する「都市拠点集約型の都市構造」をめざすこととしてきました。2014年(平成26年)には、都市再生特別措置法(平成14年法律第22号)が改正され、生活に必要なサービス機能や高次都市機能が立地する区域、居住を促しそれを支える区域の形成を推進し、いつまでも住み続けられる地域づくりをめざす「立地適正化計画」を作成できることとなりました。・・・(B)

・2014年(平成26年)5月の日本創成会議において、若者が大都市(特に東京圏)へ流出することが、地方都市の人口減少を加速させると指摘されました。地方都市から大都市への人口の転出超過が続けば、地方都市の若年人口及び生産年齢人口が減少するだけでなく、少子高齢化や地方の活力の低下に繋がることも想定されます。さらに、同会議では2050年(令和32年)の時点で、人口が2010年(平成22年)の半数以下に減少する地域が全国で60%を超え、その内の1/3(全体の約20%)の地域では人が居住しなくなる可能性があるとしています。また、全国約1、700の自治体のうち、896の自治体が消滅する可能性があるとしており、広島県では約40%の地域が該当するとされています。 ・・・(C)

・5~15歳未満人口の現状 ~小中学生が減少していく~
ここから年齢構成別の将来人口推計について説明していきます。これを見ると、5~15歳未満の小中学生からなる10人/ha以上のエリアは、人口の多い中央地域や東部地域に分布していることがわかります。しかし、2050年(令和32年)には、少子化の影響により、2010年(平成22年)に存在していた人口密度10人/ha以上のエリアが消失すると共に、5~10人/ha未満のエリアも減少し、5人/ha未満のエリアが増加するなど、市内の広い範囲で5~15歳未満の人口が減少していくことがわかります。・・・(D)

【内海保護者役員説明会 概要】(2017年6月14日)
・教育次長:少子化は全国的に深刻な問題であり、本市にあっても、1980年(昭和 55年)頃のピークに比べ、現在約6割にまで子どもの数が減少している。一方、学校数はその当時とほとんど変わっておらず、学校の小規模化が急速に進んでいる。将来にわたり子ども達により良い教育を提供していくため、市全体の学校の配置を見直し、学校規模・学級規模を整えることは避けては通れない。(p.1)・・・(E)

千年学区 地域説明会 概要】 (2017年10月11日)
・教育次長:教育委員会では、福山市全体の学校配置を見直すため、学校再編に取り組んでいる。少子化の状況は全国的にも深刻になっており、本市においても、1980年(昭和55年)当時から子どもの数は約4割も減っているが、小中学校の数はピーク時から比べてほぼ変わっておらず、学校の小規模化が進んでいる。一定の集団による教育効果を上げられない状況も生まれてきている。(p.1)・・・(F)

【第1回内海町地域まちづくり意見交換会】(2017年11月21日)
・住民:保小中一貫校の要望や教育委員会との意見交換など、地域住民の声は行政にどこまで届いているのか。 誠実に向き合ってくれているのか。
→回答:要望も意見もしっかりと受け止めて検討している。保小中一貫校の要望については、再編しても複式学級となる課題を解決できない。検討を重ねていく中で、千年中学校の場所に義務教育学校を整備し、内海と沼隈の子どもたちの教育環境を整える計画とした。(p.4)・・・(G)

能登原学区 第1回 地域説明会 概要】 (2017年11月29日)
・教育次長:教育委員会では、少子化の問題を踏まえ、学校規模の適正化に取り組んでいる。本市では、1980 年 (昭和 55 年)当時から、子どもの数は約4割も減っているが、学校数はこの30年間ほとんど変わっておらず、学校の小規模化が進んでいる。一定の集団規模による教育を基本とする学校において、子どもの数が少ないことによる課題が顕在化している。(p.1)・・・(H)

1)地域の人口減少に対する市長の考え方
 能登原学区で行われた車座トークでは、枝廣市長が人口減少の問題の根本を自然減ではなく社会減ととらえる発言が見られました(A)。この前提は、今後の市長の説明の中にも継続的に登場し、「人口減少が止まらないのは地域が頑張っていないからだ」という論理に繋がっていきます。

2)都市のコンパクト化と学校施設の適正配置
 人口減少への備えとして、都市計画課により「立地適正化計画基本方針」が公表され、中心市街地やその他の拠点を中心とした集約型のまちづくりを進める方向性が固まりました(B)。同方針の中では、いわゆる「増田レポート」(2014年5月、日本創成会議が策定。「2040年までに全国の市町村の半数が消滅する可能性がある」とした)が援用され(C)、手遅れになる前に都市のコンパクト化を進める必要があるとされています。また同基本方針では、特に市全体で5~15歳の小中学生の数が減っていくことについても書かれ、少子化に対応した公共施設の再配置と居住誘導を進めるという方針が確認されました(D)。

 内海町の意見交換会や千年学区の説明会における、市教委の「福山市全体の学校配置を見直すため、学校再編に取り組んでいる」という説明は、明言はしないものの、このような方針の決定の影響を少なからず受けたものと考えられます(E,F)。

3)「内海町で保小中一貫校を作っても、複式学級を解消することができない」
 内海町の住民は、田島と横島にある2保育所、2小学校と1中学校を統合し、保小中一貫校を設立すべきだという要望書を提出していました。2017年11月の意見交換会において住民がそのことに言及すると、市教委は「保小中一貫校の要望は受け止めて検討しているが、再編しても複式学級となる課題を解決できない」と述べています(G)。しかし、市教委が考慮している数字は現在の児童生徒数のみで、内海町では他地域からの移住による児童生徒数の下げ止まりが実現しており、今後増加する可能性が十分にあるという実態は加味されていません。市教委の論理は、「内海町では、人口が増えることはない」「何をしても無駄」と言っているようにも聞こえます。

