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動物からとれる香料とは?

世の中はいろんな種類の香料が溢れています。大きくは天然香料と合成香料に大別されるのですが、一度香料について、全体像を記載してみましょう。

①天然香料:天然の植物、動物から抽出される香料
 A. 植物性香料
 B. 動物性香料
②合成香料:化学的につくられる香料
 C. 単離香料
 D. 純合成香料
③調合ベース:いくつかの香料を混ぜて作られるベース香料

今回は、天然香料の中のB. 動物性香料について説明していきます。そしてここで取り上げる動物たちは以下の5種類です。これをすべて知っているなら、あなたはかなり香水に詳しい人でしょう!
ジャコウジカ(麝香鹿、ムスク)
マッコウクジラ(抹香鯨、アンバー)
ジャコウネコ(麝香猫、シベット)
ビーバー(カストリウム)
ケープハイラックス(狸みたいな動物、ヒラセウム)

ジャコウジカ:Musk

最も有名な動物性香料は、「ムスク」でしょう。ムスクは、ジャコウジカ(麝香鹿)と呼ばれる種類の鹿の、オスの香嚢からとれる成分です。

香嚢というのがまた耳に馴染みのない単語なわけですが、へその上あたりにある、ジャコウジカ特有の器官でして、ここから出る分泌物がメスの鹿をひきつける香りを発しています。このムスクの香りは、人間に対しても作用しうると言われており、子供や男性よりも、成人女性のほうがムスクの香りを強く感じるという実験がフランスの科学者、ジャック・ル・マニヤンによってなされています。

したがってムスクは、「セクシーさ」を表現する香りとしてよく用いられます。またほのかな甘みを感じる香りのため、包み込まれるようなそんな優しい雰囲気もあると私は思っています。

このムスクですが、実は私は本物のムスクを嗅いだことがありません!
というか、おそらく今いる調香師で本物のムスクを嗅いだことがある人はほとんどいないはずです。

というのも、1975年に結ばれた、絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約、通称ワシントン条約によって、天然ムスクの取引は禁止されたのです。

このような事情があるため、ムスクの歴史は、天然ムスクを合成香料によって表現しようとしてきた歴史、と言い換えてもいいでしょう。そして実際いまは、本当に素晴らしい合成ムスクがたくさん開発されています。例えばGalaxolideという合成ムスクは非常に有名ですが、やわらかく優しく甘い雰囲気を出すことができる非常によい香りとなっています。

マッコウクジラ:Amber

次の動物性香料は、アンバーです。またの名を龍涎香(りゅうぜんこう)といいます。昔の人が、龍のよだれが固まったものだと考えたことからこの名がついています。

アンバーは、マッコウクジラ(抹香鯨)の腸内で生成される、一種の結石でして、うまいことそれが体内から排出されて、海の上を漂っている、あるいは海岸に流れ着いたものを不思議と良い香りがするということで人間がつかいはじめたという経緯です。

アンバーは、クジラの中でもマッコウクジラしか生成することがありません。他のクジラとマッコウクジラの大きな違いは何かというと、主食です。マッコウクジラが好んで食べるものは、ダイオウイカをはじめとしたイカでして、みなさんも、マッコウクジラとダイオウイカが戦っているイラストを見たことがあるのではないでしょうか。

マッコウクジラはダイオウイカを食べまくります。そして、どうやらイカのクチバシなどがうまく消化できずに腸内で結石化したものが、このアンバーらしいのです。ですから我々は、マッコウクジラとダイオウイカの戦いを見かけた際には、マッコウクジラよ、頑張れ!そして消化不良になってアンバーをつくってくれ!と願うのが人間的には正しい応援の仕方になります。

ちなみに、このアンバー、たまに海岸に流れ着いているのを発見する人がいます。しかるべきところに売れば、数百万~数千万くらいで売れますので、もはやこのアンバー探しを生業にしている人も海外には存在するほどです。

もちろん、天然のアンバーが主流というより、ムスク同様、合成香料による代替が進んでおり、そのおかげで手軽に多くの香水で使えるようになっています。

他の動物性香料でも同じなのですが、動物性香料はそれ単体で嗅いでもあまりいい香りがしません。しかし例えばフローラルな香りと混ぜて使うと、ものすごく深みのある香りに変わる、そんな使い方をします。言い方が難しいのですが、フローラルやシトラス単体だと、体育の後に使う制汗スプレーみたいな香りのところ、これらの動物性香料を足すことで香水らしい深みのある香りになる、といった感じでしょうか。

