花や植物からとれる香料とは?
世の中にはいろんな種類の香料で溢れています。大きくは天然香料と合成香料に大別されるのですが、一度香料について、全体像を記載してみましょう。
①天然香料:天然の植物、動物から抽出される香料
A. 植物性香料
B. 動物性香料
②合成香料:化学的につくられる香料
C. 単離香料
D. 純合成香料
③調合ベース:いくつかの香料を混ぜて作られるベース香料
今回は、この中で天然香料のなかの植物性香料についてのお話です。
花や植物からどうやって香りを抽出するの?
代表的な3つの手法、「水蒸気蒸留法」、「圧搾法」、「溶剤抽出法」について順に説明していきます。
水蒸気蒸留法
簡単・安い・たくさんつくれる、でお馴染みなのが、水蒸気蒸留法です。原理としては、原料植物を蒸留容器の底に敷き詰め、蒸し鍋のように加熱して蒸し、上がってきた水蒸気に含まれている精油を得るという手法です。
一方で、高い温度の水蒸気を通して香りを取るため、温度が高くなることで香りが変質してしまうことがあり、温度変化に弱いセンシティブな香料の抽出には適していません。例えばシトラスは、主成分のリモネンが温度変化に弱いため、ほとんど水蒸気蒸留法は用いられず、後述する圧搾法で抽出されています。
圧搾法
柑橘系の香りを抽出する際に多く使われる手法です。ここで柑橘について少し補足すると、例えばオレンジは、みなさんが美味しく食べる果実以外に、食べるときに邪魔になる白い海綿状の部分(アルベドといいます)、一番外側の外皮であるオレンジ色の皮(フラベドといいます)などがあり、実は特に精油を多くとれるのはこのアルベド、フラベドだったりするのです。
この圧搾法は読んで字のごとく、柑橘の果実の特にアルベドとフラベドを潰して搾り取ることで精油を得るという方法になります。得られた精油を遠心分離で水分を飛ばし、そのあと2~3か月低温保存する(Winterizationといいます)ことで香料が完成します。
この圧搾法にもいくつか種類がありまして、まず針のむしろみたいなところに果実を置いて上からぐしゃっとつぶすIn-Line法。これは世界で一番メジャーな方法で、果汁も一緒にとれるのがよいところです。
そして細かな針のついたローラーの上を転がすことで、油胞を傷つけてピールオイルを回収するBrown法。
最後に内壁がおろし金のようになっている機械の中に入れて、ドラム式洗濯機みたいにごろごろ回しまくって果皮を削り取ってピールオイルを回収するペラトリーチェ法。ベルガモットはこのペラトリーチェ法で抽出されることがほとんどです。
このように、いかに果実を上手に傷つけるかという観点で工夫が凝らされた手法で柑橘系の果実たちからは香りが抽出されているのです。
溶剤抽出法
水蒸気蒸留法では対応できない、熱によって香りが変質してしまうという特徴を持った香料を抽出するための手法がこの溶剤抽出法です。果実は圧搾法での抽出も可能ですが、花や苔などから香りを取りだすことは困難なため、そんなときに活躍するのが溶剤抽出法です。より細かくは普通の溶剤抽出法の他に、油脂吸着法や超臨界流体抽出法が存在します。
この方法は大変手間暇がかかっておりまして、まず溶剤に花や植物(オークモス、いわゆるコケなんかが多いです)を漬け込み、コンクリートと呼ばれる塊をつくります。
そして、そこにエタノールを入れて精油を抽出し、入れたエタノールを飛ばして、最後にアブソリュートと呼ばれる香料を得ます。
アブソリュート(Absolute)。「絶対的」という意味をもつ単語です。これは思わずそんな単語をつけてしまうほど、素晴らしい香りであり、手間がかかっている分、非常に高価です。ローズアブソリュートなど、気軽には手が出せません!
さて、そんな溶剤抽出法の中でも最高品質とされるのが、油脂吸着法です。これは昔ながらの手法でして、脱臭した牛脂、豚脂のなかに花を浸して、香りを吸着させるという方法です。油脂を60~70度にして行うマセレーションと室温で行うアンフルラージュ法の2種類がありますが、アンフルラージュ法はめちゃくちゃ手間と時間がかかる分、最高品質の精油がとれると言われており、この手法でとられたオイルは、アブソリュートフラワーオイルと呼ばれて重宝されます。
最後に超臨界溶剤抽出法ですが、これはまだ発展途上の手法です。溶剤として二酸化炭素を用いることで、溶剤が香料の中に残らないというメリットがあります。(他の手法だと、油やエタノールなどがどうしても残ってしまいます)
ただ、高価であまり使い勝手がよくないため、それほど普及しておらず、あと一歩、技術的なブレークスルーが望まれます。ちなみに、オーガニック商品の場合、溶剤抽出法で使われる溶剤もオーガニック的にNGとされるため、超臨界溶剤抽出法が用いられることもあるようです。
ここまで主要な植物性香料の抽出方法を説明してきました。植物性香料は、同じ種類の果実や花でも、産地や季節によって微妙に香りが変わるため、そのあたりも見極めて調香師は香料を選定する必要があり、何とも奥深い世界が広がっています。
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