◆行政の論理 ②学校と地域の関係

市長と車座トーク(広瀬)】 (2016年11月17日)
学校を中心として地域が成り立っているという話も本当なんだろうと思う。・・・(A)

【市長と車座トーク(能登原)】(2017年1月28日)
全国では学校がなくなったからといってその地域はじっとしていない。例えば校舎の跡地をどういうふうに地域が活用するのか新しい時代に合った地域の活性化を模索している。・・・(B)

市長と車座トーク(内浦)】 (2017年8月10日)
今までとは違ったやり方で地域の維持を考える必要がある。・・・(C)

市長と車座トーク(山野)】 (2017年8月21日)
・廃校の利活用は考えないといわれた。今はそういう心境にならないということだと思う。しかし全国で廃校の利活用の取り組みが始まっているということも考えていかなければいけない。・・・(D)

学校がないと地域で子育てができないとは思わない。地域に子育てをする魅力があるかどうか。・・・(E)

【常石小学校の廃校に関する請願書に対する回答について】(2017年11月2日)
・人口減少、少子化・高齢化が急速に進行する中、学校があれば地域が活性化するという状況ではなくなってきており、将来を見据えたまちづくりを進めていく上において、子どもたちの教育環境と地域の活性化はそれぞれの課題として、分けて議論していく必要があると考えています。・・・(F)

市長と車座トーク(常石)】 (2017年11月20日)
学校がなくなることと、地域の活性化ということは別だと考えている。・・・(G)

【第1回内海町地域まちづくり意見交換会】(2017年11月21日)
・学校再編ありきで、まちづくりや地域活性化の話を進めてもらいたくない。
→(回答) 教育環境についての話合いとは分けて、まちづくりについて話し合うため、この場を設けていただいている。学校再編については、保護者の不安な思いや疑問に対して具体的な対応策、新たな学校像を示しながら引き続き意見交換をさせていただく。双方を並行して、取り組んでいく。(p.3)・・・(H)

【能登原学区 地域説明会 概要】(2017年11月29日)
・住民:今は地域の方が、どこの子どもだと認識してくださるが、範囲が広がると、どこの子どもかわからなくなる。
→回答:義務教育学校では、広がった校区において、地域に出向き、地域の方から学ぶ教育活動を積極的に行っていく。現在の地域の子どもたちはもちろん、義務教育学校の子どもたちを地域の子どもとして見守っていただけるよう、協力をお願いしたい。(p.2)・・・(I)

市長と車座トーク(服部)】 (2018年3月16日)
教育環境と地域の活性化の問題については分けて議論することを申し上げている。この二つの問題が絡み合うとより複雑となって物事を整理しづらくなるのでまずはこどもたちの教育のことについて充分議論を尽くし、地域の活性化についても順序を分けて議論しようと考えている。・・・(J)

1)枝廣市長が持ち込んだ、「学校と地域は分けて議論する」という論理
 学校と地域の関係について、第Ⅱ段階までは、市教委も「学校と地域に密接な関係があることはそれなりに承知している」と述べていました。ところが、各学区の車座トークでは、市長が「学校がなくても地域を活性化する方法はある」と述べています(B,C,D,G,J)。つまり、市長によって学校と地域を分ける論理が導入されたといえます。それを受けて、市教委も同様の説明の仕方をするようになりました(F,H)。

 2)「住民のやり方も認めるが、行政のやり方にも協力してほしい」
 市教委は、2017年11月、能登原学区の地域説明会で、住民に統合後の学校での教育に協力することを求めています(I)。この姿勢は、第Ⅳ、Ⅴ段階と進むにつれて、住民による教育活動や人口減少対策の取り組みを妨害してまで、行政の方針に協力を求めるものに先鋭化していきます。

 3)山野と広瀬の車座トークにおける市長の発言の相違
 (A)と(E)を比較すると、いずれも枝廣市長の発言であるにもかかわらず、広瀬では学校と地域の関係を認め、山野ではその関係を否定しているように見えます。このような態度の違いが生じた理由については、後の第Ⅳ段階で明らかになります。

◆行政の論理 ③教育理念

 続いて、教育理念に関する記述を見ていきます。

2016年度 第1回福山市総合教育会議 議事録】( 2017年2月22日)
・三好教育長:日々の授業で学んだことを、日常の様々な場面で行動化できる「確かな学び」として定着させ、知識や技能はもちろんですが、課題発見・解決力、挑戦する力、粘り強さ、コミュニケーション能力、思いやり・優しさ・助け合いの心、いわゆる“ローズマインド”を育むために、様々な取組を行っているところであります。(p.3)・・・(A)

第二次福山市教育振興基本計画】(2017年3月)
・…子どもたちには、「何を知っているか」ではなく、「知識を活用し、協働して新たな価値観を生み出せるか」ということが求められており、そのためには、知識や技能はもとより、課題発見・解決力挑戦する力粘り強さや忍耐力コミュニケーション能力思いやり・やさしさ・助け合いの心、いわゆる“ローズマインド” などの資質・能力を身に付けることが必要です。(p.20)・・・(B)

・持続可能な社会の実現に向けては、次代を担う子どもたちが地域の一員としての自覚地域への愛着を持つことが必要です。子どもたちが、学校での学びを日常の様々な場面で行動化するための場として、地域に出かけ、地域課題の改善に取り組む教育活動をしたり、地域でのボランティア活動に主体的に取り組んだりします。(p.32)・・・(D)

【内海保護者役員説明会 概要】(2017年6月14日)
・小学校の存続については、学校を再編し、より多くの子ども同士の関わりの中で、日々の授業で学び合い、学校行事などを通して協力しながら最後までやりきる経験を積み重ねることを通して、子どもたちに、これからの変化の激しい社会を生きていくために必要な力を身に付け、一人ひとりの可能性を引き出していくことのできる教育環境にしていきたい。・・・(E)