さて、ここまで断りを書きつつ、私がアンバーを嗅いだときの感想を述べますと、「めちゃくちゃ強いおばあちゃん家の臭い、古いタンスの中みたいな臭い」です。でもおばあちゃん家の香りだ~ってなる香水はありませんよね。それは上記のような使われ方をするからなのです。

ジャコウネコ:Civet

ジャコウネコの腺嚢の分泌物から出る褐色のペーストからできる香料、それがシベットです。ジャコウネコを殺傷する必要はなく、1匹から月に30gほど取ることが可能なため、現在でも天然のシベットが極めて貴重ではありますが、使われています。

そして私はラッキーなことに、天然のシベットを嗅いだことがあります。その感想をみなさんにお伝えしましょう!

「熟成させたブルーチーズのような強烈な臭さ9割とそこに獣の糞尿の臭さを1割加えた匂い」

めちゃくちゃ強烈で椅子から転げ落ちるところでした。香水に使う際は、当然ですが、希釈してほんの微量を用います。

いやあんな臭いのはさすがに無理だって・・と思うのですが、シベットをほんのわずかに加えると、フローラルな香りがいっきにみずみずしくなり、花が生き返ります。本当に香りというのは不思議なものです。

ビーバー:Castoreum

カストリウムはビーバーの香嚢からとることができます。このカストリウムという香料をとるためには、ビーバーを殺傷する必要があるのですが、ビーバーの数自体が非常に多いため、比較的流通している動物性香料です。

さて、この香りも私は嗅いだことがあるので、感想を述べましょう。

「スモーキー感と甘さをほのかにプラスした、けど結局ベースは獣の糞尿みたいな臭い」

いろんな動物性香料を単体で嗅いで気づいたのですが、結局糞尿みたいな香りがします・・。

さてこのカストリウムですが、めちゃくちゃ相性がいい香料があります。それはバニラです。フローラル系の香りと混ぜることはあまりなく、オリエンタル・ダンディ系の香水に使われることが多く、中でもバニラと合わせるとバニラのくどいような甘さが、すっと洗練された、大人っぽい、ものすごく魅力ある香りへと変化します。

動物性香料は本当に、縁の下の力持ち、引き立て役として存在感を発揮します。

ケープハイラックス:Hyraceum

この香料はあまりメジャーではありません。これを知っている人は、香りを勉強したことがある人でしょう。

狸とイタチの真ん中みたいな見た目のケープハイラックスという動物からとることができる香料なのですが、最もサステナビリティに優れた動物性香料といわれています。

というのも、このヒラセウムを取るためには、ケープハイラックスを殺傷する必要がないのです。この動物は1か所で排泄をおこなう習性があり、その場所には排泄された尿と糞が石化した岩のような物体が形成されることとなります。そう、これがヒラセウムの原料なのです。

単体の匂い自体は、カストリウムに似ているのですが、「どうもまだ使い勝手がわからない。カストリウムは何と合わせるべきか、大体わかるが、ヒラセウムはまだしっくりこない。」と先日、私の先生が言っておりました。

まだ研究が進み切っておらず、これに合わせたらよい!という処方が広まりきっていない、発展途上の香料といったところでしょう。


さて、ここまで動物性の香料について語ってきましたが、正直言って、すべての香料が、「最初に発見した人、よくそれ使おうと思ったな」と感じられる、なかなかに衝撃度の高い香料だったのではないでしょうか。

香水はめちゃくちゃいい香りがするわけですが、不思議なことに、最初からいい香りがする香料だけを混ぜていっても、最高の香りは実現できません。単体では「うわっ!臭い!!」と思えるような香りを少しばかり加えることが重要なのです。それが加わると、花や果実をいくら積み重ねても表現できない、奥行きがあって、セクシーさがあって、温かみがあって・・、そんな香りを実現することができるのです。

ここに香りの奥深さと、面白味が詰まっていると私は思っています。


最後に、弊社サービスについての簡単なご紹介です。私は香りは、音楽や絵画と同じ、もしくはそれ以上に豊かな表現方法だと思っています。

香りが素晴らしい表現方法であることをもっともっとみなさんに知っていただきたい!!!という思いで、「大切な推しに、調香師監修のパーソナライズフレグランスを。」をコンセプトにしたサービスを立ち上げました。

なぜ、この香りがイメージにフィットすると考えたのか、を記載した香りの解説レターも1枚1枚、作成しておつけしています。ぜひ以下のサイトに遊びに来ていただければ幸いです!
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