【千年学区 地域説明会 概要】(2017年10月11日)
・「21世紀型“スキル&倫理観”」という言葉で説明させていただいたが、コミュニケーション能力課題にぶつかったときに乗り越える力思いやりや優しさを持ち合わせてこその人間力だと捉えている。・・・(F)

・義務教育学校では、人間力を兼ね備えた子どもたち、変化の激しい先行き不透明な社会をたくましく生きていく子どもたちを育てていく、というところに気持ちを結集していきたい。・・・(G)

第5次福山市総合計画】(2017年7月)
・次代を担う子どもたちが、知識や技能に加え、自ら課題を見出して解決する力困難に立ち向かい粘り強く物事をやり抜く力他者と分かり合おうとするコミュニケーション能力等を確実に身に付けるように取り組みます。・・・(H)

・主な取り組み 学校規模・学校配置の適正化や中学校給食完全実施に向けた取組など学校教育環境の整備を行います。また、子どもたちの安心・安全のため、学校・家庭・地域が協力して取り組むとともに、子どもたち一人一人の課題に応じた支援を充実します。(p.93)・・・(I)

【常石小学校の廃校に関する請願書に対する回答について】(2017年11月2日)
・こうした課題を解決し、より多くの子ども同士の関わりの中で、日々の授業で学びあい、学校行事などで協力しながら最後までやりきる経験を積み重ねることを通じて、知識、技能はもとより、これからの子どもたちに求められる課題発見・解決力挑戦する力粘り強さや忍耐力コミュニケーション能力思いやりの心などの資質、能力を身に付けさせ、子ども一人ひとりの可能性を引き出していくことのできる教育環境が必要です。・・・(J)

【内海保護者意見交換会 概要】(2018年3月28日)
・再編にあたっては、施設一体型小中一貫教育校の整備の可能性についても併せて検討することとしていた。義務教育学校の制度が新たにできたこともあり、自由度の高い、特色ある教育課程を編成できることから、主体的・対話的で深い学びが一層進み、より教育効果が高まると考えた。 ・・・(K)

・今後も人工知能(AI)が進化し、将来的には雇用・労働環境が変わっていく。計算等は人工知能の方がはるかに早く正確に行うが、人間は、様々な複雑で答えの出ないような問題を、感性と多様な考え方で議論しながら、解決策を見出していくことが役割となってくる。一定の集団で議論し、自分も主張し相手の意見も聞き、物事の答えを出していかないといけない。・・・(L)

1)学校再編と結びつく教育理念
 福山市総合教育会議や第二次教育振興基本計画、総合計画などの行政文書や、千年における説明会、常石に対する回答書で挙がっている「コミュニケーション能力」や「忍耐力」等は、学校統合により一定規模を確保することによって育まれるとして、学校統廃合と結び付けて説明されている教育理念です(A,B,G,H)。また、内海学区の意見交換会では、より直接的に「一定規模の集団における議論が大切だ」とされています(E,L)。

 2)学校再編に関係のない教育理念
 一方で、(A,B,F,J)には、「思いやり・優しさ・助け合いの心」などの教育理念も見られます。これらは本段階で多用されていますが、直接学校再編には結びつかないものです。次の「④学校再編の理由」の分析でも見ていきますが、この第Ⅲ段階では、再編の理由として、財政など教育上の理由ではないものが説明されました。したがって、市教委は学校再編と直接結びつかない「思いやり・優しさ・助け合いの心」などの教育理念を示す余裕があったのではないかと考えられます。

 同様の理由で、「地域への愛着」を育むという理念も一部に見られます。例えば、第二次福山市教育振興基本計画には、地域の一員としての自覚や愛着を持つ必要性が書き込まれました(D)。また、第5次総合計画にも、学校と地域の連携について簡単に触れられています(I)。

3)新学習指導要領の引用
 内海学区(2018年3月)の説明会では、新学習指導要領(小学校2020年施行)に書かれている「主体的・対話的で深い学び」という教育理念を、学校再編の理由として挙げるようになりました(J)。学習指導要領の文言が、後に統廃合の中心的な理由になっていくことを踏まえると、本段階の意見交換会で初めて出てきたという点は注目に値します。

◆行政の論理 ④学校再編の理由

【市長と車座トーク(能登原)】(2017年1月28日)
・もう少し色々な幅広い交流ができるような一定の規模の教育環境を確保するため。子どもたちの安全の確保のためには、校舎建て替え耐震補強などお金をかけなければいけないしかし人口や納税者の数も税収も減っていくのでそこも考えなければならない。・・・(A)

【(仮称)千年小中一貫教育校の整備計画】(2017年3月)
小中一貫教育をより効果的に推進するため、児童生徒が日常的に交流し、教職員が9年間を見通した教育活動を行うことができる施設一体型小中一貫教育校(以下、「小中一貫教育校」という。)を、千年中学校区と内海中学校区の小中学校を再編し「義務教育学校(注)」として整備したいと考えています。(p.1)・・・(B)

【内海保護者役員説明会 概要】(2017年6月14日)
・教育次長:2015 年(平成27年)8月に策定した「学校規模・学校配置の適正化計画(第1要件)」では、内浦小学校、内海小学校と千年小学校を、内海中学校と千年中学校を再編することとしていた。その後、本市が進めている小中一貫教育をより効果的に進めるため、また、今後の千年中学校区の児童生徒数の推移、学校施設の老朽化の状況等を踏まえ再検討する中で、千年中学校の位置に五つの小学校と二つの中学校を一緒にした小中一貫教育校を義務教育学校として整備する計画に変更した。(p.1)・・・(C)

【市長と車座トーク(内浦)】(2017年8月10日)
・住民:学校再編について、小規模校だからという理由で、内浦小学校をなくさないでほしい。(中略)児童の人数が少ないという理由で地域から学校をなくそうとする教育委員会の統合案には正直、とても困惑している。
→市長:児童が減ったから、小さな学校は望ましくないから、非効率だからという理由で再編しようとしているのではない。・・・(D)

【9月定例市議会 市長記者会見】(2017年8月28日)
・市長:学校再編は、子どもたちにとってより良い教育環境をどのように整えていくべきか、という教育的観点に立って進めていくものであり、保護者と地域の間で十分意見交換をする必要があると考えています。・・・(E)

・市長:2015年に策定しました「適正化計画」とその基になる有識者、或いは地域の住民の皆さん方からいただいた基本方針、答申ですね、基本方針では小学校間・中学校間のそれぞれの再編を基本にしつつ、同時に施設一体型の小中一貫教育校を整備する可能性についても、併せて検討すると、そう言うお話もいただいております。この度、仮称でありますが「千年小中一貫教育校」を昨年4月に制度化された義務教育学校として整備する考えをお示しいたしました。まだまだ様々な議論をいただいている段階でありますが、引き続き義務教育学校の内容を、十分説明を地元に対してしていきたいと、この様に考えております。・・・(F)

【千年学区 地域説明会 概要】(2017年10月11日)
・教育次長:少子化の影響で教員のなり手が少なくなっている状況や、今後、学校施設の老朽化に伴い、その多くが改修や建替えの必要が生じてくることを考えると、現在の学校の数を維持することは難しい。学校規模を適正化することで、教育の質の維持・向上を図っていく必要がある。(p.1)・・・(G)

【常石小学校の廃校に関する請願書に対する回答について】(2017年11月2日)
・そうした中、昨年4月の義務教育学校の制度化、常石小学校を含む千年中学校区と内海中学校区における児童生徒数や学級数の将来推計、学校施設の老朽化の状況等を踏まえる中で検討を重ねた結果、両中学校区の五つの小学校と二つの中学校を再編し、千年中学校の場所に、施設一体型の義務教育学校として整備することが、子どもたちにとって最善の教育環境となると考えたものです。・・・(H)

・しかし、学校が小規模化することで、子どもたちが、主体的に考え、意見を交わしながら理解を深める授業が展開しづらく、多様な価値観に触れさせることも難しいといった面があります。また、体育における団体競技、音楽における合唱・合奏・部活動や学校行事など、一定の集団が必要な活動において学習効果が十分に得られないといった課題も生じています。・・・(I)

・学校規模・学級規模を整えることで、教員体制の充実が図られ、グループ学習や習熟度別学習など、多様な学習・指導形態を取ることができ、多くの友達の意見を聞いたり、一緒に知恵を絞って考えたりといった、より深く広がりのある協働的な学習ができます。グループ討議やグループ間の意見交換などにより、一人ひとりが積極的に議論し、より良い答えを導き出す「自ら考え学ぶ授業」を通して、達成感や自己肯定感、豊かな人間性や社会性を育んでいきたいと考えています。・・・(J)

・この取組に当たっては、「学校規模・学校配置の適正化計画」に基づき、小学校間、中学校間の再編を基本にしつつ、児童生徒や教職員が、日常的に交流し、計画的・継続的に教育活動を行うことができる施設一体型小中一貫教育校の整備も併せて検討しています。・・・(K)

【能登原学区 地域説明会 概要】(2017年11月29日)
・教育次長:多くの友達と学び合いながら、子どもたちにこれから必要となる力を付けていくためには、学校の規模を適正化する必要があり、望ましい規模にすることで教員体制も充実する。(p.1)・・・(L)

【内海保護者説明会 概要】(2018年3月28日)
・これまでは学校を存続する方針で努力してきた。少子化がさらに進み、税収の落ち込み教職員の確保が困難になる中で、今後の教育の水準を維持・充実できない。・・・(M)

1)背景に退く教育的理由
 (B,C,K)では、学校再編の理由として「よりよい小中一貫教育を行うため」が挙げられています。これらは第Ⅰ段階で主に挙げられていた理由であり、千年の小中一貫教育校計画を公表するにあたって再び持ち出されたものだといえますが、本段階の後半になるとこの理由は挙げられなくなりました。また、「一定規模を確保することでよい教育を行う」という説明は、本段階でもなされていますが(I)、第Ⅱ段階ほど多くは見られません。

 2)校舎の老朽化
 それらの教育的観点とは別方向から、学校再編の理由として、「施設の老朽化」が度々言及されるようになりました(A,C,G,H)。工事を行う必要があっても、人口減少による税収減という壁があるといいます(A)。これらは、「選択と集中」型のコンパクトシティの発想と関連しており、本段階で強調された論理です。

 3)教員不足問題
 また、人口減少による「教員不足」という理由も見られるようになりました(J,L,M)。教員の適正配置を行うために統廃合するという説明ですが、これを単体で細かく説明している箇所が見られないことから、学校再編の一番の理由ではなく、再編を正当化するために加えられたものだと考えられます。

 4)市長の発言の矛盾
枝廣市長は、内浦学区の「市長と車座トーク」で「児童が減ったから、小さな学校は望ましくないから、非効率だからという理由で再編するのではない」と述べています(D)。文脈からすると、「非効率だからではない」の意味は、「小規模校は教育的に非効率だからではない」ということです。教育以外にありうる理由は、財政的な理由です。ところが、このやり取りから2週間後に行われた記者会見では、学校再編の理由は「教育」だと述べています(E)。つじつまは合いませんが、以前に述べたことは修正しないという姿勢は、第Ⅵ段階(vol.19)の選挙公約問題につながっていきます。

  以上のように、本段階では、学校再編の理由が転換したといえます。これまで市教委は、あくまで「少子化の中でも、よい教育環境を整備するために学校再編を行う」、「よい教育のために一定規模の集団を確保する」という教育的観点からの説明を中心に据えてきました。本段階では、施設老朽化や教育予算、市全体の公共施設としての学校の適正配置など、教育部局が本来言わなくてもよい、または言うべきではないことを言っています。

◆行政の論理 ⑤行政の役割

 続いて、行政側から見た、「行政の役割」に関する記述を見ていきます。

【第5次福山市総合計画】(2017年7月)
・市民ニーズや社会環境の変化に的確に対応するため、公共サービスのあり方について自助・共助・公助の視点から、真に必要とされる機能を見極めるとともに、公共施設の適正配置・再構築に取り組み、最適な公共サービスの提供に努めます。・・・(A)

 第5次福山市総合計画には、「公共施設の適正配置」を進める方針が明記されました(A)。ただし、その中に学校施設が含まれるとは明記されていません。「①人口減少」の分析でも取り上げたように、「立地適正化計画基本方針」は市全体の公共施設配置の見直しにそれなりの影響を与えたはずですが、学校統廃合との具体的な繋がりを本段階の資料から読み取ることは困難です。そこで、第Ⅰ段階の市議会(2015年6月)における議論を改めて参照したいと思います。

【2015年6月5日 文教経済委員会】
・教育次長(道廣修二):先ほどおっしゃいました立地適正化計画とこの学校の地域適正化の取り組みというのは、直接的にはかかわりはございません。・・・(O)

・土屋知紀委員: (前略)(「全庁的なやつを教育委員会が答弁できん」と呼ぶ者あり)今回の学校統廃合の方針というのはそういった再整備計画、地域交流施設の再整備計画の……
(「ほかの場でやれ」と呼ぶ者あり)観点は加味されているのかどうなのか。
(「教育委員会で答弁できんじゃろうが」と呼ぶ者あり)要するに、統合することの理由は何なのかと。(「それは、委員長、注意せにゃいけん。答弁せい言うののが無理よ」と呼ぶ者あり)(中略を除き原文ママ)・・・(P)

・徳山威雄委員:(前略)コンパクトシティーということで理解はしてるんですが、要はそういう行政サービスが行き届かなくなる地域というのは、どうしても出てくるようになります。それは、人口減少してくれば、行政の人間も少なくなってくるわけですから、だから当然のこととして人口が流出した、そういう言い方は失礼になるけど、過疎の地域は行政サービス届けにくくなってくると。(中略)学校とかそういった公共的な施設も、そういったところへ統廃合して移していく必要が出てきますので、そういったことをにらんだ部分だと私はこの統廃合っていうのは理解してますので、先ほどからありましたような地域の問題とか、そういったところも含めた総合的な検討といいますか、そういうことを進めてほしいということを要望しておきます。・・・(Q)

 福山市議会文教経済委員会(2015年6月)において、市教委はコンパクトシティの考え方と学校統廃合の関係を否定していました(O)。しかしその後のやり取りを見ると、他の委員の土屋委員(日本共産党)に対する当たりが強く、学校統廃合と財政問題の関連について質問しようとすると、度々野次で遮られていることが分かります(P)。また同委員会の中で、「この学校統廃合は、コンパクトシティ政策の一環として進めたほうがよい」とする、市教委ではない委員の発言も見られました (Q)。学校統廃合はコンパクトシティ政策の一環であるという明言を避けつつ、市議会レベルでは、公共施設削減の方針を踏まえた学校統廃合路線が定まっていたと見てよいと考えられます。

【市議会】(2017年8月30日)
・藤田仁志議員:廃校の危機にある9学校の地域が学校存続に向けて動いていますが、よい案があれば存続するのでしょうか。
三好雅章(教育長):学校再編は教育的な観点で行うものであり、避けては通れないものと考えております。保護者や地域の皆様と意見交換を重ねるなど、真に子どもたちのための取り組みとなるように丁寧に取り組んでまいります。(p.172)・・・(E)

・藤田仁志議員:学校教育環境検討委員会では、第2回の会議で、学校規模が違えばそれに合った教育法があるので、規模が適正かどうかは重要ではないという意見や学校にはある程度の子どもの数が必要との意見が出ています。…単に、教育効果を高めるには、学校規模はどれぐらいが望ましいかという議論に転換したわけです。地域性を考慮しない委員会の答申をもとに、小規模校を統廃合しようとしたところに無理が生じたものと思います。…今回、規模の問題ではなく、教員の問題として、保護者や地域の理解を得る説明に変えていく考えはありませんか。
→管理部長:(中略)やはり適正規模を確保することが必要であるということから、この計画を作ってまいっております。(p.172)・・・(F)

 これは2017年8月30日の市議会の一場面です。ここでは藤田議員が、9校を存続するという選択肢はあるのかと質問したのに対し、教育長は、学校再編は「避けては通れない」と答弁しています(E)。また、第Ⅰ段階で分析した、教育環境検討委による「答申」の内容が地域性を考慮していないことや、その「答申」をもとに小規模校統合を進めようとしているから無理があることも指摘しましたが、「適正規模を確保するために計画を作っている」と答えるのみでした(F)。このように、福山市の市議会では、誰かが反対意見を述べても野次を飛ばすなどして取り合わないか、質問に答えないかのどちらかで、議論を経て政策を見直すという過程が落ちています。

◆行政の論理 ⑥決定のあり方

 続いて、行政側の「決定のあり方」に関する論理を見ていきます。

【市長と車座トーク(広瀬)】(2016年11月17日)
・地元の人たちの意見を聞きながら、教育委員会が考えている思いも責任のある人が話す。議論を深めながら信頼関係をまずは築きたい。・・・(A)

【市長と車座トーク(内海)】(2017年3月22日)
・「どうなっているのかわからない、不安だ」、これは最低限すぐさま解決しないといけない。今、福山市がおかれている状況や、「いつまでにこういうことを考えている。」という状況を、PTAの役員だけでなくて、保護者の皆さんや地域の皆さんに説明する機会を作らないといけないと思う。保護者や子どもの皆さんの不安を解消したいと思う。・・・(B)

【第1回内海町地域まちづくり意見交換会】(2017年11月21日)
・住民:新聞を通じて計画のことを知った。まずは地域へ説明に来るべきだった。
→回答:まず地域に説明しようとしていたところ、報道に先行されてしまった。情報管理については充分反省している。どうやって情報が漏れたのかは分からないが、行政が特定の報道機関に情報提供することはないので、ご理解いただきたい。 (p.4)・・・(C)

【内海保護者説明会 概要】(2018年3月28日)
・住民:合意なしに進めるのか。合意とは、どのような基準か。
→回答:100%合意が得られるまで何もしないということは不可能である。皆さんと意見交換をし、心配されていることをしっかりと聞かせていただき、それに対してできることは対応していく。皆さんの理解が進んだ段階で、最終的には教育委員会が判断をする。千年の義務教育学校の整備に向けて、皆さんと意見交換をさせてもらいたい。(p.1)・・・(D)

・住民:教育委員会が最終的に決定すると言われたが、我々の意思は介在しないのか。賛成、反対を、はっきり数字として見える形にしてもらった方が、我々はすっきりする。
→回答:賛成・反対という保護者の意見が子どもたちの教育に影響してはいけないと思っている。賛成・反対の数で方針を決めることはしない。(p.2)・・・(E)

・住民:一緒に考えようという姿勢なら話もできる。何を話しても断られるのはどうなのか。
→回答:少人数の学校の良さもあるが、市としての考え方や方針を示しており、いつまでもこの状況を長引かせたくない皆さんの考えはわかるが、子どもにとってどうなのかを考えてほしい。(p.7)・・・(F)

(1)「住民との合意」ではなく「住民への説明」に重心が移っていく
 (A)と(B)は、それぞれ広瀬と内海における「市長と車座トーク」の発言です。広瀬における発言は、住民と市教委が信頼関係を築くという、あくまで相互のやりとりを想定したものですが、内海における発言は、市教委が住民に決定事項を説明するという前提に力点が置かれています。さらに、内海・内浦学区の保護者役員説明会(2018年3月22日)では、市教委により「100%の合意は待たない」という発言がなされ(D)、保護者の考えが子どもたちの教育に影響するべきでないため、保護者の賛成・反対の数は聞かないとされました(E)。市教委の説明は、「保護者の意見が反映されると子どもの教育上好ましくない結果をもたらすことがあるので、保護者は教育委員会が決めた方針に従うべきだ」という論理だと解釈せざるを得ません。同じ説明会の、「皆さんの考えはわかるが、子どもにとってどうなのかを考えてほしい」という発言も、それを裏付けています(F)。

 (2)新聞による先行報道
 住民は、市教委による説明ではなく、新聞の報道により7校統合の計画を知りました。このことについて市教委は、報道が勝手に行ったことだと説明しています(C)。特定の学区の統廃合計画を、事前に保護者や地域住民に相談することもなく、突然公表したことに対する謝罪はなされませんでした。

◆住民の論理 ①人口減少

 行政側の論理に続いて、第Ⅲ段階における住民の論理を見ていきます。前段階に引き続き、内海山野能登原の住民の論理を見ていくほか、服部小学校と東村小学校の地域説明会における議事録も参照します。服部小学校と東村小学校は、「適正化計画(第1要件)」で再編対象校とされた小学校の一つであり、2021年4月にそれぞれ駅家東小学校、今津小学校と統合しました。内海や山野よりも早く再編が実行されたため、資料が少なく、詳細に扱うことはできませんが、市教委がまとめている概要資料から、住民の論理を確認しておきます。

【常石小学校の廃校に関する請願書】(2017年8月7日)
・沼隈町と内海町の小中学校の再編が進んでいるものと思いますが、沼隈町にはご存じの通り常石グループ企業があり、社宅の増築計画があることを聞いています。よって、今後は常石学区を中心に児童数が増加していくものと思われます。・・・(a)

・廃校となれば地域から子供を持つ若い世代がいなくなり、急速に過疎化が進むことが予想されます。・・・(b)

【能登原学区 第1回地域説明会 概要】(2017年11月29日)
・小学校がなくなると、能登原に住んで子どもを育てる人がいなくなり、過疎化に向かう。子育て世代がここに住んでもいいという状況を作るしか解決方法はない。(p.4) ・・・(c)

学校がなくなると地域の人口減少が進むという論理が、常石学区でも能登原学区でも見られます(b,c)。常石学区に関しては、常石ホールディングスによる社宅の増築計画に言及し、今後児童数が増える見込みであることを訴えています。

◆行政の論理 ②学校と地域の関係

【内海保護者役員説明会 概要】(2017年6月14日)
・7校の小中学校が一緒になるが、それぞれ特徴があり、地域と学校の連携が充実し、大きな成果をあげたところもある。そのようなところが一つになると、学校と地域のつながりが、弱くなってしまう恐れがある。この地域の学校間の連携、地域と学校との連携が、どのような成果をもたらしているのか、これから計画をしていくうえで、大切にしてほしい。(p.2) ・・・(d)

【常石小学校の廃校に関する請願書】(2017年8月7日)
・常石小学校は明治初期からの歴史を持ち、地域社会の中核的な位置づけとなっております。学校は教育の場だけでなく、地域の文化交流としての役割を担っていることも考慮してほしいと思います。・・・(e)

【第1回内海町地域まちづくり意見交換会】(2017年11月21日)
学校再編と地域活性化は深い関わりがあるが、今まで地域活性化についての話をしてこなかった。地域の意見を行政に届け、行政から具体的な施策を示していただければ、それについては、我々は納得できると思う。そのためには、地元からも具体的な案を出していく必要があると思っている。(p.5) ・・・(f)

【能登原学区 第1回地域説明会 概要】(2017年11月29日)
今は地域の方が、どこの子どもだと認識してくださるが、範囲が広がると、どこの子どもかわからなくなる。(p.2) ・・・(g)

 再編対象学区である常石・能登原・内海の住民は、いずれも、学校と地域の関係が密接であることを主張しています(d,e,f,g)。

◆行政の論理 ③教育理念

【服部学区 第1回地域説明会 概要】(2016年11月6日)
服部小は小規模だが、どこの学校にも負けない教育をしている。地域も協力して、少人数でもいろんなことが学べる素晴らしい環境がある。小規模校でもコミュニケーション能力などは身に付く。(p.2) ・・・(h)

児童数が多いといじめは見抜けない。学校を減らすことよりも、いじめをなくす取組をしてほしい。(p.2) ・・・(i)

【常石小学校の廃校に関する請願書】(2017年8月7日)
・担当教員の指導方法の工夫は不可欠ですが、少人数教育の方が学力向上に有効という調査結果が日本でもあり、WHOも生徒数は100人を下回らない規模が好ましいという勧告(小学校であれば1学級の児童は約16人)があります。特に小学校の期間は、小規模の継続し安定した人間関係の中に置かれた方が安心して自己肯定感や社会性が育つものと考えます。・・・(j)

【市長と車座トーク(内浦)】(2017年8月10日)
・内浦小学校はどこにもない教育環境を備えている。運動会、通学路の草取りと、校内清掃、排水路の掃除、食事会、地域文化祭など、いろいろな行事を地域と学校、児童、保護者が協力して取り組んでいる。海と山と自然に恵まれた良好な環境の中で内浦の児童は日々成長している。・・・(k)

【内海保護者説明会 概要】(2018年3月28日)
グローバル等の抽象的な内容ばかりだと、無資任に思える。・・・(l)

 服部学区の住民は、小規模でもどこにも負けない教育ができるとしています(h)。また、いじめを見抜くことができないという大規模校のデメリットを指摘しています(i)。

 同じように、内浦学区の住民も、他にはない地元の良好な環境があり、その中で子どもたちが育っているとしています(k)。また、内海学区では、「グローバル」に軸足を置く行政の教育理念に対して、抽象的で無責任だと批判しています(l)。住民は、地に足のつかない抽象的な「グローバル」よりも、具体的な地域社会の中で子どもを育む「ローカル」に重きを置く教育理念を持っていました。また常石の住民は要望書で、小規模の継続し安定した人間関係の重要性を述べています(j)。これは、教育には一定規模での集団が不可欠だという市教委の教育理念を批判するものです。

◆行政の論理 ④学校再編の理由

※該当する記述なし

◆行政の論理 ⑤行政の役割

【服部学区 第1回地域説明会 概要】(2016年11月6日)
再編の前に、子どもを生み育てやすい環境を整えるなど、行政としてやるべきことがあるのではないか。(p.2) ・・・(m)

【東村学区 第1回地域説明会 概要】(2016年11月23日)
特認校として、または休校としてでも東村小学校を存続できないか。(p.1) ・・・(n)

・学校再編の意義は、今津小学校と東村小学校が、対等に新しく小学校を作るという解釈でよいか。(p.2) ・・・(o)

【市長と車座トーク(能登原)】(2017年1月28日)
・能登原学区としては、一番大きな問題は学校の統廃合です。
地域を活性化させるのではなく、衰退させる政策というのはあってはならないことだと 思っている。再考というか認識を持っていただければと思う。・・・(p)

【東村学区 第2回地域説明会 概要】(2017年3月26日)
・今津小と東村小では違う内容が説明されている。今津小学校の保護者は、学校再編が新たな学校としてスタートするということを認識していない。(p.1) ・・・(q)

【統廃合ネットニュースNo.2】(2017年9月22日)
住民合意のない「学校再編計画」は撤回し、「千年小中一貫教育校(義務教育学校)設置にむけた測量は中止するよう教育委員会へ申し入れます。  (p.1) ・・・(r)

 服部学区では、再編の前に行政がするべきことがあると指摘しています(m)。ここでの発言は、少子化という課題を前にして、行政がするべきことは学校を減らすことではなく、地域で子どもを育てる環境を整備することだという意味を含んでいるといえます。能登原でも、地域を衰退させる政策を行政が行うべきではないと住民が明確に述べています(p)。

東村小学校区では、2016年11月と2017年3月に行われた、たった2回の説明会をもって合意とみなされたようです。初回の説明会では、特認校や休校という形でもいいので、学校を存続すべきだという意見が出ています(n)。2つの説明会を比較すると、初回は、この学校統合は今津小学校との対等統合であるということを確認する住民がいました(o)。しかし、第2回では、今津小学校にとっては吸収統合ではないか、という意見が出ています(q)。ここには、行政に裏切られたという住民の感覚が滲んでいます。

統廃合ネットは、福山市の学校統廃合問題に取り組む、元小中学校教員など住民により組織された団体です。統廃合ネットは、合意なく速やかに末端の学校をなくすことが行政の役割ではないとし、工事に向けた測量を中止するべきだとしています(r)。

◆行政の論理 ⑥決定のあり方

【市長と車座トーク(山野)】(2017年8月21日)
市教委の説明が不十分だから、私たちの理解が出来ていないという発想は違う。どうして山野小中学校が統廃合の対象になっているのかを市教委に聞いても「12学級~18学級で決めた。」と繰り返すだけだった。これでは話に乗ってくれと言われても話にならない。説明不足という問題ではない。・・・(s)

【第1回内海町地域まちづくり意見交換会】(2017年11月21日)
・一緒に考えようという姿勢なら話もできる。何を話しても断られるのはどうなのか。(p.7) ・・・(t)

 山野の住民は、市教委による進め方の問題は、説明不足ということではなく、議論がかみ合わないことだとしています(s)。また、内海の意見交換会でも、行政は住民と話をする気がないと批判しています(t)。

◆行政の論理と住民の論理のずれ

 ここで、第Ⅲ段階において生じた行政側と住民側の論理の齟齬を、①から⑥までの主題ごとに整理します。

 まず、「行政の役割」(⑤)や「決定のあり方」(⑥)について見ていきます。市教委は、2018年3月に内海で行われた意見交換会で、「100%の合意を待たずに学校再編を行う」と述べました。つまり、行政側としては計画を修正しないことが前提にあり、その計画を「住民が納得するまで説明する」という趣旨の発言になっています。それに対して、住民は「説明不足という問題ではない」として、住民の話を聞かない学校再編の進め方そのものが間違っているとしました。

 また、住民側が考える「行政の役割」と、行政側が考える「行政の役割」もずれていました。住民にとっての「行政の役割」は小規模校の統合ではなく人口減少対策でしたが、行政にとっての「行政の役割」は保護者や地域住民の意見に惑わされず、学校再編を速やかに行うことでした。

 では、保護者や地域の意見を無視してまでも学校再編を行う理由を、市教委はどのように説明しているのでしょうか。「学校再編の理由」(④)を振り返ります。本段階の市教委は、コンパクトシティ政策の影響を受け、人口減少に伴う「財政難」や「教員不足」を再編の理由として挙げ始め、それらが「よりよい教育のため」「学校適正規模を確保するため」といった教育的理由よりも前面に出ていました。

 このようにして、第Ⅲ段階では学校再編の根拠が教育上の理由から財政上の理由に転換したと考えられます。それでは、市の「教育理念」(③)はどうなったのでしょうか。

 第Ⅰ段階では、福山市の教育理念から「福山に愛着と誇りを持ち、変化の激しい時代をたくましく生きる子ども(福山市学校教育ビジョンⅣ)」の前半、つまり地域に関わる部分が消え、後半、つまり競争に関わる部分だけが残りました

 第Ⅲ段階では、たしかに第二次福山市教育振興基本計画などの行政文書の中には、「地域と学校と家庭が連携する」という記述がちらほらと見られました。しかし、市教委や市長の教育理念の口から語られる教育理念には、地域における教育という視点はほとんど見られません。むしろ、市長は「学校と地域は別に考えるべきだ」と住民に向かって論じているほどです。

 代わりに市教委の掲げる教育理念は、グローバル化や情報化の進む社会で、たくましく生きる力を育むというものです。しかし、服部学区や内海学区の住民は、「グローバル」に範囲を定めた教育は抽象的であると指摘し、自分たちの学区では地域に根ざした教育があるとしています。つまり、住民のめざす子ども像には「地域」(ローカル)という概念がありますが、行政のめざす子ども像にはありません。

 行政サイドと住民サイドの「地域」に関する認識の根本的なずれは、「人口減少」(①)と「学校と地域の関係」(②)の分析からも見えてきます。住民は、少子化の結果が過疎だと正しく認識しています。過疎化を止めるためには、少子化を止める必要がありますが、学校をなくせばより過疎化が進みます。だから学校を残すべきだという論理です。

 しかし、市長を始めとする行政は、少子化の原因は、過疎地が頑張っていないこと、地域の魅力がないことだと認識しています。そうでなければ、「学校がなくても地域活性化はできる」という説明は出てきようがありません。行政の考え方は、過疎の結果が少子化だという点に偏重していますが、実際には、都市よりも地方の方が出生率が高くなることが基本のパターンであることも、周知の事実です。

 そもそも、小中学校を奪い、子育ての難しい地域にしてしまっても、「地域に魅力があるならば」、人口を集めて地域を活性化できるはずだという市側の論理には、歪みがあると考えざるを得ません。ここでは、どのように考えても、住民の論理の方が平常であり持続的だと考えられます。

◆おわりに

 繰り返しになりますが、第Ⅲ段階では、教育的観点とは別の方向から学校統廃合を促進する力が目立ちました。それは、人口減少に伴う「税収減」や「学校施設の老朽化」です。また、人口減少による「教員のなり手の不足」も理由として挙げられるようになりました。

 人口減少が進む中、福山市は「立地適正化計画基本方針」を公表し、公共施設の適正配置と人口の集約を含むコンパクトシティ政策の路線を明示しました。ただし、注意すべきことは、福山市のコンパクトシティ政策は、広がりすぎた郊外を適切に元に戻すというものではなく、末端を切り捨てる「選択と集中」を是とするものだということです。

 このように、教育的観点以外の理由から学校再編が進められていく中、市長により新たな論理が持ち込まれました。それが、「学校と地域は関係がない」というものです。

 「学校と地域を分けて考える」「学校がなくても地域を活性化する方法はある」といった論理は、小規模校の統廃合を行うためには学校と地域の関係を認めるわけにはいかなくなったために、出てきた論理だと考えられます。

 また、本段階の後半では、市教委は、新学習指導要領(小学校2020年施行)に書かれている「主体的・対話的で深い学び」という教育理念を学校再編の理由として挙げるようになりました。文部科学省が示した教育理念を実現するために学校再編を行うということが、第Ⅳ段階以降の説明の中心となっていきます。

 次回は、「第Ⅳ段階-イエナ・特認校の推進による「選択と集中」へ(2018年4月1日~2019年2月13日)」の分析を行っていきます。


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